太田裕一(静岡大学)
シンリンラボ 第30号(2025年9月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.30 (2025, Sep.)
特定のコミュニティに所属する人を対象に心理的援助を行う者は,対象となる個人の査定に加えて,その人が所属するコミュニティをグループとしてとらえ,その力動を理解して関わることが必要になる。特に学校コミュニティを対象にするスクールカウンセラー(ソーシャルワーカー)は,凝集性が高く問題の原因解明と教育的指導という強い枠組みを持った教員集団に他職種として受け入れてもらい,問題の原因を生徒や家族に還元するのではなく,グループで抱え続けるようになれるための多職種チームを形成することを大きな課題としている。学校におけるグループ・アプローチがカバーする範囲は日常的な支援から,学校緊急支援,児童虐待のような緊急性を要する対応にまで及ぶ。
私は本書を読んでいて,学校で活躍するグループセラピストたちが自由に自分の与えられたテーマについて連想を広げている金魚鉢セッションを見ているかのような印象を受けた。金魚鉢セッションとは,デモンストレーションのために観客のいる前で実際にグループセラピーを行うものである。
そのように感じるのは執筆者たちが月に一度,時にはそれ以上のオンラインセッションを設けて「グループをしながら本書を編んだ」という雰囲気が本書に反映されていることが大きいのだが,監修者である相田があとがきで「本書は実のところ学校・教育関係にとどまらず広くグループ療法(や,その訓練,その発展)について記した書だ」と将来書評を書く人に評してほしいと書いているせいでもある。
相田のあとがきを読んで,まるで金魚鉢セッションを行っていたコンダクターがセッションの最後に振り返って,不在を前提とされていた聴衆(=読者)に語りかけているかのように感じた。金魚鉢セッションの目的は一見するとセッションの外部から内部のプロセスを客観的に観察する教育的な目的があるように見えるが,実際は金魚鉢を取り巻く人々の存在が,内部の人々のやりとりに大きな影響を与えることを知ることも隠れた目的なのだ。グループは入れ子構造になっていて,つねにより大きなグループが小さなグループを抱え,ふたつのグループには活発な相互作用が起こっている。
学校を巡るグループの営みはこの書籍という媒体を通じて,他の学校にも伝播していくだろう。いや,相田が主張しているようにそれは学校に限らずさまざまなコミュニティに対して広げることが可能なのだ。書評が私に回ってきたのにも因縁を感じる。この本が書かれるきっかけとなった,学校でのグループアプローチのワークショップが行われた日本集団精神療法学会第40回大会で,私は大会長を務めていた。そして執筆者の梶本,鎌田らと小中高大学のグループアプローチを比較する別のワークショップを行い,環境の差による違いとグループアプローチの本質の類似を感じていたのだ。本書をきっかけに金魚鉢の内側の世界が外界と接続され,この実践が拡散されていくことを切に望んでいる。
名前:太田 裕一(おおた・ゆういち)
所属:静岡大学保健センター&学生支援センター
資格:公認心理師・臨床心理士
専門は集団精神療法,力動的精神療法,学生相談。
趣味:大学ではほぼカウンセリングと委員会の毎日に加え,アニメ解釈やロック・現代アートについての講義を担当しています。写真は尖っていたロッカー時代。
主な著作:『学生相談カウンセラーと考えるキャンパスの心理支援──効果的な学内研修のために2』(編著,遠見書房,2023年),『新訂版 学生相談ハンドブック』(分担執筆,学苑社,2020年),『スーパーヴィジョンのパワーゲーム──心理療法家訓練における影響力、カルト、洗脳』(翻訳,金剛出版,2015年)。







