【書評特集 My Best 2025】|松丸未来

松丸未来(東京認知行動療法センター)
シンリンラボ 第33号(2025年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.33 (2025, Dec.) 

私は,読書が好きではない。本当は,「趣味:読書」に憧れるが,幼い頃から頑張って読むものの,内容が理解できず諦めていた。でも,ずっと本の世界は楽しいのだろうと憧れを抱き,臨床にも活かしたい思いがあった。そのような話をスクールカウンセラーとして勤務していた中学校の司書へ話したら,「お勧めの本」を紹介してくださるようになった。中学生が読む本からのチョイスだったおかげもあり,楽に本の世界へ引き込まれ,読書が楽しくなった。そして,今では児童書から小難しい本まで気楽に手に取るようになった。今回の紹介でも幅広く子ども向けの本から専門書まで選んだ。

まずは,子どものリアルな世界が描かれているフィクション2冊である。

黒川裕子『チャリを盗んで,夜明け』(講談社,2025)

黒川さんは,「なんでそんなに子どもの心がわかるの?」と思うくらい心の有り様を描きだすのが上手である。最初に読んだのが,『奏のフォルテ』(講談社,2018)で,舞台は日本とニューヨーク。ホルンの才能があるけれども,人とのコミュニケーションが不器用な中学生男子が葛藤し,成長する物語である。そして,上記の本では,好意的な大人にそう易々と心を開かず,自分でなんとかしようとする子どもの心模様がリアルである。幸運にも著者の黒川さんにお会いしたことがあり,「子どものごちゃごちゃしているところをちゃんと書きたい。そして,自分の本を読んで少し希望を持ってくれたら」とおっしゃっていたことが心に残る。

黒川裕子著『チャリを盗んで,夜明け』

椰月美智子『9月1日の朝へ』(双葉社,2025)

9月1日は,SCとしてもドキドキする日なので,子どもたちがどういう心持ちで「夏休み明け」を迎えるのかを知りたい。本書は,兄弟4人のそれぞれの視点で話が進む。例えば,中学生の長女は,夏休み中,SNSが絡んだ部活内の友達関係のもつれに苦しみ,9月1日を迎える。中学校の新任教師の長男は,夏休みに自死した生徒の対応に学校が追われる中で,疲弊し,自分も傷つき,家族に怒りをぶつけてしまう。その時,高校生の次男が,「もう少し冷静になって。今,大変な状況なのはわかるけど,自分の気持ちを誰かにぶつけるのは暴力だよ」と言う。その言葉にはハッとさせられた。今時の中高生の世界を知れる一冊である。

椰月美智子著『9月1日の朝へ』

木下理仁編著『国籍の揺らぎ,たしかなわたし 線をひくのはだれか?』(太郎次郎社エディタス,2025)

外国の子どもたち(難民や避難民,時には無国籍の場合もあるかもしれない)と仕事場で出会う機会があるので,本書は,そのような子どもたちのことを頭に思い浮かべながら読むことができた。7人の「国籍のゆらぎ」がある人々が,編著者と「たしかなわたし」について往復書簡を交わす。国際社会であるはずの日本だけれども,社会の制度の狭間と偏見の描写に心がチクチクする。「自分の普通」を押し付けていないか,「わかろうとしているか」を振り返らせてくれる一冊である。そのやりとりは,自分自身も成長過程の中で外国での暮らしが長かったので「日本人」としてのアイデンティティの確立ができず,揺らぎを感じながら自分探しをしたので親近感を持った。

木下理仁編著『国籍の揺らぎ,たしかなわたし 線をひくのはだれか?』

大竹裕子『生きることでなぜ,たましいの傷が癒やされるのか 紛争地ルワンダに暮らす人びとの民族誌』(白水社,2025)

ルワンダの紛争時代の遍歴と壮絶な傷つき,そしてそこからの人々の回復が赤裸々にレポートされている。「なぜ自分は生き残ったのか」「なぜみんなは死んでしまったのか」「なぜ彼らは殺したのか」という苦悩からの回復は,個人主義である西洋の精神医学を基礎としたトラウマ治療ではなく,その土地の歴史や文化に根ざしたルワンダの人たち同士の助け合いが鍵となる。本書を読んでいる最中に話を聞いた難民の方から,「どうしようもならない過去がある。でも,今,自分はここ日本で,もっと日本人と交流したい。そして,日本の人たちのために生きたい」という願いだった。日本は,平和だとしてもこの細やかな願いに応えられる社会なのだろうか。

大竹裕子著『生きることでなぜ,たましいの傷が癒やされるのか 紛争地ルワンダに暮らす人びとの民族誌』

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松丸 未来(まつまる・みき)
東京認知行動療法センター心理士,公立・私立・日本人学校などでスクールカウンセラーをし,難民支援協会などで心理支援もする。
資格:公認心理師・臨床心理士
趣味は,新聞を読む,スキー。
主な著書:『よくわかる学校で役立つ子どもの認知行動療法』(遠見書房,2023),監修に『子どもの認知行動療法 不安・心配にさよならしよう!』(ナツメ社,2022),「あんしんゲット!の絵本シリーズ」(ほるぷ出版,2021)など

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