自閉スペクトラムのアセスメントを学ぼう!(10)BPI-S,FAST,ABC記録:行動の機能を理解する|稲田尚子

稲田尚子(大正大学
シンリンラボ 第34号(2026年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.34 (2026, Jan.)

はじめに

臨床や教育,福祉の現場では,「かんしゃくを起こす」「自傷行為がある」「指示に従わない」「同じ行動を繰り返す」といった,いわゆる「行動問題」への対応がしばしば求められる。とくに自閉スペクトラム症(ASD)のある人においては,感覚特性やこだわり行動,コミュニケーションの困難さが背景となり,行動として困難が表出することが少なくない。

こうした行動を前にしたとき,支援者はつい「問題行動を減らす」「やめさせる」ことに目を向けがちである。しかし,行動は偶然に生じているわけではなく,必ず何らかの理由や目的をもって生じている。ときにそれは,言葉ではうまく伝えられない不快感や要求,援助を求めるサインといった,本人からのメッセージであることも少なくない。行動は本人の内面だけで完結しているものではなく,周囲の関わり方や環境条件との相互作用の中で生起し,維持されている。

行動問題のアセスメントとは,「何が悪いのか」を探すことではなく,「なぜその行動が起きているのか」「その行動は本人にとってどのような意味をもっているのか」を理解するプロセスである。このような視点に基づくのが,機能的行動アセスメント(Functional Behavioral Assessment:FBA)である。FBAは,行動を罰や管理の対象として扱うのではなく,その行動が果たしている機能を理解し,より適応的で安全な行動や環境へとつなげるための枠組みである。これは一部の専門家だけが用いる特別な技法ではなく,行動支援に関わるすべての支援者が共有すべき基本的な考え方といえる。

本稿では,行動問題を多面的に捉えるための代表的なツールとしてBPI-S,FAST,ABC記録を取り上げ,行動の「機能」という考え方を軸に,支援へとつなげる実践的な枠組みを解説する。

1.行動を具体的にすることの重要性

行動問題のアセスメントにおいて,最初に行うべき重要な作業は「行動を具体的にする」ことである。臨床場面では,「かんしゃくを起こす」「自傷行為がある」「指示に従わない」「同じ行動を繰り返す」といった表現が頻繁に用いられる。しかし,これらの言葉は一見すると共通理解があるように感じられる一方で,実際には人によって思い浮かべている行動内容が大きく異なる,非常に曖昧な表現でもある。ここで「わかったつもり」になって話を進めてしまうことが,アセスメントの精度を下げる大きな要因となる。

たとえば,「かんしゃく」と一口に言っても,大声で泣き叫ぶことを指す場合もあれば,床に寝転がる,物を投げる,他者を叩くといった行動を含む場合もある。行動の形態が異なれば,危険性や周囲への影響,対応の緊急度も大きく変わってくる。同様に「自傷行為」という言葉も,頭を軽く叩く行為から,皮膚を強く引っかく,あるいは出血を伴う行為まで幅があり,その意味するところは決して一様ではない。

また,「指示に従わない」という表現も注意が必要である。指示そのものが理解できていないのか,理解はしているが拒否しているのか,あるいは感覚的・情動的な負担が強く行動に移せないのかによって,背景はまったく異なる。にもかかわらず,「従わない」という言葉だけでまとめてしまうと,行動の理由や機能を見誤る危険がある。

このように,行動問題のアセスメントでは,「何が起きているかを知っているつもり」にならず,立ち止まって行動を丁寧に言語化する姿勢が不可欠である。具体的には,「何をしているのか」「どのくらいの頻度で起きているのか」「1回あたりどの程度続くのか」「起きたときに本人や周囲の生活にどのような影響があるのか」といった点を,観察可能な行動レベルで整理していくことが求められる。

行動を具体化することは,問題を細かく分類するための作業ではない。むしろ,曖昧な理解のまま議論を進めることを防ぎ,その後に行動の機能をより正確に理解し,適切な支援を検討するための共通の土台をつくる作業である。機能的行動アセスメントは,この「わかったつもりを手放す」姿勢から始まるといえる。

2.BPI-S:行動問題の全体像を把握し,支援の優先度を決める

行動問題のアセスメントにおいて,しばしば直面するのが「問題となる行動が多く,どこから手をつければよいかわからない」という状況である。自傷行動もあれば,他害的な行動,常同行動もみられ,支援者間で重要度の認識が一致しないことも少なくない。こうした場面で有用なのが,BPI-S(Behavior Problems Inventory–Short Form:問題行動評価尺度短縮版)である(Inoue, et al., 2021)。

BPI-Sは,知的障害や発達障害のある人にみられる行動問題について,対象者をよく知る他者(保護者や支援者など)が回答する質問紙である。全30項目から構成され,自傷行動(8項目),攻撃的/破壊的行動(10項目),常同行動(12項目)の3つの下位尺度に分かれている。各項目は,過去2か月間にその行動が実際に生起していることを前提として評定される。自傷行動および攻撃的/破壊的行動については頻度と重症度の両面から評価し,常同行動については頻度のみを評定する。頻度は「一度もない」「1か月に1回程度」「1週間に1回程度」「1日に1回程度」「1時間に1回以上」の5つの選択肢から最も近いものを選ぶ。重症度は「問題なし」「軽度の問題」「中度の問題」「重度の問題」という段階で,本人や周囲への影響の程度を判断する。たとえば,自傷行動が「月に1回程度」でも出血を伴う場合と,「毎日みられるが軽く叩く程度」の場合とでは,支援上の優先度は大きく異なる。このように,単に「ある・ない」ではなく,「どのくらいの頻度で」「どの程度の影響があるのか」を整理できる点がBPI-Sの大きな利点である。

臨床的には,BPI-Sを用いることで「危険性が高く早急な対応が必要な行動」「頻度は高いが,まずは環境調整で様子を見られる行動」などを区別しやすくなる。たとえば,複数の行動問題が報告されているケースでも,BPI-Sの結果をもとに「まずはこの行動に焦点を当てよう」と支援チーム内で合意形成を図ることができる。

このようにBPI-Sは,詳細な機能分析に入る前段階として行動問題を俯瞰し,支援の出発点を定めるための重要なアセスメントである。行動の「なぜ」を考える前に,「何が」「どの程度」起きているのかを整理することが不可欠であり,その土台としてBPI-Sは大きな役割を果たす。

BPI-Sによって支援対象となる行動が明確になった後,次に求められるのが,その行動が本人にとってどのような意味をもっているのか,すなわち「行動の機能」を理解する視点である。行動の機能という枠組みを踏まえたうえでFASTやABC記録といった手法を用いることで,優先づけられた行動について,より具体的かつ実践的な機能アセスメントへと進むことが可能となる。

3.行動の機能とは

行動問題を理解し,適切な支援につなげるうえで中心となる概念が「行動の機能」である。ここでいう機能とは,「なぜその行動が起きたのか」という原因を一義的に特定することではなく,「その行動が起きた結果,本人にとって何が得られているのか」「どのような役割を果たしているのか」を捉える視点を指す。行動は偶然に生じているのではなく,多くの場合,環境との相互作用の中で本人にとって何らかの意味や利益があるために繰り返されていると考えられる。

機能的行動アセスメントでは,行動の機能は大きく4つに整理されることが多い。第一に「注目(attention)」である。たとえば,周囲が忙しい場面で大声を出したり物を投げたりすると,大人がすぐに駆け寄ってくる場合,その行動は「人の関心を引く」機能をもっている可能性がある。この場合,叱責であっても注目が得られることで行動が維持されていることがある。

第二に「要求・獲得(tangible)」である。欲しい物や活動が得られることで行動が強化されるケースである。たとえば,泣き叫ぶことでおもちゃを渡してもらえる,かんしゃくを起こすことで動画視聴が許可されるといった状況では,その行動は「何かを手に入れる」機能を果たしていると考えられる。

第三に「回避・逃避(escape)」である。課題や不快な状況から離れられることが,行動を維持する結果となっている場合である。たとえば,学習課題の提示直後に席を立って走り回ることで課題が中断される場合,その行動は「やりたくない状況を避ける」機能をもっている可能性が高い。この機能は,指示理解の困難さや感覚過敏などと結びついていることも多い。

第四に「感覚刺激(sensory)」である。行動そのものが感覚的な快・不快の調整に関与している場合である。たとえば,身体を揺らす,物を回す,皮膚を引っかくといった行動が,落ち着きを得る,刺激を感じる,不快感を軽減するといった役割を果たしていることがある。この場合,他者の反応とは無関係に行動が生起することも少なくない。

重要なのは,これらの機能は排他的なものではなく,同じ行動が複数の機能をもつ場合や,状況によって機能が変化する場合があるという点である。また,支援者が「この行動は○○のためだ」と早合点してしまうと,その後のアセスメントや支援が表面的なものにとどまってしまう危険がある。行動の機能は,あくまで仮説として立て,検証し,必要に応じて修正していくものとして扱うことが肝要である。

行動の機能を理解することは,行動を評価したり抑制したりするためではなく,本人にとってより安全で適応的な行動や環境を整えるための出発点である。この視点をもつことで,行動問題は「困った行動」から「支援の手がかり」へと位置づけ直されるのである。

4.FAST:行動の機能を簡便にアセスメントする

行動の機能に基づく支援を検討する際に有用なのが,FAST(Functional Analysis Screening Tool:機能分析スクリーニングツール;Iwata et al., 2013)である。FASTは,問題となる行動がどのような機能によって維持されている可能性があるのかを,比較的短時間で把握することを目的とした質問紙形式のアセスメントである。対象者をよく知る保護者や支援者が回答する間接的アセスメントであり,詳細な直接観察や実験的分析に入る前段階で,機能についての仮説を立てるために用いられる。

FASTでは,行動の機能を大きく4つに整理している。第一は社会的注目であり,いわゆる「注目を引く行動」と「要求を通すための行動」を合わせた概念である。たとえば,行動の後に声をかけられたり,要求が通ったりする場合,その行動は対人的な反応を得る機能をもっている可能性がある。第二は社会的回避で,課題や指示,人との関わりなどから逃れるために行動が生じているケースである。指示提示の直後に行動が起こり,結果として要求が取り下げられる場合などが該当する。第三は感覚刺激で,行動そのものが心地よい感覚入力をもたらしている場合であり,常同行動や自己刺激行動に多くみられる。第四は感覚回避で,不快な感覚刺激を避けるために行動が生じている可能性を指す。たとえば,皮膚のかゆみや違和感を和らげるために掻きむしるといった行動が該当することがある。

FASTの結果はあくまで機能の仮説であり,断定的に用いるものではない。その後にABC記録などの直接的アセスメントを行い,仮説を検証していくことが重要である。なお,日本語版FASTは原著者である故・Iwata先生から翻訳許可を得て作成されたものである。この許可は先生が逝去される数か月前に得られたものであり,もし時期が遅れていれば,日本でFASTを正式に活用できない状況になっていた可能性もあった。FASTは,行動を「問題」として裁くのではなく「理解する対象」として捉えるFBAへの重要な入口となるツールである。

5.ABC記録:行動を直接アセスメントする

行動の機能をより具体的に理解するために欠かせない方法が,ABC記録(ABC recording)である。ABCとは,A:先行事象(Antecedent),B:行動(Behavior),C:結果(Consequence)の頭文字を取ったもので,行動が「どのような状況で起こり」「どのような行動として表れ」「その後に何が起きているのか」を時系列で整理する,直接的な行動アセスメントの手法である。

ABC記録の最大の特徴は,支援者の印象や解釈ではなく,「実際に観察された出来事」をもとに行動を捉える点にある。たとえば,「かんしゃくを起こした」という曖昧な表現ではなく,Aとして「課題を提示された直後」,Bとして「大声で叫び,机を叩いた」,Cとして「課題が中断され,職員が声をかけた」といった形で記録する。このように整理することで,その行動が課題からの社会的回避なのか,社会的注目を得る機能なのかといった仮説を,具体的な根拠に基づいて検討することが可能になる。

ABC記録では,とくにB(行動)をできるだけ客観的・具体的に書くことが重要である。「怒った」「反抗した」といった解釈的な表現ではなく,「椅子を蹴った」「その場から立ち去った」など,第三者が見ても同じように理解できる記述を心がける。また,C(結果)には大人の対応だけでなく,周囲の反応や環境の変化も含めて記録することで,行動がどのように維持されているかが見えやすくなる。

FASTが質問紙による間接的アセスメントであるのに対し,ABC記録は実際の場面に即した直接的アセスメントである。FASTで立てた機能仮説を,ABC記録によって検証・修正していくという使い方が効果的である。重要なのは,数回の記録で結論を出そうとしないことであり,複数の場面・時間帯で記録を重ねることで,行動と環境との安定した関係性が見えてくる。

ABC記録は手間のかかる方法ではあるが,その分,支援の質を大きく高める力をもつ。行動を「困った出来事」として片づけるのではなく,「環境との相互作用の結果」として理解するための,最も基本的で信頼性の高い方法の一つである。

6.機能の仮説をもとに支援プランを立てる

機能的行動アセスメントに基づく支援では,行動の機能に応じて,A(先行事象),B(行動),C(結果)のそれぞれに対応することが重要である。ここでは,代表的な機能である「社会的回避」と「社会的注目(要求・注目)」を例に,支援の考え方を整理する。

① 社会的回避機能の場合

社会的回避機能とは,課題や要求,人との関わりなど,本人にとって負担の大きい状況から逃れるために行動が生じている状態を指す。たとえば,課題提示の直後に席を立つ,かんしゃくを起こすといった行動がこれにあたる。

この場合,支援の中心となるのはA(先行事象)への対応である。行動問題が起きてから「回避させない」よう対応することは,本人にも支援者にも大きな負担となるため,そもそも回避したくなる状況をつくらない工夫が重要となる。具体的には,課題の量や難易度を調整する,選択肢を与える,作業時間を短く区切る,事前に「いつ終わるか」を視覚的に示すといった方法が考えられる。また,課題に入る前に休憩を挟む,成功しやすい活動から始めるといった配慮も有効である。

B(行動)への対応では,回避行動の代替となる行動を教えることが重要である。ただし,この代替行動は,問題行動が起きている最中に教えようとしても定着しにくい。本人が強い負荷や情動の高まりの中にある場面では,新しい行動を学習する余裕がないためである。そのため,代替行動は,本人が落ち着いている別の場面で,あらかじめ練習する機会を計画的に設けることが重要となる。たとえば,「やりたくないと伝える」「休憩したいときにカードを出す」「手伝ってほしいと伝える」といった行動を,成功しやすい状況で繰り返し練習しておくことで,実際の困難場面でも使いやすくなる。

C(結果)への対応では,行動問題が起きた際に即座に課題が完全に中断される状況を避けつつ,安全を最優先に対応する。一方で,代替行動が使えた場合には,短時間の休憩や支援の提供など,適切な形で要求が満たされる経験を積み重ねていく。

② 社会的注目(要求・注目)機能の場合

社会的注目機能とは,他者からの注目や関わり,要求の充足を得るために行動が生じている状態である。たとえば,大声を出す,物を投げることで大人が駆け寄ってくる場合,その行動は注目を得る機能をもっている可能性がある。

この場合のA(先行事象)への対応としては,問題行動が起きる前に,意図的に注目や関わりを提供することが有効である。たとえば,定期的に声をかける,役割を与える,関わりの時間をあらかじめスケジュールに組み込むことで,「注目を得るために行動を起こす必要がない」状態をつくる。

B(行動)への対応では,注目や要求を得るための適切な代替行動を教える。ここでも重要なのは,問題行動が起きた直後に教え込むのではなく,落ち着いた場面で「こうすれば注目が得られる」という成功体験を積ませることである。たとえば,呼びかける,手を挙げる,カードを使うといった行動を,支援者が確実に応答できる場面で練習することで,問題行動よりも簡単で効果的な手段として定着しやすくなる。

C(結果)への対応としては,問題行動が起きた際に過剰な反応を控え,可能な範囲で注目が集中しないようにする。一方で,代替行動が生じた場合には,即時かつ十分な注目や応答を与えることで,望ましい行動が強化されるようにする。

このように,Bに位置づけられる代替行動の学習は,行動問題への「その場しのぎの対応」ではなく,事前に準備された支援の一部として位置づける必要がある。機能の仮説をもとに,Aで起こりにくくし,Bで伝え方や選択肢を増やし,Cで行動の結果を丁寧に調整する。この積み重ねこそが,現実的で持続可能な行動支援につながるのである。

7.機能的行動アセスメントの現在地:海外の制度と日本の実践

機能的行動アセスメント(FBA)は,単なる支援技法の一つではなく,英米圏では制度的にも重要な位置づけをもつアセスメントである。とくに米国では,障害のある子どもへの教育的支援を定めた連邦法であるIDEA(Individuals with Disabilities Education Act)において,問題行動が学習や学校生活を著しく妨げている場合,FBAを実施し,それに基づいた行動支援計画(Behavior Intervention Plan:BIP)を立案することが求められている。行動問題に対して,罰や排除によって対応するのではなく,行動の機能を理解した上で環境調整や支援を行うことが,法的にも明確に位置づけられている点は重要である。

また,米国ではスクールサイコロジストの専門的役割の一つとして,FBAの実施とBIPへの助言が必須とされている。行動を「問題」としてラベリングするのではなく,「なぜその行動が生じているのか」「どのような支援があれば行動は変わりうるのか」を,データと理論に基づいて検討することが心理職の中核的な責務とされている。この点は,心理職が行動理解と支援の橋渡し役を担う専門職であることを制度的に裏づけているといえる。

一方,日本においては,FBAが法律上の明確な義務として位置づけられているわけではなく,行動問題への対応は現場の裁量や経験に委ねられていることが多い。その結果,「とりあえず困っている行動を止める」「その場を乗り切る対応」が優先され,行動の背景や機能が十分に検討されないまま支援が進められることも少なくない。こうした状況の中で,臨床心理士や公認心理師が果たすべき役割は大きい。

心理職には,行動を感情や性格の問題に還元するのではなく,環境との相互作用の中で理解し,FBAの視点を現場に持ち込む役割が期待される。BPI-Sなどを用いた行動問題の全体像の整理,FASTやABC記録による機能仮説の構築,さらに支援の効果を検証し,再アセスメントにつなげる一連のプロセスを,チームの中で言語化し共有することが重要である。FBAは特別な専門技術ではなく,「行動を理解し,支援につなげるための共通言語」である。その視点を日本の臨床・教育・福祉の現場に根づかせていくことこそ,今後の心理職に求められる専門性の一つであるといえる。

以上のように,FBAは制度や職能の枠組みとしても重視されているが,その実装は結局のところ,日々の現場で「行動を具体化し,機能を仮説として検討し,データで確かめる」という地道なプロセスに支えられている。以下では,本稿で扱ってきたBPI-S,FAST,ABC記録を手がかりに,現場で再現可能なFBAの実践を振り返り,支援が停滞したときの再アセスメントの視点まで含めて総括する。

おわりに

本稿のはじめに述べたように,機能的行動アセスメント(FBA)は,単なる行動対応の技法ではなく,「行動を理解し,本人の学習や生活を支えるための制度的・専門的枠組み」として英米圏では明確に位置づけられてきた。行動問題を罰や管理の対象として扱うのではなく,その機能を理解し,環境との相互作用の中で支援を設計するという視点は,行動支援の前提となる考え方である。

本稿では,その考え方を日本の臨床・教育・福祉の現場で実践可能な形に落とし込むために,BPI-Sによる行動問題の全体把握,FASTやABC記録による機能仮説の構築,そしてA・B・Cそれぞれに対応した支援の立て方について整理してきた。これらはいずれも,特別な専門技術というより,「行動を具体的に捉え,わかったつもりにならずに考え続ける」ための道具である。

支援を進める中で,「思ったように変化がみられない」「かえって行動が増えたように感じる」といった場面に直面することも少なくない。そのようなときに重要なのは,支援がうまくいかなかった理由を本人の問題として片づけるのではなく,アセスメントに立ち返る姿勢である。行動の機能仮説はあくまで仮説であり,再検討や修正が前提となる。再アセスメントは失敗ではなく,理解を深めるための必然的なプロセスである。

ただし,支援方針を短期間で次々に変更することは,本人にも支援者にも混乱をもたらす。方針を見直す際には,「一度に変えるのは一つまで」という原則を意識し,A・B・Cのどこを調整したのかを明確にしたうえで経過を観察することが重要である。この積み重ねによって,支援は経験則ではなく,検討可能な実践へと近づいていく。

機能的行動アセスメントとは,行動を「コントロールする」ための手段ではない。それは,本人の行動に意味があることを前提に,その意味を理解し,より安心で適応的な環境を共につくるための思考の枠組みである。行動を具体化し,仮説を立て,確かめ,必要に応じて見直す——その地道な営みこそが,心理職に求められる専門性であり,日本の現場においてFBAを根づかせていくための確かな一歩となる。

文  献
  • Inoue, M., Inada, N., Gomi, Y., Aita, C., & Shiga, T.(2021)Reliability and validity of the Japanese version of the Behavior Problem Inventory-Short Form. Brain and Development, 43 (6); 673-679.
  • Iwata, B. A., DeLeon, I. G., & Roscoe, E. M.(2013)Reliability and validity of the functional analysis screening tool. Journal of Applied Behavior Analysis, 46 (1); 271-284.
+ 記事

稲田尚子(いなだ・なおこ)
大正大学臨床心理学部臨床心理学科 准教授
資格:公認心理師,臨床心理士,臨床発達心理士,認定行動分析士
主な著書は,『これからの現場で役立つ臨床心理検査【解説編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『これからの現場で役立つ臨床心理検査【事例編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『いかりをほぐそう 子どものためのアンガーマネジメント』(共著,東京書籍,2025)

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