私の臨床現場の魅力(29)刑務所のカウンセラー──再犯防止の認知行動療法の実践|野村和孝

野村和孝(北里大学)
シンリンラボ 第29号(2025年8月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.29 (2025, Aug.)

1.再犯防止の臨床現場

私が再犯防止の取り組みに携わり始めてから20年が経ちました。更生保護施設の学生ボランティアとして関わったのが最初の取り組みでした。その後,東京医科歯科大学の「性犯罪者の治療法研究」プロジェクトの研究員として,性犯罪の再犯防止に取り組みます。そして,ご縁をいただき,さまざまな依存的問題を背景とした再犯防止の治療的支援に取り組む大石クリニックで心理士として勤務し始めます。そのような活動をする中で,刑務所にて,薬物依存の問題を対象とした指導(薬物依存離脱指導)を担当する処遇カウンセラーとして勤務することになります。このように振り返ると様々な臨床現場で再犯防止の活動をしてきましたが,今回は,処遇カウンセラーの体験を中心に再犯防止の認知行動療法の実践について紹介したいと思います。

2.刑務所の処遇カウンセラーの役割

刑務所の処遇カウンセラーとは,刑務所に勤務する非常勤職員です。その多くが,社会内の民間施設で,心理学的支援を専門として活動してきた経験のある人が採用されています。処遇カウンセラーの役割は,性犯罪や薬物依存の再犯防止を目的とした特別改善指導等のグループワーク,処遇困難受刑者の個別面接の実施,受講者のワークブック等の記載内容の確認,評価等の実施,他の担当職員の支援,性犯罪再犯防止指導に関する打合せ会等への参加が代表的であるとされています(押切ら,2022)。特別改善指導をはじめとして,現在,刑務所における取り組みの多くに認知行動療法が採用されているため,認知行動療法に精通していることが期待されています。また,他の刑務所職員と異なる点としては,社会内の臨床現場での経験を活かした活動が求められることです。

3.刑務所臨床の実践

刑務所の特徴の1つは,社会から隔離された「施設内」ということです。現在,刑務所の指導に採用されている認知行動療法の強みは,「個人と環境の相互作用」に焦点化する点にあります。問題行動や適応行動に対して,特定の環境に対する個人の反応の学習という観点で再学習を目的としたアプローチを行います。刑務所は,社会から隔離され,また活動も一定の制限があるため,再学習するための環境の設定に限界があります。そのため,環境の設定が制限された環境下である刑務所では「再学習の工夫」が課題となります。

刑務所での「再学習の工夫」について,非常勤職という裁量の制限に加え,施設の事情に必ずしも詳しくないため,処遇カウンセラーのみで出来ることには限界があります。そこで,刑務官,教育専門官,そして心理専門官といった常勤職員との連携が欠かせません。専門官の専門職としての観点はもちろんのこと,受刑者の日々の工場や居室での様子を間近で見ている刑務官の観点は,大きな示唆を与えてくれます。具体的には,工場での作業や運動の時間内に,ストレス対処としてリラクセーション技法を実施するなど,刑務所のルールの中で許容される練習方法を考え,実践することになります。このような多職種での連携を活かし,処遇カウンセラーとしての社会内の臨床現場での経験を活かした工夫を行うことに処遇カウンセラーとしての活動の醍醐味があります。

4.再犯防止の認知行動療法の展開とその魅力

再犯防止推進法が施行され,法務省が管轄する施設だけではなく,社会内の様々な施設において再犯防止を課題とする方の支援がより一層求められるようになってきています。そのような方の中には,必ずしも再犯防止の取り組みに積極的であるとは限らず,消極的な方もいれば,反抗的な方もいます。また,昨今,刑務所において被害者の心情等伝達制度が開始されるなど,より一層,被害者心情に配慮して取り組むことが求められるようになってきています。このような様々な課題と向き合うことが求められる中で,社会全体として再犯防止の認知行動療法を展開していくこととなります。その取り組みの魅力を言葉で表すことは難しいのですが,「簡単に結論づけることのできない様々な事柄と向き合う日々」そのものが魅力かもしれません。

文  献
  • 押切久遠・等々力伸司(2022)公認心理師に関係する法務省官の制度や施策について.公認心理師:実践と研究,1; 43-47.
+ 記事

野村和孝(のむら・かずたか)
所属:北里大学医療衛生学部保健衛生学科臨床心理学コース
資格:公認心理師,臨床心理士,認知行動療法師,認知行動療法スーパーバイザーなど
主な著書:「集団認知行動療法の理論と実践」(監訳,金子書房,2018),「使う使える臨床心理学」(分担執筆,弘文堂,2020),「司法・犯罪心理学 社会と個人の安全と共生を目指す(公認心理師の基本を学ぶテキスト)」(分担執筆,ミネルヴァ書房,2020)

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