私の臨床現場の魅力(30)私の臨床現場は果たして魅力的か?|田尾有樹子

田尾有樹子(社会福祉法人巣立ち会)
シンリンラボ 第30号(2025年9月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.30 (2025, Sep.)

私は1978年に大学を卒業し,そのまま単科の精神科病院に就職した。当時まだ,臨床心理士も精神保健福祉士も公認心理師も何もなかった時代である。私は自分の肩書にアイデンティティを感じたことがない。精神保健福祉士の試験を受けるとき,私をもし落とすなら,試験が間違っていると思っていた。臨床心理士は国家資格ができた以上,無用の産物と考え,更新を辞めた。公認心理師の試験を受けた時,それまで受けた試験の中で,もっとも現場で役に立たないことを学ばせるとあきれた。初回で,多分受かりやすかったのか,なんとか合格したが,落ちても2回目の受験は受けないと決めていた。

いつも思うのは目の前にいる人のために何ができるか,ということである。私がしたいことをするわけではない。それぞれが専門職のように言われるが,私はどんな資格であろうが,法律でやってはいけないと決められたこと以外,誰がやっても構わないと考えている。

巣立ち会は1992年に,当時社会的入院と言われていた,精神科病院の長期入院者を退院できる地域づくりをするために,発足した団体である。現在,グループホームの居室は102室あり,通所の事業所は5カ所,通所者は約350人ほどである。長期入院経験のある人が通う就労継続支援B型からリワークを行う就労移行支援,思春期から青年期への支援を行う自立訓練と多様な人たちの多様なニーズに応えるための事業所を作ってきている。

新たな事業所を作るときいつも考えるのは,私がこのような疾患になった時,あるいは利用者が陥っているような状況になった時に,どんな支援や場所が欲しいかということである。いつも自分だったら,という仮定のもとに考える,究極の自己中だと思っている。だから私の仕事は枠にはまらない。社会の変化や自分の年齢などの変化で,欲しいものが変わってくる。若い時はプライバシーを大事に思い,アパートタイプのグループホームがいいと思った。年を重ねて,転んだり倒れたりしてもすぐ発見してくれるような構造のグループホームがいいと思い,今年の5月に「MUGEN」というグループホームを建てた。共有の空間がある賑わいも結構悪くはないとほくそ笑んでいる。40年前には考えられなかったことである。

精神病性の疾患の初発の頃の支援がほとんど皆無と思えば,思春期の支援を作ったし,休職中の人たちに医者がジムや図書館通いを勧めているのを聞き,リワークのサービスも作った。児相の一時保護所の利用率が150%と聞き,そんな不条理に腹を立て,最近は子どもシェルターや児童相談所からの相談も増えている。

現実の利用者の中に発達障害の診断を受けている,あるいはその傾向が強いと我々が感じる人は多い。しかし,現在はその障害支援を前景に出した,サービスと謳ってはいない。そういうサービスを作ったら,救われると思う人は多いのだろうか? LGBTQの支援と謳ってはいないが利用者の中にはそうした問題を持つ人がかなりいる。真正面からその人たちの居場所を提供したら?

日本には日本に住む外国人向けの専門のメンタル相談の窓口が私の認識ではない。もちろん,クリニックを訪れる外国人はいる。もし,多国語で相談できる支援窓口を作ったら,喜んでくれる人はいるのだろうか。

こんな風に私の仕事は限りなく広がる。利用者のニーズがある限りである。

繰り返すが,私は枠にはまるのが嫌いである。だから自由に仕事をしてきている。作ってきているのである。現状維持は後退である。いつも新しいものにチャレンジし続けたいと幾つになっても思っている。

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田尾有樹子(たお・ゆきこ)
所属:社会福祉法人 巣立ち会

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