【特集 スクールカウンセリング30年】#04 困難の予防・早期対応に関わるプロアクティブな実践|雲財 啓

雲財 啓(京都橘大学)
シンリンラボ 第35号(2026年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.35 (2026, Feb.) 

1.スクールカウンセリングにおけるプロアクティブな実践の広がり

1)相談中心の実践から広がる活動領域

1995年に公立学校へのスクールカウンセラー(以下,SC)の派遣が開始されて以降,学校における心理支援は広がりを見せてきた。導入当初のSCの役割として期待されていたのは,困難を抱える児童生徒や保護者,教職員への個別的な関わりであった。このことは,学校という場において,心理職が関わるのは困難が顕在化した対象へ個別的に関わる専門職であると理解されてきたことを示しているだろう。

一方,社会の変化と連動して,学校が抱える課題は複雑化・慢性化し,心理的側面から考慮していくことも増えていった。このような変化の中で,SCは児童生徒の個別の事情だけでなく,クラスや学校といった集団からの影響や,困難が大きくなったり深刻になったりするより前に関わることも増えてきた。つまり,SCの心理支援が広がる中で,個別だけでなく集団への関わりも求められ,さらにその関わりは困難が顕在化するより前,あるいは困難が生じた早期に求められるようになっていったと考えられる。

2)求められるプロアクティブな実践

このようなプロアクティブな実践が求められていることは,近年の状況を踏まえて改訂された生徒指導提要でも示されている。具体的には,日常の生徒指導を基盤とする発達支持的生徒指導,および,組織的・計画的な課題未然防止教育がプロアクティブな実践に該当し,どちらも全ての児童生徒を対象としたものである(文部科学省,2022)。児童生徒の発達を支える働きかけを行ったり,生徒指導の諸課題の未然防止のための教育プログラムに協働したりすることがSCにも求められていると言えるだろう。

また,SC活動の基本的な業務として,ストレスへの対処や予防開発的心理教育が挙げられ,ニーズの把握や管理職の理解,教職員との協働など,学校教育と一体的に展開することの重要性が指摘されている(一般社団法人日本臨床心理士会,2023)。このことからも,SCに基本的に求められていることの一つとして,困難の顕在化よりも前,あるいは困難の生じた早期に,プロアクティブな実践を通した集団への関わりであることが分かる。

2.これまで行われてきたプロアクティブな実践

1)心理教育・心の健康教育の定義

ここまで見てきたプロアクティブな実践は,「心理教育」や「心の健康教育」のように呼ばれてこれまでも実践されてきた。その定義は,生徒たちを対象とした傾聴や自己主張などの対人関係に関するスキルを教授することに焦点を当てた教育フレームからの広い意味でのカウンセリングのアプローチ(岡林,1994),学級内全ての児童生徒を対象とした心理的問題の解決に役立つことを目的に行われる主として教育実践者を施行者とする教育活動(市橋,1999)とされている。つまり,心理的問題の解決に役立つようなスキルを教授することで,児童生徒の発達を支えたり様々な困難の顕在化や深刻化を予防したりしている。

このように定義されるプロアクティブな実践について,SCはアセスメントや実践内容の吟味を通して,教職員と協働して関わっていくことになる。

2)これまで行われてきた実践

実際に行われてきた心理教育・心の健康教育は多種多様に展開され,様々なスキルに焦点が当たっている。例えば安達(2012)は2010年までの実践を取り上げ,実践の初期においては自己実現や洞察が取り上げられており,ストレスの軽減や対人関係のつまずきの予防,ストレスマネジメント等,実用的な目的で実施されることが増えていったことを指摘している。

また,比較的アクセスしやすいインターネットに公開されている研究に限定しても,例えば,小学校で実践されてきたものとして,ソーシャルスキルの向上(藤枝ほか,2001),援助要請に関わる態度やスキルの向上(新井ほか,2022),中学校で実践されてきたものとして,ストレスマネジメントプログラム(三浦ほか,2003),抑うつ予防(堤,2015),ストレスマネジメントに加えて困難を乗り越える力の増強(中野ほか,2020)などが挙げられる。

このように,これまで様々な形でプロアクティブな実践は取り組まれており,近年になってその必要性が明文化されてきていると言える。

3.プロアクティブな実践を進めていくための課題

ここまで確認してきたように,心理教育や心の健康教育のようなプロアクティブな実践は,心理的問題の解決に必要と思われる様々なスキルに焦点を当て,多くの場合は授業の一環として展開され,現在では明文化されてその必要性が述べられている。ここからは,SCがこのようなプロアクティブな実践にさらに深く関わっていくために課題と考えられることについて述べていく。様々な観点があると思われるが,著者の経験から①構造,②機能,③意識の3点でまとめている。

1)構造的課題:授業としての評価

プロアクティブな実践の課題の一点目として,構造的観点から授業としての成績評価という内容でまとめる。

これまで多くの実践が授業時間を利用して行われてきているが,今後このような実践をさらに展開していく際には,実践する時間の確保が必要になってくるだろう。その際に考えなければならないことの一つとして,「プロアクティブな実践を授業時間に実施した時,その内容がどのように評価に関わるのか」ということが挙げられる。

現在のプロアクティブな実践の多くが授業時間を活用していることは先に述べたが,授業時間に実施すればそれは学習活動の一環である。学習活動は決められた課程があり,学習内容が定着したかどうか等の評価を抜いて考えることはできない。実践の時間があまり多くない場合には,管理職や教職員でうまく運用できる部分もあると思われる。一方,実践の時間が多くなる場合には,SC自身が評価に関わることはないとしても,授業としてかけた時間が増えた分は評価に関わる部分も増える。このような評価の観点を十分に考えないまま協働しようとすることは,ともすると学校の教育活動の妨げになりかねない。

したがって,現在のプロアクティブな実践をより広く展開するための時間として,授業時間を確保していくのであれば,その実践が学習活動においてどのような位置づけなのか,今以上に連携していくことがSCには求められるだろう。実施しようとしている実践が学校の教育活動としてどのように位置づけられるか,管理職だけでなく協働することが不可欠な担任等の教職員とも積極的に連携していくことで,プロアクティブな実践が地に足ついたものになる。

2)機能的課題:実践の効果

プロアクティブな実践の課題の二点目として,機能的観点から実践の効果という内容でまとめる。

時代や社会からの要請に応じて,様々なプロアクティブな実践が行われてきた。これらの多くは,上に紹介したような研究として公表され,各地域や学校の事情に合わせる形で取り組まれてきた。効果的な実践も数多くあるが,「どのくらいの効果があるのか」という観点でこれらの実践を検証することも忘れてはならないだろう。ある実践を開発したり公表したりした時点では効果的だったとしても,時代の変化とともに実践の内容が効果的なものかを検討する必要がある。

このような実践の効果について,慎重に検討する必要があることが指摘されている。小林(2024)は図1のモデルを用いて,授業時間を借りて授業形式で進められる各実践について,例えば,実践自体の効果だったのか,クラス集団での関わりの効果だったのかを分けて検討しなければ,本当に実践が効果的なものであったかどうか不明確になるとしている。

図1 介入実践を介した学校の授業と介入プログラムの結びつき(小林,2024)

今後プロアクティブな実践がさらに広がっていくことを踏まえれば,SCは学校のニーズを把握し,アセスメントを的確に行った上で,その学校やクラスにとって効果的な実践に関わっていくことが求められるだろう。これまでやってきた実践を精査することなく繰り返すだけでは十分とは言い難く,実践の効果を検討する観点がSCには必要である。

3)意識的課題:集団に関わる意識

プロアクティブな実践の課題の三点目として,意識的観点から集団に関わる意識という内容でまとめる。

SCが導入された頃の経緯,SCの専門性が個別具体的な関わりを出発点としていることなどから,児童生徒,保護者,管理職,教職員のように,単独の対象に関わることがSCに求められてきた。このような関わりは,SCの基本的な業務に「児童生徒へのカウンセリング」,「保護者への助言・援助」,「教職員へのコンサルテーション」などが挙げられている通り(一般社団法人日本臨床心理士会,2023),今後もSCに求め続けられる業務の一つであり,これらの業務に関わる専門性をより高めていくことはSCとして欠かすことはできない。

しかし,カウンセリングやコンサルテーションなどの個別への関わりだけではなく,プロアクティブな実践などの集団への関わりが求められ明文化されていることは先に触れた通りである。これまで求められてきたこととは異なることにチャレンジする必要があり,それはSCも教職員も同じである。SCは,学校やクラスのアセスメントに基づいてプロアクティブな実践の必要性を伝えていくこと,あるいは,学校やクラスのニーズに合わせてプロアクティブな実践を行うよう協働していくことが求められている。

4.プロアクティブな実践を展開するためにSCとして必要なこと

ここまでプロアクティブな実践を展開していく際に考えられる課題を構造,機能,意識それぞれの観点からまとめた。最後に,このような状況に対して,プロアクティブな実践を広めていくためにSCに求められることを私見として二点述べる。

一点目は行動することである。これまで行われてきたプロアクティブな実践もそうだが,実践したからこそ課題が明確になってきた。自身の価値判断だけで実践の効果の有無を決めることはできない。専門性に基づいて根拠をもって取り組み,仮にうまくいかなかったり周囲と齟齬が生じたりしてもあきらめずに取り組むことで,児童生徒や学校にとって有意義なプロアクティブな実践にしていくことができる。

二点目は仲間とコミュニケーションを取ることである。SC一人でできることは,特に集団への関わりにおいては多くない。SCは学校での活動について教職員と考えを共有したり議論したりしていくことで,学校で行われる教育活動に主体的に関わることができる。

文  献
  • 安達知郎(2012)学校における心理教育実践研究の現状と課題―心理学と教育実践の交流としての心理教育.心理臨床学研究,30 (2); 246-255.
  • 新井雅・余川茉祐(2022)小学生に対する援助要請に焦点を当てた心理教育プログラムの効果研究—自殺予防教育への示唆.教育心理学研究,70 (4); 389-403.
  • 藤枝静暁・相川充(2001)小学校における学級単位の社会的スキル訓練の効果に関する実験的検討.教育心理学研究,49 (3); 371-381.
  • 市橋直哉(1999)学校における心理教育的アプローチの構造—形式的側面を中心にして.東京大学大学院教育学研究科紀要,39; 245-253.
  • 小林敬一(2024)授業をベースにした心理教育的介入プログラムの効果判断—『教育心理学研究』実践研究論文の現状と課題.教育心理学研究,72 (3); 197-208.
  • 岡林春雄(1997)心理教育.金子書房.
  • 三浦正江・上里一郎(2003)中学校におけるストレスマネジメントプログラムの実施と効果の検討.行動療法研究,29 (1); 49-59.
  • 文部科学省(2022)生徒指導提要.
  • 中野有美・鋤柄増根・志村尚理ほか(2020)こころのスキルアップ教育が新入生に及ぼす影響—Q-Uを用いた中学校での探索的研究.教育心理学研究,68 (1); 66-78.
  • 日本臨床心理士会(2023)文部科学省令和4年度いじめ対策・不登校支援等推進事業報告書 スクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーの常勤化に向けた調査研究—SC5,213名の調査結果から.
  • 堤亜美(2015)中学・高校生に対する抑うつ予防心理教育プログラムの効果の検討.教育心理学研究,63 (3); 323-337.
+ 記事

雲財 啓(うんざい・さとし)
京都橘大学総合心理学部助教
資格:公認心理師,臨床心理士
主な著書:「スクールカウンセラーのワーク・ライフ―お金・結婚・キャリアと相互作用」In:伊藤正哉・山口慶子・榊原久直(編)『心理職の仕事と私生活』(分担執筆,福村出版,2023)

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