自閉スペクトラムのアセスメントを学ぼう!(7)SCQ, AQ, SRS-2:質問紙を使い分ける|稲田尚子

稲田尚子(大正大学
シンリンラボ 第31号(2025年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.31 (2025, Oct.)  

はじめに

自閉スペクトラム症の特性を理解し,適切な支援につなげるためには,行動特性を多面的に捉えることができる評価ツールの活用が欠かせない。近年では,SCQ(エスシーキュー:Social Communication Questionnaire:対人コミュニケーション質問紙)(Rutter et al., 2003),AQ(エーキュー:Autism Quotient:自閉症スペクトラム指数)(Baron-Cohen et al., 2001),SRS-2(エスアールエス・ツー:Social Responsiveness Scale Second Edition:対人応答性尺度第二版)(Constantino & Gruber, 2012)といった質問紙が,医療・教育・福祉の現場で広く用いられている。これらの質問紙は,自閉スペクトラム症(ASD)のスクリーニングや症状の程度の把握に役立つが,それぞれに対象年齢や評価の焦点,開発背景,得点の解釈方法などに違いがあるため,目的に応じた使い分けが求められる。また,翻訳版を使用する際には,言語や文化の違いが得点や解釈に影響を与える可能性があることにも留意しなければならない。本稿では,SCQ,AQ,SRS-2の特徴と相違点を整理し,実際の臨床場面での使用経験を交えながら,質問紙を活用する際に注意すべき点について考察する。ASDの理解と支援の質を高めるために,評価ツールの選択と運用における視点を共有したい。

1.SCQ

SCQは,自閉スペクトラムの特性を評価するために開発された質問紙であり,生活年齢が4歳以上,精神年齢が2歳以上の子どもを対象としている。全40項目から構成されており,対人コミュニケーション,社会的相互作用,行動の柔軟性など,自閉スペクトラムの主要な症状領域を網羅している。日本語版SCQの作成にあたっては,文化的・言語的な違いを考慮した調整が行われた。たとえば,欧米では自閉スペクトラムのある人が人称代名詞の反転(「私」と言うべき場面で「あなた」や「彼・彼女」と言うなど)を示すことがあるが,日本語の日常会話では主語を省略する傾向が強く,こうした現象は一般的に観察されにくい。この点については原著者との協議の結果,日本語版では該当項目の評価を行わないこととなった。具体的には,訳文自体は保持しつつ,該当項目の回答欄を削除する対応が取られた。そのため,日本語版SCQの得点範囲は0〜39点となっている。

回答形式は「はい・いいえ」の2件法であり,保護者が記入する。SCQには「誕生から今まで」と「現在」の2つのバージョンが存在する。「誕生から今まで」版はスクリーニング目的で使用され,自閉スペクトラムの症状が最も顕著になるとされる4歳0か月から5歳0か月の12か月間に焦点を当てている。一方,「現在」版は,現在の行動特性を評価するために用いられ,支援目標の策定や支援の効果判定に活用される。SCQは,国際的に広く使用されている診断面接法であるADI-R(Autism Diagnostic Interview-Revised:自閉症診断面接改訂版)との相関も高く,信頼性と妥当性が確認されていることから,医療・教育・福祉の現場において広く活用されている。

2.AQ

AQは,自閉スペクトラムの傾向を評価するために開発された質問紙であり,成人用(16歳以上の知的障害のない青年・成人を対象)と児童用(7歳から15歳を対象)の2種類が存在する。成人用は本人が回答し,児童用は保護者が回答する形式である。質問紙は全50項目から構成されており,「社会的スキル」「注意の切り替え」「細部への注意」「コミュニケーション」「想像力」の5つの下位尺度にそれぞれ10項目が割り当てられている。

回答は「そうである」「どちらかといえばそうである」「どちらかといえばそうではない」「そうではない」の4段階で評価されるが,得点化の際には自閉スペクトラム特性を示す回答 に1点が加算され,総得点は0点から50点の範囲をとる。得点が高いほど,自閉スペクトラムの特性が強いと判断される。なお,AQは診断ツールではなく,あくまでスクリーニング目的で使用されるものであり,診断には他の臨床的評価や面接が必要である。しかしながら,自閉スペクトラムの特性を多面的に捉えることができるため,支援の必要性を検討する上で重要な情報を提供する。

一方で,AQは質問紙であることの限界を理解した上で使用する必要がある。AQの日本語版は,いずれも原著者から翻訳の許可を得て,順翻訳・逆翻訳・そのレビューという正式なプロセスを経て作成されており,信頼性と妥当性が報告されているものが2種類存在する(栗田ら,2003;若林ら,2004)。翻訳者が異なるため,2種類の質問紙は項目表現にも違いがあり,スクリーニング目的で使用した場合のカットオフ値も異なる。使用に際しては,どちらのバージョンを用いているかを確認する必要がある。

一般に広く用いられているのは若林ら(2004)によるものであり,カットオフ値は33点とされている。これに対し,栗田ら(2003)によるカットオフ値は26点であり,さらに10項目,16項目,20項目の短縮版も開発されている(Kurita et al., 2005)。これらの短縮版は,実施時間の短縮や簡易スクリーニングを目的としており,使用目的に応じた選択が求められる。

AQは,世界中で広く使用されている質問紙であるが,使用にあたっては言語や文化の違いを十分に考慮する必要がある。筆者が以前に出会った事例に,生まれも育ちも韓国で日本での生活経験がなく,事情により日本で精神科の診断面接を受けることになった方がいる。ASDのスクリーニングにAQが使用され,その際には,日本語版AQを韓国語の通訳者が読み上げ,4件法で回答してもらった結果,得点がカットオフの33点を下回ったため,ASDの可能性が否定され,その後の詳細な診断面接には進まなかったようである。筆者は再診断面接の際にこの方と出会い,過去の心理検査情報を整理する中で,上記の経緯が判明した。AQには韓国語版が存在しており,そのカットオフ値は26点とされている。韓国語版の基準に照らせば,このケースはスクリーニング陽性と判断されるものであった。

言語が異なれば,項目表現も異なり,カットオフ値も変化する。質問紙の場合,いかに概念的等価性を重視し,慎重に翻訳したとしても,言語や文化の違いによってカットオフ値が異なることは避けられない。ましてや,通訳を介して読み上げるという方法は,質問紙の本来の使用方法とは大きく異なる。面接尺度では,反構造化面接法などを用いて専門家が評価するため,原版と同一のカットオフ値が適用される場合も少なくない。これに対し,質問紙は保護者や本人が文章を読み,回答を得点化してスクリーニングに用いる形式であるため,言語的・文化的背景が結果に大きく影響し得る。本事例では行動観察においてもASDの特性が認められており,質問紙の使用にあたっては,こうした背景要因に十分留意しなければ誤判定につながる可能性があることが示され,実施にあたっては細心の注意が必要である。

3.SRS-2

SRS-2は,自閉スペクトラムに特徴的な双方向的な対人コミュニケーション行動およびこだわり行動を評定するために開発された質問紙である。自閉スペクトラムの症状が日常生活においてどの程度現れているかを,保護者や教師などの第三者が観察に基づいて評価する形式であり,臨床,教育,研究の各領域で広く用いられている。

本尺度には,年齢段階に応じた複数のバージョンが存在しており,SRS 3歳児用(対象年齢:2歳6か月から4歳6か月)とSRS 学齢期用(対象年齢:4歳から18歳)が代表的である。いずれのバージョンも全65項目から構成されており,ASDの症状を反映する5つの治療下位尺度に分類されている。これらの下位尺度は,社会的気づき,社会的認知,社会的コミュニケーション,社会的動機づけ,そして興味の限局と反復行動である。各項目は4件法(まったく当てはまらない〜非常によく当てはまる)で回答され,得点が高いほどASDの症状が重度であることを示す。

SRS-2は,DSM-5に基づくASDの診断基準を網羅的に捉えることが可能であり,診断補助のみならず,支援計画の立案や経過観察にも活用されている。また,言語能力や知的水準にかかわらず使用可能であるため,幅広い発達レベルの子どもに対応できるという利点を有している。

4.SCQ,AQ,SRS-2の相違点 

自閉スペクトラム症の二次スクリーニングに用いられる質問紙には,SCQ,AQ,SRS-2の3種類があり,それぞれの特性を理解したうえで目的に応じて使い分けることが必要である。まず,対象年齢がそれぞれ異なるため,年齢に即した適切な選択が基本となる。また,各質問紙の開発経緯をたどることで,その目的や構造の差異が一層明確となる。

SCQは現在の行動特徴に加え,4歳0か月から5歳0か月の1年間に着目する「誕生から今まで」版と,直近の行動を測定する「現在」版の2つのバージョンがある。過去の発達歴を問う形式を備える二次スクリーニング質問紙は,筆者の知る限りSCQのみである。さらに,SCQはADI-R(Autism Diagnostic Interview-Revised)との併用を前提に開発され,項目内容にもADI-Rとの高い類似性が認められる。

AQは,自閉スペクトラムを従来の「有無」というカテゴリカルな理解から,定型発達と連続した特性として捉えるディメンジョナルな視座を初めて提示した点で画期的であった(Baron-Cohen et al., 2001)。この流れを受けて開発されたSRSは,自閉特性が診断の有無にかかわらず連続的に分布することを示し,明確な境界が存在しないことを実証した(Constantino, 2003)。

SCQはスクリーニング目的で設計されたのに対し,AQおよびSRS-2は定型発達との連続性を前提に,特性の程度を測定することを主眼としている。特にSRS-2は症状の重症度を把握するために開発されており,スクリーニングは副次的な機能にすぎない。そのためSRS-2は一般集団を対象とした標準化が行われ,T得点などの標準得点が算出可能であり,自閉スペクトラム群との比較からカットオフ値が設定されている。これに対し,SCQおよびAQのカットオフ値は自閉スペクトラム群と非自閉スペクトラム群の比較のみを基準としており,算出時の対象集団にも差がある。具体的には,SCQでは知的障害を伴う事例が多く含まれる一方,AQやSRS-2ではそうした対象が少ない。筆者は,知的障害を伴わない場合にはAQやSRS-2の使用を推奨し,知的障害がある場合や過去の発達歴を簡便に把握する必要がある場合にはSCQが有用であると考えている。

さらに,同一の年齢層を対象とし得るSRS-2と児童用AQを比較した場合,その使い分けには下位尺度の構成の違いが影響する。SRS-2は65項目から成り,対人コミュニケーションに関わる下位尺度が4つ(社会的気づき,社会的認知,社会的コミュニケーション,社会的動機づけ),こだわりに関わる下位尺度が1つ(興味の限局と反復行動)で構成されており,対人行動を詳細に捉えることが可能である。一方,児童用AQは50項目で,対人領域が2尺度(社会的スキル,コミュニケーション),認知的特徴を含む3尺度(注意の切り替え,細部への関心,想像力)に分けられており,認知特性を含めた幅広い評価ができる。このため,認知面も含めて特性を把握したい場合には児童用AQが有効であるといえる。また,SRS-2の合計得点は性別や評定者(保護者,教師)ごとに標準化され,T得点が算出可能である。標準得点が求められる場面ではSRS-2の使用がより適切である。

おわりに

SCQ,AQ,SRS-2はいずれも自閉スペクトラムの特性を捉えるために有用な質問紙であるが,それぞれの開発目的や構造,対象年齢,得点の解釈方法には明確な違いがある。特に,言語や文化の違いが質問紙の項目表現やカットオフ値に影響を与えることは,臨床場面での誤解や見落としにつながる可能性がある。筆者が経験した韓国語話者の事例は,通訳を介した実施方法や言語版の選択がスクリーニング結果に大きく影響することを示しており,質問紙の使用における慎重な判断の重要性を改めて認識させるものであった。質問紙は,あくまでスクリーニングや支援の手がかりを得るためのツールであり,診断を確定するものではない。だからこそ,検査対象者の言語的・文化的背景を踏まえた適切な運用が求められる。今後も,評価ツールの特性を理解し,個々の子どもに応じた支援につなげるための実践的な知見を積み重ねていきたい。

文  献
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  • Baron-Cohen, S., Wheelwright, S., Skinner, R., Martin, J., & Clubley, E.(2001)The autism-spectrum quotient (AQ): Evidence from Asperger syndrome/high-functioning autism, males and females, scientists and mathematicians. Journal of Autism and Developmental Disorders, 31 (1); 5-17. https://doi.org/10.1023/A:1005653411471
  • Constantino, J. N.(2003)The Social Responsiveness Scale. Western Psychological Services.
  • Constantino, J. N & Gruber, C. P.(2012)Social Responsiveness Scale Second Edition. Western Psychological Services.(神尾陽子(2017)SRS-2対人応答性尺度.日本文化社.)
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  • Rutter, M., Bailey, A., Berument, S. K., et al.(2003)Social Communication Questionnaire. Western Psychological Services.(黒田美保・稲田尚子・内山登紀夫 監訳(2013)SCQ 日本語版.金子書房.)
  • 若林明雄・東條吉邦,Baron-Cohen, S., & Wheelwright, S.(2004)自閉症スペクトラム指数(AQ)日本語版の標準化—高機能臨床群と健常成人による検討.心理学研究,75 (1); 78-84. https://doi.org/10.4992/jjpsy.75.78
  • 若林明雄・内山登起夫・東條吉邦・吉田友子・黒田美保,Baron-Cohen, S., & Wheelwright, S.(2007)自閉症スペクトラム指数(AQ)児童用・日本語版の標準化―高機能自閉症・アスペルガー障害児と定型発達児による検討.心理学研究,77 (6); 534-540. https://doi.org/10.4992/jjpsy.77.534
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稲田尚子(いなだ・なおこ)
大正大学臨床心理学部臨床心理学科 准教授
資格:公認心理師,臨床心理士,臨床発達心理士,認定行動分析士
主な著書は,『これからの現場で役立つ臨床心理検査【解説編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『これからの現場で役立つ臨床心理検査【事例編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『いかりをほぐそう 子どものためのアンガーマネジメント』(共著,東京書籍,2025)

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