【特集 マインドフルネスと認知行動療法】#05 マインドフルネス瞑想におけるありのままの気づきとは何か|藤野正寛・野村理朗

藤野正寛(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)・野村理朗(京都大学)
シンリンラボ 第10号(2024年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.10 (2024, Jan.)

1.はじめに

マインドフルネスとは,今この瞬間の経験に受容的な注意でありのままに気づいている状態を意味する(Brown et al., 2007; 藤野ら,2015)。“経験”とは,自分の身体やこころで次々と生じている感覚や感情や思考のことである。通常,私たちの注意は,それらの経験の中でも強度の高い対象に無意識的にひきつけられて範囲が狭くなる。あるいは,意識的に特定の対象に注意を向けることで範囲が狭くなる。それに対して,“受容的な注意”とは,注意の範囲を狭くせずに広い状態のままでいることを意味している。しかし,その広い範囲で生じるさまざまな経験の中の特定の対象に対して,反応したり,判断したり,抑制したりすると,注意の範囲が狭くなる。そこで,それらの経験に対して,反応したり,判断したり,抑制したりしない”ありのまま”の態度を維持する必要がある。それによって,今この瞬間に次々と生じているさまざまな経験を意識化する,すなわち“気づいている”状態が実現すると考えられている。

近年,この状態を実現するためのマインドフルネス瞑想を活用した心理療法であるマインドフルネス心理療法が,さまざまな心身の症状を改善したりウェルビーイングを高めたりするための情動調整方略として注目されている。この情動調整方略は,ネガティブな経験が生じた際に,意図的に,そこから注意をそらしたり,それを変えようとしたり,押さえ込もうとしたりするのではなく,それにただありのままに気づいているという点に特徴がある。言い換えると,ネガティブな経験を避けようとしたり無くそうとしたりといったようにその対象から離れようとするのではなく,その対象から離れずにただともにあるという点に特徴がある。このような特徴から,マインドフルネス瞑想は,ネガティブな経験との関わり方が暴露療法と類似しているとも指摘されている(Holzel et al., 2011)。

実際,多くの研究で,ネガティブな経験にありのままに気づいていることで,うつや不安などの症状が改善することが示されている(Goyal et al., 2014)。一方,ネガティブな経験にありのままに気づいているつもりで,実際にはそれに対して,無自覚的に反応したり,抑制したりしてしまい,かえって不安や緊張が高まるなどの有害事象が生じることも報告されている(Van Dam et al., 2018)。それらを踏まえると,マインドフルネス瞑想を活用する際に,有害事象を減らしながら効果を高めるためには,経験にありのままに気づいていることができているかどうかが重要であることがわかる。しかし,経験にありのままに気づいているかどうかは,専門家が外から判断することも難しく,また本人自身が判断することも難しい。また,そもそも,ありのままに気づいているとはどのような状態かもよくわかっていない。そこで,ありのままの気づきのメカニズムを解明することが求められている。

2.集中瞑想と洞察瞑想

私たちの研究グループは,ありのままの気づきのメカニズムを解明するために,マインドフルネス瞑想を構成している集中瞑想と洞察瞑想のうち(藤野ら,2019; Lutz et al., 2008),特に洞察瞑想に注目してきた。

集中瞑想は,特定の対象を用いて,その対象に意図的に注意を集中する技法である。特定の対象は,物体や音といった外部刺激でもイメージや思考といった内部刺激でもかまわないが,一般的には自然に生じている呼吸を用いることが多い。特定の対象を設定すると,注意の範囲が狭くなる。それによって,注意の範囲外の対象に対する感受性が低下するとともに,範囲内の対象に対する感受性が高まる。そして,いま取り組んでいる課題に必要な注意を阻害するような,注意の範囲外の感覚・感情・思考などといった妨害刺激に振り回されることなく,範囲内の特定の対象に注意をとどめやすくなる。しかし,特定の対象以外の強度の高い感覚や感情や思考などの妨害刺激が生じると,注意はそれらに囚われてしまう。そのことに気づいたら,注意を特定の対象に移動させる。それによって注意を妨害刺激から離すことが可能となる。そして,また特定の対象に注意を集中する状態に戻る。これを繰り返し行うことで,複数の刺激の中から特定の対象を選び出すトップダウンの選択的注意機能や注意を特定の対象にとどめる持続的注意機能が育まれる。

洞察瞑想は,今この瞬間に次々と生じているさまざまな感覚や感情や思考が何であっても特定の対象として選び出したり囚われたりすることなく,それらの経験の流れに気づいている技法である。この瞑想では,集中瞑想と異なり,注意をとどめるための特定の対象を設定しない。そのため,注意の範囲内と範囲外という区分がなくなり,今この瞬間に生じている経験すべてが気づきの対象となる。しかし,それらの気づきの対象のどれか一つに対して,反応したり,判断したり,抑制したりすると,それが気づきの対象から妨害刺激へと変化してしまい,注意はそれに囚われてしまう。そのことに気づいたら,洞察瞑想では,集中瞑想のように特定の対象を設定していないため,注意を特定の対象に移動させることで妨害刺激から離すということができない。そこで,妨害刺激に対して,反応したり,判断したり,抑制したりしない態度を取り戻す必要がある。その際,それらの経験が常に変化し続け,自分の思い通りにコントロールできないものであり,自分そのものではないという視点を持つことが重要となる。たとえば痒みが生じた際に,それが自分で思い通りにコントロールできないことや,今なんとかしようとしてもしなくても,いらいらしてもしなくても,いずれ消えてなくなるものだということが腑に落ちるレベルでわかっていることで,その痒みに対する固着した態度が低下する。それによって,妨害刺激が気づきの対象の一つに戻り,注意が自然と一つの対象から離れていくことが可能となるのである。そして,また経験の流れに気づいている状態に戻る。これを繰り返し行うことで,対象の感情価が快・不快・中性のいずれであっても分け隔てなく接する,開かれた受容的な態度である平静さが育まれる(Desbordes et al., 2015)。

このような集中瞑想と洞察瞑想の特徴からは,集中瞑想がマインドフルネスの状態になる前の基礎的な注意制御能力を育む実践方法となっているのに対して,洞察瞑想がマインドフルネスの状態を実現するための実践方法となっていることがわかる(Lutz et al., 2008)。以下では,この洞察瞑想を用いた2つの研究を取り上げて,ありのままに気づいているとはどのような状態なのかを考えてみる。

研究1:ありのままの気づきの生理状態

一般的なイメージでは,マインドフルネス瞑想を実施するとリラックスできると考えられている。しかし,瞑想研究の領域では,ありのままの気づきというのは,さまざまな経験に気づいている状態であることから,ただのリラックスしている状態ではないのではないかと考えられてきた。そこで,マインドフルネス瞑想がリラックスやストレスに関連する生理指標に与える影響が検討されてきたが,その結果にはばらつきがあった。その原因の1つは,マインドフルネス瞑想を集中瞑想と洞察瞑想に分けずに検討していたためだと考えられる。そこで,私たちの研究グループでは,瞑想未経験者でも,集中瞑想と洞察瞑想を実施できるような,それぞれ30分の音声インストラクション注1)を開発して(藤野ら,2019),それぞれ30分の瞑想が生理指標に与える影響を検証した(Ooishi et al., 2021)。

注1)それぞれの音声インストラクションは,「瞑想の概要」「姿勢の取り方」「呼吸の仕方」「瞑想の仕方」「瞑想の終わり方」の5つのパートから構成されている。それぞれのパートは,音声インストラクションの時間と実施するための無音の時間から構成されており,瞑想未経験者でも,音声インストラクションを聴きながらステップバイステップでそれぞれの瞑想を実施することが可能となっている。この音声インストラクションは瞑想研究を実施する研究者に対して提供されている。

実験では,瞑想未経験者41人を対象に,それぞれの参加者に30分の集中瞑想と洞察瞑想を休憩をはさんで実施してもらった。そして,瞑想前と瞑想中の心拍変動から交感神経活動と副交感神経活動を測定した。また,瞑想前後の唾液からコルチゾール濃度を測定した。

その結果,集中瞑想では,瞑想前と比べて瞑想中に,リラックスに関わる副交感神経の活動が増加していた。これは,集中瞑想によって妨害刺激にふりまわされないことでリラックス状態が高まっている状態を表している可能性が考えらえる。一方,洞察瞑想時には,覚醒度に関わる交感神経の活動が増加するとともに,ストレスに関わるコルチゾール濃度が減少していた。これらは,覚醒度は高くなっているにもかかわらず,ストレスレベルは低くなっていたことを示している。洞察瞑想が,さまざまな経験の流れに気づいている技法であることを踏まえると,交感神経の活動が高まっていることはそれらの経験に気づけるような覚醒度が高い状態を表している可能性が考えらえる。またコルチゾール濃度が減少していることはそれらの経験に対して反応したり判断したり抑制したりしないことでストレスが低下していることを表している可能性が考えられる。

研究2:ありのままの気づきの脳状態

それでは,さまざまな経験にありのままに気づいている際に,脳はどのような状態になっているのだろうか。これまでの研究では,そもそも集中瞑想時と洞察瞑想時の脳活動の違いを明確には示せていなかった。そこで私たちの研究グループは,純粋な瞑想時の脳活動を抽出できる実験デザインを立案し,集中瞑想時と洞察瞑想時の脳活動を特定した(Fujino et al., 2018)。

実験では,瞑想実践者17人を対象とした。従来の集中瞑想時と洞察瞑想時の脳活動を比較する研究では,例えば,集中瞑想を6分,安静時を6分,洞察瞑想を6分実施するといったブロックデザインを用いて,その際の脳活動をfMRIで測定するといったことが行われていた。しかし,筆者自身の瞑想実践経験から,6分の瞑想ではなかなか最適な瞑想状態にはなりにくいことを実感していた。そこで,防音室で1時間瞑想を実施した直後に,MRI装置で6分間瞑想を実施し,その際の脳活動を測定することとした。また,1時間瞑想を実施すると,その後もしばらく瞑想状態が続くことを実感していた。そこで,集中瞑想と洞察瞑想の実施日を2日に分けることとした。

解析に関しては,脳領域間の活動の相関関係を検討する機能的結合性解析を用いた。マインドフルネス瞑想は,注意制御・情動調整・身体感覚への気づき・自己観の変容などさまざまな認知機能にかかわっているとともに,広範囲な脳領域にかかわっていることが知られている。その中でも,大脳皮質の下に位置している線条体は,大脳皮質のそれぞれの脳領域と複数の異なる回路を形成しており,運動・注意・情動・動機・学習・記憶などさまざまな機能にかかわっている。そこで,線条体を中心としたそれぞれの脳領域との機能的結合性の変化を調べることで,集中瞑想と洞察瞑想に特有の脳活動を特定し,そこから瞑想の心理過程を推定することとした。

その結果,安静時と比べて集中瞑想時に,腹側線条体と視覚野の結合性が増加していた。この結合性の増加は特定の対象に対する意図的な注意制御の増加に関わっていると考えられている。これを踏まえると,集中瞑想では特定の対象に対するトップダウンの選択的注意機能が高まるという従来の考えを支持する結果であったと言える。一方,安静時と比べて洞察瞑想時に,この腹側線条体と視覚野の結合性が低下していた。また,腹側線条体と脳梁膨大後部皮質の結合性も低下していた。さらに,生涯の瞑想実践時間が長いほど,その低下の度合いが大きいことも示された。この結合性の低下は,自分の過去の経験の記憶に対する感情的な修飾の程度の低下に関わっていると考えられている。これらを踏まえると,洞察瞑想では,今この瞬間に生じているさまざまな経験の流れにありのままに気づいている際に,トップダウンの選択的注意機能が低下するとともに,それらの経験から引き起こされる自分の過去の経験の記憶に囚われる程度が低下している可能性があると考えられる。

3.ありのままの気づきとは何か

ここまで見てきたように,今この瞬間の経験に受容的な注意でありのままに気づいている状態には,主に洞察瞑想がかかわっていると考えられている。この洞察瞑想を行っている際の生理状態からは,ありのままの気づきは,単なるリラックス状態ではなく,むしろ覚醒度が高いにも関わらずにストレスは低下している状態であることがわかった。また,洞察瞑想を行っている際の脳状態からは,トップダウンの選択的注意が低下している可能性や,過去の経験の記憶に囚われる程度が低下している可能性が示唆された。

これらを踏まえて,改めて,ありのままの気づきとは何かを,通常時,集中瞑想時,洞察瞑想時の状態を表したイメージ図を用いて考えてみる(図1)。スノードームは,頭の中を示している。通常の状態では,目の前の猫を見る際に,猫のイメージ像だけでなく,それ以外のさまざまな感覚や感情や思考が雪のように浮かんできていま取り組んでいる課題に必要な注意を阻害する妨害刺激となり,それらに囚われてしまうことがある。また,集中瞑想の状態では,猫のイメージ像を特定の対象とし,そこに注意を集中することで,それ以外の経験がある程度静まるとともに,静まらない経験にも振り回されにくくなる。しかしこのような状態では,今この瞬間に生じているさまざまな経験には気づけなくなる。これに対して,洞察瞑想の状態では,特定の対象を設定しないため,気づきの範囲が広くなる。これはトップダウンの注意制御が低下することによって実現すると考えられる。そして,猫のイメージ像もさまざまな感覚や感情や思考も,特定の対象や妨害刺激ではなく,気づきの対象となる。ただし,トップダウンの注意制御が低下するといっても単純に覚醒度が低下するのではなく,さまざまな経験に気づいているような覚醒度の高い状態であると考えられる。

それでは,気づきの範囲が広い通常時と洞察瞑想時で何が違うかというと,それは周辺の感覚や感情や思考が妨害刺激なのか,気づきの対象なのかという点である。このような妨害刺激を気づきの対象にするためには,それらの対象が自分にとって渇望や嫌悪といった欲求の対象ではなくなる必要がある。そのためには,過去の経験の記憶に囚われる程度が低下している必要があるのかもしれない。そして,気づきの中にある感覚や感情や思考が妨害刺激でなくなることによって,ストレスが低下している可能性が考えられる。

図1 通常時,集中瞑想時,洞察瞑想時の状態を表したイメージ図。
黒の枠線は気づきの範囲,赤色とオレンジ色の図形は感覚や感情や思考を示している。

このように,洞察瞑想時の生理状態や脳状態を特定することで,ただ「ありのままに気づく」といっても,その背後にはさまざまな心理過程が生じていることがわかってきている。今後は,このような研究を進めていくことで,ありのままに気づくとは何かということをさらに明らかにしていくことが求められる。それによって,マインドフルネス瞑想を活用する際に,有害事象を減らしながら効果を高めることが可能になると考えられる。

文  献
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  • 藤野正寛・上田祥行・井上ウィマラ・イエット・G・サンダーズ・スティーブン・マーフィ重松・野村理朗(2019)心理学実験のための集中・洞察・慈悲瞑想の短期介入インストラクションの開発.マインドフルネス研究,4; 10-33.
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藤野正寛(ふじの・まさひろ)
所属:NTTコミュニケーション科学基礎研究所
著書:『マインドフルネスを医学的にゼロから解説する本』(分担執筆,日本医事新報社,2018),『進化するマインドフルネス:ウェルビーイングへと続く道』(分担執筆,創元社,2018)
専門:瞑想実践で得られた問いを認知心理学的手法で解明することに取り組む。

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野村理朗(のむら・みちお)
京都大学大学院教育学研究科准教授,博士(学術)。広島大学准教授などをへて2010年より現職。
基礎研究PIを基軸に,実装研究を広く展開。国際学術雑誌の主幹編集員,国際経済調査事業(経済産業省クールジャパン政策課),上場企業を中心にアドバイザー等を歴任。
著書に『なぜアヒル口に惹かれるのか?』(KADOKAWA,2010),『脳の報酬系』(丸善出版,2019)など。

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