自閉スペクトラムのアセスメントを学ぼう!(5)ADOS−2:行動観察力を高める|稲田尚子

稲田尚子(大正大学
シンリンラボ 第29号(2025年8月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.29 (2025, Aug.)

1.はじめに

自閉スペクトラムの評価において,対象者の行動を直接観察することは,特性の理解において非常に重要である。中でもADOS-2(エイドス・ツー:Autism Diagnostic Observation Schedule, Second Edition:自閉症診断観察尺度)は,ASDに特有の対人相互作用やコミュニケーション行動を標準化された方法で引き出し,観察・評価することができる心理検査である。半構造化された課題設定の中で,子どもが示す自然な反応を捉えることを目的としており,現在ではASD診断の補助において国際的に信頼されるツールとなっている。本稿では,ADOS-2の概要を紹介し,モジュール1に焦点を当て支援への活用について紹介する。

2.ADOS-2の概要と構成

ADOS-2は,自閉スペクトラム症(ASD)の特性を直接的に観察・評価するために設計された半構造化検査である。本検査は,米国および英国の心理学者らによって開発され,現在ではASD診断の補助において国際的なゴールドスタンダードとされている。

ADOS-2は,被検者の年齢および表出言語能力に応じて5つのモジュールに分類されており,発語のない幼児(非言語性精神年齢12か月以上)から成人までを対象とすることができる。具体的には,12〜30か月の幼児に対応した「モジュールT」,31か月以上で発語が限られている場合の「モジュール1」,簡単な文を話すが流暢でない子どもに対応する「モジュール2」,流暢に話す4歳以上15歳未満の「モジュール3」,および16歳以上の成人に対応する「モジュール4」がある。各モジュールでは,検査者が設定された一連の課題を通じて,対象者の言語・非言語的なコミュニケーション,対人関係,遊びの様子,常同行動などを観察し,これらの行動に対する評定を行う。検査の所要時間はモジュールによって異なるが,概ね30分から60分程度である。 ADOS-2は,検査用具や質問項目が詳細に規定されており,日常的な場面を模した課題を通して対象者の自発的な行動を引き出す構造になっている。このため,自然な人とのやりとりの中でASD特有の行動特徴を捉えることが可能である。

3.ADOS-2の実施方法

ADOS-2は,非言語性精神年齢12か月以上の者であれば,乳幼児から成人までを対象に実施可能である。検査の実施にあたっては,対象者の年齢および言語発達水準をもとに,適切なモジュールを選択する必要がある。

検査に先立ち,対象者の発達歴,言語能力,認知水準等の情報を収集し,最も適切なモジュールを選定する。検査道具を準備し,検査目的や背景情報を確認した上で実施に移る。ADOS-2の検査は,マニュアルに準じた手順に沿って課題を提示し,対象者の反応を観察する形式である。課題の順序は柔軟に調整可能であるが,全課題を網羅することが求められる。検査中,対象者の言語的・非言語的行動,対人反応,情動表出,遊び方,常同行動などを詳細に記録することが必要である。検査後,直ちに観察された行動をもとに評定作業を行う。評定の対象となるのはADOS-2の検査場面で観察された行動のみであり,保護者報告や他の場面での観察結果は評定には含めない。また,子どもの行動に変化が見られた場合には,安定した後の行動に基づいて評定を行う。

4.ADOS-2の評価方法

ADOS-2の評価は,観察された行動に基づいて,5つの領域に分かれた評定項目について段階的にスコア化する方式である。5領域とは,「A. 言語と意思伝達」「B. 相互的対人関係」「C. 遊び(または想像力/創造性)」「D. 常同行動と限定的興味」「E. その他の異常行動」である。各領域には複数の項目が含まれており,各項目を0〜2点または0〜3点で評価する。

ADOS-2の特性として,各課題と評定項目が一対一で対応しているわけではないため,検査全体を通して得られた行動を総合的に捉えた上で評価する必要がある。このことから,検査者には各課題の目的と評価項目に関する深い理解が求められる。

5.結果の解釈

ADOS-2の結果は,診断アルゴリズムに基づいて解釈される。評定された項目のうち,診断アルゴリズムに含まれる項目を抽出し,「対人的感情」および「限定的・反復的行動」の2領域に分けて合計得点を算出する。得点はカットオフ値と比較され,モジュール1および2では「自閉症」「自閉症スペクトラム」「非スペクトラム」に分類される。一方,モジュールTでは診断そのものではなく,ASDに関する懸念の程度(中度〜重度,軽度〜中度,ごくわずか)に分類される。

年齢や得点に基づいて「ADOS比較得点(Calibrated Severity Score)」を算出することができる。これはASDに関連する症状の重症度を10段階で評価するものであり,モジュール間の比較や経時的変化の評価にも活用可能である。

ただし,ADOS-2は観察場面における「現在の症状」を捉えるものであり,診断を確定するには,生育歴,家庭・保育環境での行動,他の評価結果を統合的に検討する必要がある。したがって,ADOS-2はあくまでも診断の補助ツールとしての位置付けであり,単独での診断は適切でない。また,ADOS-2の得点結果は,診断分類にとどまらず,支援計画の立案にも活用できる。各評定項目のスコアからは,対象者の強みや支援の必要な領域が浮かび上がり,個別の発達支援方針を検討するうえで有益な手がかりとなる。

6.心理検査場面におけるADOS-2の活用

ADOS-2は,自閉スペクトラム症の特性を行動観察によって評価するための,数少ない標準化された心理検査である。他の行動観察尺度としてはCARS-2が挙げられるが,同検査は行動観察および保護者面接によって得られた情報を総合して評定するものであり,観察のみに基づいて評定を行う心理検査はADOS-2のみである。

また,ADOS-2は診断・評価のための尺度であり,スクリーニングを経て必要と判断された場合に使用されるべき検査である。アルゴリズムが設定されているため,ADOS-2により診断分類を得ることが可能であるのみならず,各モジュールにおいておおよそ30項目の評定項目が設けられていることから,対象者の行動特性を細分化して把握することができる。これにより,全体像の理解や,対象者の強み・弱みの把握に資する検査となっている。

検査内容や使用する検査用具を詳細に見ると,無発語から二語文程度を話す,31か月以上の対象者に実施されるモジュール1などは,例えば,無発語または二語文を話す成人に対しては適さないことに気づかれるかもしれない。しかしながら,ADOS-2が診断・評価の尺度であることを踏まえると,そのような成人に対しては,すでに幼少期に何らかの診断がなされていることが想定され,成人になってから改めてADOS-2を用いて診断・評価を行う必要性や意義は限定的であると考えられる。したがって,ADOS-2は,早期診断が求められる乳幼児期や,知的機能が標準範囲にある者に対して診断・評価を行い,適切な支援へとつなげるために最適な心理検査である。

7.心理臨床場面でのADOS-2の活用

ADOS-2は行動観察の尺度であり,とりわけ自閉スペクトラム症における対人コミュニケーション行動を詳細に捉えることができる心理検査である。5つのモジュールに分かれており,ADOS-2を学ぶことで,年齢や言語能力の水準に応じた対人コミュニケーションの行動特性を理解し,さらに,どのような活動や質問によってそれらの情報を効果的に引き出すことができるかを体系的に把握することが可能である。

ADOS-2は「観察」「評定」「アルゴリズム」の3つのパートに分かれている。「観察」のパートでは,活動や質問の内容を通じて,どのような対人コミュニケーション行動を引き出すことができるのかを学ぶことができる。たとえば,幼児における要求行動を観察する場合には,子どもの要求のモチベーションを短時間で最大限に引き出すことを目的として「おやつの場面」が設定されている。その中で,たとえば,要求目的で他者に物を渡す行動を観察するため,幼児の力では開けることが困難な容器を用意し,検査者に手渡すか否かを観察する。年長の対象者に対しては,友情や恋愛など,より複雑な対人関係の性質の理解をみる質問項目も設けられている。「観察」パートについての学習を通じて,クライエントの行動を引き出す場面設定を学ぶことができるため,たとえ実際に検査を実施しない場合であっても,日常の面接場面の一部に取り入れることができるであろう。

「評定」のパートでは,各モジュールにおける評定項目と,3〜4段階で構成された評定基準を理解することにより,観察すべき行動のポイントが明確になり,心理検査の場面や日常の臨床実践における観察力の向上につながると考えられる。また,クライエントに発達特性の可能性を感じた際,その判断の根拠となる行動や様子を明確に言語化できるようになる点でも,ADOS-2は有用な検査である。特に,表情や発語が「他者に向けられているかどうか」,また,視線・表情・発語・身ぶりなどを統合的に用いることができているかといった点が重視されていると筆者は感じている。検査用具が職場に常備されていない場合であっても,検査用紙の購読から始めることも有効であろう。

8.ADOS−2の検査を支援に活かすために

検査結果をどう支援に活かしていくとよいだろうか。ここでは,言語水準が無発語から二語文レベルの31か月以上の児に用いるモジュール1のアセスメントに基づき,筆者が支援を考える際の観察のポイントについて紹介する。子どもによってさらに追加するポイントもあるが,基本的にはこの5つのポイントに沿って観察された情報をまとめあげ,保護者への助言につなげている。

① 最も喜びや要求を他者に示す活動は何か

ADOS−2の中では,おもちゃを用いたルーティンのある遊び,おもちゃを用いない対人的ルーティンのある遊びを複数実施するため,それらの中で最も子どもが楽しむことができ,また何らかの手段で「もっとやって」という要求が表出される活動は何かを特定する。これは本当に子どもによって様々で,イナイイナイバーなどの対人的ルーティン遊びには全く反応しないが,風船遊びを喜ぶ子どももいたり,一方で風船を飛ばす際に生じる音が苦手な子どももいる。対人的ルーティンのある遊びの中でもくすぐりっこなど直接的に触る遊びが好きな子どもや苦手な子どももいて,「今」その子どもが最も喜びや要求を他者に示す遊びを特定する。それが分かれば,家庭でもその遊びを実施してもらうように伝えることができる。

② 模倣ができるか,どんな動作であれば模倣するか

様々な行動を学習していく際に模倣が芽生えているかどうかは,幼児期はとりわけ重要である。物を使った動作の模倣がどの程度できるのかを丁寧に見る。コップで飲むふりなど,日常よくやっている動作であれば模倣ができる,車など本人が興味があるものであれば模倣ができる,簡単なものを使った動作であればほとんど模倣できるのかどうかで,今後どのような模倣の機会を増やすとよいかが変わってくる。模倣がほとんど芽生えていない場合もあり,模倣が乏しい場合は,模倣させるよりもまずは,大人が子どもの模倣をするように助言する。

③ 共同注意がどの程度芽生えているか

応答的な共同注意として,視線の追従ができるのか,少し離れたものへの指さしの追従ができるのか,近くのものへの指さしの追従ができるのか,指さしの先は見ないで指をよく見ているなど,様々な段階がある。始発的な共同注意も,視線で知らせたり,興味があるものを見せたり,渡したり,どのような内容の共同注意がどの程度見られるかを確認する。指さしの追従が見られない場合は,日常生活の中で,ゆっくり丁寧に指さしをするように伝え,指さしの先を見る機会をたくさん作るように助言する。始発的な共同注意についてもものを見せる,渡す,指さすのモデルを数多く見せるように伝える。保護者には,子どもが真似するかどうかは気にせず,当面は共同注意のモデルに触れる機会を数多く確保することが重要であることを伝える。

④ どのようなおもちゃを使った遊びを好むか

自分から始める遊びにはどのようなものがあるのか,おもちゃに合った遊び方はどの程度できるのか,押すと音が鳴るような因果関係のあるおもちゃ遊び,おもちゃを積んだり何かにのせたりする組み合わせ遊び,お皿とスプーンなど日常的に使っているものを組み合わせるような遊び,積木を何かに見立てるような見立て遊び,人形を使ったふり遊びなど,どのような遊びを自分から始めるのかを観察する。子どもが最も楽しめる遊びを探し,保護者にはその遊びのバリエーションを増やすように助言する。

⑤ 苦手な感覚があるかどうか

触覚や音など苦手な感覚が観察される場合もある。そのような場合は,追加で家庭での情報を聴き取り,苦手な感覚は避けることを伝える。苦手な感覚にさらされて生活することは,周囲の大人が思っている以上に子どもの負担になっている場合が多く,まずはそのような感覚はできるだけ避けて,安心して過ごすことができる環境を確保する。

9.自閉スペクトラムの幼児への支援の方法

自閉スペクトラムのある幼児に対するエビデンスのある支援方法として,ESDM(Early Start Denver Model:アーリースタートデンバーモデル)やJASPER(Joint Attention Symbolic Play Emotion Regulation)などがある。ESDMは,発達心理学と応用行動分析を統合した包括的な早期介入モデルで,遊びや日常的な相互作用を通じて社会性や言語発達を促進する。身辺自立や運動なども含め支援計画を立て,包括的なプログラムとなっている。一方,JASPERは,共同注意や象徴遊び,感情調整といったASDの中核的な課題に焦点を当てた介入法で,子どもの自発性を重視しながら相互的な関わりを築く支援を行う。どちらも実証的な効果が報告されており,早期支援の重要な選択肢とされている。これらの支援技法を学ぶと,アセスメントの結果をさらに支援につなげることができるであろう。

おわりに

次回は引き続きADOS-2を取り上げ,小学生以降の行動観察のポイントと支援の方法を紹介する予定です。

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稲田尚子(いなだ・なおこ)
大正大学臨床心理学部臨床心理学科 准教授
資格:公認心理師,臨床心理士,臨床発達心理士,認定行動分析士
主な著書は,『これからの現場で役立つ臨床心理検査【解説編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『これからの現場で役立つ臨床心理検査【事例編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『いかりをほぐそう 子どものためのアンガーマネジメント』(共著,東京書籍,2025)

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