河西有奈(医療法人秀山会 白峰クリニック)
シンリンラボ 第22号(2025年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.22 (2025, Jan.)
1.当院の心的外傷(トラウマ)を有する方への支援体制
筆者の勤める精神科クリニックは,多機能型診療所として地域と密着し,地域や社会のニーズに応えた様々な治療・支援を多職種チームで行っている。クリニックには,様々な精神症状の方が受診するが,当院では特に,うつ症状,不安症状,依存症などの相談が多く,その症状の背景には,過去の心的外傷,すなわちトラウマの影響を有している場合が少なくない。そのようなケースには,医師の診察や症状に対する薬物治療だけでなく,心理カウンセリング,集団療法,デイ・ケア,ワーカー相談,訪問看護,作業療法等々,多職種スタッフによる様々な治療・支援のアプローチが積極的に活用されている。
特に2024年6月の診療報酬改定において,公認心理師が行う心的外傷の支援に対する「心理支援加算」が新設された。この改定を機に地域から寄せられた問い合わせに応えるべく,当院では,医師と心理職を中心に「トラウマ治療プロジェクトチーム」が立ち上げられた。日常の業務に加えてプロジェクトチームの活動があるので,多忙なことは言うまでもないが,多職種協働において心理職の活躍が期待されるトラウマの問題に,意欲と熱意をもってやれば職場が積極的に後押ししてくれることは,筆者にとって現職のやりがいでもあり魅力でもある。
2.トラウマインフォームドケアにもとづく心理カウンセリング
トラウマ反応とは,身体的・性的暴力,災害,重大な事故,虐待もしくは犯罪被害など,深刻なトラウマ体験によって生じる反応のことを指す。トラウマを有する方への心理支援の基本は,トラウマインフォームドケア:TIC(Trauma-Informed Care)にもとづくアプローチ1)が基本となる。一対一の心理カウンセリングでは,過去の体験について話したいその方の気持ちやタイミングに配慮しながら,現実生活の安全や心身の健康を守りつつ,トラウマ反応や症状に対する自己理解を支援する。また,トラウマ反応によって引き起こされる困難さ,生きにくさ,現実的な問題等を共感的に理解し,その方にとって,安心して話せる場・存在になることがもとめられる。
トラウマを有する方が,人への信頼感がもちにくかったり,人と安定した関係性をもつことが困難だったりする場合もあるが,支援者と一対一の信頼関係が築けることは,孤立を避ける大切な第一歩となる。過去は変えることはできないし,例えば家庭内での虐待があった方の家族歴を変えることはできない。過去の変えられないことや解決できないことに寄り添うことも大切な心理支援の一つである。
1)トラウマインフォームドケア,TIC(Trauma-Informed Care)とは,トラウマとは何か,その経験がどのように個人に影響を与えるかを理解し,トラウマ経験がその人の健康に与える影響を認識し,それに対応するための医療やケアのアプローチのことをいう。
3.多職種連携・多機関連携による支援
筆者の臨床現場では,TICにもとづく心理カウンセリングの他に,現在の生活,健康,家族関係等を安心,安全なものにしていくための多職種による支援を同時に行うことも重視している。例えば,単身で子育て中の女性で,過去に虐待を受けた経過をもち,複雑性PTSDの症状に苦しむ方への支援では,症状によって仕事が困難な場合の経済的なサポートは必須であるし,外部関係機関による生活支援や子育て支援も大切である。
当院の場合,医師より初めに心理職にカウンセリングや心理アセスメントのオーダーが出される場合,心理職がコーディネーターとなって,院内他職種の支援につなぐことも多い。また,必要に応じて外部の生活支援や子育て支援の関係機関につないだりすることもある。集団療法などのグループや,デイ/ナイト・ケアは治療的に大きな力をもっているが,人への怖さや不安感が強い方にとって,一歩踏み出すことは簡単ではなく,そこに「架け橋」としての個別の心理カウンセリングが治療・支援の展開に役立つことがある。
心理職として,トラウマ治療を支援する最初の一対一の信頼関係を築くそのアプローチやスキルは,日々自己研鑽のもと力をつけていかなくてはならないが,同時に,必要な治療・支援を行う多職種,多機関に「つなぐ機能」も重要であることを近年痛感している。このように自身のできること,職域,専門性を拡げていくことができる臨床現場であることが,筆者にとっては大きな魅力である。
河西 有奈(かさい・ありな)
所属:医療法人秀山会 白峰クリニック
資格:公認心理師・臨床心理士
主要著書
河西有奈(2024)アディクション臨床における社会的力の影響.(分担執筆:こころの科学 心理臨床と政治.)
河西有奈(2021)保健医療分野におけるアディクション.(分担執筆:心理学からみたアディクション.朝倉書店.)
河西有奈(2020)(分担執筆:心理職の心理検査における役割.In:日本精神神経学会・多職種協働委員会編:多職種でひらく次世代のこころのケア.新興医学出版社.)
河西有奈(2019)(分担執筆:第Ⅱ部 共助で支える|医療的連携.In:実践アディクションアプローチ.金剛出版)






