【特集 令和型の不登校にどう向き合うか】ポストコロナ時代に求められる不登校へのかかわり|伊藤美奈子

伊藤美奈子(奈良女子大学)
シンリンラボ 第3号(2023年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.3 (2023, Jun.)

1.不登校をめぐる最近の動き

ここ10年弱の間に不登校児童生徒数は増加し続け,不登校をめぐってはさまざまなことが起こっている。一つは,令和に入る直前(2017年)に「教育機会確保法」(以下「確保法」)が公示され,この数年の間にゆっくり浸透しつつある点である。それと並んで,やはり令和を象徴するのがコロナ禍による社会全体の混乱であり,不登校にもその影響が影を落としている。昨今の不登校の急増についても,コロナ禍の影響を指摘する声は多く,もちろん,コロナ禍が教育活動全体に与えた影響は計り知れない。しかし一方,コロナ禍に対応した社会の変化が,不登校支援にも波及し,その支援内容にも大きく影響していることは明らかであろう。

以下,令和に入って実施された不登校経験のある児童生徒を対象とした調査結果を踏まえたうえで,「確保法」やコロナ禍との関連についても検討してみたい。

2.令和に入ってからの不登校実態調査より

まず,令和になって実施された不登校児童生徒の実態調査結果に注目してみたい(調査の実施や分析は外部業者に委託されていたが,筆者は,調査企画分析会議の委員としてその中身について検討する機会を得た)。この調査の大きな特徴は,文部科学省が毎年実施している「問題行動・不登校に関する調査」が学校や教職員による回答であるのに対し,本調査では,実際に不登校を経験した子ども本人とその保護者(前年度に不登校であった小学6年生または中学2年生とその保護者)を対象とした点にある。不登校を経験した子どもたち自身の思いや実態に切り込んだという点で,画期的な調査であったといえる。

その結果の一つ目は,不登校の要因・きっかけである。学校側が回答した「問題行動・不登校に関する調査(不登校の要因を選択肢から単一回答)」では,〈無気力・不安〉注1)が小・中学校ともに約5割を占め,次に多かったのが,小学校では〈親子の関わり方〉(13%),中学校では〈友人関係〉(12%)であった。

注1)過半数を占める〈無気力・不安〉については,不登校の原因というより,不登校の状態像の一つであるともいえ,国の委員会でも調査項目としての再検討が求められている。

これに対し,子ども本人が回答した「実態調査(最初に学校に行きづらいと感じ始めたきっかけを,選択肢から複数回答)」では,〈先生のこと〉(小学生30%,中学生28%),〈身体の不調〉(小学生27%,中学生33%),〈生活リズムの乱れ〉(小学生26%,中学生26%),〈友達のこと〉(小学生25%,中学生26%)と多岐にわたる結果となった。他方「きっかけが何か自分でもわからない」も小学生26%,中学生23%の選択率であった点は注目に値する。まだ不登校を引きずっている時期では,そのきっかけを言語化することは容易ではないことがわかる(図1)。 

図1 最初に行きづらいと感じ始めたきっかけ(小学校 n=713,中学校 n=1,303)

さらに,「最初のきっかけとは別の,学校に行きづらくなる理由」(複数回答)については,〈勉強が分からない〉(小学生31%,中学生42%)を選択したものが最も多かった。2位以下に注目すると,勉強や先生との関係,友人関係に加えて,身体不調や生活リズムなど,本人だからこそ感じる“不安”の中身が明らかになったといえる。
こうした背景に対し,不登校経験のある子どもたちは,どんな支援があれば学校に戻りやすいと答えているのであろうか。〈友達からの声掛け〉(小学生17%,中学生21%),それに続くのが〈個別で勉強を教えてもらうこと〉(小学生11%,中学生13%)となり,ここでも学習への支援ニーズが高いという実態がうかがえた。しかし,選択率が群を抜いて多かったのは〈特になし〉(小学生57%,中学生54%)であった。この,半数を超える子どもたちの中には,どんな支援が必要なのか“本当にわからない”と感じていた子どももいただろうが,半面で,「いくら支援されても行けないし……」という諦めの気持ちを抱えた子どもも含まれていたのではないかと拝察される(図2)。

図2 学校に戻りやすいと思う対応(小学校 n=713,中学校 n=1,303)

さらに,不登校について相談する相手がいたのかという質問に対しては,一番身近な保護者に相談している子どもが一番多かった(小学生53%,中学生45%)。しかし,それに次いで多かったのが「誰にも相談しなかった」という回答で,小学生36%,中学生42%と,3人に1人は誰にも相談できていないことが明らかになった。先の「きっかけがわからない」という回答の多さとも考え合わせると,不登校の子どもの多くが,なぜ学校に行けないのか自分でもわからないし(4人に1人),学校に行くための支援の必要性を意識化できていない子どもが過半数に達し,実際,誰にも相談していないケースが3人に1人いるという実態が明らかになった。

スクールカウンセラーとして不登校の子どもたちと会っていても,「なぜ学校に行きたくないか」について,説明できる子どもたちの方が少数派であるし,その原因とされることが“解決”されたからといって,すぐに学校に戻れるわけでもない。そんな子どもたちに「なぜ?」と問うても,子ども本人には答えられないし,理由を応えねばならない……と追い詰められていく。問う側はなるべくプレッシャーを与えないように優しく尋ねたとしても,訊かれる側は,行かないことを責められているように聞こえてしまう。他方,不登校の子ども自身が「助けて欲しい(こういう支援が欲しい)」という明確な答えを持っているわけではなく,行けないことを保護者以外の大人に相談することも極めて少ない。だからこそ,本人に理由を問い続けて追い詰めるのではなく,その子に関わる“周りの目”を集めて児童生徒理解を進めるケース会議や,客観的に数値化できるアセスメントツールが有効であることもうかがえる。ただし,アンケートをすればすべてがわかるわけではなく,その前提として,子どもたちがアンケートに安心して素直に答えたくなるような教師との関係構築も,同時に必要であるといえる。

3.「確保法」をどう読み取ればいいか

2016年に公示され,2017年に施行された「確保法」は,それまでの不登校に対するとらえ方を大きく転換する内容になっている。まず“不登校は,取り巻く環境によっては,どの児童生徒にも起こり得るものとして捉え,不登校というだけで問題行動であると受け取られないよう配慮すること”“当該児童生徒の意思を十分に尊重しつつ行うこととし,当該児童生徒や保護者を追い詰めることのないよう配慮すること”という点が前面に出されることになった。それと同時に,狭義の学校復帰だけを目標とせず,“児童生徒の学習する権利(多様で適切な教育機会)の保障”が再確認された点も注目できる。

しかし,この「確保法」で“問題ではない”というのは,不登校になっている児童生徒に非があるとか,何か問題行動を起こしているというとらえ方をしてはいけないということであり,不登校にならざるをえない状況(たとえば,ひどいいじめがクラスに蔓延しているとか,教師による心無い言葉が子どもを傷つけているとか,家庭が安心できる居場所になっていないとか)があるとすれば,そこにはしっかりとメスを入れていかねばならないという点では,これまでの不登校への支援方針と大きく変わるものではない。不登校という状態が継続し,結果として十分な支援が受けられない状況が続くことは,自己肯定感の低下を招くなど,本人のキャリアや社会的自立のために望ましいことではなく,適切に支援を行う重要性について再認識することが求められる。どのような学校であれば行けるのかという支援ニーズや,本人が持っている困り感や強みも含め,不登校児童生徒に関わる教師や保護者,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等も加えて正しく丁寧にアセスメントする場の確保が重要であろう。

この際に目指される支援の目標は,将来,児童生徒が精神的にも経済的にも自立し豊かな人生を送れるような,社会的自立を果たすことにある。そのため,不登校児童生徒への支援は,学校に復帰するという結果のみを目標とするのではなく(もちろん,子ども自身が教室復帰を望んでいる場合は,それを実現する方向で支援することが求められる),児童生徒が自らの進路を希望を持って考えられるような支援を行うことが必要となる。この社会的自立に至る過程は多様である。例えば,中学3年生の場合,本人が希望すれば,在籍中学校への復帰もあるが,地域によっては不登校特例校に転学することも可能である。高等学校に進学する際も,全日制高校に加え,定時制高校や通信制高校など新しいタイプの学校もコースも本当に多様になった。さらには,就職や,高等学校卒業程度認定試験を受けて大学に行くという道もある。これら,新しいタイプの高校が急増し,そこに入学・転学することへの抵抗感が低減したことも,令和に入っての変化かもしれない。ひと口に社会的自立といっても個々の児童生徒に求められる自立の姿は実に多様であるため,学校復帰を形だけ整えるのではなく,個に応じた“自立”(SOSを発信できるのも自立であるし,自らの過剰適応に気づき頑張りすぎない生き方を選択するのも自立である)に向け,今後も幅の広い支援が必要とされる。

4.コロナ禍と不登校

この「確保法」に加えて,教育現場に大きな衝撃を与えたのが,世界中を巻き込んだコロナ禍というパンデミックである。学校現場は,2020年2月末,突如一斉休校に突入した。その後,緊急事態宣言が出されると同時に不要不急の外出は禁止となり,分散登校が始まる6月まで,子どもたちも自宅での自粛生活を強いられることになった。ところが,学校現場からは「不登校だった児童・生徒が,オンライン授業には参加できていた」「パソコン画面では元気だった」という報告が多く聞かれた。不登校の子どもたちにとっては,突然の一斉休校により,学校を休むことが“正当化”されることで,不登校である自分を責める気持ちが一時的に和らいだ可能性はある。また,パソコン上のオンライン授業は,人と直接対面せずにすみ,休み時間になったらワンクリックでカメラをオフにできるという点で,不登校経験のある子どもたちにも比較的気楽に参加できるツールであったのかもしれない。

ところが,全員が同時に登下校し,授業もフル稼働し始めたあたりから,息切れをする生徒が増えていった。コロナ禍による一斉休校で“正当性”を与えられた不登校(ひきこもり)も,登校再開とともに,“学校には毎日通わねばならない”という以前の価値観が復活したことで,再び不登校に戻ったケースも少なくない。一方で,それまで学校を休んだことがない子どもたちの中にも,コロナ禍により学校行事や部活動が縮小・中止されることで「学校が楽しくない」「学校に来る意味がなくなった」という子どもも少なくなかった。テレワークで家にいる家族との軋轢のせいで,家にも学校にも居場所を失った子どももいた。また他方,「コロナが怖い」という理由で,欠席が公欠扱いとなり,無事に卒業できた高校生もいた。それまでとは異なる不登校が増えたのも,コロナ禍社会における特徴といえよう。

5.今後に向けて

「確保法」以降,学校外の学びの場に対する理解が進んだ(とはいえ,まだ十分ではないが)のも,令和に入っての動きの一つである。学外の専門機関の一つ,教育支援センター(適応指導教室)には,不登校の約1割の児童生徒が通室しているとされるが,民間のフリースクールに通う子どもたちは,まだ一握りである(民間施設への通所にかかる費用面を,行政が援助している自治体も出てきたが,まだごく一部である)。不登校児童生徒の実態に配慮した特別な教育課程を編成することができる不登校特例校も,設置を検討している地方自治体は増えつつあるが,まだまだ少ない(2022年4月時点で,全国21校のみ)。教育課程の弾力化に加え,速やかに設置が進むよう,設置基準の弾力化も求められよう。

他方,コロナ禍による緊急事態の中,児童生徒一人一台のパソコンを用意し,ギガスクール構想が一気に進んだ地域もある。この点,コロナ禍が学校現場に投じた一石の波紋は非常に大きいといえる。2019年10月に出された文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について」においても,不登校児童生徒が自宅でICT等を活用した学習活動を行った場合,指導要録上出席扱いとし,その成果を評価に反映することができることが周知された(ただし,出席扱いになるには「保護者と学校との間に十分な連携・協力関係があること」「訪問等による対面の指導が適切に行われること」等の要件を満たしていることが必要とされる)。教育サービスの外在化やオンライン化が,不登校児童生徒への支援の幅を広げていくことは確実な流れであると同時に,不登校以外の特別なニーズを持つ児童生徒にも有効であるといえよう。
しかし不登校の子どもたちも,最初から学校に行かないことを望んでいたわけではない。もし,自分の学校が“安心して通える学校”であり,脅威にならない友だちや先生との出会いがあるなら,楽しく登校を続けていたであろうケースも少なくない。一方,人間関係の構築,社会性やコミュニケーション力を身に着けるためにも,同世代との直接交流は大切である。その意味では,オンラインは対面に全面的に置換できるものではなく,それを補完するものといえよう。教室に戻りたい子どもたちにはそのサポート(心理的支援や環境調整など)が必要であり,登校を望まない子どもたちには学校以外の居場所やオンラインでの学びを提供していくことが求められるであろう。不登校支援の最終ゴールは,狭義の「学級」に限らないし,対面授業に限定されるべきものではない。すべての子どもたちが安心して過ごせる多様な学びの場を学校内に確保すると同時に,学校外の居場所に加えて,学校に来なくても参加できるオンラインでの学びの道が,新たな選択肢として認められれば,今後,不登校支援の幅を広げるに違いない。大切なのは,不登校の一人ひとりにとって最適な学びの形は何かについて正しくアセスメントする支援の力であるだろう。

文  献

  • 伊藤美奈子(2021)ポストコロナと不登校.月刊生徒指導,51(11); 14-17.
  • 伊藤美奈子(2022)『生徒指導提要』(改訂版)の不登校について.月刊生徒指導,52(13); 26-29.
+ 記事

伊藤美奈子(いとう・みなこ)
【所属】
奈良女子大学 研究院生活環境科学系教授
【資格】
公認心理師・臨床心理士
【おもな近刊】
伊藤美奈子編著(2022)不登校の理解と支援のためのハンドブック─多様な学びの場を保障するために.ミネルヴァ書房.
伊藤美奈子監修(2023)「学校」ってなんだ? 不登校について知る本.Gakken.

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