文山知紗(神戸女学院大学)
シンリンラボ 第33号(2025年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.33 (2025, Dec.)
「心理士ってなんなんだろう……」という最近の問い
今年度より本格的に心理士養成に携わらせていただくようになり,よく考えるのは「心理職ってなんなんだろう……心理士のアイデンティティって……?」ということである。実習先であらゆる心理職の働き方に接する中で,そして学生に指導する中で,「えっと,心理ってなにをするひとなんだっけ……」と改めて考えさせられている。
「聴く」とは
心理の職務内容は,業務独占ではない。よって,心理検査も心理面接も,実施しようと思えば他職種でも可能である。そして大体どの領域においても,他職種がいる現場において,協働して業務をこなさねばならない。場合によっては,心理職として個人面接ができないこともある。心理士養成においては,個人面接に重きを置いてトレーニングを積ませるにも関わらず,である。実際,自分が心理士として現場に出た時も,「あれ,学んできたことと違う……」という感覚が拭えず,自分に何ができるのか,なにをすればいいのか,と悩み迷うことは多かったように思う。また,タイパ・コスパが求められがちな現代において,「カウンセリングってなんなんだろう……」「傾聴って意味があるんだろうか…」と疑念がわくこともあったのが正直なところである。
村井雅美『もの想うこころ―生きづらさと共感 四つの物語』(木立の文庫,2019)
そんな中で出会ったのが『もの想うこころ―生きづらさと共感 四つの物語』(村井雅美,木立の文庫,2019)である。この本は精神分析的心理療法について,筆者であるTh.によって物語調に書かれている。とても読みやすく,またTh.の内面についても丁寧に触れられている。さらにはその時の情景描写が鮮やかで,その場の面接の状況が五感にも訴えくるのである。読み手がその場の面接に没入できるような感覚があり,面接をCl.側でもTh.側でも追体験できる気がする。これを読むたびに,心理面接・カウンセリングというものが,いかに奥深く,繊細で,それゆえにCl.のこころを癒すのだということを感じさせられる。
心理士は傾聴・共感だけできればいいのだろうか?
深く聴き入り,思いに共感し,Cl.の人生を共に歩む。それだけで面接が進むのかというと,それだけでは立ち行かないこともある。もちろん基本的には聴くことが大切で,Th.が不用意にことばを挟まないことが重要な場面も多い。しかし,ただ聴いているだけでは,こちらの思いや理解は伝わらない。また,多職種連携が叫ばれる昨今,心理士がうまくことばを紡げなければ,連携は滞る。では,「ことばってなんなんだろう……」と思い始めた矢先に出会ったのが次に紹介する著書である。
小野純一『僕たちは言葉について何も知らない―孤独,誤解,もどかしさの言語学』(ニューズピックス,2025)
「はじめに」には次のように書かれている。「言葉は人の心を救いもすれば,生涯消えることのない傷を負わせることもできるものです。」Cl.は大抵他者からの言葉に傷つき,孤独に陥り,混乱し,藁にも縋る思いで面接に訪れる。なぜ「言葉」という共有可能なはずの媒体を持っている人間同士でこんなにも誤解が生じるのか?我々心理士が言語面接の中で何を感じ取ろうとしているのか?何がCl.にとって「わかってくれた」という感覚を生み出し,何が傷つきを与えるのか。言語学という分野からの「こころ」の解明は,心理面接に通じるものであることを,どのページをめくっても感じさせられた。武器にも刃にもなりうる「言葉」をつかう者として,「言葉」の勉強をすることも大切なのではないかと感じ,こちらを2冊目のお薦め著書としたい。
名前:文山知紗(ふみやま・ちさ)
所属:神戸女学院大学
資格:臨床心理士,公認心理師,中学高等学校教員免許(英語),高等学校教員免許(公民)
趣味:カフェめぐり








