私の臨床現場の魅力(32)Cancer Journeyへの伴走|枷場美穂

枷場美穂(静岡県立静岡がんセンター緩和医療科)
シンリンラボ 第32号(2025年11月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.32 (2025, Nov.)

1.私の勤める職場

静岡県東部の丘の中腹にあるのが,筆者が勤務する静岡県立静岡がんセンターである。県のがん診療連携拠点病院であり,がんゲノム医療拠点病院としても認定されている。常勤心理士(公認心理師,臨床心理士)は筆者を含めて3名で,緩和医療科に在籍する。外来,入院を問わず,各診療科や部署から直接「心理サポート」として依頼を受け,必要な場所へと出向くという院内横断的な活動を行っている。患者さんや家族への介入を行い,抑うつや不安等の精神症状が強い場合は腫瘍精神科へのコンサルトを行う。「悪い知らせ(Bad News)」注1)が伝えられる面談に同席し,受けとめの様子を見立てることもある。また,医療者が患者さんとの関わりに難渋する場合はカンファレンスに参加し,心理士の見解を伝える等,後方支援やコンサルテーション・リエゾンの活動も担っている。時には小児科の陽子線治療や脳神経外科の覚醒下手術に関わる発達や高次脳機能評価としての知能検査も実施する。

注1)患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまう知らせのこと

2.がんを抱えて生きる――培われるしなやかさ

がんへの罹患は,生身の身体を生きることの現実を否応なく突きつける。治療には患者さん自身の努力が必須だが,努力が治療効果に直結するわけではないという過酷さがある。再発・転移という「治癒しない」状況と直面する重みもある中で,心理士は病状に伴う心の揺れを汲み取り,個々のCancer Journey(がん罹患後の人生の旅路)注2)にそった支援を考える。闘病は社会生活や家族関係にも影響し,役割の変化から新たな課題が生じる。数々の喪失と変容が余儀なくされる道のりだが,その過程で患者さんとともに見る景色は,悲しみだけに彩られているわけではない。苦悩の中からも,生きることのしなやかさや逞しさが培われていく。若い患者さんであっても,自らの命と向き合いひとつひとつ治療を選択し引き受けていく姿には,まさしく「レジリエンス」注3)を実感する。人生を全うする時期に煌めくように見せる聡明さには,支援という立ち位置を超えて胸を打たれ,深く敬意を抱く。

当院には心理面接用の部屋はない。外来では診察室を使い,病棟ではベッドサイドに赴き,動くことが叶わない方とは車椅子で散歩をしながら話す。時に一回限りになるかもしれない対話の意義を心に留め,今この時をともにし,語られる物語へと耳を澄ます。

注2)イギリス発祥の言葉とされるが,日本語での定訳はない
注3)患者がこれまでの人生に積み重ねてきたことを基盤に,闘病の経験値が活かされたしなやかさや回復する力

3.日々,軒下カンファレンスに赴く

がん医療の現場は多職種チーム医療が基本である。積極的治療に加え,治療に伴う副作用や後遺症を抑える支持療法,全人的な苦痛を和らげる緩和ケア,社会生活と治療の両立支援等,多様な専門職が連携する。当院では,AYA世代(Adolescent and Young Adult;思春期・若年成人,15歳~39歳)への支援にも力を入れており,医師,看護師,薬剤師,医療ソーシャルワーカー,リハビリ療法士,チャイルドライフスペシャリスト,そして心理士が集い協働している。この有機的な連携が患者さんへの眼差しの深さとなり,多角的な視点が重なり合うことでひとり一人のアセスメントに厚みが増す。心理士としては,心の機微を関係性の中で捉え,全体を俯瞰して構造化し,支援の基点を見出していく。その心理士独自の視点が多職種連携の中に生かされる。

患者さんとの対話で汲み取ったことを治療の場へと還元するために,カルテへの記載や,職種間の機を逃さない協議を重視する。だからこそ,筆者は,日々「軒下カンファレンス」を大切にし,院内を歩き続けている。

4.むすびに

日々の臨床の中で,心理士ができることは限られている。それでも,Cancer Journeyを伴走してともにあることを続けていきたい。個々の患者さんの物語に触れることで,心理士の視界が拓かれ,その眼差しが次に出会う患者さんへの支援に活かされるのではないだろうか。

+ 記事

枷場美穂(はさば・みほ)
静岡県立静岡がんセンター緩和医療科
資格:公認心理師、臨床心理士。
2004年神戸女学院大学大学院人間科学研究科博士前期課程を修了。児童・思春期領域を含む精神科と,中学・高校でのスクールカウンセラーとしての勤務を経て,2009年静岡県立静岡がんセンターへ。緩和医療科の心理療法士レジデントとして,2年間実務を通して研修。2011年より同院の常勤スタッフとして勤務。がん医療,緩和ケアにおける患者・家族への心理社会的支援に多職種とともに携わっている。
主な著書:4章3節「パートナー、きょうだいへのサポート」(『AYA世代がん患者のこころのケア』,分担執筆,丸善出版,2025),「AYA世代がん患者の家族の現状」(『ホスピス・緩和ケア白書2025 AYA世代の緩和ケア』,分担執筆,青海社,2025, pp34-40.)

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