中井良和(上越カウンセリングルーム)
シンリンラボ 第31号(2025年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.31 (2025, Oct.)
1.私設心理相談とは?
端的に私設心理相談の魅力は#7にある金丸慣美先生のお話がとてもわかりやすい。私設心理相談に興味がある方は是非そちらを見てほしい。またこの領域では#25で紹介された宮崎圭祐先生のように,新しい経営のスタイルが広がってきている。筆者が経営する上越カウンセリングルームは2008年に開業した。当時の新潟県では,臨床心理士が経営する個人開業施設は3〜4件程度であったが,現在は若い人たちの開業が増え,15件まで広がり,その形態も様々である。放課後等デイサービスや訪問看護などの多職種連携型やアウトリーチを主とした出張型,またレンタルオフィスを利用した開業など独自のスタイルでの経営がなされている。上越カウンセリングルームは今年で17年目になるが,現在は筆者と事務員の2名で運営が行われている旧式(?)と呼ばれるかもしれない来談型の施設である。
2.学びの姿勢
当施設のクライエントに年齢制限はない。老若男女,様々な年齢の人が来談する。対象は精神疾患だけではなく,不登校,中退,離婚問題や宗教問題から始まり,不妊治療や出産前後の夫婦,子どものひきこもりや家庭内暴力の対応に悩むご両親,特定疾患(難病),四肢欠損や高次脳障害などの中途障害を抱える人など様々である。大学や大学院の講義や実習で学んできたこと以外のあれこれが現場には山のようにあり,その都度,クライエントとの面接の中で学ばせてもらった。知らないことを知る。わからないことは調べる。「目の前のクライエントのことを理解するために」という基本に沿って,色々な分野のことを学ばせてもらった。また活動をすればするほど「一人ではできないこと」を痛感した。自分にできない支援を「誰」に「どのように」頼むのか?と模索し,地域の関係機関と連絡を取り合う中で,自身が苦手としていた「つながる力」を身に着けられた。現実は良い話ばかりではない。自身の未熟さゆえに当施設を見限り,離れて行った人もたくさんいた。自死,癌や難病闘病の末に他界された人もいる。遺族や警察からの問い合わせ,裁判関係の問い合わせ,度の過ぎたクレームなど極度のストレスを感じる事案と常に背中合わせであり,その緊張感と責任が自身の学びや成長を促した部分は大きい。
3.地域で活動するということ
地域で活動をしていると,様々なクライエントとの出会いと別れだけではなく,実習生の受け入れ,初任者心理士の受け入れ,事務員の交代など臨床とは関係のない出会いと別れもあった。この17年間「開かれた終結」を意識して,地域で活動を続けてきた。今では実習生で来ていた心理士からリファーを受けたり,昔働いてもらっていた心理士が私のメンターになってくれていたり,事務員には地域特有の習慣や風習,自身に欠けている大人としての振舞いなどを教わっている。また家庭内問題を起こしていたクライエントが大学進学の報告をくれたり,十数年前に来談したクライエントから結婚や出産の報告を受けたりもする。元々が内弁慶でそこまで社交的ではない私が,この施設経営を通して学んできたこと,身に着けてきたことはとても大きく計り知れない。実際には,心理療法家として技術や能力がどこまで伸びたのかはわからない。しかしながら,目の前にある様々な人たちとのつながりの中で学び,身に着けてきたことが,今の経営を支え,これまで以上に生活の質を豊かにしているのは事実である。こういった視点で振り返ると「人とのつながり」,「研鑽」,「自己成長」の機会が溢れていることが私の臨床現場の魅力なのかもしれない。
中井良和(なかい・よしかず)
上越カウンセリングルーム
役職:新潟県臨床心理士会 私設心理相談部会担当理事,豊岡短期大学・上越公務員・情報ビジネス専門学校 こども保育幼稚園科 非常勤講師,上越看護専門学校 非常勤講師
資格:臨床心理士,公認心理師,産業カウンセラー,小学校教諭(専修),養護学校教諭(知的障害)
専攻:応用行動分析,発達障害児者支援




