沢崎達夫(目白大学名誉教授)
シンリンラボ 第34号(2026年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.34 (2026, Jan.)
1.はじめに
本稿は,筆者のこれまでのアサーション・トレーニング(以下,AT)のトレーナーおよびそのトレーナーを養成するトレーナー・トレーニング(以下,TT)のスーパーバイザー体験を踏まえ,アサーションへの理解を深めるための重要なポイントについて,文化的視点を含めながら具体的,実際的に考察しようとするものである。
ATもTTも,参加者が自らの体験を通して学ぶ「体験学習」を重視した心理教育プログラムとして実施される。特にTTは,参加者が自らトレーニングの一部あるいは全体を実施し,他のメンバーやトレーナーからのフィードバックやスーパービジョンによってブラッシュアップさせていくものである。TTの参加者は,それによってATの各領域に関する知識やスキルを向上させ,理論や実践のポイントを体得することで,ATをより適切かつ効果的に実施できるようになる。
なお,TTの参加者には,ATの受講歴およびカウンセリングとグループアプローチの学習・実践歴が求められる。また,平木(2025)によれば,TTにおいてトレーナー養成に関わるスーパーバイザーには,さらにリサーチの経験が必要とされる。
筆者は,TTの中で導入のための小講義とスーパービジョンを担当しているが,その講義の中で力を入れている内容は,「AT全体を包括し,理解を深めるために必要な事項」と,「グループを活用した体験学習の基本的な考え方」の2点である。前者はATでの講義内容を補完・発展させるものであり,後者はそれ自体がAT内では取り上げられていないものである。これらを知ることで,トレーニングに幅と深みが出て,質の向上に役立つものと考えている。
2.アサーションを再考する
1)ATの目指すもの
ATの目標は,アサーションすなわち「自分も相手も大切にした自己表現」を身につけることである。ただ,ATは自己表現のスキルと,それを背後で支え,促進する心理的要因(認知,権利)等を学ぶセッションから構成されているので,参加者は自ずとスキルとしてのアサーティブな表現だけでなく,それを支え,促進する内的・外的プロセスを含んだ総合的なものとしてアサーションを学ぶことになる。そのため,彼らはそこでアサーティブな表現のスキルは,それ自体が単独で機能するのではなく,背後にある多くの心理プロセスと不可分の関係にあることを知るのである。
そうすると,ATでは「アサーティブになる」ことを目指すという言い方も可能になる。「アサーティブになる」とは,個々のスキル以上にそうした表現のできる自分になりたいという願望,すなわち自己の変容・成長に注目した表現である。したがって,ATの目標は「アサーティブな存在としての自分」を目指すことだと言い換えることができる。ATの効果として報告の多い精神的健康や自己信頼の向上等(堀田,2013)は,その結果とも言えるだろう。
2)アサーティブな表現の特徴
一方,アサーションは前述の定義からわかるように,元来言語表現そのものを指しており,その言語表現の様相が研究の対象となり,また文化的視点からも検討されてきた(李,2018等)。そこで,一旦原点に戻って,次はアサーティブな表現の特徴について考えてみたい。
「アサーティブ」,「攻撃的」,「非主張的」それぞれの表現の特徴は,平木(2021)をはじめとして広く紹介されているので,ここでは少し視点を変えてみよう。「アサーティブ」はコミュニケーションを継続させようとする試みであり,「攻撃的」と「非主張的」は逆にコミュニケーションを回避しようとする試みと考えられる。その違いは「(対人)葛藤」に対する姿勢にある。「アサーティブ」では,相手との意見等の相違によって起きるかもしれない葛藤を引き受けようとする姿勢が前提となる。葛藤が生じたときはそれを受け止め,お互いの意見を出し合って歩み寄り,双方が納得できる結論を出そうとするのである。その際,相手を尊重し,理解を深めるための傾聴が欠かせない。
しかし,他の2つの表現は葛藤を起こさせないようになっている。「攻撃的」の場合は自分が強く出て葛藤を押さえ込もうとし,「非主張的」の場合は自分が引くことで葛藤を避けようとする。結果的に両者ともコミュニケーションは途切れ,一方の言い分が優先される。
3)アサーションは自分で選択するもの
アサーションは葛藤を引き受けようとするがゆえに,時間や労力,時には勇気が必要なこともある。それが自分にとって過大であり,不都合な点の方が大きいと判断した場合,例えば相手が非常に攻撃的である場合や逆にアサーティブな表現に対応できないと考えられるような場合には,アサーティブにならないことを選ぶことができる。アサーションは自らが相手や場の状況に応じて主体的に選択するものである。
しかし,一般には「常にアサーティブでなければならない」と誤解されている場合も多い。自分がアサーティブになりたいと思ったら,自分がそう決めればよいのである。自分で主体的に判断することで,仮にアサーティブにならなくても,後悔することも相手を恨むことも減るだろう。
また,アサーションは相手を変えたり,自分の希望や意見を通したりするための手段のように考えられている場合もある。確かにアサーティブに表現すれば,自分の言いたいことは相手に伝わりやすいが,それにどう反応(対応)するかは相手が決めることであり,そこまでコントロールすることはできない。そうしようとすればするほど「攻撃的」になっていくだろう。相手にも相手の考えや気持ちがあり,それを尊重することが肝要である。このことは忘れられがちであるが,「相手も大切にする」に該当する大切な部分である。
このように,アサーションは自他尊重の精神に基づく表現の方法はもちろんのこと,主体的な自己の在り方の判断にも関わるような広範な概念として捉えることができる。
4)アサーションのスキル−DESC法をめぐって
DESC法は,課題解決場面で用いられるアサーションの代表的スキルである。そのプロセスをたどっていく表現方法は,課題解決の大事な要素である「自分」,「相手」,「課題」のいずれもないがしろにされない解決を目指すものだという意味で,アサーションの本質を示していると言えるだろう。DESC法自体は日本で考案されたものではないが(平木,2021等),日本的な配慮の行き届いた表現を組み立てるのにも役立ち,アサーションの文化的普遍性の一端を示していると考えられる。この点は後述したい。
DESC法のプロセスに沿って,「自分も相手も大切にする」というアサーションの精神がどう組み込まれているかを具体的に見てみよう。
まずD(describe)である。最初にお互いが課題となる事項を共有する。ここでは自分の側の一方的な課題の提示ではなく,客観的,具体的でかつ双方が共有できる課題を確認し合い,お互いが了解したところで話し合いが開始される。
次にE(express,explain,emphasize)である。話し手が自分の気持ちを感情的にならずに伝え,相手の気持ちにも共感する部分で,DESC法の中でも特に重視したいところである。自分の気持ちはアイ(私)メッセージで伝え,相手の気持ちに共感する言葉を添える。ともに相手に対する配慮と尊重を示している。
そしてS(specify)である。自分の依頼や提案を具体的に丁寧な言い方で伝える。話し手の最も言いたい部分であるが,それをいきなりストレートに伝えるのではなく,ここまでの相手への配慮と尊重を踏まえた上で,明確な表現で伝えていく。
最後はC(choose)である。相手の反応にはYes とNoの両方があり得る。いずれの場合にもどう対応するかを考えておく。Yesの場合はお礼を伝え,Noの場合はアサーションの基本である歩み寄りの提案をしていくことになる。
このプロセスをたどっていく伝え方は,順を追って相手への配慮と尊重を示していくことにもなり,自然な形で一方的でも押しつけでもないアサーティブな話し合いをする際の手助けになる。DESC法は,杉原(2025)をはじめ,我が国でも広く紹介されているが,これは日本人にも適したアサーティブな表現法として認知されている証左でもあろう。
さらにこの文化横断的な部分に加えて,DESC法の利点を補足するならば,D(客観的な事実)とE (主観的な気持ち等)を区別するという作業が,実は臨床場面における有効な支援の1つにもなり得ることであろう。
5)「何を(what)」伝えるか
会話の際,人が相手に「何を(what)」伝えたいのかを考えてみると,その多くは「自分の意見,考え,欲求,気持ち」等であろう。ただ,個人がアサーティブになれない場面や相手を課題として練習するロールプレイ(以下,RP)では,この「何を(what)」がよくわからず,相手に何を言いたいのかがわかること自体が課題となることがある。沢崎(2021)はこうした例を紹介しているが,人によっては本当に言いたいことに気づくこと自体が難しいプロセスなのである。
こうした時,トレーナーは本人が少しでも気づきを深め,思いを表現できるよう,またそれによって満足感や達成感が得られるよう,丁寧な対応を心がける。具体的には,DESC法のプロセスをたどりながら,またRPの相手役やオブザーバーらの支援を借りながら,カウンセリング的な対応をしていく。時には具体的な助言が与えられることもあって,RPが繰り返される。ATがまさに自己探索,自己理解の場となるのである。こうした時には,各種の「傾聴技法」,「待つ」,「小さな変化への注目」等のカウンセリング的対応が生きてくる。カウンセリング的対応は,TTの中核となるグループ体験のファシリテーション等にも活用できるので,トレーナーには必須の力だといっても過言ではない。
6)「どのように(how)」伝えるか——DESC法と日本文化
「どのように(how)」伝えるかについては,DESC法と日本文化の関わりから考えてみたい。
日本人にはお互いに察し合い,配慮し合うことが求められ,それができないと非難されるという歴史があった。そして,これが日本人に多い非主張性の背景にあるとされる。しかし,国際化や多様化が進む現代社会では,そうした風潮は変化しつつある。その中に生きているAT参加者たちは,アサーションが固有の権利であることを知り,スキルとしてのDESC法を体験し終える頃には,言いたいことをもっと率直に言ってよいのだと考えられるようになる。日本的な他者配慮はすでに日常生活の中で経験しているため,彼らのアサーティブな表現にもそれが反映され,それほど「きつさ」を感じさせない,程よい表現になっていく。相手に遠慮して伝えるのを躊躇していたことでも,グループでせりふを作ってみて,またRPで普段よりも率直に伝えてみて,思いがけず相手に受け入れてもらったという経験をすることも多い。
あるDESC法の体験者は「心を砕いた言い方を考えれば考えるほど,言いたいことから遠ざかってしまう。素直に言いたいことを言ってもいいと思った」という趣旨の感想を述べている。普段はあいまいだったり遠回しだったりして,かえって何を伝えたいのかわからない表現になっていたのだろう。しかし,DESC法の流れに乗れば,段階を踏んで配慮と尊重を示していくことになり,「S」の段階ではいつもより素直に表現してもよいのだと思えるようになったのだろう。
このように,「自分の意見,考え,欲求,気持ち」等をアサーティブに伝えるためには,それまでの日常生活での経験にATで学んだことを加味しながら,その人なりの率直な伝え方をしていくことが重要であり,そこから自分らしく「日本的な」アサーティブな表現につながっていくと考えられる。
3.おわりに
今やAI(人工知能)の発達により,アサーティブなせりふが簡単にインターネットを介して得られる時代である。しかし,コミュニケーションの在り方は人それぞれで異なり,また相手や場面によっても変わり得る。画一的なアサーションの形があるわけではない。一定のスキルや枠組みの中で,試行錯誤しながらでも自分なりのアサーティブな在り方を模索していけばよいのである。その意味では表現方法のみならず,自他尊重の精神と個人の主体性を重視するというアサーションの本質を捉えた考え方が広がっていけば,そこから先は誰もが自分なりのアサーションを形作っていくことができ,また他者のアサーションを尊重していけるようになるだろう。国際化,多様化,そして情報化の進む中で,そうしたアサーションの持つ役割は大きい。
文 献
- 平木典子(2021)三訂版アサーション・トレーニング―さわやかな〈自己表現〉のために.日本・精神技術研究所.
- 平木典子(2025)私信(会議における発言).
- 堀田美保(2013)アサーティブネス・トレーニング効果研究における問題点.教育心理学研究,61 (4); 412-424.
- 李盛熟(2018)日本人のアサーションにおける熟慮的自己表現.金城学院大学大学院人間生活学研究科論集,18; 25-34.
- 沢崎達夫(2021)コミュニケーションスキルとしてのアサーション.In:精神療法 増刊第8号 アサーション・トレーニング活用術.金剛出版,pp.11-15.
- 杉原保史(2025)プロカウンセラーの賢く怒る技術.創元社.
沢崎 達夫(さわざき・たつお)
目白大学名誉教授,日精研アサーション マスタースーパーバイザー
専門はカウンセリング心理学
主な著書:『カウンセラーのためのアサーション』(共著,金子書房,2002),『ナースのためのアサーション』(共著,金子書房,2002)ほか




