【特集 令和型の不登校にどう向き合うか】不登校と発達障害|本郷美奈子

本郷美奈子(千葉大学子どものこころの発達教育研究センター)
シンリンラボ 第3号(2023年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.3 (2023, Jun.)

発達障害と不登校リスク

1992(平成4)年に「登校拒否はどの子にも起こり得る」と言われてから30年。いまだ不登校生徒は増加しているが,時代の変化に伴い,不登校をとりまく状況も当然ながら変化している。なかでも不登校生徒の中に,発達障害をもつ子が一定数いることが議論されるようになったことが挙げられるだろう。

ムンクハウゲンMunkhaugenら(2017)は,ノルウェーの知的障害のない9~16歳の自閉スペクトラム症(ASD)の小中学生78名と,定型発達(TD)の小中学生138名の生徒を対象に,学校拒否行動を評価した横断的研究を行った。20日間にわたる教師と保護者による評価の結果,学校拒否行動が出現した割合は,自閉スペクトラム症の小中学生では42.6%であったのに対し,定型発達では7.1%であり,自閉スペクトラム症の小中学生は学校拒否行動が有意に高いことが報告された。

図1 ASDの小中学生の登校拒否行動の出現率

国内では,岩佐Iwasaら(2022)によって,横浜市における1988年~1996年生まれの自閉スペクトラム症コホートの追跡調査研究(Y-LABiCスタディ)が行われた。この調査では,自閉スペクトラム症の成人のうち不登校経験者の割合は,IQ70以上の自閉スペクトラム症者で30.6%,IQ70未満の自閉スペクトラム症者で16.5%であったと報告された。また,IQ70未満の自閉スペクトラム症者の多くが,特別支援学校および特別支援学級といった,特別支援教育の制度を利用していることがわかった。

表1 Y-LABiC研究における参加者の幼少期の特徴(Iwasa et al., 2022)

こうした報告から,自閉スペクトラム症特性が不登校と関連しており,知的能力の高低よりも,個人と環境との相性が問題であることが示唆されている。

発達特性をもつ子どもの不登校事例

周りから見るといじめに遭っているといった目立った問題がないにもかかわらず,突然不登校になったように見える子がいる。そうした子の中には,実は発達特性が影響しているケースがあり,不登校が顕在化してからそうした特性に目を向け始めることも少なくない。そこで,発達特性をもつ子どもの事例を通して,発達障害と不登校について考察してみたい。

Aさん(小3男子)は日頃から忘れものが多い子だった。教科書を忘れることも多く,「忘れました」と言うと,先生が「どうぞ」といって教科書を貸してくれていた。あるとき教科書を忘れたため,いつものように先生の所に行くと,突然先生に「で?」「で?」「貸してくださいは?」と言われた。Aさんは先生のいつもと違う対応に戸惑い,固まってしまった。

また,ある図工の時間のこと。その日は今まで描いてきた絵を完成させる日だった。先生は「今日で絵を終わらせてください。ちゃんと終わるように集中してやってください」とみんなに指示した。放課後Aさんは友だちに掃除を代わってもらい,図工の課題である絵を描き続けていた。それを見た別の友だちは,「なんで当番なのに掃除しないの?」と言ってAさんを諌めた。Aさんが「先生が絵は今日中に終わらせないといけないと言っていたから……」と応えると,その友だちは「BさんもCさんもちゃんと掃除してるだろ。自分だけズルするな」と言った。Aさんは,なぜその友だちが自分に怒ってくるかが理解できなかった。わからないだけに,余計に体が萎縮してしまった。

別の日の社会の時間のこと。その日は班ごとに調べ物学習をする日だった。課題についてみんなで調べたことを班でまとめて,班の一人が発表しなければならない。先生は普段あまり発表しないAさんに,「今回はAさんが頑張って発表してみたら?」と言った。Aさんは「うまくやらなきゃ」と緊張したものの,なんとか発表でき,先生も褒めてくれた。しかし翌日体調を崩してしまった。

このように,先生とのやりとりが噛み合わないこと,友だちがなぜ怒っているかわからないこと,極度に緊張すること,など理由がわからないストレスが徐々に蓄積していった。そして,ある朝,Aさんは腹痛とだるさで起きることができなかった。その日の欠席を境に学校から足が遠のいていったのである。

不登校になると周囲の大人は何か嫌なことがあったのか,つらいことがあったのか聞いてきたが,Aさんはうまく答えることができなかった。説明しようと思っても具体的なことが思い起こせなかったのである。
(事例は多くのケースを統合し,本来の意味を失わない程度に改変したものである)

発達障害をもつ子どもと環境

事例を考察してみよう。Aさんがうまく説明できない理由や,周囲がAさんの不登校理由についてよくわからないことも納得できるのではないだろうか。一つひとつのエピソードは特別問題になるようなことではないのである。毎日のように揶揄われていたり,学校の先生から強く叱責されたりしたわけではない。緊張するような,苦手なことにも取り組めて,その結果褒められてもいる。しかし,Aさん自身を含め周囲が,Aさんの一連の行動が発達特性によるものであることの共通理解がなかったのである。そのため,現状の学校環境がAさんの発達特性にとって非常に相性の悪いものであることに誰も気づけていなかった。

最初のエピソードでは,Aさんが,毎回「忘れました」というだけで教科書を借りるという流れをただそうとした先生が,本人の口から言葉を引き出そうとしたのだろう。特性のない子どもは,こうした場面で「何度も教科書忘れてるから,先生おこってるんだ」程度の想像をするだろう。いつもと違う先生の態度をみて,現状を把握しようとする。しかし自閉スペクトラム症の子どもはそうした推測が苦手なことが多い。急にいつもと違う対応をされることの戸惑いと,原因の予測がつかない不安が漠然と残るが,これを誰かに説明することは難しい。

次のエピソードでは,Aさんが自分の絵を「今日中に仕上げる」という先生に言われた通りのことを忠実に守ろうとして,掃除を友だちに代わってもらったのである。学校では時間割が最優先である先生の「今日中」は,図工の授業の時間内,その後の休み時間をさしていたものと考えられる。そのことがわからず,ことばの意味を字義通りに解釈して,掃除の時間になっても,個人の課題をしていたAさんを友だちは自己中心的と考えたのだろう。この暗黙の了解を子ども達はなんとなく経験上学んでいくが,実はさほどはっきり教えられていないことが多い。自閉スペクトラム症の子はこうした,はっきり教えられていないことを察することは難しいのである。そのためはっきり指示された「今日中に仕上げる」を守ったわけであり,本人にとって何も悪気のない行動にもかかわらず,友達から責められる事態になっている。

最後のエピソードは,人前での発表である。これは個人差があり,自閉スペクトラム症だからといって全員が苦手とは限らないが,多くは苦手である。「たくさんの視線が一気に自分に向くことが怖い」「間違えてはいけないという呪縛がある」というふうに話す自閉スペクトラム症の子もいる。しかし,多くの子どもは,先生に言われたことはするものであるという認識をもっている。したがって,なんとか取り組むものの,そこでかかるストレスは特性を持たない子どもより圧倒的に大きい。また,そうした極度の緊張や不安の体験が,感覚的には記憶にしっかり残ってしまう。そして,授業があるたびに「また発表しろといわれたらどうしよう」という不安に苛まれるのである。

最近の学校では,校長や教頭,支援の先生のみならず,多くの先生が発達障害についての研修をたくさん受けられ,よく配慮されているところをお見受けする。したがって,本事例ほど極端なことはないかもしれない。ただ,程度の差こそあれ,発達障害を持った子どもが不登校に至るほどのストレスを蓄積させないためには,その子どもの発達特性の理解と,その発達特性に応じた環境設定と対応が必要となる。

ニューロダイバーシティという考え方

近年,さまざまな発達障害を「疾患」としてではなく,「脳機能の多様性」として捉え,マイノリティの一つとして「合理的配慮」あるいは「多様な人々にとって過ごしやすい社会の実現」を求める動きが勢いを増している。ニューロダイバーシティ(Neurodiversity,神経多様性)とは,Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)という2つの言葉が組み合わされてできた言葉である。この考え方は自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害の特性を能力の欠如や優劣ではなく,多様性の一つとして捉え,尊重し,社会の中で活かしていこうというものである。経済産業省では,一定の配慮や支援を提供することで「発達障害のある方に,その特性を活かして会社の戦力となってもらう」ことを目的としたニューロダイバーシティへの取り組みを推奨している。特にデジタル分野での高い業務適性を活かし,成長戦略として関心を寄せているのである。

これまで,「障害」は,「治療」や「指導」することだけに焦点があてられていたが,当事者の強み・弱みを価値づけせずに,個人の特性にあった生活の質を高める方略につながるような研究・実践が求められている(千住,2022)。学校でも発達特性を指導や矯正するのではなく,特性を持つ子を尊重し,彼らの過ごしやすい環境を考えることが重要であると考えられる。

インクルーシブ教育という考え方

2006(平成18)年,障害者の権利を保障するための条約である「障害者の権利に関する条約」(以下,障害者権利条約)が国連総会で採択され,この中ではじめて「インクルーシブ教育」という言葉が示された。2014(平成26)年,日本はこの条約を批准したが,2022(令和4)年国連の障害者権利委員会から,日本政府に対し勧告が出された。勧告の中には,「インクルーシブ教育の権利を保障すべき」と記述があった。インクルーシブ教育とは,障害のある者とない者が共に学ぶことを通して,共生社会の実現に貢献するという考え方である。学校現場では,実際に発達特性を持つ子が,インクルーシブ教育の名のもと,通常級で授業をうけることになってつらかった,という声は少なくない。支援級に所属しており,特定の授業だけを通常級で受ける「交流」をとても嫌がるという話もよく聞く。しかし,このように,学ぶ場を共有するだけでは,インクルーシブ教育ではない。インクルーシブ教育について,ユネスコの「インクルージョンへのガイドライン(2005)」の定義を参考に,野口(2022)は,障害のある子どものみでなく,性的マイノリティの子ども,外国にルーツのある子ども,ヤングケアラー注1)の子どもなどを含む,排除されやすい子どもたちの教育を受ける権利を地域の学校で保障するために,教育システムそのものを改革していくプロセスであるとしている。

注1)ヤングケアラーとは,「家族にケアを要する人がいる場合に,大人が担うようなケア責任を引き受け,家事や家族の世話,介護,感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子どものこと」(日本ケアラー連盟ヤングケアラープロジェクト)である。学業,交友関係などに影響を及ぼし,支援が必要であることが近年社会課題として認識されるようになっている。

障害者権利条約の批准を受けて,日本では2011(平成23)年に障害者基本法が改正され,「可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒とともに教育が受けられるよう配慮」(16条)を行うことが示された。
これまで,日本では障害のある子どもとそうでない子どもは,通常級と特別支援級・特別支援学校に分け,別々の場所で教育をうけていることが多く,インクルーシブ教育を保障した法律が整備されても,特別支援学級や特別支援学校など,別の場で学ぶ障害のある子どもは年々増加している。子どもによっては,別の場で学ぶことのメリットももちろんある。例えば,通常級に比べ支援級は少人数であり,困ったことを先生に聞きやすい環境であり,発達特性と相性がよいと感じる子どももいる。しかしながら,野口(2022)は,問題なのは,障害などを理由に子どもが別の場を「選ばされている状態」や「選ばざるを得ない状態」としている。そして,この日本の教育の現状に対し,国連から日本政府に勧告があった。

これまでの学校が,障害がない子どもを対象として維持されていた制度であることが挙げられる。今後は,発達障害の子どもであれば,学校側が個々の子どもの特性に応じた環境調整を発達障害の子どもに提供できることが,発達障害の子どもが学校に通いやすくさせるものと思われる。不登校の子どもの数が増加し続けていることを鑑みると,障害のない子どもにとっても学校には通いづらさがあることが推測される。そのため,インクルーシブ教育を目指すことが,発達障害の子ども,多様な子どもはもちろん,すべての子どもにとっても通いやすい学校になる。さらに,学校現場は,先生方も問題を抱えている。通常学級の児童生徒の定員が教員一人に対し40人と多いこと,通常業務は,授業のほかに,生徒の進路・生活指導,保護者との面談,部活の管理などあり,仕事の数は計り知れない。また,教員の教員養成課程では,障害をもつ子どもたちを指導するためのカリキュラムは組まれていない。インクルーシブ教育を進めるにあたり,特別支援教育の改革だけの問題ではなく,教育全体について再考する必要がある。

おわりに

発達障害の子どもとその周囲がともに子どもの発達特性の理解がなく,子どもに学校への適応を一方的に強いることは不登校につながりやすいことが考えられる。したがって,発達障害を脳機能の多様性として尊重し,インクルーシブな考え方を進めていくことは,近年の不登校と向き合う際に必要なことだろう。さらに,発達障害の子どもを含めたさまざまな多様性を尊重し,相互に活かせる社会にしていこうとするインクルーシブの考え方を実践していくためには,個々の子どもと向き合って,子どものニーズを把握するとともに,特別支援教育の範囲にとどまらず教育全体についての議論をかさね,教育システムの再構築を視野に入れて考えていく必要があると感じる。私たちは模索し,実践し続けなければならない,と思うのである。

文  献
  • 一般社団法人 日本ケアラー連盟 ヤングケアラープロジェクト.https://youngcarerpj.jimdofree.com/
  • Iwasa M, Shimizu Y, Sasayama D, et al.(2022)Twenty-year longitudinal birth cohort study of individuals diagnosed with autism spectrum disorder before seven years of age. Journal of Child Psychol Psychiatry, 63(12); 1563-1573. doi: 10.1111/jcpp.13614. Epub 2022 Apr 11. PMID: 35405770.
  • Iwasa M, Shimizu Y, Sasayama D, et al.(2022)Supporting Information In: Twenty-year longitudinal birth cohort study of individuals diagnosed with autism spectrum disorder before seven years of age. Journal of Child Psychol Psychiatry, 63(12); 1563-1573. doi: 10.1111/jcpp.13614. Epub 2022 Apr 11. PMID: 35405770.
  • Munkhaugen, E. K., Gjevik, E., Pripp, et al.(2017)School refusal behaviour: Are children and adolescents with autism spectrum disorder at a higher risk?. Research in Autism Spectrum Disorders, 41-42, 31-38. https://doi.org/10.1016/j.rasd.2017.07.001
  • 野口晃菜(2022)国連が日本政府に勧告「障害のある子どもにインクルーシブ教育の権利を」.YAHOO! JAPAN ニュース.https://news.yahoo.co.jp/byline/noguchiakina/20220910-00314466
  • 千住淳(2022)脳機能の多様性:発達障がいの認知神経科学を取り巻く倫理的・社会的問題.子どものこころと脳の発達,13; 11-17.
  • UNESCO(2006)Guideline of inclusion. Paper Knowledge. Toward a Media History of Documents, 7(2); 107–115.
+ 記事

本郷美奈子(ほんごう・みなこ)
所属:千葉大学子どものこころの発達教育研究センター
資格:公認心理師・臨床発達心理士

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