長行司研太(佛教大学)
シンリンラボ 第34号(2026年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.34 (2026, Jan.)
1.『大乱闘スマッシュブラザーズ』とは?
『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズ(任天堂)(以下,スマブラ)という対戦アクションゲームがある。マリオやカービィ,ピカチュウなど誰もが一度は聞いたことのある任天堂の人気キャラクターから,『ドラゴンクエスト』シリーズの勇者,『FINAL FANTASY Ⅶ』のクラウド,『ストリートファイター』シリーズのリュウやケンといったキャラクターまで,ゲームメーカーの垣根を越えて集まったキャラクター(このゲームでは「ファイター」と呼称される)たちが入り乱れて戦う。まさにゲームタイトル通り,「大乱闘」を体現したゲームである。
『スマブラ』『大乱(だいらん)』と略され,小中学生から大人に至るまで多くのファンを持つ人気の高いシリーズであるが,その歴史は長きに渡る。1999年にNINTENDO64で発売された第1作では選べるキャラクターも12体だったが,シリーズを重ねるごとにその規模も大きくなっていった。2018年にNintendo Switchで発売された最新作『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』では実に86体ものキャラクターの中から自分が操作するファイターを選べるようになっている。発売から丸7年が経った現在でもその人気は衰えず,SC先で出会う小中学生からもこのゲームを友人らと集まってプレイしている話や,友人の影響で自分も欲しいという話をしばしば耳にする。
このゲームのルールはとてもシンプルである。キャラクターを操作し,自分以外のキャラクターを必殺技やアイテムを駆使して攻撃する → 攻撃を受けたキャラクターはダメージが溜まっていく(ダメージは%表示され,%が高いほど同じ攻撃でも遠くまでふっとびやすくなる) → 画面の上や左右に大きくふっとばされる,もしくは下に落とされるなど,画面外に出ると負けとなりポイントを失う → 即座に開始位置に戻って復活し,また0%からスタートする……以上の流れを繰り返し,決められた時間で獲得ポイントを競う時間制や先に決められた回数負けると脱落するストック制などのルールで競い合うわけである。
イマイチわからないという人は,土俵を想像すると理解しやすいだろう。土俵から押し出した側は相手を土俵に戻すまいと追撃し妨害する。押し出された側は何とか土俵内に戻ろうと奮闘し抵抗する。そのふっとばしふっとばされる戦いを最大8人が同時に行うことで,さまざまな「土俵際の駆け引き」が際限なく生まれ続ける。こうした攻守が入り乱れるシーソーゲームのような戦いが,このゲーム独自の楽しさを生み出している。
さらに,このゲームには2種類の異なるベクトルの「面白さ」が混在しており,それら2つの側面が存在することによって多くの人の心に訴求していると考える。ではここから,それらの面白さについて考えていこう。

※画像は『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』の公式サイトより引用
2.「ワイワイ遊べるパーティーゲーム」としての面白さ
まず1つ目は,パーティーゲームとしての側面である。アクション,しかも戦うゲームということで,人によっては少し敷居が高く感じられるかもしれない。もちろんある程度操作に慣れる必要はあるが,スティック操作とボタン一つで攻撃や必殺技が繰り出せる簡単操作に加え,強力なアイテムを拾うことで大逆転が可能となるなど運の要素も多く含まれており,初心者でも気軽に楽しめるつくりとなっている。また,複数人でプレイするときは,強い者同士が戦い合うのを尻目にひたすら逃げて,生き残ることを目指すなどの戦い方もできる。ハンデをつけることもできるので,初心者が上級者と一緒に楽しむことは十分可能である。
実際に,毎晩両親と兄と家族4人でスマブラを対戦することが「いちばんの楽しみ」と語った小学校低学年女児Aと出会ったことがある。兄や父親はゲームに慣れていて強いが自分もたまに勝てることもあり,あまり上手じゃない母親もAも笑いながら楽しんでいるとのことであった。スマブラは,友人同士で遊んでいる話を聞くことが多いが,このケースのように家族のコミュニケーションに一役買っている場合もある。
また,別の小学校高学年男児Bのケースでは,新しくスマブラを始めた友人と一緒に楽しむために,相手に気づかれないように絶妙に力を加減しているという話が語られた。それはいわゆる「接待プレイ」と呼ばれるものだが,今まで他のゲームをやっている時にはその発想はまるでなかったらしく,Bはなるべく勝ちたいという思いでいろいろなゲームをプレイしてきたそうであった。しかし,スマブラでは,友人にもこのゲームの楽しさを知ってハマってほしい,いきなりボコボコにして嫌になってほしくないという思いで,Bは初めて相手に合わせて力を加減することを覚えたのである。これは,Bが(少なくともゲーム場面においては)今までに持ち合わせていなかった「相手目線で考える」という視野の広がりであり,心の成長といえるだろう。ちなみにBは手加減はするが負けたくはないそうで,最後はちょっと本気を出してしっかり勝つとのことであったが,悔しがりながらも楽しそうな友人を見て嬉しく思っているとのことであった。
このようにスマブラは,子どもも大人も,初心者も上級者も一緒にプレイできる遊びの幅を持ち,勝ち負けを超えてそれぞれの楽しみ方を得られるゲームだといえる。
3.「本気でぶつかり合う対戦型格闘ゲーム」としての面白さ
2つ目は,対戦型格闘ゲームとしての側面である。スマブラは,『ストリートファイター』シリーズ(カプコン)に代表される対戦型格闘ゲームの「体力がゼロになったら負け」という基本ルールとは異なる前述のルールを持つ。そのため,似て非なるものとして別のゲームジャンルにカテゴリーされることが多いが,そこには共通点も多く存在する。
1対1で戦い,目の前の敵を倒すことに全力を注ぎ,ストイックに勝ちを求める。敵を倒すために修行をし,効率よく敵を倒すためのコンボ(連続攻撃によるコンビネーション)を研究し,自分の腕をひたすら磨く。そうした対戦型格闘ゲームにおける反応速度と判断力を鍛える過程を大島(2025)が「鍛錬」と表したように,スマブラでもそうした格闘ゲーム的楽しみ方が可能となっている。
そこでは遊びとしての要素は薄れ,対戦は「試合」とも呼ぶべきものとなり,真剣勝負の色合いが濃くなる。スマブラには,オンラインで世界の強者と戦い,自分のランクを上げていくモードも搭載されており,その対人戦をひたすらプレイし続けている人もいる。そうした人たちのゲームプレイは,同じゲームとは思えないほど洗練された無駄のない立ち回りの応酬なのである。
前述のBも初心者の友人に合わせて一緒に楽しむというプレイをしていたが,一方で,以前からスマブラを共にプレイし続けてきた友人と2人でプレイするときやオンラインモードで世界中のプレイヤーと戦うときには,1対1の真剣勝負を楽しんでいるとのことだった。B曰く「その時は自分の中で入れるギアが違う」とのことで,自分の中で明確に意識を切り替えているようだった。
「いくらでもやり込める」「限界が見えない」と語る中学生もいるくらい,ゲーマーとして飽くなき研究と努力を積み重ね続けることが可能なのも,スマブラの奥深さといえる。
4.遊びと本気の交差点
ここまで述べてきたように,スマブラには2つの異なる側面が存在し,それがプレイヤーの腕前や気分によって自然と選べるようになっている。
前述のBも真剣勝負に少し疲れたときは,その相手と気軽に息抜きのような気持ちで戦うことに興じ,初心者の友人と一緒にプレイするときと同じ感覚で楽しんでいた。「どっちも楽しいし,どっちも大事」と語るBにとっては,スマブラというひとつのゲームの中でどちらもできるということに意味があるのだろう。
また,スマブラに登場するキャラクターたちを通して過去のさまざまなゲームを知る小中学生も多く,このゲームをきっかけにして数十年にわたるゲームの歴史を感じることも可能である。日本のゲーム史を体現するスマブラは,子どもと大人をつなぎ,初心者と上級者をつなぎ,そしてゲームの過去と未来をつなぐ,そんな稀有なゲームといえる。
間口は広く,奥行きは果てしなく……スマブラは遊びと本気の交差点として,これからもさまざまなプレイヤーが共存する場として存在していくだろう。
文 献
- 大島崇徳(2025)己と向き合う 対戦型格闘ゲーム.In:長行司研太・笹倉尚子ほか(著):いま,カウンセラーはゲームに夢中な子どもたちとどう向き合えばいいのか?―つながる,わかる,支えるための心理臨床の視点.遠見書房,pp.134-142.
長行司研太(ちょうぎょうじ・けんた)
所属:佛教大学,京都府/市スクールカウンセラー
資格:臨床心理士,公認心理師
サブカルチャーと心理臨床の接点を探求する「サブカルチャー臨床研究会(さぶりんけん)」副代表。
主な著書に『いま、カウンセラーはゲームに夢中な子どもとどう向き合えばいいのか?─つながる、わかる、支えるための心理臨床の視点』(共著,遠見書房,2025),『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。






