井澗知美(大正大学)
シンリンラボ 第33号(2025年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.33 (2025, Dec.)
動物占い,私はコアラ
動物占いをご存知だろうか。流行ったのは20数年前,私のキャラは「夢見るコアラ」。解説によると,「楽しいことが大好きな一方,一人でぼーっとするのも好き。何より嫌うのは無駄なこと,自分なりに考えて動きたいタイプで,人から急かされるとか,慌ただしい状況は好まない」らしい。「あるある」と思いつつ,一歩ひいて考えてみると,誰しもそういわれれば当てはまると思うのではないでだろうか。占いなんてそんなもの。たかが占いされど占い。
はまっていた当時は,周りの人のキャラも調べ,基本性格や相性診断を読み込んでいた。そのラベリングを軸に,自分自身を振り返り,他者との関係性を見つめ直す,そこから発見がある,そんな作業を「楽しみながら」行っていたように思う。
ラベリングとは
じつは私は「コアラ」というラベリングが気に入っていた。さて,本稿で紹介するのは,村澤和多里,村澤真保呂著『異界の歩き方—ガタリ・中井久夫・当事者研究』(医学書院,2024)であるが,この本は,著者が自己病名「毎日が探偵病」となったプロセスから始まる。物をなくしやすいという困りごとをみんなに披露し,やり取りの中で決定したこの病名を,ハードボイルド小説が好きだった著者は気に入り,「自分の困りごとが生活を豊かにしてくれるものに変わった」と実感したそうだ。
ラベリングとは,①ラベルを貼ること,②レッテルを貼って決めつけること(小学館デジタル大辞泉)という意味である。病院にいくと,患者は統合失調症,自閉スペクトラム症など,診断をもらう。診断名もラベリングであり,そのラベリングにしたがって,治療方針が決められる。しかし,ここで着目したいのは,診断を「もらう」という行為である。主治医に「もらう」診断なのか,自分で「つける」診断なのか,診断の主体は誰なのか,そもそも診断とはなんなのか。本書のあちこちで,いろいろな角度からそのことを考えさせられた。ラベリングという行為は,人の生活を豊かにする可能性を含んでいるが,それには,それがどうやって付けられたのか,そのプロセスこそが大事なのだと改めて気付かされた。
「異界」の豊かさと可能性
「あたりまえ」の世界(自明性)を失うとき,そこには必ず異界の扉が開いている。「心のケア」は異界の扉を塞ごうとすることに力を注いできた,しかし,それではただ生かされる存在になってしまうこともある。生きることと生かされることは違うのだ,というのが本書のお話である。
「生きること」はいったん失われた自明性から新たな世界を創造する営みともいえよう。「苦労を取り戻す」ことが大切にされている当事者研究では,当事者が苦労の経験の主体となることに重きが置かれ,「自己病名」をつける。しかし,それは,一人では行うものではなく,ミーティングという包まれた環境のなかで行われる。自分の苦労をカギに,人につながる,世界につながる,そして,世界を創造していくというクリエイティブな営みが起こっていく。
最終章では,現実のなかにある異界という概念として,フーコーの「ヘトロトピア」が紹介されている。フーコーによれば子どもたちは「へトロトピア」をよく知っているという。私にもあった,子どものころに作った秘密基地,学校の中の使われていないプールの消毒槽など,あれは「ヘテロトピア」だったのか。異界は現実の世界に隣接しており,生の実体となりうるものである。異界に足を踏み入れることは「心」を取り戻すことにつながるのである。「異界」万歳!「異界」を歩くのは自分自身,しかし,自分一人では歩いていけない。これもまた大切なことである。
井澗知美(いたに・ともみ)
大正大学 臨床心理学部 臨床心理学科 教授
資格:公認心理師・臨床心理士など
最近ハマっていることは,畑,ヨガ,旅!







