石川悦子(こども教育宝仙大学)
シンリンラボ 第35号(2026年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.35 (2026, Feb.)
1.スクールカウンセラーの法的位置づけ
近年,日本の学校現場において,児童生徒の心理的課題はますます多様化・複雑化している。不登校やいじめ問題,学習上の不安,友人関係の葛藤に加え,発達障害や家庭環境の問題,さらにはインターネットやSNSに起因する心理的ストレスなど,子どもたちが抱える問題は従来の枠組みでは十分に支援しきれないものとなっている。このような背景の中で,心理の専門家として学校で働くスクールカウンセラー(以下,SCと略記)は,学校に不可欠な存在として制度的にも定着してきたといえる。この過程において2017(平成29)年の学校教育法施行規則改定で,同法第六十五条の三に「スクールカウンセラーは,小学校における児童の心理に関する支援に従事する」と明記されたことは大きなことであった。
また,SC等活用の運用に当たっては,文部科学省初等中等教育局長決定「スクールカウンセラー等活用事業実施要領」(平成25年4月1日制定,最終改定令和6年4月1日)が公表されており,そこには,本事業の趣旨,実施主体,SC等の選考,事業内容,事業計画書の提出,費用,その他の留意事項が記載されている。ただし,本事業は国庫1/3の補助事業であり,各自治体によってSCの配置時間は大幅に異なる。表1は筆者ら(日本臨床心理士会,2023)が実施した調査結果からまとめたものであるが,臨床心理士数が1,000人以上の人数規模が大きい自治体ではSC勤務時間が7時間/回が71.4%であるが,400人以下の小規模の自治体ではSC勤務4時間/回が60.4%であり,7時間/回は15.4%に留まることが明らかとなった。また,年間の活動日も,週5日の常勤配置が実現している地域もある一方,年間数回から70回以上と大きな幅がある現状が続いている。
表1 自治体の規模とSCの勤務時間
(都道府県内の臨床心理士数による小・中・大規模地域)
| 勤務時間 | 全体 | 小規模 (1~400人) | 中規模 (401~1,000人) | 大規模 (1,001~) |
| 全体(上段:人 下段:%) | 4995 | 1490 | 879 | 2626 |
| 100.0 | 29.8 | 17.6 | 52.6 | |
| 7時間以上 | 2187 | 337 | 288 | 1562 |
| 100.0 | 15.4 | 13.2 | 71.4 | |
| 5~6時間 | 1690 | 478 | 295 | 917 |
| 100.0 | 28.3 | 17.5 | 54.3 | |
| 4時間以下 | 1118 | 675 | 296 | 147 |
| 100.0 | 60.4 | 26.5 | 13.1 |
日本臨床心理士会(2023)スクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーの常勤化に向けた調査研究.文部科学省令和4年度いじめ対策・不登校支援等推進事業報告データより
2.職業としてのスクールカウンセリングが抱える課題
SCは,児童生徒に対する個別の心理的支援に加えて,保護者への助言・援助,教職員へのコンサルテーション,予防開発的な取り組みや校内研修,学校危機対応など様々な活動を行っており,心理アセスメントに基づいた支援や,学校組織全体を視野に入れた働きかけを行う点に特徴がある。また,教育委員会や外部機関との連携を通して,学校内外をつなぐ役割を果たすことも少なくない。このような活動は,子どもひとりひとりの成長を支えるだけでなく,学校全体の教育環境や相談体制を安定させることにも寄与している。1995年のSC活用調査研究委託事業(当初の配置は154校)から30年が経過し,配置校数は2万7千校以上へと広がったが,職業として考えた場合にはいくつかの構造的な課題が存在する。
まず挙げられるのは,雇用の不安定さである。大多数のSCは非常勤として採用されており,複数の学校を掛け持ちし,さらに学校以外の心理職を兼務する場合が多い。公立学校の場合は会計年度任用職員で契約は単年度であり,長期的なキャリア形成が難しいという問題がある。このような雇用形態は,専門職としての継続的な実践や,学校や子どもたちとの信頼関係の構築にとって必ずしも望ましいものとはいえない。
次に,学校における役割や専門性の理解不足が挙げられる。SCは学校組織の一員でありながら,教員とは異なる立場で活動するため,場合によっては「子どもたちの問題行動をすぐに解決する人」や「特定の子どもを担当する人」と誤解されることもある。その結果,十分な情報共有が行われなかったり,専門性を生かした提案が学校運営に反映されにくかったりする状況が生じている。
さらに,業務負担の偏りや孤立の問題もある。SCは一人職場であることが多く,同職種との継続的な相談や助言を受けにくい環境に置かれることが多い。また,限られた勤務時間の中で多くの事案に対応する必要があり,勤務時間との関係で十分な支援が行えないというジレンマを抱えることも少なくない。他方,一人職場であるためにSC自身が独りよがりになり,自己点検がうまく機能していない場合もある。
3.SC常勤配置の例
名古屋市では,子どもの自死事案を契機に常勤SCの配置が進められた。2014年度に同市に設立された「なごや子ども応援委員会」が中心となって,市内をブロックに分けて中学校11校(現事務局校)に常勤SC,常勤SSW,スクールアドバイザー(現スクールセクレタリー),スクールポリスの4職種を配置するチーム支援体制を開始した。その中で,市立全中学校110校に常勤SCが配置され,また,市立高等学校と特別支援学校を担当する高校・特支ブロックが加わり現在は17ブロック体制で本事業が構造化されている。また,常勤SCは,地域内の小学校に配置されている非常勤SCの相談等にも応じている。
本事業で特長的なのは,「チーム会議」の定期開催である。毎週半日程度,事務局校にSCやSSW等のブロック全職員が集まりチーム会議が開催されている。さらに,SCやSSWを経験した専門職の主任総合援助職が2020年度より子ども応援課に配置され,ブロックの運営・統括や,職員の育成,緊急事案発生時の指揮,重大案件の早期対応等役割を果たしている。このチーム会議及びチーム支援の目的は,未然防止,早期発見・早期対応,個別対応等を行うことや課題解決や困難の軽減である。筆者もこのケース会議を見学させていただいたことがあるが,さまざまな情報共有がなされ,お互いにエンパワーされている印象を持った。また,常勤SCの工夫として,常勤であるが故に教職員との同僚性が高まり却って専門的な意見が言いづらくなるなどジレンマが生じることもあるが,このチーム会議において意見交換することで客観性の担保にも繋がるという感想を聞いた。加えて,本市の学校管理職等からも話を伺ったが,このようにSCの配置日数を増設する折には,地区全体としてSCを有効に活用するためのスキームを構築することが重要であることが指摘された。
4.今後の展望
職業としてSCが抱える課題を踏まえた上で,今後の展望としていくつかの方向性が考えられる。
1つ目は,制度面における改善である。SCの常勤化や配置時間の拡充等により,SCが安定した立場で学校に関わることができれば,より継続的かつ効果的な支援が可能になると思われる。また,校内における役割や権限を明確化し,学校運営に参画する機会を増やすことも重要である。具体的には,全校にSCを週2回(1日7時間程度)配置し,拠点校には SCを常勤配置して即時的対応を可能とする体制が必要と考えている。前出の令和3年度調査では,都道府県・政令指定都市教育委員会(61)の内,「現在の SC配置で十分」と回答した教育委員会は皆無であった。また,心理教育の継続実施のためには,SCの勤務時間増や資質向上,教職員の研修機会の確保等が必要であるという結果を得た。令和4年度調査によれば,SC勤務時間は 7時間以上が 43.9%,5−6時間が 33.9%,4 時間以下が 22.2%であり(回答数 SC4,995 名),7時間以上は全体の5割以下であった。子どもたちへの個別支援(直接支援),教職員へのコンサルテーション(間接支援)や学校全体へ活動を視野に入れた時,週2日勤務を実現する必要がある。
2つ目は,チーム学校の視点に立った連携と役割分担の強化である。SCは,学校管理職,教職員,養護教諭,スクールソーシャルワーカー(SSW)などと協働しながら,子どもを多面的に支援する存在である。そのためには,定期的なケース会議や情報共有の仕組みを整え,専門職同士が対等に意見交換をしながら役割分担を行う関係性を築くことが必要である。このような連携が進むことで,SCの専門性もより明確に位置づけられていくと考えられる。
3つ目は,SCの専門性向上とキャリア形成の課題である。研修やスーパービジョン体制の充実によって実践知の共有の場を設けることで,質の高い支援を継続的に提供できる体制をさらに充実させることが可能となる。また,学校臨床に特化した専門性を社会的に評価する仕組みが整えば,職業としての魅力や持続可能性も高まると考えられる。
以上,SCは多くの課題を抱えながらも,社会や家庭の多様化にともない今後ますます必要とされる職業といえる。子どもたちの心の問題が深刻化する現代社会において,SCが専門性を十分に発揮できる環境を整えることは,教育全体の質を高めることにつながる。制度的支援と現場理解の両輪によって,SCという専門職がより確立されたものへと発展していくことが期待される。
文 献
- 日本臨床心理士会(2022)スクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーの常勤化に向けた調査研究.文部科学省令和3年度いじめ対策・不登校支援等推進事業報告書.
- 日本臨床心理士会(2023)スクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーの常勤化に向けた調査研究.文部科学省令和4年度いじめ対策・不登校支援等推進事業報告書.
- 日本臨床心理士会(2024)スクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーの常勤化に向けた調査研究(概要版).文部科学省令和5年度いじめ対策・不登校支援等推進業.https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/20241225-app_dev04_1.pdf(2026年1月閲覧)
(いしかわ・えつこ)
こども教育宝仙大学教授こども教育学教授
東京公認心理師協会理事・教育分野委員長
スクールカウンセラー(公立学校・私立学校)22年間
文部科学省いじめ対策・不登校支援等推進事業「スクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーの常勤化に向けた調査研究」令和3・4・5年度研究代表
こども家庭庁いじめ調査アドバイザー






