私の臨床現場あるある(2)スクールカウンセリングの領域から|石川悦子

(こども教育宝仙大学/私学SC)石川悦子
シンリンラボ 第2号(2023年5月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.2 (2023, May)

多様化・高度化

児童虐待や若年層の自死は高水準で推移し,また,不登校児童生徒数は増加の一途を辿っており2021年度は24万4,940人で過去最高であった。社会や経済の変化にともない,子どもや家庭,地域社会の在り様も変容し,子ども達を取り巻く環境が複雑化・多様化している。

そのなかで,スクールカウンセラー(以下,SC)に求められる役割も多様化・高度化している。とくに,児童生徒への直接支援だけでなく,教職員との行動連携やチーム対応,保護者への助言・援助を確実に行うことが求められる。さらに,学校の教育相談機能の充実に寄与し,『生徒指導提要』(2022)に示された常態的・先行的な活動「発達支持的生徒指導」「課題未然防止教育」に貢献することも職務といえる。

SCの活動時間の拡充は喫緊の課題

SCは,週1回4~7時間の非常勤の場合が多い。最近は,常勤SC(週5日)が採用される地域も出てきたが,年間10回程の巡回方式の地域もある。SCは小中全校配置へと広がったが,「SCの勤務時間が限られており柔軟な対応がしにくい」という指摘もあり,SCの配置時間拡充は喫緊の課題である。都道府県・政令指定都市教育委員会対象に実施した調査(2022)では,SCに期待する役割を果たすために必要なこととして「SCの配置時間増」を91.8%の教育委員会が望んでいた。

コンサルテーションとエンパワメント

最近の学校現場は,保護者からさまざまな要望が教員に寄せられる事案が増えており,例えばいじめ問題では,被害側と加害側の家庭から多様な意見や要望が寄せられて,学校管理職や教職員が対応に追われるケースも珍しくない。これらの課題に対して,担当教員は「自分で解決しなければ」と複雑な思いを抱え込む場合も多い。SCは,教職員の心身状態や置かれている状況に配慮しながら,教員をエンパワメントする必要がある。その上で「チームとしての学校」を意識したコンサルテーションが求められる。

多面的・多元的なアセスメント

子どもたちが抱える問題を理解するときに,BPSモデル〈生物(Bio)-心理(Psycho)-社会(Social)〉が役立つ。例えば,不登校傾向の子どもを理解するときに,次のような観点からアセスメントする。

【生物的側面】疾病や障害の可能性,睡眠や生活リズムや身体の動き等の確認。

【心理的側面】緊張や不安の高まり,深い挫折体験による自尊感情が低下の有無等。本人は今の状況をどう捉えているか。

【社会的側面】家族や友人関係におけるトラブル,学業・進路上の困難等の有無。保護者の生活状況を含め,家庭や学校の環境はその子を支えられているか。

保護者の生活状況を含め,家庭や学校の環境はその子を支えられているか。以上のような観点から多面的・多元的にアセスメントしながら支援の手立てを見極めていくことが重要である。

具体的方略

上記のように,BPSモデルを基本にしながら本人は元より保護者や教員・養護教諭等から情報収集していくと,不登校傾向という事象の背後に疾病が関係していたり,家族関係の急な変化による悩みがあったり,いじめ問題や児童虐待が潜んでいたりすることもあり,本人の在り様が立体的に見えきて,その後の対応や教職員間のチームワーク,外部機関との連携にも見通しが立つことが多い。その際に次の観点も大事にしたい。

1)子ども自身の意向をよく確認する。

2)情報を関連付けて仮説を立てる。

3)優先課題と支援目標を見定める。

4)チーム会議においてゴールイメージを確認しつつ役割分担を決め具体的方略をもって活動する。

さいごに

最後に,筆者も20年間ほどSC活動を継続しているが,そのなかでいつも思うのは,子どもの逞しさであり,生きる力の素晴らしさである。例えば,ある時期不登校となっても,周囲のサポートを受けながら次の居場所を必ず見つけていく。そういう子どもたちにたくさん出会ってきた。

ただし,その間を支える保護者や関係の教職員もまた,子どもと同じように葛藤や焦りを抱え苦しい日々を過ごしている。

それらの思いを受け止めつつ,一緒に考えながら伴走させてもらう,それがSCの役目であると思う。

だからこそ,SC自身も仲間が必要であり相互研鑽が不可欠である。身分の不安定なSCの待遇改善とともに,SCが集えるプラットホームを築きSC活動という専門分野の確立に,今後とも微力ながら寄与していきたいと考えている。

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(いしかわ・えつこ)
こども教育宝仙大学教授こども教育学部長
東京公認心理師協会理事・教育分野委員長
2002年よりスクールカウンセラー(公立学校・私立学校)
文部科学省いじめ対策・不登校支援等推進事業「スクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーの常勤化に向けた調査研究」令和3年度・4年度研究代表

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