福島哲夫(大妻女子大学/成城カウンセリングオフィス)
シンリンラボ 第31号(2025年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.31 (2025, Oct.)
これほど装丁やタイトル,イラストから来るイメージを裏切る本はないだろう。
本書には,いわゆる専門知がぎっしりと詰め込まれている。従来,このような本はもっと重みのある装丁で地味な作りにして,タイトルも重厚だったはずだ。サブタイトルには「着任準備から引継ぎまで」とあるが,私なら「着任準備から本格相談,学外連携と引継ぎまで」としたい。
著者による前作『学校では教えないスクールカウンセリングの業務マニュアル』(遠見書房)も画期的な本ではあったが,そこにはケースの見立てや本格的な相談の奥深さまでは記述しきれていなかった。しかし,今回は14にも及ぶ架空事例(と銘打ってはいるが,とてもリアル),それに次ぐ「SCに必要なパーソナリティあるいは姿勢」,さらに質疑応答と深く深く,細部にわたり論じ尽くされている。
まさに「神は細部に宿る」を実践している書となっている。そう思いながら読んでいたら,第9章には「ときどき,自分が相手にしている[児童・生徒たち]のは小さな妖怪,妖精,神様なのではないかと感じるときがあります。」([]は評者註)とあった。このような視点と感性があるからこそ,本書には「臨床心理の神様」が宿っているのだとさえ感じた。
さて,以下に少し本書の内容に沿った紹介をしよう。
まず,第1章「着任の準備をしよう!」は,「1.心の準部(心構え)」から「2.SCと他の心理職の違い」「3.自分独自の特徴・傾向」を把握しておくことの大切さ,「4.物の準備」「5.情報収集」というセクションからなっている。「3」では,とくに自分の個人的な弱点を知っておくことが強調されている。そして「4」においては,認印,スーツ・ネクタイ,上履きなどが具体的に解説されている。とくに「スカートはやめた方がよいと思います。なぜなら,まれにですが,取っ組み合いすることがあります(笑)。危機管理上,窓から飛び降りようとしたり…(略)…他の子へ暴力する子を止めないといけないので。」とある。まさに細部に宿る実践知である。
ちなみに第10章の質疑応答の中では「[名刺は要らないが,名札入れは]自作してもよいでしょう。名札入れは引っ張られたときに外れるものがよいです。」([]は評者註)とまである。さらに「どうしても担任や関係の先生に会えないとき」の情報共有について「最後の手段はメモですね。マル秘とかほかの方に見せないとか先生の手でシュレッダーしてとかも書いて,絶対に学校関係者以外に見られないよう,風とかで飛ばないよう配慮して先生の机上へ。」(下線は評者による)とまである。
これらを経て,第2部の「スクールカウンセラーの臨床業務:徹底解説」では,アセスメントや面接業務についても具体的に詳しく解説されている。この中の第5章のメインテーマは「聴くだけカウンセラーを卒業しよう!」となっていて,さまざまな具体的技法が心理教育や支持(褒める),簡易的SST,描画法を中心に紹介される。
そして第3部は事例編として架空事例14例の介入例である。事例によっては逐語的なやり取りに加えてカウンセラーの意図や戸惑い,困り感や反省までもが書かれている。これらは困難事例や失敗例も含まれており,一流の臨床家のみが書ける奥深いものである。
本書は,総じて評者も推奨する「統合的姿勢」に貫かれており,単なる業務解説ではなく,新時代の心理臨床の在り方を示唆しているものでもあると言える。この点からも,本書のタイトルと装丁は,内容と比べて謙虚すぎるものといえるが,それがゆえに若手が手に取りやすいのであれば,本作りとしても大成功ともいえるだろう。
福島哲夫(ふくしま・てつお)
大妻女子大学/成城カウンセリングオフィス
資格:公認心理師,臨床心理士
主な著書:『プロカウンセラーの人を見る技術』(創元社),『心理療法統合の手引き』(共著,誠信書房),『心理療法統合ハンドブック』(共編著,誠信書房)
趣味:ガーデニング,低山登山





