岡村達也(文教大学名誉教授)
シンリンラボ 第33号(2025年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.33 (2025, Dec.)
原著出版年順に,以下4つを取り上げる。以下における「本書」は,これら取り上げた書籍を指す。
| 1 グリーンソン, R. R. 松木 邦裕(監修)(2024).精神分析の技法と実践 金剛出版 [原著1967] 2 ヨーマンズ, F. E.・クラーキン, J. F.・カンバーグ, O. F. 妙木 浩之(監訳)(2023).境界性パーソナリティ障害のための転移焦点化精神療法――クリニカル・ガイド 金剛出版 [原著2015] 3 ベック, A. T.・ラッシュ, A. J.・ショウ, B. F.・エミリー, G.・デルバイス, R. J.・ホロン, S. D. 大野 裕(監訳)(2025).うつ病の認知療法 第2版 岩崎学術出版社 [原著2024;原著初版1979] 4 Joseph, S. A.(2025).The humanistic psychology of Carl Rogers: Understanding the person-centered approach. Oxford University Press. |
グリーンソン, R. R.著,松木邦裕監修『精神分析の技法と実践』(金剛出版,2024[原著1967])
2024年のほとんど年末(11月)の出版なので,2025年分として取り上げる。
むかし,The Standard Edition of the Complete Psychological Works of Sigmund Freud(Hogarth Press, 1958; Rev. ed. 2024)の第12巻pp.172-173のリストによって,フロイトの技法論文24編を執筆順に読んだ。リストの邦訳は,『フロイト全著作解説』(北山修監訳,人文書院,2005年,pp.493-494)にある。参照した邦訳は,主として『フロイト著作集9 技法・症例篇』(小此木啓吾訳,人文書院,1983年)だった。訳者による「解説」には,フロイトの技法論文を読んだあと役立つ著作として,7つが挙げられていた(原著出版年順に整序)。
| 1 ライヒ, W.『性格分析』(小此木啓吾訳,岩崎学術出版社,1966年;原著1933年) 2 フロイト, A.『自我と防衛』(外林大作訳,誠信書房,1958年;原著1936年) 3 Glover, E. The Technique of Psycho-Analysis. International University Press. 1955. 4 メニンガー, K.『精神分析技法論』(小此木啓吾・岩崎徹也訳,岩崎学術出版社,1969年;原著1958年) 5 Greenson, R. The Technique and Practice of Psycho-Analysis, Vol. 1. Hogarth Press. 1967. 6 ラッカー, H.『転移と逆転移』(坂口信貴訳,岩崎学術出版社,1982年;原著1968年) 7 Langs, R. The Technique of Psychoanalytic Psychotherapy. Jason Aronson. 1973. |
思い出を1つだけ記す。私は,保坂亨さん,下山晴彦さん,中釜洋子さんと大学院同期だった。たぶん中釜さんの提案で,4人で読書会を始めた。最初に読んだのが,中釜さんの(強い)希望で,『性格分析』だった。
本書刊行予告は,岩崎学術出版社の「現代精神分析叢書 第II期」の第1巻,シーガル, H.『メラニー・クライン入門』(岩崎徹也訳,1977年;原著1973年)のカバーの表折返から存在した。それが,第14巻,オーンスタイン, P. H. 編『コフート入門——自己の探究』(伊藤洸監訳,1987年;原著1978年)ではなくなった。がっかりした。その後,『心理療法を学ぶ』(秋谷たつ子編,金剛出版,1994年)の第3部「『精神分析の技法と臨床』(Greenson)を読んで」が本書抄読で,うれしかった! それが,ようやく刊行された!
手元の原著タイトルにも「第1巻」とある。第2巻は,しかし,著者によって刊行されなかった。先の「解説」によれば,ラングズの本によって見合わされたという。同書の邦訳はないが,次の出版はうれしかった! 『ラングス精神療法入門——コミュニカティヴ・アプローチの実際』(妙木浩之監訳,金剛出版,1997年;原著1988年)。個人的には,精神分析技法に関する45編の古典的な論文や章の選集,Classics in Psychoanalytic Technique (Rev. ed.).(Langs, R. Ed., Jason Aronson, 1991; 1st ed. 1981)が,私には入手困難だった文献も含み,とても勉強になった。
ヨーマンズ, F. E.・クラーキン, J. F.・カンバーグ, O. F.著,妙木浩之監訳『境界性パーソナリティ障害のための転移焦点化精神療法——クリニカル・ガイド』(金剛出版,2023[原著2015])
2023年のほとんど年末(11月)の出版なので2024年分だが,見落としてしまったので,今回取り上げる。
APAの第12部会(臨床心理学)は,BPDのEST(実証的支持がある療法)を4つ挙げている。
https://societyofclinicalpsychology.org/resource/psychological-treatments-archive/filter-personality-psychological-treatments-archive/ 3つには邦訳があった。本書刊行によって,4つすべてに邦訳がそろった!
各療法のリソースとして挙げられている書籍のうち,邦訳があるものを記しておく。リストは,原典主義ではなく,実用本位である。例えば,DBTの原典,リネハン, M. M.『境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法——DBTによるBPDの治療』(大野裕監訳,誠信書房,2007年;原著1993年)は挙げられていない。
| 1 弁証法的行動療法(DBT) マッケイ, M.・ウッド, J. C.・ブラントリー, J.『弁証法的行動療法実践トレーニングブック——自分の感情とよりうまくつきあってゆくために』(遊佐安一郎・荒井まゆみ訳,星和書店,2011年;原著2007年,原著第2版2019年) ※ 挙げられていないが,姉妹本の邦訳もある。マッケイ, M.・ウッド, J. C.『毎日おこなう弁証法的行動療法自習帳』(遊佐安一郎・小島美夏訳,星和書店,2012年;原著2011年) フォレンゼティ, A. E.『パートナー間のこじれた関係を修復する11のステップ——DBTで身につける感情コントロール・対人関係スキル』(石井朝子訳,明石書店,2012年;原著2006年) 2 メンタライゼーションに基づく治療(MBT) ベイトマン, A.・フォナギー, P.『メンタライゼーション実践ガイド——境界性パーソナリティ障害へのアプローチ』(池田暁史監訳,岩崎学術出版社,2019年;原著2006年,原著第2版2016年) アレン, J. G.・フォナギー, P.『メンタライゼーション・ハンドブック——MBTの基礎と臨床』(狩野力八郎監訳,岩崎学術出版社,2011年;原著2006年) 3 スキーマ焦点化療法(SFT) ヤング, J. E.・クロスコ, J. S.・ウェイシャー, M. E.『スキーマ療法——パーソナリティの問題に対する統合的認知行動療法アプローチ』(伊藤絵美監訳,金剛出版,2008年;原著2003年) 4 転移焦点化精神療法(TFP) ヨーマンズ, F. E. ・クラーキン, J. F.・カンバーグ, O. F.『境界性パーソナリティ障害のための転移焦点化精神療法——クリニカル・ガイド』(妙木浩之監訳, 金剛出版,2023年;原著2015)※ リソースに挙げられていないが,挙げられているものより新しい。 |
カーンバーグの邦訳は5冊目になる。既刊4冊は次のとおりである(原著出版年順)。
| 『対象関係論とその臨床』(前田重治監訳,岩崎学術出版社,1983年;原著1976年) 『内的世界と外的現実——対象関係論の応用』(上巻:山口泰司訳,文化書房博文社,1992年,下巻:山口泰司監訳,文化書房博文社,1993年,合本:山口泰司監訳,文化書房博文社,2002年;原著1980年) 『重症パーソナリティ障害——精神療法的戦略』(西園昌久監訳,岩崎学術出版社,1996年;原著1984年) 『境界例の力動的精神療法』(松浪克文・福本修訳,金剛出版,1993年;原著1989年) |
懐古を1つ記す。いま,グリーンソンやカーンバーグを読む人は,どれくらいいるだろう。転移/逆転移を考えることは,自分という人間を「治療道具」(の1つ)と考えることの一端だが,いま,そんなふうに思っている人,どれくらいいるだろう。治療技法や治療マニュアルという(あえて言えば)「おもちゃ」が基盤になっていまいか。技法やマニュアルを遂行するのは,自分という人間である。私にとって心理療法(を学ぶこと)は,「おもちゃ」をもてあそぶことではなく,「治療道具」としての自分という人間をかけた(大袈裟!)いとなみだった。
ベック, A. T.・ラッシュ, A. J.・ショウ, B. F.・エメリィ, G.著,坂野雄二監訳『うつ病の認知療法』(岩崎学術出版社,1992(新版2007)[原著1979])
ベック, A. T.・ラッシュ, A. J.・ショウ, B. F.・エミリー, G.・デルバイス, R. J.・ホロン, S. D.著,大野裕監訳『うつ病の認知療法 第2版』岩崎学術出版社,2025[原著2024])
心理療法史の中で,1970年代最大の出来事は何か。次の書籍の相次ぐ出版である。今日のCBTの基礎がすえられた。また,スミスSmith, M. L.・グラスGlass, G. V.による,今日,効果研究のゴールドスタンダード,「メタ分析」,さらに,エンゲルEngel, G. L.による「BPSモデル」と言われるものの出現も,この頃(1977年)だった。
| (1)ベック, A. T.『認知療法——精神療法の新しい展開(原題Cognitive Therapy and the Emotional Disorders)』(大野裕訳,岩崎学術出版社,1990年;原著1976年) (2)マイケンバウム, D.『認知行動療法——心理療法の新しい展開(原題Cognitive-Behavior Modification: An Integrative Approach)』(根建金男監訳,同朋舎出版,1992年;原著1977年) (3)ベック, A. T.・ラッシュ, A. J.・ショウ, B. F.・エメリィ, G.『うつ病の認知療法』(坂野雄二監訳,岩崎学術出版社,1992年,新版2007年;原著1979年) |
「認知療法/認知行動療法」を「タイトル/サブタイトル」とする本邦書籍として,(1)は2冊目,(2)は7冊目,(3)は9冊目である。邦訳出版年から,本邦では,1990年前後からCBTが展開し始めたことがわかる。CBTの邦人最初の単著,『うつを生かす——うつ病の認知療法』(大野裕,星和書店,1990年;本邦書籍の4冊目)の著者でもある大野裕さんは,慶應義塾大学は小此木啓吾/精神分析グループの人だったので,当時,「あれ?」と思った。原著と邦訳との出版タイムラグは13〜15年! 時間がかかった。
懐古をもう1つだけ記す。初学者として,本書を,うつ病に関心がなくても,CBTマニュアルの原点として,また,(1)を,CBTに関心がなくても,課せられた原典講読の苦行として,読む/読もうとする人,否,何療法であれ,「原典/原点だから,読む/読もう」とする人は,いま,どれくらいいるだろう。私は,自分が原典/原著主義であることを自認する。
Joseph, S. A. The humanistic psychology of Carl Rogers: Understanding the person-centered approach. (Oxford University Press, 2025)(ロジャーズの人間性心理学——PCAの深さと広さ)
ジョゼフの著作の所蔵をチェックした。本書を含め,9冊もあった。驚いた!
邦訳が1つある。『トラウマ後 成長と回復——心の傷を超えるための6つのステップ(原題What Doesn’t Kill Us: The New Psychology of Posttraumatic Growth)』(北川知子訳,筑摩書房,2013年;原著2011年)。当時,「ジョゼフの邦訳がやっと出た!」の思いだった。タイトルから直ちに,トラウマ学者,ポジティヴ心理学者とわかる。
本書から抜粋する。ロジャーズ理論を知らない方には理解不能と思える。深謝。
私のキャリアはトラウマ心理学者から始まった。ロジャーズのアプローチの重さがわかったのは,そのあとのことだった。トラウマという言葉が一般化する何十年も前に,ロジャーズがトラウマのプロセスについて記していることに気づいたのである。トラウマは,当然,子ども時代における〈価値の条件〉の内在化に起因するものではない。トラウマ的出来事にさらされたことに起因するものである。パーソンセンタードのパーソナリティ理論は,思ってもいなかったほど精緻な枠組みであることに気づいた。それはトラウマ後ストレスの発生を明解に説明すると同時に,トラウマ後ストレスを,〈障害disorder〉ではなく,人がトラウマの重さをワークスルーする〈正常で自然なプロセスnormal and natural process〉として書き換えることを可能にしてくれた。
理念としての〈十分に機能している人間〉は,これまで経験したことがないような経験に直面しても,〈自己概念〉は柔軟かつ適応的である。しかし,現実の私たちは,〈十分に機能している人間〉ではない。〈防衛〉プロセスによって〈自己構造〉を維持している。だが,これは,〈自己構造〉と圧倒的に〈不一致〉な〈脅威〉を経験しないときまでである。それを越えた経験が起きると,ロジャーズが記述した〈[自己構造の]作動停止breakdownと[その体制化の]解体disorganizationのプロセス〉[カーシェンバウム, H.・ヘンダーソン, V. L. 編『ロジャーズ選集(上)』(伊東博・村山正治監訳,誠信書房,2001年,pp.301-302;原著1989年)]が起きる(pp.101-102)。
私の考えや世界観は5年余にわたって徐々に変化し,2005年のワースリーとの共編著Person-Centred Psychopathology: A Positive Psychology of Mental Health(パーソンセンタード精神病理学——ポジティヴ心理学とメンタルヘルス)(Joseph, S. & Worsley, R. Ed., PCCS Books, 2005)に結実した。(中略)新版はHandbook of Person-Centred Therapy and Mental Health: Theory, Research and Practice(PCTとメンタルヘルス——理論・研究・実践)(Joseph, S. Ed., PCCS Books, 2017)である(p.94)。
ジョゼフは,トラウマ心理学者として,ロジャーズ理論を発見した! そして,「パーソンセンタード精神病理学」を,初めて表立って(!)打ち出した。深くロジャーズ理論に傾倒し,PCTセラピストにしてポジティヴ心理学者として,ロジャーズ理論をポジティヴ心理学の礎(の1つ)としてはっきり位置づけること,そのためにもロジャーズ理論理解の深化と拡大を図ること,そしてロジャーズ理論の再考/再評価を熱望し,「わがロジャーズ理論」として,その全体像とその射程を明示している「熱い」著作である。「正しい」メインタイトルは,『ロジャーズのポジティヴ心理学』だったと思える。しかし,これでは,人間性心理学やPCAの陣営はもとより,ポジティヴ心理学の陣営への訴求力も殺がれるのかもしれない。私は,ジョゼフのロジャーズ理論熱愛を愛す。
以上
岡村達也(おかむら・たつや)
文教大学名誉教授。1985年,東京大学大学院教育学研究科教育心理学専攻第一種博士課程中退。専門は,臨床心理学・カウンセリング。
主な著書に『思春期の心理臨床』(共著,日本評論社,1995),『カウンセリングを学ぶ』(共著,東京大学出版会,1996,2版2007),『カウンセリングの条件』(日本評論社,2007),『カウンセリングのエチュード』(共著,遠見書房,2010),『臨床心理学中事典』(共編,遠見書房,2022)などがある。










