福田憲明(明星大学)
シンリンラボ 第35号(2026年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.35 (2026, Feb.)
1.はじめに
公立学校にスクールカウンセラー(SC)が導入されて30年が経過した。1995年度に154校で始まった事業は,現在では全国の小中学校約28,000校に配置され,特別支援学校や高校にも広がっている。本稿では,SC誕生以前の動向から制度化,拡充,そして現在の課題と展望までを整理する。
2.SC前史(1960年代〜1995年)
1)教育の課題とカウンセリング
1960年代後半にはすでに長期欠席や怠学が教育課題となり,学園紛争や少年非行が社会問題化していた。1970年代には暴走族や薬物乱用など非行が増加し,学校の荒れが深刻化した。文部省は「生徒指導の手引き」(1965)や「カウンセリング技術指導講座」(1975)を通じて対応を試みた。
1980年代には登校拒否が2万人を超え,校内暴力も激化していった。このような教育課題に対応すべく,各地で公立教育センターなどの相談機関に心理専門職を配置していく動きが出てきた。心の諸問題の解決を期して日本心理臨床学会が創設されたのは1982年である。
いじめも深刻化する中,1983年に起きた中野富士見中学いじめ自死事件は社会に衝撃を与え,学校への専門家配置の必要性が議論されたが,予算と人材確保の難しさで実現には至らなかった。
2)心理専門職の導入計画
一方,教員を研修してSC的役割を担わせる試みも行われたが,教育相談体制の限界から成果は限定的であった。1990年代に入ると学校の荒れは鎮静化し,非行も減少していったが,登校拒否は6万人に達し,文部省は1992年に「登校拒否問題への対応について」の通知を発出し登校拒否対策に注力していった。1988年に臨床心理士資格が創設され,1990年代前半には4,000人規模に成長したことが,学校配置の現実性を高めた。
3)SCの予算化
いじめの深刻化や不登校の増加は依然として憂慮すべき状況にあると認識した文部省は,学校におけるカウンセリング等の教育相談機能の充実を図るために,臨床心理士などを学校に配置する事業計画を立案し,1994年,文部省は初めてSC配置事業を概算要求に盛り込んだ。当初は各県1校程度の1億円規模の試験的事業であったが,愛知県のいじめ自死事件を契機に予算が3倍の3億円に増額した。さらに翌1995年1月に発生した阪神淡路大震災では被災支援も求められた。SC事業は,被災県の兵庫県への増員分含め,1995年度に全国154校で「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」として開始された。
4)私学SCの先行した歴史
ここで忘れてはならないのは,この時点ですでに活動していた私立学校のSCの実践である。1960年代から70年代にかけて,キリスト教系の学校や伝統校では,宗教教育や独特の人間教育の一環としてカウンセラーを配置して教育の質を向上させる実践を行っていた。東京都では1994年時点で少なくとも90校に相談室が設置されていたという報告がある(保原,1995)。公立学校にSCを導入する際に,私立学校SCの臨床知を参考にしたところは多いといえるだろう。
2.SC黎明期(1995〜2000年)
1)SC活用調査研究事業と臨床心理の専門性
このSC事業は「2年間配置し,効果を検証する」という研究的性格を持っていた。このわが国初の事業計画を受け,日本臨床心理士資格認定協会を軸に,職能団体の日本臨床心理士会,臨床心理の学術団体である日本心理臨床心理学会による三団体対策委員会(学校臨床心理士ワーキンググループ WG)が結成され,事業に対して全面的に協力していく体制を構築した。都道府県臨床心理士会に担当理事とコーディネーターを配置して教育委員会との連携協力体制を整えた。
WGはガイドライン作成,全国研修会の開催,コーディネーター会議などを通じてSCの質を担保し,均質な実践を支えた。私学SCの実践や教育相談所での学校支援の理論や方法が取り入れられ,SC活動の基盤として学校コミュニティ支援の視点が形成された。
2)研究委託事業の概略
この研究委託事業は,当初2年計画であったが,初年度154校の成果を踏まえて,次年度には399校,その次の年度には665校と拡大して行った。当初4年間の総括として文部省は,以下のように評価している。
「専門性」「外部性」いついては,非常に高い評価を得ており,学校における教育相談体制の充実にあたっては,スクールカウンセラーが持つこれらの特性は必要不可欠なものである。(文部省,1998)
また,今後の展望として,1997年の中央教育審議会の「すべての子どもがスクールカウンセラーに相談できる機会を設けていくことが望ましい」という提言を受け,カウンセリング方法の在り方,守秘義務,倫理規定等の職務の在り方,職務執行上の実際的課題の検討が挙げられていた。
黎明期のSCは「学校の教育力向上に資する外部専門家」として期待されていた点が特徴である。
3.拡充・発展期(2001年〜2010年代半ば)
1)SC活用事業の開始
6年間の研究委託事業の展開および成果を受けて,2001年度からは「スクールカウンセラー活用事業」として本格的継続的なSC配置事業となった。しかし財源は国の全額負担から自治体への補助事業となり,補助率は当初1/2,後に1/3へ移行した。自治体独自のSC事業が展開可能となる一方,自治体によっては財政状況による事業縮小も生じた。任用条件も緩和され,心理資格を持たない「準ずる者」も採用可能となった。SC活用も地域事情に応じて分化していった。東京都では都配置SCと区市町村独自SCが同一校に複数配置され,待遇差による協働の難しさが指摘された。
2)中学校全校配置の完了
2001年度から予算は拡充していき,2006年度には中学校全校配置が実現した。この期間には教育相談関連の施策が立て続けに実施されている。SCの教育相談体制への寄与が期待されていた証左だろう。2003年には,「不登校への対応の在り方について」通知,2006年には特別支援教育の実質的な開始,いじめの認知件数の算定,2007年には有識者による「児童生徒の教育相談の充実について」の報告書が発行された。そこにはSC活用の意義が明記されている。
3)福祉的な課題への対応
この時期は,福祉的な支援への関心を含め,生徒指導や教育相談の領域が拡大して行った時期でもある。2006年には「学校での児童虐待防止の取り組み」に関する通知が発出され,こどもの自死や事件事故への心のケアへの対応が整備されている。(東京都,2006)これらの学校での福祉的支援の必要性から,2008年度からスクールソーシャルワーカー(SSW)活用事業が開始された。2009年には,SCとSSWとの協力体制に触れた「児童生徒の教育相談の充実について」の報告書第2弾が発行された。また同年の改正学校保健安全法には,SCの心の健康相談やメンタルヘルス支援への参画が明示されている。この時期はSCが対応する対象や領域が拡大していった発展の時期であり,学校での他の専門職との協働が新たな課題となった。
3)SCの組織化と常勤化への議論
2010年には,文部科学省から生徒指導の初の基本書となる「生徒指導提要」が刊行された。その中にSCの役割とチーム支援の重要性が明示された。さらには,2011年の大津いじめ自死事件や東日本大震災を受け,2013年に「いじめ防止対策推進法」が制定され,SCは組織的対応の一員として明確に位置づけられた。
2010年代後半には,SCの複数日勤務,常駐化・常勤化の議論が進み,2014年には一部中学校で週5日配置の試行が始まった。2015年の中央教育審議会答申では,SCを「チームとしての学校」の構成員として明確に位置づけ,外部性中心の黎明期SC像から大きく転換した。
不登校支援に関しては,問題行動と見なさない視点の提示と「学校復帰を第一の目標としない」方向へ転換し,2016年の「不登校児童生徒への支援の在り方について」通知では不登校特例校(学びの多様化学校)の構想が示された。
4.組織内でのSCの専門的活動(2017年〜現在)
1)SCの法的根拠
2017年,学校教育法施行規則が改正され,SCは正式に「学校職員」と規定され,「児童の心理に関する支援に従事する者」と明文化された。SCは独立した専門職として制度上確立された。
同年の有識者会議報告書「児童生徒の教育相談の充実について」では,副題に「学校の教育力を高める組織的な教育相談体制づくり」と掲げ,SCの専門性を組織の中でどう発揮するかが中心課題となった。ここで文科省は初めて学校向けのSC活用ガイドライン(素案)を提示した。ここにおいて,SCの心理職としての専門性と学校職員としての在り方,連携協働,情報の扱い方など,学校職員としてのSCの在り方が改めて課題となった。すでに黎明期において指摘されていた課題がより具体性を帯びて再登場したと言えるだろう。
2)不登校への理解と学びの保障
2019年にはSCの小中学校全校配置が完了。不登校支援では過去の同様の通知を刷新する「不登校児童生徒への支援の在り方について」が発出された。そこには,「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではないという基本的視点,2016年の教育機会確保法に沿った形での,学びの多様化学校(不登校特例校)の構想をふくめた自立支援としての不登校支援の方針が示されていた。
2020年には新型コロナ感染症が学校に大きな影響を与え,SC活動も制約を受けた。アクリル板越しの面接など,前例のない状況でSCの懸命な支援が模索された。
3)SCの雇用問題と資質の維持
また,会計年度任用職員制度の導入により,SCは単年度雇用となり,雇止め問題が発生。安定した支援体制を求める議論が後退した形となった。SCの採用に関しても,公募制に移行している自治体がほとんどであろう。かつては,教育委員会と臨床心理士会との良好な連携関係の中で,SCの推薦,採用,研修,支援,育成が円滑に行われていたが,臨床心理士会の関与が薄くなっていく中でSCの研修や資質の維持向上が課題となってきている。
4)SCと未然防止の活動
2010年代後半以降,SCは個別面接に加え,ストレスマネジメントやアンガーマネジメントなど予防的・心理教育的活動を重視するようになった。2022年改訂の「生徒指導提要」では,発達支持的・プロアクティブな生徒指導が強調され,SCは心理専門職としてその枠組みの中で役割を果たすことが求められている。
2023年度開始のCOCOLOプランでは,SCは「小さな心のSOSを見逃さないチーム支援」の一員として期待され,こども家庭庁とも連携する体制が整いつつある。
5.今後のSCの在り様
SCの将来として,こどもの成長発達を包括的に支援する役割がますます期待されていくと考えられる。一例としては,2025年に文部科学省は「ヤングケアラー支援における学校の役割」を発表している。
学校が,こどもの生育において何らかの関わりを持つ限り,SCの活動は福祉的課題を含めた生徒指導の枠内にある,いじめ,不登校に加えて,子どもの自殺予防,児童虐待,ヤングケアラーに加え,これからの時代や社会が求める極めて多岐にわたる問題への対応が求められていると言えるだろう。この要請に応え得る資質をいかに担保するか,SCの育成が課題であろう。
これからのSCには,「個に寄り添い話を聴く」存在であるとともに,学校というシステムのダイナミズムを理解し,こどもたちが安心して学べる環境をデザインする「心理教育的視点を持つ組織人」としての在り様が求められているのではないだろうか。30年の蓄積を礎に,次のフェーズへと進む時が来ているように思う。
文 献
- 保原三代子(1995)私立中学・高校のスクールカウンセラー.In:村山正治・山本和郎編:スクールカウンセラー―その理論と展望.ミネルヴァ書房.
- 文部省(1999)中等教育資料 臨時増刊.大日本図書.
- 東京都(2006)命にかかわる事件・事故後の心のケア第2版.東京都教育相談センター.
福田 憲明(ふくだ・のりあき)
明星大学心理学部教授
資格:臨床心理士
スクールカウンセリングの草創期から,実践と育成に携わっている。個人から学校組織,家庭地域までの支援スペクトラムと捉え,統合的なシステム介入の方法と,スクールカウンセラーのスタンダード作りをテーマとしている。






