野島一彦(九州大学名誉教授,跡見学園女子大学名誉教授)
シンリンラボ 第30号(2025年9月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.30 (2025, Sep.)
1.はじめに
中学時代,高校時代の私の将来の職業イメージは,「弁護士」になることであった。というのは,当時のテレビで弁護士が活躍する番組があり,憧れていたのである。それで,大学は法学部に行きたいと思っていた。しかし願書を提出する直前に受験雑誌で,九州大学教育学部には日本で初めて「カウンセリング」という科目が置かれているというのを知り,私は心を惹かれた。そして悩みに悩んだ末,<法律>で人を援助するより,<心>で人を援助することをしたいと考えて,教育学部を受験することにした。
1966年に九州大学教育学部に入学して以降,現在(2025年8月)に至るまで以下に述べるような多様な経験を通して,シンリシ(ある意味で「心の弁護士」)になったし,今も成長を続けている。
2.九州大学教育学部時代
九州大学教育学部では,指導教官は初代カウンセリング研究室教授の池田数好先生(児童精神科医)である。当時の教育学部には,精神分析の前田重治先生、動作法の成瀬悟策先生,PM理論の三隅二不二先生,犯罪心理学の遠藤辰雄先生,感受性訓練の関計夫先生等の多彩な教授陣がそろっておられ,多大の刺激を受けた。卒業論文は「非行少年の研究」である。
3.村山正治先生との出会い
1970年に大学院に進学するにあたり,私がロジャーズを好きであることを知っておられた前田先生が,ロジャリアンとして有名な村山正治先生(九州大学教養部)を紹介してくださった。村山先生からは,クライエント中心療法についてはご自分の録音テープを貸していただき,のびのびとクライエントとやりとりをされている姿を学んだ。また当時のロジャーズはエンカウンター・グループに力を入れていることを教えていただいた。村山先生との出会い以降,私は個人アプローチとしてのクライエント中心療法とグループアプローチとしてのエンカウンター・グループの2つを,今日に至るまで実践と研究を続けることになった。
4.クライエント中心療法の実践と研究
クライエント中心療法のカウンセリングのスタートは,修士課程の心療内科病院での実習(1970年5月〜1972年2月)である。その後,1972年3月から有給で精神科病院とその病院のサテライトクリニックで40年間,毎週数回,非常勤心理士として働いた。統合失調症者とのカウンセリングも数多く担当してきたが,クライエント中心療法のカウンセリングを行うことでの問題は感じなかった。病院臨床以外では,学生相談で24年間,私立中高のスクールカウンセラーで19年間,非常勤カウンセラーとして働いた。これらのカウンセリングは2012年に私が九州大学を定年退職のため福岡から関東に転居するまで続いた。2012年4月からは跡見学園女子大学の心理教育相談所で個人カウンセリングを続けた。
5.エンカウンター・グループの実践と研究
エンカウンター・グループへの参加は1970年の修士課程1年からしてきた。ただ最初の体験は心理的損傷体験であった。エンカウンター・グループの研究を考えていた私の参加態度をめぐり攻撃を受けてしばらくは鬱状態が続いた。その後の研究をしていくなかで,これはスケープ・ゴーティング現象であることが分かった。これまでの55年間には,一般の人,中学生,高校生,大学生,大学院生,専門学校生,企業人,カウンセラー,電話相談担当者等,様々な対象に,通いや宿泊形式でのグループを行ってきた。
異色のエンカウンター・グループとしては,精神科病院のデイケアで、統合失調症の患者を対象に毎週75分間の「心理ミーティング」とよばれるエンカウンター・グループチックなグループを25年間(1156セッション)行ってきた。
また九州大学時代の野島研究室は外国人留学生が多くいたので,日本の学校に子どもを通わせている保護者の母語(韓国語,中国語)によるグループを,韓国や台湾,中国からの留学生にファシリテーターをしてもらい行い,私はオーガナイザーを務めた。さらに韓国人,中国人,台湾人等の外国人のための日本語学校でも,韓国や台湾,中国からの留学生にファシリテーターをしてもらいグループを行い,私はオーガナイザーを務めた。
2024年にはそれまでの実践と研究をとりまとめ,『エンカウンター・グループの理論と実践』(遠見書房)を刊行した。
6.コミュニティアプローチ
心理臨床のアプローチは,①個人アプローチ,②グループアプローチ,③コミュニティアプローチであるが,私の③コミュニティアプローチとしては,「福岡HIV保健・医療・福祉ネットワーク」の立ち上げと活動がある。エイズの問題が大きくなるにつれて,エイズ患者のサポートが必要になってきた頃に,エイズ問題に熱心な大学院生の一人と一緒に、行政に働きかけて,この組織を立ち上げた。この組織には,医師,看護師,歯科医師,心理士,栄養士,社会福祉士,養護教諭等の多職種の人達が所属し,定期的に勉強会を行い,年に数回は対外的に研修会を開催したりした。この活動を行うなかで,多職種連携の必要性と有効性を実感として感じることになった。
7.スーパービジョン
1970年代後半より,後輩から頼まれて,有料の個人スーパービジョンを行うようになった。以後,いろいろな形で個人スーパービジョン,グループスーパービジョンを行うようになった。九州大学での16年間の教員時代(1996年〜2012年:48歳〜64歳)は,大学院生の学校巡回カウンセラー,スクールカウンセラーを集めてボランティアでグループスーパービジョンを定期的に行った。また学部生・大学院生のメンタルフレンドのグループスーパービジョンをボランティアで行った。さらに謝金をいただいて,地域の電話相談,適応指導教室のグループスーパービジョンを行った。2012年からの跡見学園女子大学では,大学院修了生のグループスーパービジョンを毎月2回,ボランティアで設定した。オンラインでは一般向けの「野島一彦スーパービジョンルーム」(有料)を開設している。
8.大学教員としての授業
大学,大学院では教育心理学,生徒指導論,グループアプローチ,心理面接等の授業(講義,演習)を担当したが,文献,自分の臨床体験をまとめて学生に伝えるということは,自分自身の成長ために役に立った。
9.心理職の国家資格化の活動
私は1970年に大学院に進学して以来,心理職の国家資格化に関心を持ち,日本心理臨床学会や日本臨床心理士会の理事となり,積極的に活動を続け,1988年には国家資格の一階梯としての臨床心理士の誕生,2015年には国家資格の公認心理師法の制定が行われたが,これらの活動を通して心理職のこと(深まりと広がり等)を深く考えさせられている。
- 野島一彦のカウンセリング小話(YouTube)
http://www.youtube.com/@nojima_ss
野島一彦(のじま・かずひこ)
九州大学名誉教授・跡見学園女子大学名誉教授
1975年,九州大学大学院教育学研究科教育心理学専攻博士課程単位取得後退学。1998年,博士(教育心理学),九州大学。
資格:臨床心理士,公認心理師,日本集団精神療法学会認定スーパーバイザー。
主な著書:『エンカウンター・グループの新展開 学びの書』,『エンカウンター・グループの新展開 出会いの書』(共著,木立の文庫,2020),『臨床心理学中事典』(監修,遠見書房,2022),『臨床心理学概論 第2版』(共編,遠見書房,2023)ほか多数






