野末武義(明治学院大学)
シンリンラボ 第32号(2025年11月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.32 (2025, Nov.)
本書は,2012年から2015年に出版された『DVDでわかる家族面接のコツ』全3巻を1冊にまとめたもので,40年以上にわたってわが国の家族療法を牽引してきた東豊氏の家族面接の実際を観ることが出来る。第1部はうつの妻とその夫との夫婦面接,第2部は不登校のIPとその家族の合同面接,第3部は不登校のIPとその家族の合同面接と両親面接である。それぞれ逐語が収録されているだけでなく,東氏と坂本真佐哉氏,児島達美氏,黒沢幸子氏と故森俊夫氏との対談形式の解説があり,面接の中で東氏が何を考え,何を感じ,どのような意図で介入しているかを学ぶことが出来る。また,家族のロールを取った人たちのふりかえりインタビューもあり,実際に家族は面接の中で何を感じていたのか,セラピストに対してどのように思っていたのかを知ることもできる。動画はインターネット経由なので,通勤電車の中でスマホで視聴することも可能である。しかし,家族面接の場合は,セッション中のやり取りやノンバーバルな側面を観察することも非常に重要なので,それなりの大きさのディスプレイのパソコンやタブレットで視聴することをお勧めする。
本書の活用方法は無限大である。まずは解説を読まずに動画を視聴し,何が起こっているのかを自分なりに理解しようと努めると良いだろう。また,自分がセラピストだったら,問題や家族のやりとりをどのようにアセスメントするか,家族一人ひとりをどのように理解しどのような感情を抱くか,どこでどのような介入をするか,さらにどのように困惑するかを想像しながら視聴することも役立つだろう。その後,解説をじっくり読んでみて,改めて動画を見直す。その際,動画は面接場面全体,セラピストのみ,家族のみが映る3パターンのアングルが用意されているので,その全てを観た方が良い。さらに,もしこれまでに東氏の著作にあまり触れたことのない読者は,ここまでの取り組みをした上でいくつかの著作を読み,改めてこの動画を観ると一層理解は深まるだろう。
東氏はしばしば天才と評されるが,動画を視聴し解説を読むと,いかに細やかに丁寧に家族一人ひとりの話を聴き,時に迷いながら家族面接をしているかがよく分かるだろう。そして,「東先生でも色々迷いながら面接をしているんだ」と驚き,また勇気づけられ,「自分ももっと家族面接をやってみよう」と背中を押される人が多いだろうと想像する。一方もしかしたら,「こんなに細かくて複雑なことは,自分にはできない」と思ってしまう人もいるかもしれない。しかし,そもそもどんな心理療法も細かくて複雑な取り組みのはずである。
本書には,DVD版の時には無かった序章と「システムズアプローチとスピリチュアリティ」という論考,そしてあとがきにかえて「わたしの家族療法」が掲載されている。家族療法は技法や理論ばかりが注目されがちであるが,それらを根底から支えているのは一人の人間としてのセラピストであることが,短い文章の中にさりげなく盛り込まれている。すでに家族面接の経験豊富な臨床家から初心者まで,またもっぱら個人面接で家族の問題を扱っている臨床家にとっても,本書は多くの学びをもたらしてくれるだろう。
野末武義(のずえ・たけよし)
明治学院大学心理学部心理学科教授,IPI統合的心理療法研究所長
ご資格:臨床心理士,公認心理師,家族心理士
主な著書:『夫婦・カップルのためのアサーション』(金子書房),『家族心理学―家族システムの発達と心理的援助 第2版』(共編,有斐閣)
趣味:音楽鑑賞(Fusion・Jazz),ドライブ,釣り







