【特集 認知行動療法に力を宿すには!?】#00 はじめに|竹田伸也

竹田伸也(鳥取大学)
シンリンラボ 第31号(2025年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.31 (2025, Oct.)

シンリンラボ第27号の特集「認知行動療法はテイラーメイドだ!」を,みなさんはもうお読みいただいただろうか。そこでは,認知行動療法の6技法について,その成り立ちから展開までの基本的な話を伝えた。

あのときの特集を読み,どれか一つでも「身につけたい」とか「使ってみたい」と思った心理職がいてくれたとしたら,執筆に込めた私たちの労力は報われる。しかし,一歩先まで進み,こんな悩みを抱えた人はいないだろうか。

「やってみてはいるものの,うまくいかない」と。

安心してほしい。今回の特集「認知行動療法に力を宿すには!?」では,まさにその点にフォーカスを当てて,論を展開しようと思っている。そう。「こうすれば,それぞれの技法はうまく回り,クライエントを勇気づける確かな力を得る」という,私たちが実際の臨床で得た知見を惜しみなく伝えるのが,本特集の目的である。

今回の特集も,心理職はもちろん支援を受けているクライエントにも読んでもらえたらと思う。と述べると,「え?! こちらの手の内を,クライエントに示しても大丈夫なの?」と心配する人もいるかもしれない。

だが,考えてほしい。こちらの手の内をクライエントに秘匿して,臨床を進める。この時点で,心理職が強者でクライエントが弱者の立場に基づく関係に陥っているのではないだろうか。こうした支援における非対称性は,少なくとも心理臨床をよりよいものとすることはない。なぜなら,こうした強者と弱者の関係は,呉(2022)のいう「する-される」の関係性をもたらすからである。

私は,かつてシンリンラボでこう述べたことがある。「精神科医と心理職の違いは,治療を目指すか適応を目指すかにある。治るか治らないかを超えて,クライエントが個人の内的世界を含む広い意味での世界の中で,いろんなものと折り合い暮らしていく力を支える営み。それこそが,心理職の生業である」(竹田,2024)と。

そうしたクライエントなりの適応をはかるには,クライエントの自律的な営みがそのプロセスで求められる。にもかかわらず,心理職が強者(する側)でクライエントが弱者(される側)の立場で両者の関係が築かれてしまうと,クライエントの自律的な営みは起動しないどころか抑圧されてしまう。だからこそ,心理職はクライエントと対等な関係から,心理的支援のプロセスを進めていかなければならないのだ。

そして,このことは他ならぬ認知行動療法で,すでに重視されてきたことでもある。認知行動療法では,クライエントと支援者の関係は,協同的経験主義で結ばれなければならないとしている。認知行動療法では,クライエントと支援者が協力しながら問題解決にあたることを大切にしており,そのための率直なやりとりが両者の間で行われる。クライエントと支援者のこのような関係を協同的経験主義といい,問題解決を目指すパートナーとしてクライエントと支援者の協力関係が育まれるのである。

今回の特集で伝える臨床的知見を,私はぜひクライエントにも読んでもらいたいと思っている。そこにこそ,認知行動療法が「効く」ための条件である協同的経験主義が具現化しているのである。

読者には,6つの技法に力が宿るためにそれぞれの執筆者から紡ぎだされる言葉の数々に,存分に心を震わせながら読み進めてほしい。

文  献
  • 呉永鎬(2022)マイノリティから日本社会を問う.In:呉永鎬・坪田光平編著:マイノリティ支援の葛藤—分断と抑圧の社会的構造を問う.明石書店,pp.13-41.
  • 竹田伸也(2024)私の本棚(12)『天上の葦』(太田愛).シンリンラボ第12号.https://shinrinlab.com/mybook12
+ 記事

竹田伸也(たけだ・しんや)
・所属:鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学講座
・資格:公認心理師・臨床心理士・上級専門心理士
・著書:『一人で学べる認知療法・マインドフルネス・潜在的価値抽出法ワークブック』(遠見書房,2021),『対人援助職に効く人と折り合う流儀』(中央法規出版,2023)など

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