髙田 治(川崎こども心理ケアセンターかなで)
シンリンラボ 第28号(2025年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.28 (2025, Jul.)
児童心理治療施設は,心理的な困難から生きづらさを抱える子どもの心理支援を目的とした児童福祉施設である。施設での心理支援については,第4回:橋本江玲奈先生をお読みいただき,今回は私が感じている現場の魅力を伝えたい。
1.入所している子どもたち
現在,入所して共同生活を送っている子どもの8割以上が虐待を受け,過半数が発達障害とされている。6割超が精神科の薬をのんでいる。生来の生きづらさを抱えていたり,大切にされたとは言い難い環境で育ったりしたため,人の中では安心できず,強い警戒心と怯えを抱いている。ほとんどの施設に入所児のための学校(学級)があり,学校を含む生活すべてを支援の場にできる。福祉,医療,教育の専門家と協働して,子どもの支援を行なう施設である。
契約ではなく児童相談所の措置で入所が決まるため,治療動機がほとんどない子どもも入所してくる。大切にされず酷い経験をしてきたので,大人に頼っても碌なことはない,何か望んでも叶いっこないと思っている子もいる。そういう子は,大人と二人で密室で過ごす心理面接の場で安心できない。生活の中で安心感を覚え,自分を傷つける人ばかりではない,相談しても悪くなさそうと感じて初めて相談となる。今よりよくなりたい,こうなりたいと希望を持てるようになることが支援目標である。
2.施設の生活で子どもたちは
入所当初,子どもは危なそうなら逃げようと思っているだろう。殴るはずだという目で職員を見,助言も自分を責める言葉と感じてしまう。生活する中で,殴られないし,職員はそんなに怖くないし,前の生活よりましかもと感じると,ここに居ようかと思い始める。そうなると,共同生活で安全を得てきた人類が引き継いできた力が湧き出てくる。顔色を伺い人によって態度を変え,見通しを立て安心しようとする。しかし,人は自分を傷つけないと思いたいが,酷い目に遭ったら余計痛い,大丈夫か確かめずにいられない。職員にも怖々と無理して関わるので,攻撃的で挑発しているかのように見えるが,子どもは必死だ。思い通りにならず暴言になったり,受け入れ難い理屈で自分を守ろうとしたり,時にパニックになったりする。不器用で手はかかるが,疑念は強くても悪意は殆ど感じない。子どもの居場所を作ろうとするもがきは大変で,子どもの健気さと,思うようにならない切なさを感じる。
施設に少し馴染んでくると,ああいう人になりたいという憧れの人が見つかり希望が芽生える。自閉症スペクトラムとされる子でも,不器用ながら人を気遣おうとする。役に立ちたい思いも出てきて,お手伝いをしたがる子どもは多い。もがきながら変わっていく子どもの日々の姿は素敵だ。
3.共に過ごす職員にとって
子どもを苦しめるトラウマの影響や時に起こる激しい混乱を目の前に,職員もひどく揺らされしんどくなる。怖さや無力感を抱くこともある。しかし,環境が整えられれば子どもは自ら変わっていく,そこに同行できるのは貴重な経験だ。子どもの直裁な言葉や言動,表情から学べることも多い。
心理士は,抽象的な理論,言葉と現実,実体験の間を行き来し,現実に根ざした子どもの理解を深め具体的な支援を探ることが必要だ。目を背けたくなる時も多いが,圧倒されながら佇んでいれば,見えてくるものがある。一人ではとてもできないが施設には心理士が複数いて,他職種の専門家とも現実に向かえる。児童相談所,病院,時に警察と様々な外部機関,社会に支えられていることも実感できる。「人ってよくできてるな」と思える現場だ。支援とは,人とはと本質を考えさせてくれる場だ,児童心理治療施設で一緒に働きませんか。
文 献
- 滝川一廣・髙田治・谷村雅子ほか編(2016)子どもの心をはぐくむ生活.東京大学出版会.
髙田 治(たかだ・おさむ)
川崎こども心理ケアセンターかなで職員育成支援部長
公認心理師,臨床心理士
主著:髙田治(2022)施設心理士から伝えたいこと,世織書房.




