自閉スペクトラムのアセスメントを学ぼう!(6)ADOS−2:②行動観察から支援につなげる|稲田尚子

稲田尚子(大正大学
シンリンラボ 第30号(2025年9月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.30 (2025, Sep.)  

はじめに

第5回に引き続き,本稿ではADOS-2を取り上げ,児童期以降の対人コミュニケーション行動の観察のポイントと支援の方法を紹介していく。児童期や青年期は,友人関係や集団活動が発達課題として大きく前面に出る時期である。自己理解や感情調整の力,相手の気持ちを推測する力,そして暗黙のルールを学びながら社会的関係を広げていくことが求められる。しかし,自閉スペクトラムの子どもや青年にとってこれらは自然に身につけることが難しく,周囲からの誤解や孤立につながることも少なくない。

ADOS-2による観察は,診断のための評価にとどまらず,どのような点に本人の強みや課題があり,どのような支援が有効かを見極める重要な手がかりを与える。観察によって明らかになった特性を軸に,本人の適応を高めるための支援に結びつけていく視点が不可欠である。本稿では,児童期以降の対人コミュニケーション行動の観察の視点を整理し,自分や他者の気持ちを理解するための支援,社会にある暗黙のルールを学ぶ方法,友だち作りの支援について紹介していきたい。

1.行動観察のポイント

① 会話・言語的コミュニケーション

ADOS-2では,自由な会話のやり取りの中にその子の特徴がよく表れる。例えば「好きな遊びはなに?」と尋ねると,子どもは「電車」とだけ答え,それ以上話を広げようとしない場面がある。面接者が「どんなふうに遊ぶの?」と質問しても,「線路を走らせる」と短く答えるだけで,相手との共有を意識した説明にはつながらない。このやり取りは,本人が決して興味を持っていないわけではなく,相手の理解を想定して補足することが難しいことを示している。こうした具体的な観察は,単なる行動所見にとどまらず「会話の広げ方を練習する」といった支援の手がかりとなる。会話場面や言語的コミュニケーションの主な観察のポイントは下記である。

自発性:自分の経験や出来事を自発的に話すか
説明力:相手が補足質問をしなくても理解できるように,経験した出来事を説明できるか
相互性:面接者の経験や感情,考えについて質問するか
会話スキル:会話の開始・維持・終了が適切にできるか
話題共有:自分が出した話題だけでなく,相手が提供した話題も共有できるか
話し方の特徴:話し方の抑揚・声量・リズム・速度に不自然さがないか
② 非言語的コミュニケーション

ADOS-2では,言葉だけでなく非言語的なやり取りも重要な観察対象となる。例えば,面接者が話しかけても,子どもが目を合わせずに答える場合がある。これは「関心がない」ことを示すのではなく,視線や表情を相手に向けることが自然に結びついていないことを表している。また,喜んでいる場面でも表情が乏しいために周囲から気持ちが伝わりにくかったり,身ぶりが単調で相手に意図が伝わりにくい場合がある。逆に,適切に視線を合わせてうなずいたり,相手の表情に応じて笑顔を返す姿は,社会的なつながりを築く大切な要素となる。これらの観察は「アイコンタクトを伴う練習」や「ジェスチャーを補助的に使う活動」など,実際の支援計画を立てる際の具体的な手がかりとなる。非言語的コミュニケーションの主な観察のポイントは下記である。

身ぶり:叙述的,慣習的,道具的,感情的な身ぶりを多様に使えるか
視線・表情:視線の適切さ,表情の多様性,他者に表情を向けるか
統合性:視線・発声・身ぶりが統合されているか
応答性:他者の表情や身ぶりに適切に応答できるか
③ 対人関係

ADOS-2の観察では,子どもが他者とどのように関わり,関係を築こうとするかが重要な視点となる。例えば,楽しい遊びや会話の場面でも,自分の中だけで完結してしまい,相手に楽しさを共有しない子どもがいる。これは「相手に伝えたい」という気持ちの弱さや,「自分が示さなければ相手に伝わらない」という認識の難しさが背景にあると考えられる。また,過度に近づいて相手を驚かせたり,逆に極端に距離を取って関心がないと誤解されることもある。さらに,文脈とは無関係に唐突な話題を持ち出すなど(例:質問に答えている途中で別の好きなことを話し出すなど),これは相手の状況や会話の流れを捉えることの難しさを反映している。

一方で,友だちの発言に耳を傾けたり,遊びや会話を一緒に続けようとする行動は,関係性を築く基盤となる。こうした観察は,「楽しさを共有する練習」「適切な対人距離を学ぶ活動」「他者の感情を推測するワーク」など,具体的な支援の方向性を考えるうえで重要な手がかりとなる。対人関係の主な観察ポイントは下記のとおりである。

楽しみの共有:やりとりを一緒に楽しめるか
対人的距離:物理的・心理的距離が適切か(例:過度に近づかない,馴れ馴れしすぎない)
不適切行動の有無:文脈に不適切,流れにそぐわない(例:唐突に別の遊びや話を始める)
友人への関心:友人に関心や興味を示すか
対人関係性の理解:友人関係や恋愛・結婚などの長期的な人間関係の性質を理解しているか
自分の感情の理解:喜び,怒り,悲しみ,満足,リラックス等の自分の感情について説明できるか
他者の感情の理解:話の中で他者の感情に言及することはあるか

2.自分の気持ちを理解するために

アセスメントは支援につなげるためであるため,適切な支援方法についても理解しておく必要がある。対人関係の基盤となるのは,自分の感情を理解し,表現する力である。しかし自閉スペクトラムの子どもや青年は,自分の気持ちを言葉にすることや,感情の変化を適切に把握することが難しい場合が少なくない。そこで有効とされるのが,トニー・アトウッド博士らが開発したCAT-kit(Cognitive Affective Training kit)である。

CAT-kitは,感情を視覚的に「見える化」するためのカードやワークシートを用いて,自分の気持ちを段階的に整理するプログラムである。例えば「気持ちの温度計」や「顔アイコン」を使い,怒り・悲しみ・喜びなどの強さを数値や図で視覚的に表すことで,言語化が難しい感情を直感的に表現できる。さらに「いつ・どこで・誰と・なぜ」という状況と感情を結びつけて整理する練習を繰り返すことで,自己理解が深まり,同時に他者の気持ちへの理解も育まれていく。

CAT-kitを用いた実践では,子どもが自分の感情を段階的に表現できるよう工夫する。ある場面では「怒りの温度計」を10段階で示したワークシートを使い,怒りの温度を尋ねると「8」と答えることができた。そのうえで「8になったらどうする?」と対応策を一緒に考え,「深呼吸する」「先生に合図する」といった行動を自分で選んで書き込む。こうして感情の強さと対処方法を結びつける練習を重ねると,子どもが自分の気持ちを客観的に把握し,衝動的な行動を減らすことにつながる。

このようにCAT-kitは,内面世界を可視化し,感情表現を練習できるツールとして,児童期から青年期にかけて有効に活用できる支援方法である。加えて,学校や家庭と連携して継続的に活用することで,自己調整力や対人場面での安心感を高める効果も期待される。

3.他者の考えや気持ちを理解するために

自分の気持ちを理解することに加えて,対人関係を築くうえで欠かせないのは「他者の気持ちを推測し,状況に応じた行動をとる力」である。自閉スペクトラムの子どもや青年は,この“心の理論”に関連する力が弱いため,相手の意図や感情を読み取りにくく,誤解やトラブルが生じやすい。こうした課題に対する具体的な支援方法として,コミック会話やソーシャルシンキングが用いられている。

コミック会話(Comic Strip Conversations)は,キャロル・グレイによって考案された支援方法で,登場人物のセリフと思考・感情を吹き出しや色分けで描き出しながら,会話場面を視覚的に整理していく(Gray, 1994/門訳,2005)。例えば「先生に注意されたときに自分はどう感じたか」「先生はどう思っていたか」を図で描くことで,言葉だけでは理解しづらい他者の視点を,絵を通して理解できる。場面ごとに異なる立場の感情を確認する作業を重ねることで,他者理解のスキルが養われる。

学校でのトラブル場面を題材に,コミック会話を使うと理解が深まる。例えば,授業中に注意を受けた子どもが「先生は自分ばかり叱る」と感じていたことがあるとする。考えの吹き出しに“不公平だ”と書き,生徒の表情を描く。一方,先生の考えの吹き出しには“授業の進行を守りたい”と記し,立場の違いを図に示す。相手の見えない考えを「見える化」することで,子どもは「先生は悪意ではなく,授業を続けるためだった」と気づき,状況の見え方が変わる。このように絵で共有することで,相互理解のきっかけをつくることができる。

ソーシャルシンキング(Social Thinking)は,米国のミシェル・ガルシア・ウィナーによって提唱された包括的な枠組みで,「自分と相手の心の動きを同時に考える」ことを目的とする。単にスキルを習得させるのではなく,「自分の行動が周囲にどう影響するか」「他者の行動から何を読み取れるか」といった社会的認知の土台を育む点に特徴がある。具体的には,グループ活動やロールプレイを通じて,「相手の期待に沿ったふるまいを選ぶ」といった力を実践的に高めていく。

このように,コミック会話が個別の場面を“見える化”して具体的に理解を助けるのに対し,ソーシャルシンキングはより広い社会的文脈での思考や行動選択を支援する方法である。さらに日本では『きみはソーシャル探偵!』(Winner & Crooke, 2008/稲田・三宅訳,2016),『10代のためのソーシャルシンキング・ライフ』(Crooke & Winner, 2011/黒田・稲田・高岡訳,2020)といった関連書籍が翻訳出版されており,子どもから青年までが実際の生活場面を通じて学べるよう工夫されている。こうした教材を併用することで,理論だけでなく実践的な学びにつなげやすくなる。対象者に応じて活用することで,他者の気持ちを理解し,対人関係を円滑に進める力が効果的に育まれていく。

4.社会にある暗黙のルールを理解するために

日常生活や学校場面には,「列に並ぶときの距離感」「人に話しかけるときの声の大きさ」「場に応じた言葉遣い」など,教科書に書かれない多くの“暗黙のルール”が存在する。教育学ではこれを hidden curriculum(隠れたカリキュラム)と呼び(Myles et al., 2004/萩原監修,西川訳,2010),社会生活を円滑に送るために欠かせない学びとされている。しかし自閉スペクトラムの子どもは,これを経験や観察だけで理解するのが難しく,誤解やトラブルにつながりやすい。したがって,暗黙のままにせず,明示的に教える工夫が必要である。

そのための支援として有効なのが,パワーカードやソーシャルストーリー,ソーシャルナラティブなどである。パワーカードは(Gagnon, 2001/門訳,2011),子どもが憧れるキャラクターやヒーローのセリフとして「こういうときはこう振る舞おう」とメッセージを提示する方法で,抵抗感を和らげ,意欲を高めやすい。ソーシャルストーリーは,キャロル・グレイによって考案された技法で(Gray, 2004/服巻訳,2006),状況を整理した短い物語に加えて「このとき自分はどうすればよいか」を明確に示すため,見通しを持った行動が可能になる。ソーシャルナラティブは,さらに短い文章やイラストを用いて要点を繰り返し伝える教材で,低年齢や理解力に応じて日常的に使いやすい。

ある小学校の教室で,給食前に手を洗わずに席に着こうとする児童がいた。そこで担任は,その子に合わせたソーシャルストーリーを作成した。内容は次のようなシンプルなものだった。

タイトル:給食の前に手を洗うよ
・お昼になると,みんなで給食を食べます。
・給食を食べる前に,私は水道へ行きます。
・石けんを使って,指の間やつめのまわりもきれいに洗います。
・手を洗うと,バイキンが少なくなります。
・バイキンが少ないと,おなかが痛くならず,元気に給食を食べられます。
・だから私は,給食の前に手を洗います。

実際にこのストーリーを毎日読むことで,その児童は「手を洗うことは自分が元気に食べるため」と理解し,自然に水道へ向かう習慣が身についていった。ソーシャルストーリーは短く具体的で,理由が明確に書かれているため,子どもが安心して行動できるようになる。

対象者の年齢や理解力に合わせてパワーカードやソーシャルストーリー,ソーシャルナラティブなどを用いることで,子どもが見えにくい社会的ルールを理解しやすくなり,安心して集団に参加することが可能になる。暗黙のルールをわかりやすく可視化し,本人にとって意味のある形で伝えることが,対人関係をスムーズにする大切な支援となる。

5.友だち作りを支援するために

児童期以降の対人コミュニケーション支援では,「友だちを作り,関係を維持する力」を育むことが重要である。とくに自閉スペクトラムの子どもにとっては,会話や遊びを通じて関係を築くこと自体が難しく,適切な練習の場が必要となる。

児童期に有効とされるのがフレンドシッププログラム(Frankel, 2010/辻井監訳,足立ら訳,2023)である。これは小学生を対象としたソーシャルスキルトレーニングのプログラムで,友だちと一緒に遊ぶための基本的なルールや態度を,具体的なステップに沿って学んでいく。例えば,「遊びに誘うときの言葉かけ」「遊びのルールを守る」「相手の気持ちに気づいて行動を変える」などを練習し,遊びの中で自然に発揮できるよう繰り返し取り組む。児童期は「一緒に遊ぶこと」が友情形成の中心であり,この段階での支援は,仲間集団に安心して入っていくための基盤づくりにつながる。

思春期以降にはPEERS(Program for the Education and Enrichment of Relational Skills)が推奨される。PEERSは米国UCLAで開発された青年・若者向けのソーシャルスキルトレーニングプログラムで,会話や友情関係を築くためのルールを明確に提示し,ロールプレイや宿題を通して実践するのが特徴である。例えば,「グループでの会話に入ること,抜ける方法」「思いがすれ違った時の対応」など,思春期・青年期ならではの課題に即した内容が組み込まれている。また,保護者が“コーチ”として練習をサポートする仕組みを持ち,家庭や日常場面での行動変化を強化する点も特徴的である。

このように,発達段階に応じたプログラムを用いることで,友だち作りのスキルはより効果的に支援される。

おわりに

本稿では,ADOS-2を手がかりに,児童期以降の対人コミュニケーション行動を観察する視点と,その後の支援の方向性について整理した。観察から見えてくる自閉スペクトラムの特性は,単に診断や評価の材料にとどまらず,本人の生活を豊かにするための実践へとつなげていくことが重要である。自分の気持ちを理解し表現する力,他者の気持ちを推測する力,社会に存在する暗黙のルールを学ぶ力,そして友だちと関係を築く力,これらは互いに関連し合い,本人のニーズや発達段階に応じて支援の重点も変化していく。

自閉スペクトラム症の支援においては,国内外で効果が検証されたプログラムやツールが存在するものの,日本ではまだ十分に普及していないのが現状である。こうした方法を知っておくことは,アセスメントの結果を本人や家族に具体的にフィードバックしやすくし,学校や地域と共有する際にも役立つだろう。さらに,自閉スペクトラムの特性に合わせた実証的なアプローチを取り入れることで,本人が安心して力を発揮できる環境を整えることができる。今後は,こうした支援が一層広まり,現場で実践的に活用されることが期待される。

文  献
  • Crooke, P. & Winner, M. G.(2011)Social Fortune or Social Fate. Think Social Publishing.(黒田美保・稲田尚子・高岡佑壮訳(2020)10代のためのソーシャルシンキング・ライフ—場に合った行動の選択とその考え方.金子書房.)
  • Frankel, F.(2010)Friends Forever: How Parents Can Help Their Kids Make and Keep Good Friends. Jossey-Bass.(辻井正次監訳,足立匡基ほか訳(2023)子どもと親のためのフレンドシップ・プログラム—人間関係が苦手な子の友だちづくりのヒント30.遠見書房.)
  • Gagnon, E.(2001)Power Cards: Using special interests to motivate children and youth with Asperger syndrome and autism. Autism Asperger Publishing Co.(門眞一郎訳(2011)パワーカード:アスペルガー症候群や自閉症の子どもの意欲を高める視覚的支援法.明石書店.)
  • Gray, C.(2004)Social Stories 10.0: The New Defining Criteria & Guidelines. Jenison Public Schools.(服巻智子訳(2006)お母さんと先生が書くソーシャルストーリーTM ―新しい判定基準とガイドライン.クリエイツかもがわ.)
  • Gray, C.(1994)Comic Strip Conversations. Future Horizons.(門眞一郎訳(2005)コミック会話―自閉症など発達障害のある子どものためのコミュニケーション支援法.明石書店.)
  • Laugeson, E. A., Frankel, F.(2015)Social Skills for Teenagers with Developmental and Autism Spectrum Disorders: The PEERS Treatment Manual. Routledge.(山田智子・大井学・三浦優生監訳(2018)友だち作りのSST―自閉スペクトラム症と社会性に課題のある思春期のためのPEERSトレーナーマニュアル.金剛出版.)
  • Myles, B. S., Trautman, M. L., & Schelvan, R. L.(2004)THE HIDDEN CURRICULUM: Practical Solutions for Understanding Unstated Rules in Social Situation. Autism Asperger Publishing Co.(萩原拓監修,西川美樹訳(2010)発達障害がある子のための「暗黙のルール」―“場面別”マナーと決まりがわかる本.明石書店.)
  • Winner, M. G. & Crooke, P.(2008)You Are a Social Detective! : Explaining Social Thinking to Kids. Think Social Publishing, Incorporated.(稲田尚子・三宅篤子訳(2016)きみはソーシャル探偵!—子どもと学ぶソーシャルシンキング.金子書房.)

Cat-Kit https://from-a-village.com/shop/c-01/

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稲田尚子(いなだ・なおこ)
大正大学臨床心理学部臨床心理学科 准教授
資格:公認心理師,臨床心理士,臨床発達心理士,認定行動分析士
主な著書は,『これからの現場で役立つ臨床心理検査【解説編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『これからの現場で役立つ臨床心理検査【事例編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『いかりをほぐそう 子どものためのアンガーマネジメント』(共著,東京書籍,2025)

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