芦沢茂喜(山梨県中央児童相談所)
シンリンラボ 第33号(2025年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.33 (2025, Dec.)
はじめに
毎週,土日のいずれか,または両日,私は山梨県内の公園や公共施設の駐車場に車を停め,自家用車の車内で過ごしています。
車はトヨタのハイエース(ワゴン車)。コロナ禍,キャンプ需要の高まりを受け,既製車をキャンプ仕様に改造したものが販売されるようになりました。後部座席を畳み,できたスペースに,取り外し可能なテーブルを付け,片方はベッドマットを椅子の形にセットし,もう一方は備え付けのテーブルを置くと,テーブルを挟み,最大2対2で対面できる設計になっていました。また,四方は車中泊ができるように,カーテンが設置され,ポータブル電源を付けると,エンジンを切った状態で,天井LEDランプが点くようになっていました。家族連れをターゲットに,週末のキャンプができるように販売された車を,私は2022年8月,キャンプ用ではなく,オープンダイアローグ用に購入しました。
2023年4月,納車されたワゴン車に乗り,公園などの駐車場に出向き,車内で当事者,家族と私でオープンダイアローグをするという,おそらく誰もしていない取り組みを始めました。一人,自分の時間で始めた小さな,小さな取り組みの2年間について,報告できればと思います。




自己紹介
私は,山梨県内の民間精神科病院等を経て,山梨県職員となり,精神保健福祉センター,保健所などの相談員として勤務し,現在は児童相談所の児童福祉司をしています。仕事を始めて20年以上が経過しました。仕事を始めた当初は,精神科長期入院者の地域移行やアルコールや薬物依存など,アディクションに取り組みましたが,13年前から,ひきこもり支援に取り組んできました。ひきこもり支援に関しては,これまでに書籍を2冊注1)発刊し,支援の様子はNHK「クローズアップ現代+」などで取り上げられてきました注2)。当事者と会うことが難しい中で,訪問を重ねる様子が映像で紹介され,多くの反響を頂きました。
注1)生活書院より,『ひきこもりでいいみたい―私と彼らのものがたり』と『ふすまのむこうがわーひきこもる彼と私のものがたり』の2冊が発刊されています。
注2) 2020年7月20日,NHK「クローズアップ現代+」で支援の様子が特集されています。
ひきこもりについて
そもそも,ひきこもりについては,国の研究班が示した「様々な要因の結果として社会的参加を回避し,原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態」注3)との定義が長い間,使用され,直近の内閣府の調査結果によれば,15歳から64歳を対象に,推計で146万人にのぼることが報告されています注4)。ただ,会うこと自体が難しいことから,その実態は分からない状況があります。
注3)厚生労働省研究班(2010)ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン.厚生労働科学.
研究費補助金こころの健康科学研究事業「思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究.
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000807675.pdf (2025年12月1日閲覧)
注4)内閣府(2023)こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度).
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12927443/www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/ishiki/r04/pdf/s3.pdf (2025年12月1日閲覧)
これまで,国の研究班が作成したガイドラインに基づき,支援の対象を当事者に限定し,当事者の精神保健上の課題に対して診断,治療を行う医学モデルに基づいた支援が展開されてきましたが,当事者,家族が受けるスティグマなどから,家族会を中心に改訂の要望が挙がっていました。
2025年,国は要望を受け,医学モデルから,当事者,家族を受け入れる社会に対してソーシャルワークを行う,社会モデルへの転換を打ち出し,ひきこもり支援のハンドブックを発出しましたが,具体的にどのような支援を展開していったよいか,支援現場は分からず,困惑している状況が見られます。
新たな形を模索
これまで,ひきこもり支援は,先述のガイドラインに従い,家族からの相談を受け,家族が当事者へ相談を促し,相談に訪れた当事者と出会い,集団活動を行い,支援のゴールである就労や就学といった社会復帰に向けて取り組む形が取られてきました。ただ,多くの支援機関で,家族教室や集団活動などのメニューを揃えてきたものの,支援を受けるには当事者,家族が支援機関に出向かなければなりません。当事者にとって,外に出て,知らないところに出向くこと自体が大変なことであり,家族も世間体などを気にして,支援機関に繋がらない,繋がれない現状があります。
そのため,近年は支援機関が自宅に出向く,訪問の形が取られるようになってきましたが,自宅に来ることを拒否する当事者は多く,訪問しても会えない,会えたとしても,継続できない状況が続いています。少し古いですが,関東1都6県の保健所などを対象に,家族会が行った調査では,「本人に会うことが難しい」に8割,「会えても継続が難しい」に5割が回答しており注5),その状況は現在も大きく変わっていません。支援機関への来所でも,支援機関からの訪問でもなく,なおかつ医学モデルに基づかず,地域で取り組むことができる形を考える必要があると思いました。
注5)平成30年度 生活困窮者就労準備支援事業費等補助金社会福祉推進事業 長期高年齢化する社会的孤立者(ひきこもり者)への対応と予防のための「ひきこもり地域支援体制を促進する家族支援」の在り方に関する研究 報告書~保健所等におけるひきこもり相談支援の調査結果報告書~「保健師さんのためのひきこもり支援実践ハンドブック」
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000525396.pdf (2025年12月1日閲覧)
参考にしたもの
支援機関への来所でも,支援機関からの訪問でもない形を検討するにあたり,参考にしたのが,「みんなでひきこもりラジオ」でした。「みんなでひきこもりラジオ」は,2020年5月より,NHKラジオ第1で放送されているラジオ番組であり,アナウンサーがパーソナリティを務め,毎回,テーマに関してメール,ハガキ,SNSを通じて当事者から寄せられたメッセージを読む構成となっています。知らない誰かのメッセージをアナウンサーが読み,それを聞いた知らない誰かが反応し,新たなメッセージを寄せ,それをアナウンサーが読み,また知らない誰かがといった形で,メッセージが重なっていき,当事者にとって安心できるコミュニティが形成されています。
2020年12月9日には「クローズアップ現代+」の企画で,ラジオのパーソナリティを担当するアナウンサーが,ラジオカーに改造したワゴン車に乗り,当事者や家族などのもとを訪ね,声を聞く特集が組まれ,「“こもりびと”の声をあなたに〜親と子をつなぐ〜」と題した番組が放送されました。ラジオカーが山梨県にも来て,当時,担当していた当事者,家族とともに私も乗車する機会を得ましたが,その際に改造された車を見て,支援に活用できないかとのアイディアが浮かびました。
私が活動する山梨県は,地方であり,支援機関は限られ,当事者や家族が外出しようにも交通の便が悪く,車がなければ,自由に外出すること自体が大変です。近隣や地域の繋がりも残っており,外出先で誰かに会うことを心配しなければなりません。また,自宅はプライベートな空間で,当事者が訪問を拒否することを考えると,自宅近くの公園などの駐車場に出向き,車内で話ができる形が取れれば,課題を解消できるのではないかと思いました。
ただ,話を聴くだけであれば,これまでの支援の場を車内に移しただけであり,医学モデルに基づかず,地域で取り組むことができる形を考えた時に,出会ったのが「オープンダイアローグ」でした。
「オープンダイアローグ」(以下,OD)は,開かれた対話と訳され,フィンランドのトルニオ市にあるケロプダス病院で実践されたものが,世界中に広がり,日本に紹介された当初より関心を持ち,書籍を読み,研修会を受講し,山梨県内でも研修会を継続的に企画してきました。
私はODの中でも,当事者と家族が支援者と交互に会話し,互いに観察する「リフレクティング・トーク」に惹かれました。ひきこもりは,当事者と家族との間のコミュニケーション不全が課題として挙げられ,これまでも当事者に対する家族の関わり方を変えることを目的とした心理教育が行われてきました。しかし,私は当事者と家族の対応を分けることに違和感があり,支援者が当事者と家族のコミュニケーションに加わり,途切れた回路を新たに繋ぐことに関心を持ちました。
改造した車で,公園などの駐車場に出向き,車内で当事者,家族とともに「リフレクティング・トーク」を行う。そして,了解が得られたら,その様子を映像などで記録し,編集の上で公開し,「みんなでひきこもりラジオ」のように,それを観た人が次に「リフレクティング・トーク」を行うアイディアが浮かび,「対話を届け,声を伝えるプロジェクト つむぎ」とタイトルをつけ,取り組むことにしました。
アイディアが浮かんだのが2020年の年末ですが,実際に車を購入するには時間がかかりました。当時,保健所で感染症を所管する課に所属していたことから,通常業務がストップとなり,コロナ対応に専念することになりました。夜中までの対応が続き,生活が不規則となり,車を探し,購入し,自らの取り組みに時間を割くことができませんでした。
コロナの感染症法の2類から5類への移行がマスコミなどでも取り上げられるようになり,少しずつ体制が整い,時間が取れるようになった2022年8月に,前述のとおり,動き始め,車の契約を行いました。ただ,コロナ禍で部品の調達ができず,ベース車であるハイエースの入手には時間がかかり,2023年4月3日に車が仕上がり,納車となりました。
平日は,本業の仕事があるため,活動日は土日に限定し,費用は無料で,取り組みのために設けたメールアドレスに連絡をもらい,当事者の自宅近くの公園や公共施設の駐車場などに出向き,車内で当事者,当事者が同席を許可した人(家族や友人など)と私で対話を行う形としました。
直面した課題
取り組み開始を外部に伝えるために,2023年4月8日に「note」に記事を投稿し,対象者の募集を始めました注6)。また,外部の協力を得て,2023年6月20日には,山梨県の地元紙である山梨日日新聞に,「県職員・芦沢さん 対話室備え各地へ」との記事が掲載され,2023年12月17日には,民間団体が運営する「山梨県ひきこもり情報ポータルサイト やまひぽ」にも紹介記事が掲載されました注7)。


注6)https://note.com/cocone_690/n/n967969514349
注7)https://yamahipo.net/group/tsumugi/
周知の結果,多くの連絡がありました。多かったのが,ひきこもりの家族,なかでも母親からのものでした。テレビなどを通じた私に対するイメージから,出向かなくても,自宅近くの公園に来てくれるとの認識を持った方が多くいました。ただ,車内で対話を行うことにこだわり,母親のみの相談は当初,断っていました。
「リフレクティング・トーク」を実施するには,話し手,聞き手,観察者の最低でも,3人が必要になります。当事者と私以外に,もう1人必要であり,まずは当事者に家族や友人などの中で,会話に参加することが可能な人がいるかを聞きます。いない場合は,私の知人の中で,「リフレクティング・トーク」を理解し,会話に参加することが可能な看護師,心理士などの専門職に依頼しても良いかを当事者に確認する形を取りました。
当事者からの連絡は,女性からのものが複数,届きました。単独ではなく,複数名で行うことを説明すると,同席者が入ることに抵抗が示されました。家族の同席を拒み,家族以外で同席を依頼できる人がいないため,私の知人の同席でも良いと一旦,同意が得られ,話を進めようとすると,今後は私の知人がどのような人なのかが気になるとのメールが届くようになりました。例えば,「以前,相談の連絡をし,話をした専門職だったら嫌」,「対話をするためのトレーニングを受けていない人は嫌」などのメールが届き,話が一向に進められなくなりました。
また,「助けてほしい」とのメールがあり,具体的な内容を教えてほしい旨,メールを送っても,返信は来ず,「辛い。大変」とのメールがその後も届くこともありました。その他には,メールのやり取りを重ね,具体的な日程などを詰めていく段階まで進むと,会って,話をすることに対する不安感から,返信が来なくなり,最終的には協力が得られないことが続きました。
この時期に,対面で行えたのは,不登校を経験した児童の母親とその友達であり,その様子は了解を得た上で逐語録を作成し,前述の「note」のページに投稿しました。
課題への対応
当初,思い描いていた形を実施できないことから,実施前の環境調整を目的に,①取り組みを紹介するための,オンラインの報告会を開催し,②その後の流れで,「かぞくのカタチ」と題したオンラインの家族会を開催し,③当事者からの連絡が入った場合は,まずは1対1で,当事者の画面はオフにし,オンラインで相談を受けることにしました。
その結果,2025年になると,私,当事者,家族の三者で,車内で対話ができることが増えていきました。これまで私のこだわりで断っていた家族のみの相談も,対面で受けるようになり,相談を重ねた結果,当事者が来るといった現象も起こるようになりました。メールによる直接の問い合わせ以外に,ひきこもり家族会での講演を契機に,家族会を経由して,連絡が入ることも増えていきました。また,オンラインの相談は当事者だけでなく,家族のみ,当事者と家族の組み合わせにも,広げていきました。
2023年4月から2025年10月末現在までの実績としては,対面は7組(20回)であり,オンラインは5組(22回)でした。対面7組のうち,当事者と家族が3組(13回),家族のみが4組(7回)となっています。当事者の年代は,10代が1名,20代が2名,30代が1名,40代が2名,50代が1名であり,性別は男性が5名,女性が2名でした。特徴的なこととして,7名全てが精神科医療機関を受診していました。
一方,オンライン5組の内訳は,当事者のみ2組(9回),家族のみ2組(5回),当事者と家族が1組(8回)となっています。当事者の年代は,10代が1名,20代が1名,30代が2名,40代が1名であり,性別は男性が2名,女性が3名でした。自治体が実施する,ひきこもりに関する調査では,8〜9割近くを男性が占め,女性が表に出てこないことが指摘されますが,私の取り組みでは特徴として,女性が多いことが挙げられます。
対話は1回で終わることはなく,多い人で8回を数え,対面で実施した7組(20回)は,説明の上で署名をもらい,録音したものを逐語録に起こし,保管しています。今後,当事者と家族とともに,「リフレクティング・トーク」を行った3組(13回)については,倫理審査を申請し,許可を得た上で分析を行い,今回の取り組みで実施した「リフレクティング・トーク」の構造と効果を明らかにし,文章化していく予定です。
車内での取り組みだけでなく,取り組みを通して,感じたことなどを音声で発信をする取り組みも,2025年9月より「生きづらさの声でつむぐ ラジオとくるま」とのタイトルをつけ,行っています注8)。
注8)https://www.youtube.com/watch?v=fa_lpxDltok
実施してみて
「リフレクティング・トーク」については,私に対して当事者が話し,家族がそれを聞き,話を聞いていた家族が私と話し,それを当事者が聞くという形を繰り返すことで,家庭内では会話のない,当事者と家族が互いに思っていることを聞く機会となりました。1対1であれば互いに一方的に,感情をぶつけてしまうところが,話す相手が私のため,話す側は感情を抑え,話すことができ,聞く側も直接的ではないため,冷静に受け止めることができる効果を感じました。参加された家族からは,「家では話ができないが,この場では本人の気持ちや状況を知ることができる」との感想をいただきました。
前述のとおり,ひきこもり支援は,これまで医学モデルで進められてきました。当事者の精神保健上の課題に原因を求め,診断の上で,治療を行う,「支援者が当事者,家族を変える」取り組みでした。近年,それを進めたことの弊害が指摘され,当事者,家族を受け入れる社会の改善を行う,「当事者,家族が変わる環境を整える」,社会モデルへの転換が言われるようになりましたが,具体的な取り組みをイメージすることは医学モデルに比べ,難しいように感じます。
今回,私が取り組んでいるものは,当事者と家族のコミュニケーション不全に焦点を当て,これまで多く行われてきた心理教育のように,家族の当事者への関わり方を変え,当事者を変えていくものではなく,コミュニケーション不全そのものに支援者が関わり,当事者と家族のコミュニケーションに新たな回路を作っていく試みといえます。ひきこもり当事者,家族の高年齢化が指摘される中で,変わることが難しい当事者,家族に対する新たな取り組みとして提示できるものと考えています。
また,支援機関に出向き,誰かに会うことを心配することも,自宅に支援者が来ることに対するストレスを気にすることも,交通手段を気にすることもないため,移動相談室は都市部ではない地方で活用できる仕組みだと感じています。
今回の取り組みは,前例がないため,組織で取り組むことはできず,車の購入などにかかる費用は全て自費で支払い,補助金などに頼ることはできませんでした。また,試行的な取り組みであり,休日を使ったボランティアとして始めたことから,実施にかかる費用を当事者,家族に請求することもしませんでした。車の購入と維持管理には費用がかかり,今回の取り組みで使用しているワゴン車は貨物車扱いであり,年1回の車検が必要であり,ハイブリッド車に比べ,燃費も悪く,ガソリン代がかかります。実際に導入を考える場合は,稼働日数などを考慮し,費用対効果の観点から,車の種類,改造の程度などを検討していく必要があります。
まずは,皆さんに取り組みを知って頂き,今後については実践を続け,並行して得られたデータを分析し,効果も含め,社会に還元することが少しでもできればと思います。


芦沢 茂喜(あしざわ・しげき)
山梨県中央児童相談所
資格:精神保健福祉士,社会福祉士
主な著書:『ひきこもりでいいみたい――私と彼らのものがたり』(生活書院,2018),『ふすまのむこうがわ――ひきこもる彼と私のものがたり』(生活書院,2021)ほか








