私の臨床現場の魅力(35)|小野寺芳真

小野寺芳真(港区児童相談所)
シンリンラボ 第35号(2026年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.35 (2026, Feb.)

1.私の勤務先

おしゃれなショップや飲食店が立ち並ぶ東京都港区の表参道に筆者が勤務する港区児童相談所はある。平成28(2016)年の児童福祉法改正により特別区(東京23区)に児童相談所が設置可能となったことから,令和3(2021)年4月に開設した新しい児童相談所である。

児童相談所とは,児童福祉法にもとづいて設置され,18歳未満の子どもに関する相談を受け支援していく相談機関である。近年は,児童虐待の対応が業務のメインとなっており,膨大な数の対応を迫られる。また,社会の耳目を集めるような児童虐待による死亡事件は,断続的にニュースから聞こえてくる。そして,事件によっては児童相談所の対応が批判されることもある。自分たちの仕事が誰かの命にかかわるかもしれないという,煌びやかな表参道の街並みとは対照的な重圧を感じる職場である。

2.児童相談所のしごと

児童相談所では,「介入と支援の両立」が業務の困難性としてしばしば議論される。児童虐待などから子どもの安全を確保するために一時保護などを行うことを「介入」,子どもや保護者と協働していくことを「支援」としている。「介入」は,子どもや保護者の意に反する場合も多く,相談者と対立的な関係になることがある。一方で,相談者と協働していく「支援」を求められることから,どのように両立していくかに困難があるということだ。

上述したように,児童虐待の死亡事件では,児童相談所の対応が批判されることがある。このような中で,特に「介入」面が強化され,とにかくリスクへの対応を迅速に行うための制度改正が何度も行われてきた。迅速な一時保護の実施,子どもの福祉を害する保護者への親権停止などが代表例である。一時保護をすれば,虐待する保護者から子どもを分離できることからリスクを回避できる。しかし,分離された子どもと保護者は再度一緒に暮らすことを望む場合も多く,親子関係の再構築と安全な生活が可能となるような支援を行う必要がある。子どもや保護者の意に反してでも子どもの安全を確保しながら,協働して子どもの安全な生活の構築のための支援を行うジレンマは,我々のしごとの特徴的な困難さなのである。

3.介入と支援の両立は可能か?

「介入と支援の両立」に対して,自治体によっては一時保護などを行う「介入」と親子関係再構築などを行う「支援」を,班を分けるなど組織的な役割分担をすることでアプローチしていることがある。「介入と支援の両立」への取り組みとしてひとつの方法であるだろう。これは,「介入」と「支援」を二元論的に捉えたものと言える。しかし,臨床心理学では本来,「介入」とは「支援」の一部であると捉える。つまり,完全に分離したものではないという考え方である。実際の現場では,「介入」と「支援」は明確に役割分担できるものではないというのが実感であり,結局一個人での両立がある程度求められるのが現実である。

虐待する保護者には,虐待をする事情がある。経済的な問題,心身の疾患,子どもの特性など様々な要因が絡み合い,子育てに困難を抱えている。我々は,虐待行為から子どもを守るために「介入」を行いながらも,虐待という状態になっている要因を探り,当事者たちと共有し,取り組みを具体化して協働するという「支援」していく姿勢が求められる。子どもや保護者の意に反する対応をすることで,負担を強いたり,怒りを向けられることもあるだろう。それでも,子どもや保護者の声に真摯に耳を傾けることで共に困難を歩むことが可能になった,という体験が得られることは,児童相談所の魅力だと筆者は感じている。

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小野寺芳真(おのでら・よしまさ)
港区児童相談所
資格:公認心理師・臨床心理士
主な著書:第2章06「アセスメントから支援へ」In:『日本の児童相談所―子ども家庭支援の現在・過去・未来』(分担執筆,明石書房,2022)

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