書評:『学生相談カウンセラーと考えるキャンパスの心理支援──効果的な学内研修のために2』(全国学生相談研究会議編/遠見書房刊)|評者:ロテ職人

ロテ職人(公認心理師・臨床心理士)
シンリンラボ 第4号(2023年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.4 (2023, Jul.)

本書学生相談カウンセラーと考えるキャンパスの心理支援──効果的な学内研修のために2は昨年刊行された学生相談カウンセラーと考えるキャンパスの危機管理の続刊である。「まえがき」で編集代表の太田裕一氏が述べているように,前作はコロナ禍という危機のさなかに書かれたものであり,危機管理に焦点が当てられたいわば「応用編」であったのに対し,本書はコロナ禍が過ぎ徐々に日常生活が戻りつつある中で書かれた「学生相談の入門的な」内容となっている。

実際,前作では「学生の性被害への対応」に始まり「学内でのストーカー問題への対応」「親からの問い合わせや苦情への対応」「SNSトラブル対応」(過去に何度かのネット炎上に巻き込まれた評者にとっても個人的に大変参考になった)など,大学で起こりうるさまざまな危機状況とその具体的対処が取り上げられている。一方,本書は「第1章 学生を学生相談室に紹介するとき」で学生支援の重要性から学生への声のかけ方,悩みの聴き方,学生相談室にどう繋げるかなどを概観し,その後の章で「予防的な関わり」「メンタルヘルスに問題を抱えた学生への対応」「発達障害の傾向がある学生,コミュニケーションが難しい学生への対応」など基本的な部分から論じており,病院臨床の現場しか知らない門外漢の評者にとっても非常に理解しやすい内容となっている。また,前作の「危機管理」という文脈では扱いきれなかったアディクション,LGBTQ,ひきこもり,ヤングケアラーを含む家族の諸問題など,現代の大学生が直面し得る多くの今日的な問題をも取り扱っている。

そして本書(「本シリーズ」と言うべきか)最大の特徴は,全14章に完全に対応した内容の,教職員向け・学生向け研修に使えるスライドデータ14本が出版社サイトから無料でダウンロードできることであろう。本書・前作ともに副題に「効果的な学内研修のために」とあるように,スライドを用いて研修を行うことを前提として執筆されており,非常に実用的なシリーズであると言える。そちらのデータの二次利用について出版社に確認したところ,コピーライトを明示すれば一部引用も可とのことなので,学生相談に関する研修以外でもこのスライドデータは使えるのではないないだろうか。ただしその場合は孫引きになるので,本書に明示されている元の文献にあたる必要はあるだろう。

本書はそのコンセプトを考慮すれば必要十分な内容を網羅していると言えるが,惜しむらくは,本書だけでは学生相談の現場においてカウンセラーが具体的にどのように動いているかまでは見えてはこない。恐らく,実際の現場では,他機関との連携や家族相談も含めたソーシャルワーク的な役割も多分に求められるのではないかと推察される。本書の編集は50年以上の歴史を持つ全国学生相談研究会議が担っており,そのノウハウの蓄積は大きな財産であると言えるだろう。もし次作の予定がおありであれば,架空事例などを用いて学生相談における臨床実践をより豊かに描くことを期待したい。

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ロテ職人(ろてしょくにん)
総合病院勤務の公認心理師・臨床心理士
伝説の心理ブロガー(自称)
ブログURL:https://blog.rote.jp/
ツイッターURL:https://twitter.com/rotemeister

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