書評:『はじめてのオープンダイアローグ』(浅井伸彦・白木孝二・八巻秀編著/北大路書房)|評者:押江 隆

押江 隆(西南学院大学)
シンリンラボ 第35号(2026年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.35 (2026, Feb.)

オープンダイアローグ(以下“OD”と表記)はおもしろい。筆者自身,大学院附属の臨床心理センターでは大学教員としてクライエントや大学院生とともに,また学校現場のスクールカウンセラーとして児童生徒や保護者および学校教員とともにODを実施してきた。筆者はODを,ただクライエントに変化を迫るというだけでなく,学校教員やセラピスト自身も含めて「ともに生きていく」ためのアプローチであると理解している。

ODが日本に紹介された当時,多くの実践家がODに魅了された。筆者もその1人である。しかしいざ日本で実践しようにも,どのようにすればよいかがわからない。フィンランドで実践されているとおりにしなければODにはならないのか。いやしかし,ダイアローグなるものはもっと柔軟な実践のはずだ。しかし自分なりに実践しようにも,何を重視し取り入れればODと呼んでいいのかわからない。このような戸惑いが当時あったように思う。筆者自身,自分の実践を本当にODと呼んでよいのかどうか,あまり自信が持てずにいた。

その後,日本での実践について様々な書籍が出るようになっていった。これらは実践家自身のOD導入に向けた奮闘や,現場だからこそみえてくる知見を描いた貴重なものである。

本書はこのようなOD導入の熱意や奮闘,戸惑いの歴史のなかで生まれてきた,ODの航路をほのかに照らす灯台として筆者は理解した。たとえば「よくある誤解」として「ODでは,互いに先生呼びを禁止し,ファーストネームや『〜さん』づけで互いのことを呼ばなければいけない」とされがちであることが挙げられている(p.8)。つまり「先生呼びを禁止する」ことは必ずしもダイアローグの要件ではないと本書は主張しているのである。

このように,本書は先に挙げた「何を重視し取り入れればODと呼んでいいのかわからない」という戸惑いに対して,1つの明確な視点を提供してくれる。13章の「ODの取り組み方のまとめ」もODを柔軟に活用するうえで有用であろう。

また,日本への導入をふまえると,「和を以て貴しとなす」という日本ならではの関係性のもちかたとODにおけるポリフォニーとの相いれなさについての懸念が表されている点(pp.76-78)も興味深い。先に述べたように,筆者は大学院附属の臨床心理センターにで大学教員としてクライエントや大学院生とともにODを試みてきた。はたしてあの場はポリフォニックな空間であったのだろうか? 筆者への忖度はなかっただろうか? 和を重んじ個の考えや感じたことを抑圧するような状況に陥っていなかっただろうか? 自らの実践を振り返るうえで重要な指摘であるように思われる。

ところで筆者はパーソン・センタード・アプローチ(以下“PCA”と表記)の立場に立つセラピストである。本書では随所に人間性心理学やPCAの視点が取り上げられている。筆者自身,以前シンリンラボさんの記事でODとPCAの共通点を論じているが,本書はODを実践しないPCAのセラピストにとっても豊かな学びとなるだろう。筆者にとってはPCAでもしばしば言及される「他者の他者性」について書かれている点が刺激的であった(p.75)。

PCAの立場からは,8章の「『今,ここにいる』ということ」も大変興味深い内容であった。そのなかで「エンボディメント」について取り上げ,「身体の中にいる」ためのワークや視点を紹介している。ではエンボディメントをフォーカシングの視点から理解するとしたらどうだろうか? ODの実践を深める1つの視点になるのではないだろうか? 夢想が広がっていく。

ODはおもしろい。そんなODの船旅に出ようとする実践家のために,本書は進むべき航路をやさしく照らしてくれるだろう。また自らの臨床実践を振り返り,深めるための様々なヒントをもたらしてくれるだろう。ぜひ多くの方に本書を手に取っていただきたい。

『はじめてのオープンダイアローグ』(浅井伸彦・白木孝二・八巻秀編著/北大路書房)
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押江隆(おしえ・たかし)
所属:西南学院大学
資格:臨床心理士,公認心理師
著書:春日由美・五十嵐亮(編著)『現場で役立つ教育相談入門:子どもたちの幸せ 
のために』(分担執筆,北樹出版,2023),伊藤亜矢子(編著)『臨床心理地域
援助特論』(分担執筆,放送大学教育振興会,2021)など
専門領域:パーソンセンタードセラピー,グループアプローチ,地域臨床心理学
趣味:オープンソースソフトウェアとテレビゲームが好き。最近『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』(アトラス)をはじめた。心の怪盗団に時間を盗まれて原稿が書けない。やばい。

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