浅見祐香(目白大学)・神村栄一(新潟大学)
シンリンラボ 第30号(2025年9月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.30 (2025, Sep.)
はじめに――盗撮を繰り返してしまうBさん
「パチンコ店に行かないため現金は持ち歩かない」,「万引きをしないためスーパーマーケットに一人では行かない」。今回は,行動アディクションをやめる,減らすためにまずできることとして,行動のきっかけとなる「引き金」(トリガー,などとも呼ばれます)の見つけ方と具体的な対処について解説をしていきます。仕事帰りに駅の階段やエスカレーターで,女性の下着の盗撮を繰り返していたBさん(20代男性※複数の実在するモデルから創作した架空事例)の発言も紹介しながら進めます。
行動アディクションの引き金については,多くの方が,専門的な支援を受ける前から自身でさまざまな対処を試みています。しかし,自分では気づけていない引き金があったり,効果的な対処方法が見つからなかったり,ということは少なくありません。Bさんも「電車に乗らないと仕事に行けないし,スマートフォンのカメラをつぶすと日常生活への支障が大きい。だから,意志の力でどうにかするしかないと思っていました」と,振り返ります。しかし,やめようと決意した数か月後には,「少しだけなら大丈夫」と再開してしまい,盗撮を繰り返す日々に戻っていました。そんなBさんが,自分自身の引き金への気づきを高めるとともに,効果的な対処方法を増やしていく過程についても解説していきたいと思います。
1.「はまる」メカニズムの理解
行動アディクションに限った話ではありませんが,私たちのさまざまな「行動」には,その行動を引き起こす「きっかけ」である引き金があります。そして,行動の「結果」,本人にとって望ましい変化があれば行動は繰り返されるようになりますし,逆に,本人にとって望ましくない変化があれば行動は起きなくなっていきます。望ましい変化とは,お金や物を手に入れる,スリルや達成感を得るなどの好ましいことが生じることのみではなく,イライラや不安の低減,嫌な出来事を忘れられるなどの嫌なことがなくなるということも含まれます。
このような行動科学に基づいた枠組みを行動アディクションにあてはめてみると,たとえば盗撮のアディクションの場合には,ミニスカート姿の女性がいることが「きっかけ」となって,盗撮を行い,その「結果」,スリルや達成感を得られ,その後も繰り返されるようになる,というように整理できます(図1:行動のきっかけと結果)。ただし,行動が同じであったとしても,そのきっかけや,行動によって得られる結果は一人一人違っているため,丁寧なアセスメントが必要です。

図1:行動のきっかけと結果
行動アディクションを引き起こさないためにまずできることとして,行動のきっかけとなる引き金への対処が効果的です。自身にとっての引き金を見極めることができれば,引き金を引かないようにするための具体的な対処を日々の生活に取り入れていくことができます。
多くの方は,専門的な支援を受ける前から,本やインターネットで調べたり,同じアディクションの問題を抱える仲間の話を聞いたりして,さまざまな対処を試されています。しかし,「やってみたけれど自分には合わなかった」,「一時的にうまくいったけれど効果は続かなかった」などといった声もしばしばお聞きします。
たとえ同じ種類の行動アディクションをしていたとしても,人によって,あるいは,場面によって,その引き金は異なっていますし,効果的な対処も異なっています。そのため,自身の行動アディクションの引き金を丁寧に分析することが大切になります。
2.行動アディクションの「引き金」の分析
行動アディクションを抱える多くの方は,「引き金」について尋ねられると,「ストレスのせい」,「つい出来心で」などと答えられる方が少なくありません。このように,自分で自覚している(なかには,思い込んでいる,という場合もありえます)引き金は,さまざまある引き金の一部であるということを知っていただく必要があります。
行動アディクションの引き金を明らかにするには,直前の状況について,時間や場所,対象となる物や人,状況など自身を取り巻く環境の中にある「外的」な引き金と,気持ちや考えなどの自身の内側にある心や体の状態である「内的」な引き金について,ワークシートなどを用いて整理していくことがおすすめです(図2:行動の「引き金」分析シートの例(Bさんの場合))。
直近の思い出しやすい経験からでよいので,1回ずつ振り返り,それぞれワークシートに記入したものを並べて見ると,思い込みの影響を極力排除しながら,自身の行動アディクションに共通する引き金のパターンが見えてきます。
Bさんの場合は,仕事からの帰り道,満員電車を降りて,スカート姿の女性が人通りの少ない出口に向かうと,後ろをついていってスマートフォンのカメラで下着を盗撮していたそうです。Bさんは,「朝の時間帯は,『早く職場に行かないと』と急いでいるので,気持ちに余裕がある帰り道にしていたのだと思います。若く見える女性が多かったですが,正直顔は見ていないことも多く,むしろ,スカートが短くて,背が高いなどといった『撮りやすさ』の方を重視していたように思います。あとは,言い訳かもしれませんが,仕事では叱られるばかりで,盗撮が生きがいのようなものだったと思います」と振り返りながら,自身の行動の引き金について整理を進めていきました。

図2:行動の「引き金」分析シートの例(Bさんの場合)
引き金のパターンについては,1つの場合もあれば,いくつか異なるパターンが見つかる場合も少なくありません。たとえば,ギャンブルのアディクションの場合には,仕事終わりにパチンコ店に行くときと,休日,何となく家に居づらくてパチンコ店に行くときとでは,引き金のパターンが異なる場合がありますし,買い物のアディクションの場合には,夫とけんかしてイライラしたときと,SNS(Social Network service)で気になる商品を見つけたときとでは,引き金のパターンが異なる場合があります。
また,Bさんは,上記のワークシートの「直前の出来事」という項目については「職場で嫌なことがあったり,アダルトサイトの作品に触発されたり,といったときもあるにはあるのですが,毎日の習慣になっていたので……。特別なことがあってもなくても盗撮を繰り返していました」と話してくれました。
Bさんのように,行動アディクションの引き金を分析する際に,「直前の出来事」に当てはまるものが浮かばない,という方は少なくありません。日々の生活に組み込まれ,習慣となった行動アディクションは,疲れていても,イライラしていても,気分がよくても,顔をのぞかせます。そのため,直前に記憶に残るような出来事がとくにない場合は,そのまま空欄にしておきましょう。ワークシートは,考えるために役立てるツール(手段)であり,埋めることが目的ではありません。
3.外的・内的な引き金への対処
自身の行動アディクションを引き起こす引き金が明らかになってくると,一つひとつの引き金に対して,効果的な対処方法を考えることができるようになります。時間・場所や対象,状況などといった自身を取り巻く環境の中にある外的な引き金に対しては,引き金を避けるための環境調整について考えることができるでしょう。そして,自身の気持ちや考えなどといった自身の内側にある心や体の状態である内的な引き金に対しては,気持ちや考えを切り替えられるような気分転換や趣味の活動に取り組んだり,誰かのサポートを得たりすることなどができるでしょう。
対処方法を探していくときには,自分一人ではなく,セラピストや同じ行動アディクションを抱える仲間,また,家族や友人,知人など行動アディクションの問題を抱えていない方々など,さまざまな意見を聞いてみることがおすすめです。多くの対処方法案が見つかれば,その中から,自分に合っているものを「選択」することができます。実際に試してみながら,自分にとってやりやすく,効果が高いものを探していきましょう。
Bさんは,自身の盗撮という行動アディクションについて,外的な引き金として,仕事終わりの19時ごろ,構造を把握している自宅の最寄り駅で,スカート姿の女性が人通りの少ない出口に向かう様子を目にすることであったと整理しました。手元のスマートフォンを隠すように,カバンを肩にかけていました。
このような外的な引き金に対しては,たとえば,勤務時間を変えたり,仕事終わりに職場近くで習い事をしてから帰ったりすることによって,混雑していない時間帯に電車に乗ることができるでしょう。あるいは,そもそも電車には乗らず,バスや車,自転車で通勤するなどの対処方法も考えられます。
Bさんの場合は,職場の上司のサポートもあり,労働時間を調整できるフレックスタイム制を利用して,混雑する時間帯より遅めに帰宅できるような勤務時間に変更することにしました(図3:行動の「引き金」対策シートの例(Bさんの場合))。また,職場を出るときに親にメッセージを送り,スマートフォンをリュックサックの中にしまってからスマートウォッチで駅の改札を出入りできるようにしました。対象となる女性をできるだけ視界に入れないようにするため,電車に乗っている間は撮影機能のないゲーム機でゲームをすることにしました。
このような外的な引き金を避ける対処方法に加えて,内的な引き金に対しても,さまざまな対処方法を考えて試していきました。盗撮を後押ししてしまう気持ちや考えに対しては,気分転換のために,ランニングを始めたり,疎遠になっていた学生時代の友人に自分から声をかけて,定期的にお酒を飲んだりするようにし始めたそうです。
また,Bさんは,盗撮を繰り返していた当時について,「自分の意見をはっきり言うことが苦手で,誰にでもよい顔をしたくて,つい仕事を抱えすぎてしまっていました。期限を守れず,先輩に怒られることが多く,いつもびくびくして,体が重かったです。盗撮がうまくいったときだけが,達成感というか生きている感じがあったように思います」と当時を振り返りました。盗撮が職場に発覚した後,上司と面談をして,職場での辛さを初めて人に打ち明けることができました。現在は,負担の少ない部署に異動させてもらい,フレックスタイム制を利用しながら仕事を続けています。

図3:行動の「引き金」対策シートの例(Bさんの場合)
4.「スイッチ」が入る前に
行動アディクションの「引き金」を探し出し,対処方法を考えるということは,行動アディクションをやめる,減らすための第一歩ともいえるでしょう。しかし,なかには,毎日のように繰り返される中で,行動アディクションが日々の生活の一部となり,1回1回の行動についてなかば「無意識」的に繰り返されている,という方もいるのではないでしょうか。「もうやめよう」と強く決意したけれど,気づいたときには行動アディクションをしてしまっていた,という経験がある方もいるでしょう。
Bさんも,さまざまな引き金への対処方法を実践していきましたが,盗撮をやめてから半年たったある日,再発(再犯)してしまいました。「その日は,職場を出た後に上司から電話があり,手元にスマートフォンを持ったまま急いで電車に飛び乗りました。気のゆるみもあったように思います。『まぁ,もう大丈夫か』とそのまま電車に乗り,スマートフォンでゲームをして過ごしました。いつもより電車が混んでいて,降りるときに,短いスカート姿の女性が人気のない出口に向かう様子が目に入り…。盗撮して駅を出たところでようやく我に返り,頭が真っ白になりました」。
Bさんは,このままでは盗撮を繰り返していた日々に戻ってしまうと恐怖を感じ,翌日,通院しているクリニックに行って主治医に打ち明けました。プログラムで同じ性的問題行動を抱える仲間とセラピストにも報告し,次の再発(再犯)を防ぐための対策を一緒に検討しました。
毎日のように繰り返される中で,行動アディクションに至る行動の連鎖は強固になり,車の運転や歯磨きなどのように,一連の行動アディクションに至る連鎖についてはっきりと意識することが困難になっていきます。「撮ろう」などととくに意識することはなくても,「撮りやすい」対象の方を見つけると,盗撮という行動が引き起こされてしまいます。
Bさんの場合には,電車に乗ると,ゲームをしていても,目の端でスカートの短い女性を探し,人気のない出口に向かうか確認をしてしまうという行動は自覚があまりないまま続いていたようです。スマートフォンが手元にあると,自身にとっての「スイッチ」が入ってしまうかのように,自動的に行動アディクションが引き起こされてしまい,自分では止めることができませんでした。
このように,はっきりと意識しないまま繰り返されてしまう状態の場合には,行動アディクションに至る直前の状況のみではなく,行動アディクションが引き起こされるまでに起きた出来事や自身の気持ち,考え,行動などについて,時系列に沿って丁寧に振り返ってみることが役立ちます。そして,行動アディクションを止められるのはどの時点なのか,しっかりと見極めるとともに,気持ちや考えがスイッチになる場合は,気持ちのコントロールや考え方を変えることを目指す支援技法なども取り入れていきながら,行動連鎖に巻き込まれないような対策を練っていくことが大切になります。
おわりに
行動アディクションの問題を抱える方にとって,行動アディクションを引き起こすきっかけである「引き金」への対処は行動をやめる,減らす第一歩とも言えます。ですが,一人でできることには限界があるのも事実です。専門的な支援につながることはもちろん,家族や職場の上司や同僚,友人などといったさまざまな方からのサポートが重要になります。また,同じ問題を抱える仲間の存在も大きな力になりえるでしょう。
Bさんは,盗撮が発覚したことを契機に,家族や上司にさまざまな心の内面を打ち明けることになりました。「盗撮がばれて,自分はもうおしまいだと,何度も死のうと考えました。だけど,そこからたくさんの人に手を差し伸べてもらい,なんとか盗撮をしない一日一日を積み重ねています」。支援に訪れた当初と比べて,Bさんの表情はとても柔らかくなりました。
Bさんのように,引き金への対処方法を増やして,継続していくためには,それを「がまん」だけで終わらせないための工夫が必要になります。そこで次回は,行動アディクションを繰り返してしまう理由とも言える,行動の後に起こる「結果」に焦点を当てた対策について,解説していきたいと思います。
浅見祐香(あさみ・ゆか)
目白大学心理学部 専任講師
資格:公認心理師,臨床心理士
神村栄一(かみむら・えいいち)
新潟大学人文社会科学系教授
資格:公認心理師,臨床心理士,専門行動療法士,博士(心理学)
主な著書:『教師と支援者のための令和型不登校クイックマニュアル』(単著,ぎょうせい,2024),『不登校・ひきこもりのための行動活性化』(単著,金剛出版,2019),『学校でフル活用する認知行動療法』(単著,遠見書房,2014),『認知行動療法[改訂版](放送大学教材)』(共著,NHK出版),『レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド』(共著,北大路書房,2013)など。
学生時代から40年におよぶ心理支援の実践はすべて,行動療法がベース。「心は細部に宿る」と「エビデンスを尊び頼まず」が座右の銘。「循環論に陥らない行動の科学を基礎とし,サピエンスに関する雑ネタやライフハックなどによる解消改善を要支援の方との協働で探し出す」技術の向上をめざしている。







