法澤直子(やまき心理臨床オフィス 長崎ルーム)
シンリンラボ 第34号(2026年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.34 (2026, Jan.)
私は臨床心理士,公認心理師として,「非常勤の掛け持ち」という働き方を続けています。
1.いろんな現場を経験して気づいたこと
「私がいない間も現場は動いている。その時間を尊重できる援助者になりたい」。これは,教育,産業,矯正,障害者支援,災害支援など,多岐にわたる領域で非常勤を掛け持ちしてきた私が,常に胸に刻んでいる言葉である。多様な現場を経験する中で,心理職に求められる役割が,それぞれのフィールドで異なることを肌で感じてきた。この多面的な実践こそが,私の臨床の土台を築いている。「私がいない間も現場は動いている。その時間を尊重できる援助者になりたい」。
2.「試されごと」が育ててくれた力
仕事を始めてからの10年間は,「頼まれごとは試されごと」と考え,いただいた仕事には積極的にトライしてきた。その行動があったからこそ,幅広い現場を体験し,心理職としての土台を確固たるものにできたと感じている。下手なりに向き合ってきた経験が,今の私を支えていると言えよう。
3.現場ごとの違いと向き合う
多領域を渡り歩く中で,それぞれの文化に合わせた支援の形を模索してきた。教育の現場では,児童生徒に最前線で関わる教員との連携が鍵となる。教員の視点を尊重し,専門的な知見を共有できる形に変換することが重要である。産業領域では,保健師や人事担当者と協働しながら,働く人々のメンタルヘルスを組織全体で支えている。災害支援の現場では,時間とともに変わる状況と,それに伴う感情のうねりに寄り添いながら,短期的な安定と,長期的な回復を見据えた支援が必要であった。3年前からは開業領域に携わっているが,自由度が高い反面,経営の視点も求められる。
4.ちょうどいい距離感を探しながら
どの現場においても,「毎日いるわけではない」私が,その組織の一員としてどうすれば機能できるかという視点は非常に大切である。専門的な意見を伝える際にも,ただ「正しいこと」を述べるだけでなく,「その場で届く表現」に変換し,現場の文化に馴染ませていく努力が欠かせない。このような現場との距離感は,企業との委託契約,行政の会計年度任用職員(スクールカウンセラー含む),大学の非常勤職員など,多様な雇用形態で働いてきた経験とも深く結びついている。臨床を「縦軸」とするならば,雇用形態は「横軸」である。これらを俯瞰して見ながら,それぞれの職場で心理職としての自分にどのような役割が期待されているかを読み取り,組織との距離感を調整していく視点は,私の実践の核となっている。雇用形態が変われば,求められる距離感や専門性の出し方も変わる。現場の温度に合わせて自分自身を調整する力が磨かれたと考える。
5. 陰で支える仕事にも意味がある
さらに,私は学術学会の運営にも長年携わってきた。かつては,日々の通常業務に加え,学会の運営業務に忙殺されることに頭を悩ませた時期もあったが,今はそれをシャドーワークだと捉えている。人と人との繋がりの中で育まれ,支え合いながら積み重ねていくこういった活動は,臨床とは異なる角度から私を育ててくれた。学会活動を通じての繋がりや広がり,それもまた,心理職としての専門性の奥行きを形づくるものであると感じている。
6.変化する瞬間に立ち会えるということ
最後に,心理職としての醍醐味は,やはり「変化に立ち会えること」に尽きるであろう。クライエントの変化はもちろん,関わる組織やチームの空気が和らいでいく瞬間,誰かの視点が変わる瞬間。そうした場面に立ち会えることは,領域を問わず,この仕事の大きな魅力である。
心理職は,時に控えめに,時に大胆に。現場に求められる「声の大きさ」で,自分の専門性を伝える必要がある。これからも,多様な現場で培った力を活かし,それぞれの現場にふさわしい「届く支援」を模索し続けていきたい。
法澤直子(ほうさわ・なおこ)
やまき心理臨床オフィス長崎ルーム
資格:臨床心理士,公認心理師
趣味:サッカー観戦,筋トレ,甘酒づくり
主な著書:『みんなのシステム論』(分担執筆,日本評論社,2019),『思春期のブリーフセラピー』(分担執筆,日本評論社,2022)






