自閉スペクトラムのアセスメントを学ぼう!(2)CARS2:小児自閉症評価尺度第2版―15項目で全体像を把握する|稲田尚子

稲田尚子(大正大学
シンリンラボ 第26号(2025年5月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.26 (2025, May.)

はじめに

自閉スペクトラムのアセスメントツールは,目的や対象年齢,アセスメントのレベルに応じて様々なものがあるが,最初に紹介したいのはCARS2(カーズ・ツー:Childhood Autism Rating Scale, Second Edition:小児自閉症評価尺度第2版)である。初版は1980年に開発されたCARS(Childhood Autism Rating Scale:小児自閉症評価尺度)であり,TEACCHプログラムを開発したエリック・ショプラーEric Schopler先生によって,今から約半世紀前にこの尺度が開発されたことに今でも感動を覚える。オリジナルのCARSは15項目から構成され,年齢相応かどうかで評価していくため,適用年齢が幅広い。そして,2013年のDSM-5で新たに診断基準に含まれるようになった感覚の問題を評価する項目を,15項目中3項目含んでおり,自閉スペクトラムの本質を非常によく捉えるための15項目となっているのである。筆者は大学院時代にCARSの15項目に沿って,クライエントの情報を面接や観察で収集するトレーニングを積む機会を得たことで,自閉スペクトラムのアセスメントの際のポイントが大きく整理されたように感じている。読者の皆様もCARS2について学ぶことで,同じような体験になるであろうか。

1.CARS2の概要と構成

CARS2は,自閉スペクトラムの特性を評価するための標準化された観察と面接に基づくアセスメントツールである。CARS2は,1980年に開発されたCARSの改訂版として2010年に発表され,臨床現場や研究において広く使用されている。2歳以上の自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder; ASD)が疑われる人を対象とし,ASDの重症度を評価する数少ない尺度の一つである。

CARS2は,CARS2-ST(Standard Version:標準版),CARS2-HF(High-Functioning Version:高機能版),CARS2-QPC(Questionnaire for Parents or Caregivers:保護者・養育者質問票)の3つの評価尺度から構成されている。CARS2-STは,IQ79以下の者および6歳未満のあらゆる子どもを対象とし,CARS2-HFは,6歳以上でIQ80以上の者を対象とする。CARS2-QPCは,保護者や養育者への質問票であり,評価者がより包括的な情報を得るための補助ツールとして機能する。

2.CARS2の実施と評価

CARS2の実施の際には,まず保護者用の質問紙であるCARS2-QPCを保護者に記入してもらい,それを参考にしながら面接で,子どもの発達歴や日常行動,対人関係などについて聞き取りを行うのが一般的である。その後,実際に子どもと関わりながら,行動観察を行う。観察は,特別な道具や設定を必要とせず,面接室やプレイルーム,保育所・幼稚園や学校場面も含め,日常的な様々な環境で行うことが可能である。一方で,CARS2には標準化された教示や構造化された課題はない。そのため,評価者は,評価項目に対応するような行動を自然なやりとりの中で引き出す工夫が求められる。評価にかかる所要時間は,QPCの記入には10~15分,観察や面接の時間は概ね30~60分程度とされている。

CARS2は15の評価項目から成り,それぞれ1から4の範囲で0.5刻みの7段階で評価される。各項目の評価基準は,1点が正常範囲,2点が軽度の異常,3点が中等度の異常,4点が重度の異常とされる。評価対象の行動観察や保護者・関係者からの情報を基に合計スコアを算出し,そのスコア範囲によって自閉スペクトラム症の可能性を判定する。

CARS2-STのカットオフ値は,2歳以上13歳未満では30点,13歳以上では28点であり,30点未満がASDの可能性が低い,30点から36.5点が軽度から中等度のASD,37点以上が重度のASDを示す。一方,CARS2-HFでは,28点がカットオフ値とされ,28点から33.5点が軽度から中等度のASD,34点以上が重度のASDを示す。さらに,CARS2では合計得点からT得点およびパーセンタイルを求めることができ,ASD児者全体の中での重症度の程度を把握することが可能となっている。

3.CARS2の特徴と利点

CARS2の特徴は,観察と面接の双方の情報を用いながら,対象者の行動を整理し,子どもの発達の全体像を見立てることができる点にある。また,対象者の行動や関わり方の質に注目し,ASDの特性を多面的にとらえることができるという点でも,臨床現場で汎用性の高いツールと言えるだろう。

また,CARS2は,ASDの症状だけではなく,その重症度を評価することができる。観察に基づく評価が可能であるため,発達年齢や言語能力の影響を受けにくく,臨床現場での利便性が高い。また,実施時間が比較的短く,定量的なスコアによって診断の補助情報を提供できるため,診断的評価の補助ツールとして有用である。CARS2の評価項目には,DSM-5で新たに診断基準に加えられた感覚面の問題を評価する項目が含まれており,1980年のオリジナル版の開発当時からASDのある人の感覚の問題を丁寧に把握することができる尺度であったことがうかがえる。

ただし,CARS2単独で診断を行うのではなく,DSM-5やADOS-2(Autism Diagnostic Observation Schedule, Second Edition:自閉症診断観察スケジュール 第2版)などの他の評価ツールと組み合わせて活用することが望ましい。また,評価者の主観が結果に影響を及ぼす可能性があるため,標準化された評価手法の習得や経験の蓄積が求められる。

4.心理検査場面でのCARS2の活用

CARS2は,心理士や医師,発達支援の専門職が評価者となり,行動観察や関係者からの情報を総合的に分析することで,自閉スペクトラム症のスクリーニングおよび診断補助,介入計画の策定,発達支援の効果測定などに活用される。特に,自閉スペクトラム症のアセスメントの経験が少ない臨床家にとっても比較的容易に使用できる点が特徴である。

一方で,CARS2を適切に使用するためには,定型発達の人の発達のマイルストーンに精通し,幅広い知的水準および年齢範囲のASDとの対応経験を有している必要がある。項目数は少ないが,いずれも評価対象者と同年齢の他の子どもの行動と比較して評価することが求められているためである。また,評価の際には,ASDの特性がどの項目に該当するかを適切に判断し,重複した評価を避けることが重要である。情報が不足すると過小評価につながるため,適切な情報収集が求められる。評定の精度を確保するためには,CARS2に熟練している者との評価の一致度を確認するなどの研修を行うことが推奨される。

5.心理臨床場面でのCARS2の活用

CARS2は,面接や観察から得られた情報を統合的に把握するための重要なツールである。しかし,心理検査としての活用が難しい場合,どのように活用すればよいだろうか。その一つの方法として,CARS2の15項目に沿って,これまでの面接の経過や観察で得られた情報を項目別に整理することが推奨される。この手法を用いることで,すでに収集された豊富な情報を体系的に整理し,クライエントの対人関係やコミュニケーション,こだわり,感覚の問題といった主要な症状に加え,情動調整,不器用,不安,多動性など,自閉スペクトラムに併存しやすい特性も含めて包括的に理解できるようになる。仮に,特定の項目に関する情報が不足している場合でも,次回以降の面接で補完していけばよい。その過程を通じて,クライエントの自閉スペクトラムの特性について,より正確な全体像を把握することが可能となるだろう。

標準化された心理検査の強みは,数値として得点を算出できる点にあるが,日常の臨床の場面で活用する際には,必ずしも得点化にこだわる必要はない。CARS2は,クライエントの情報を整理するための有用なツールとして活用できる。自閉スペクトラムの行動特性はライフステージや発達に伴い変化するため,「現在」と「これまで」を分けて記録することが望ましい。また,情報の取得方法として,面接(Interview)によるものか,観察(Observation)によるものかを区別することも重要である。行動の多面性をとらえる際の情報の信頼性を高め,臨床的判断の根拠を明確にすることにつながるのである。そのため,該当する情報源を「( I )」「(O)」と明記すると,より整理された記録が可能となるであろう。

なお,CARS2の15項目は自閉スペクトラムの特性に特化した評価項目であるため,クライエントの社会的背景や保護者・本人の意向などについては,別途記録し,考慮する必要があることを念頭に置いておくべきである。

6.CARS2の項目を活用して記録することの波及効果

面接で得られた情報をCARS2の項目に照らし合わせながら記録することで,どのような波及効果が期待できるだろうか。この作業を積み重ねることで,面接で話された内容や観察で得られた情報を頭の中で整理しながら聞き取り,適切な質問を行う力が養われるはずである。長期的には,面接の中でクライエントの自閉スペクトラムの特性を見立てるとともに,個々の特性やニーズへの理解を深めることが可能となるだろう。また,本人や家族との面接においても,クライエントの特性を共有しやすくなることが期待される。

記録の際には,各項目への正確な分類にこだわるよりも,まずはCARS2の15項目の視点からクライエントの情報を整理することを意識してほしい。この取り組みを通じて,より包括的な理解へとつなげていくことができるだろう。

7.CARS2のアセスメントに基づく支援

CARS2を用いて情報を整理した後,それをどのように支援へと活かすことができるだろうか。クライエントの年齢や知的水準,保護者や本人のニーズ,社会的・経済的状況,地域資源は多様であり,支援のあり方は個別性が高い。しかし,ここでは自閉スペクトラム症の特性に焦点を当てて,筆者が考える支援の優先順位の順に2つ考えてみる。

① 感覚の特性に配慮した合理的配慮や環境調整

感覚の問題は,周囲が気づきにくく,本人自身も自覚しにくいことが多いため,面接の際には意識的に確認することが重要である。CARS2では,感覚の特性を評価するために3項目が設定されており,全15項目のうち5分の1が感覚に関する内容となっていることからも,初版の時代からショプラー先生が感覚面の特性をいかに重視していたのかがうかがえる。

面接や観察,自己報告を通じて感覚特性が明らかになった場合には,合理的配慮や環境調整の必要性を検討したい。実際に,教室内のざわめきや体育の授業後のにおいが苦手であったり,給食が食べられずに不登校になっている児童・生徒は少なくない。感覚特性は年齢と共に変化する場合もあるが,猫舌の人が熱いものを飲むのは難しいように,苦手な感覚は克服するのではなく,できるだけ避ける対応が基本である。こうした特性に応じて,ヘッドホンの使用やお弁当の持参,こまめな換気などの配慮を,本人や保護者,学校・職場と話し合いながら進めていくことが望ましい。

② 情動面の過剰な表出・反応の予防としての視覚支援

かんしゃくやパニックは,本人にとってつらいだけでなく,周囲の人にも大きな負担となる。また,情動が安定していることが,さまざまな学びの土台となるため,支援の優先順位は高い。CARS2には,情動反応や感情の表出を評価する項目があり,これは非常に素晴らしい点だと考えている。もちろん,穏やかで情動面が安定している人もおり,そのような場合には,筆者は特に本人の長所として伝えるようにしている。

かんしゃくやパニックが生じる原因の一つとして,周囲の人が本人のコミュニケーションスタイルやこだわりを十分に理解していないことが挙げられる。また,本人の行動は周囲の人との関係性の中で変化するものであり,周囲の対応が非常に重要となる。かんしゃくやパニックが起きた後の対応については,行動の原理や機能をアセスメントする必要があるため,別の連載回で詳しく説明する。ここでは,予防的な対応について述べていく。

かんしゃくやパニックが起こる理由はさまざまであるが,その一つとして,言葉だけでは指示の内容が理解しづらいことが挙げられる。また,いつもと同じ状況を好むため,急な変更に対応できない場合もある。たとえば,学校では時間割や日程の変更が多く,言葉だけで指示されることもあるため,聞き漏らしてしまうことがあるだろう。保育園や幼稚園では,活動の切り替えに時間がかかる子どもに対して,急に「終わり」と告げられることも少なくない。

こうした状況を防ぐためには,次の日の予定を事前に伝えたり,その日の具体的なスケジュールを示して見通しを持たせたりすることが有効である。さらに,イラストや写真を活用して視覚的に理解を補助したり,いつでも見返せるようにメモを渡したりすることも助けになる。周囲には些細な変更と考えられる内容であっても,本人にとっては変更の程度というよりむしろ変更が生じたこと自体がインパクトを与えていることが少なくないため,事前に伝えることで,本人の心の準備が整い,かんしゃくやパニックが減る場合が多い。実は,これらの対応は,自閉スペクトラムの人に限らず,すべての子どもに役立つものである。特に,保護者には「丁寧な子育て」の一環として伝えたい内容でもある。

まとめ

CARS2は,心理検査場面だけでなく,日常の臨床場面でも活用できる。特に,面接や観察で得られた情報を整理する際に役立ち,クライエントの特性を包括的に把握することが可能となる。また,得点化にこだわらず,情報整理の視点として用いることで,特性の見立てや支援計画の策定にも活かせる。CARS2を適切に活用することで,ASDの特性をより深く理解し,本人にとって適切な支援を提供できる可能性が高まる。本ツールの活用を通じて,クライエントの生活の質の向上に貢献することが期待される。

文  献
  • Schopler, E., Van Bourgondien, M. E., Wellman, G. J., & Love, S. R.(2010)Childhood Autism Rating Scale Second Edition. WPS.(内山登紀夫・黒田美保・稲田尚子監訳(2020)CARS2 日本語版:Childhood Autism Rating Scale Second Edition. 金子書房.)
+ 記事

稲田尚子(いなだ・なおこ)
大正大学臨床心理学部臨床心理学科 准教授
資格:公認心理師,臨床心理士,臨床発達心理士,認定行動分析士
主な著書は,『これからの現場で役立つ臨床心理検査【解説編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『これからの現場で役立つ臨床心理検査【事例編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『いかりをほぐそう 子どものためのアンガーマネジメント』(共著,東京書籍,2025)

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