浅見祐香(目白大学)・神村栄一(新潟大学)
シンリンラボ 第36号(2026年3月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.36 (2026, Mar.)
はじめに
ギャンブルには,パチンコ(26.4%)・パチスロ(17.0%)などの風営法に基づく遊戯施設,競馬(18.8%)や競輪(3.0%),競艇(4.9%),オートレース(1.1%)などの公営ギャンブル,海外のカジノ(1.1%)や違法なギャンブルなどがあります(かっこ内は,全国の成人男女を対象にランダムに実施された調査「国民の娯楽と健康に関するアンケート」における過去1年間の経験率;久里浜医療センター,2024)。
全国に約7,000店展開しているパチンコ・パチスロは,アニメやゲームとコラボした人気台があり,メダル単価が低いレートも普及しており,参加することへのハードルが比較的低いと言えます。刺激的な大音量やフラッシュ,「次こそは当たる」という期待感を抱かせるリーチ演出など,長時間飽きさせない工夫が施されており,一日あたりの賭け金は数万円程度で収まることが多いです。一方で,公営ギャンブルは賭け金を自身で設定できるため,数分間で数百万円単位の金銭が動くようなハイリスクハイリターンな賭けが可能です。インターネット投票が普及してきており,スマートフォン1つあれば,一日中,全国各地のレースに参加できるようになっています。
賭ける金額や関与できる度合い,スキルが必要と感じる程度などはさまざまですが,お金に関連した問題(借金や違法行為など)が深刻化しやすい点は共通しています。今回は,パチンコ店だけが「居場所」であったというJさん(40代女性),競馬にはまって500万円の借金を抱えたKさん(30代男性)のケースを解説していきます(※いずれも複数の実在するモデルから創作した架空事例)。
1.ケース1 「パチンコしているときだけが『本当の自分』でいられました」
「勉強や仕事とは違い,子育てはがんばってもうまくいかないことばかりでした。自分が否定されているようでつらかったです」と語るJさん(40代女性)。ある日,息子がトラブルを起こして学校に謝罪へ行った帰り道,新しくできたパチンコ店が目に入りました。中に入ってみると,広いホールは自由な雰囲気で「息がしやすい」と感じたそうです。はじめは週に1,2回の楽しみでしたが,家族を見送るとすぐにパチンコ店へと向かう生活へと変わっていきました。
「当たりが出ないと夜まで粘るので,夕食の準備が間に合わないことが増えました。パチンコをしても気分が晴れない日が増えましたが,家にはいたくないし……。頭で考えるのではなく,体が勝手に動いているような感覚でした」。独身時代の貯金は数年で底をつき,藁にも縋る気持ちで「パチンコやめたい」とスマートフォンで検索しました。アディクションのこと,専門的な支援のことを知り,「もしかしたらやめられるかもしれない……」とクリニックに電話をしました。
対応①:誘惑をやり過ごす
全国各地にパチンコ・パチスロ店は点在しており,視界に入れずに過ごすことは難しいと言えます。そのため,「できない工夫」をいくつも積み重ねることが大切です。Jさんは,セラピストとともに一週間のスケジュールをあらかじめ決めて,その通りに日々を過ごすよう努めました。通院や習い事など外出する際には夫に連絡を入れ,パチンコ店が視界に入らない経路を通るようにしました。休日は,夫と一緒に食材の買い出しや散歩に行くようにして,一人で過ごす時間を減らしました。
注意して生活していても,パチンコ店が目に入ることを0にはできません。パチンコ店が目に入ったときは,手首につけたヘアゴムをはじいて,頭の中で「ストップ」と叫びます。そして,深呼吸や持ち歩いているコーヒーを飲んで気持ちを落ち着けるようにしました。ほかにも,財布にお札が入っていると「パチンコができる」という考えが湧いてしまうため,家計の管理を夫に任せて,普段の買い物は電子マネーを使い,現金は必要なときに夫から受け取るようにしました。
「パチンコ店はどこにでもあって,いつでも入れてしまいます。目に入れないように,万が一目に入っても注意をそらせるように,二重三重の手当てをすることが,結果的に,自分を守ってくれると感じています」。Jさんは専門的な支援を受け始めてから,毎晩,一日を振り返ってカレンダーにシールを貼り続けています。ギャンブルに近づくことなく過ごせた日は青色,ギャンブルをしたい気持ちが高まったり,しようと考えたりした日は黄色,ギャンブルをしてしまった日は赤色のシールを貼ります。「毎日続けていると,黄色信号に気づきやすくなりました。自分の状態に合わせて,対策を増やしたり減らしたりといった調整もだんだんうまくなった気がします」。
対応②:「居場所」を失った先に
Jさんにとって家の中にいると息苦しく,パチンコ店のホールだけが息がしやすい「居場所」でした。勝てないことが増えても行かずにはいられなかったのは,嫌な現実からの逃避としての意味合いが大きかったからだと振り返ります。息子がトラブルを起こすたびに関係者への謝罪に赴き,帰宅した夫に伝えていました。しかし,夫が息子を叱ることはなく,「親としての責任を放棄している」と憤りを感じていました。
カウンセリングでは,子育てを通して感じる無力さや夫に理解してもらえない寂しさなど,ネガティブな思いや気持ちがあふれました。静かに耳を傾けていたセラピストから,「それは,とても苦しかったですね……。それほど苦しい中で,よくここまでがんばられてきましたね」とねぎらいの言葉をかけられると涙がこぼれました。通院先の集団療法や自助グループでも,少しずつ,自分の心の内を話してみるようになりました。
あるとき,セラピストから「自分の『思い』によい悪いはありません。けれど,Jさんが苦しくなるのであれば,ご主人に対する違った見え方がないか探してみるのもよいかもしれませんね」と提案されました。半信半疑ながらも,セラピストとともに,夫との関係について,起きた出来事と自分の思いや気持ちとを区別しながら振り返ってみたところ,「ギャンブルにはまった自分を見捨てずに支えてくれており,息子のことも見放さない夫は,優しいとも言えるかもしれません」という言葉が自然に出てきました。
「なんとか家事や育児をこなすために,パチンコが必要だったということを受け入れるのはとても苦しかったです。でも,自分の嫌なところも出せる場所ができて,一人ではないと思えたから前に進めたのだと思います」。
2.ケース2「『冷静な自分なら勝てる』という思いはなかなか消えません」
学生時代からパチスロが趣味だというKさん(30代男性)が,ギャンブルにのめりこんだのは離婚後のことでした。ある日,パチスロ仲間から誘われて,自分なりに分析をして賭けた競馬のレースで100万円の配当を得ました。「勝った瞬間の強烈な快感は今でも忘れられません。借金を返して,ギャンブルの元手も稼げると思いました」と振り返ります。しかし,競馬を始めてから借金は急激に増え,1年足らずで500万円に達しました。
支払いに追われる日々の中で,競馬をしている時間だけは「支払いのために動いている」実感がありました。「借金を返すためには競馬で当てるしかないと思っていて,たまに勝つと借金の返済に充てていました。楽しいという気持ちはもはや感じられなくなっていました」。職場でのギャンブルが問題になり退職した後は,住む場所も失い路上で生活をしていました。「もう生きていても仕方ない……」とあきらめかけたときに,差し伸べられた手を握り,支援につながりました。
対応①:「脳汁」が出るような快感に抗う
たった数分間で100万円ものお金が得られ,「まさに『脳汁』が出るような快感でした。仲間からも評価してもらえて,競馬なら自分は勝てると思いました」と振り返ります。分析のために記録をつけていたKさんは,数字上のマイナスが増えていることを知っていましたが,負けたときはやり方が悪いせいだと考えて,情報を集めたり裏技を探したりして勝つまで賭け続けていたそうです。「500万円もの借金を抱えておかしいと思いますが,勝って大金を手に入れた快感はあまりにも強烈で……。今でも,借金は競馬で返せばよい,とふとした瞬間に思ってしまう自分がいます」。
カウンセリングでは,セラピストとギャンブルにつながりやすい「増やしてから支払いに回そう」という考えについて話しました。勝った経験や勝ちにつながる情報の存在など,正しいと考える根拠はどんどん出てきますが,正しくないとする根拠については頭を抱えました。沈黙の後,負けた経験や胴元が損をしない仕組みなどがぽつぽつ語られました。ギャンブルをやめる,減らすための別の考え方はなかなか浮かばずにいたところ,セラピストから,家族や友人などから言われた言葉にヒントがあるかもしれない,と促されました。「結局は損をする」,「支払わないと大変なことになる」などこれまでに聞いた言葉を挙げました。
Kさんは,「勝った経験があるので,『結局は損をする』という考えは受け入れがたいのが本音です。『借金を返済しないと大変なことになる』という考えの方が,自分も経験があるので納得感がありました。増やして支払いに回そうと思ってしまったときは,このときセラピストと話したことを思い出すようにしています」と教えてくれました。
対応②:借金がもたらす悪循環を断つ
競馬を始めたKさんの借金はどんどん膨れ上がり,日々,支払いの期限に追われて強い不安や焦りを感じていました。賭けているときだけは不安や焦りから逃れることができるため,自宅でも職場でも競馬から離れることができなくなりました。「それなりに順調に生きてきた自分がこんなことになるとは思っていませんでした。恥をさらすくらいなら死のうとも思いましたが,怖くなってしまい……。そんなときに,助けてくれる場所があることを教えてもらい,施設に入所することになりました」。
Kさんは当初,「借金の問題さえ片づけば,また仕事を探せばよい」と思っていました。けれど,同じ病気の仲間の話を聞いているうちに,「人に良い面ばかり見せようとしてだれにも相談できなかった自分の性格が変わらないと,また同じことが起きるかもしれない」と考えるようになったそうです。
共同生活に慣れてくると,共有スペースを汚したままにしたり,ミーティング中に寝ていたりする仲間が気になり始め,「自分に対する嫌がらせ」のように思えてイライラが強まりました。しかし,毎日顔を合わせて嫌々ながらも会話を続けるうちに,自分を害する意図はなく,単にだらしがない人だということに気がつきました。「『しょうがない人だな』と思えるようになると,イライラも小さくなっていました」。
「こんなに人と関わって生活したのは初めてのことでした。もしかしたら,これまでのイライラも,自分勝手な思い込みだったかもしれません。自分の思いや気持ちを打ち明けてみること,困ったときに助けを求めること。自分には必要ないと思っていたけれど,大切さを知ることができました」。
おわりに
今回は,嫌な現実を忘れられるという不快の消失(負の強化)の影響が大きかったというJさん,勝った瞬間の高揚感という快の出現(正の強化)の影響が大きかったというKさんのケースを紹介しました。2人がギャンブルにはまった理由は異なりますが,のめりこんでいく過程で,2人とも「ギャンブルによって生じた苦しさから逃れるためにはギャンブルしかない」という悪循環に陥っていきました。このような悪循環から一人で抜け出すことは非常に困難です。アディクションの反対語はコネクションとも言われているように,助けを求めたり相談をしたりすることによって新しい道が拓けることをぜひ心に留めておいてください。
文 献
- 久里浜医療センター(2024)令和5年度 依存症に関する調査研究事業「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査」報告書.久里浜医療センター.
- Raylu, N., & Oei, T. P.(2010)A cognitive behavioural therapy programme for problem gambling: Therapist manual. Routledge/Taylor & Francis Group.(原田隆之監訳(2015)ギャンブル依存のための認知行動療法ワークブック.金剛出版.)
浅見祐香(あさみ・ゆか)
目白大学心理学部 専任講師
資格:公認心理師,臨床心理士
神村栄一(かみむら・えいいち)
新潟大学人文社会科学系教授
資格:公認心理師,臨床心理士,専門行動療法士,博士(心理学)
主な著書:『教師と支援者のための令和型不登校クイックマニュアル』(単著,ぎょうせい,2024),『不登校・ひきこもりのための行動活性化』(単著,金剛出版,2019),『学校でフル活用する認知行動療法』(単著,遠見書房,2014),『認知行動療法[改訂版](放送大学教材)』(共著,NHK出版),『レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド』(共著,北大路書房,2013)など。
学生時代から40年におよぶ心理支援の実践はすべて,行動療法がベース。「心は細部に宿る」と「エビデンスを尊び頼まず」が座右の銘。「循環論に陥らない行動の科学を基礎とし,サピエンスに関する雑ネタやライフハックなどによる解消改善を要支援の方との協働で探し出す」技術の向上をめざしている。







