【特集 スクールカウンセリング30年】#06 スクールカウンセリングの課題と展望|本間友巳

本間友巳(京都教育大学名誉教授)
シンリンラボ 第35号(2026年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.35 (2026, Feb.) 

1.4つの主要な課題

公立学校でのスクールカウンセラー(SC)活用がスタートしてから30年。今日に至るまでの大きな変化を4つあげることができる。第1に,不登校などのSCによる支援が期待される子どもを巡る課題の広がりである(①)。この30年の学校や社会の変化に伴って子どものテーマは拡大し,また多様化・複雑化した。

第2は,学校でのSCの位置づけの変化だ。SCスタート当初の「外部の専門家」から「心理学の専門性をもつ学校職員」への変化である(②)。この変化は学校教育法施行規則の改正で,SCが法的に位置づけられたことによる。

第3は,SCの担い手に関する変化である(③)。2017年に制定された国家資格である公認心理師が,それまで中心であった臨床心理士に加えて新たなSCの担い手になった。

第4は,SCの働き方に関連する2つの変化だ(④)。ひとつは,30年前に全国154校でスタートしたSC配置は現在までにおおよそ全校配置に達し,SCとして働く心理職の数も大幅に増加した。その一方で,当初1校あたり週8時間だった配置時間は,現在「基盤となるSC配置」で週4時間(「重点配置」は週8時間)(文部科学省,2025)であり,スタート時に比べて減少している。もうひとつの変化は,任用(雇用)に関する変化である。地方公務員法の改正で,SCは「非常勤特別職」から「会計年度任用職員(一般職)」へとその位置づけが変更された。しかしながら,SCの任用が不安定であることは当初から変わっていない。また位置づけの変更の結果,任用に関する新たな課題も生じている。

これら4つの主要な変化の中から,ここでは①から③を課題として取り上げる。④に関しては#05で扱うため,ここでは触れない。

2.①の課題──子どもの課題の広がり

現在,子どもに関する課題にはどのようなものがあるのだろうか。日本臨床心理士会が作成したSCの職務に関するガイドライン(2024)の中に,SCが自らの活動を評価するための「自己点検チェックリスト」が掲載されている。そこには主要な子どものテーマ(課題)として,「不登校」「いじめ」「暴力行為」「性犯罪・性暴力」「児童虐待」「発達障害」「貧困・ヤングケアラー」「自然災害・事件事故」「自殺」の9つが示されている。

これらの中の「不登校」「いじめ」「暴力行為」は,すでに30年前からSCの関与が期待されてきた伝統的な課題だ。その一方で,他のほとんどは,社会の変化に伴いこの30年間で焦点化された新たな課題と見なすことができる。新たな課題への学びが不可欠である一方,伝統的な課題も研究の進展や社会の変化によって再検討が必要であり,これらへの学び直しも欠かせない。

拡大し複雑化・多様化していく子どもの課題に対して,SCは効果的な対応ができる知識やスキルの学びを繰り返し,専門性をより一層高めていかねばならない。とりわけ,プロアクティブな生徒指導(文部科学省,2022)を重視する国の流れから,これまで中心であった事後対応に加えて,課題が顕在化する以前の事前対応,すなわち効果的な予防的対応を身につける必要がある。これは,これからのSCにとって不可欠な資質となるだろう。

さらに,SCは子どものテーマに関してその学問的成果のみならず,社会が示す学校や子どもに関する法や制度を理解し,それらに沿って対応する力も高めていく必要がある。たとえば,いじめでは2013年に成立した法律(いじめ防止対策推進法)やこの法に基づいて示された国の基本方針等への理解を深めるべきであろう。SCが学校で活動する以上,SCの対応が法や制度を軽視するものであってはならない。すなわち,SCが身につけるべき能力とは,心理学的知見やスキルを示す「専門知」に加えて,SCが活動する場である学校を支える法や制度などの社会的な枠組みの理解を意味する「形式知」を含むものでなければならないのである。

3.②の課題──「外部の専門家」から「心理学の専門性をもつ学校職員」へ

②の変化は,広義にはSCの外部性の希薄化と内部性の高まりを意味している。このような変化によって,第1に,学校側からのSCへの要望が増える可能性がある。たとえば,教職員のメンタルヘルスに関するアドバイスや初期対応をまかされる可能性がある。またキャリア教育(進路指導)の推進に向けて,心理学的側面からの連携や支援を依頼される可能性もあるかもしれない。もちろん,現在の勤務時間では,子どもや保護者へのカウンセリング,教員コンサルテーション等の中核的職務によって他に時間を割く余裕はなく,このような依頼の増加は想定しにくい。だが,もし勤務時間が増えれば,心理学と関連する様々な依頼が増加する可能性は高い。そのときSCは,依頼された活動の諾否の判断とは別に,様々な依頼や要望に応えることができるよう,日頃から自らの「専門知」のアップデートを怠らない持続的な努力が必要となる。

第2にSCの内部化に伴って,SCは他の教職員と連携して職務を遂行する機会が増えるだろう。言い換えれば,「チーム学校」(中央教育審議会,2015)のメンバーとして,これまで以上に教職員との積極的な連携とチームへのより効果的な貢献が期待される立場となる。

学校側からSCに高まる期待の一例として,SCが子どもや保護者から得た情報(相談内容)の教職員への報告(情報共有)をあげることができる。SCが得た相談者の情報の多くは,教職員が彼らを支援する上でもしばしば重要な役割を果たす。よって,SCの内部化はチームへの報告の期待や要望をこれまで以上に高めることになる。

しかし,このことは同時に,SCの重要なテーマである守秘と報告を巡るジレンマの解決を一層難しくするだろう。周知のように,SCは心理職として相談者から得た情報に対する守秘義務を負っている。その一方で,学校で活動する以上,SCは得られた情報を関係教職員に報告し,彼らとの連携のもとで相談者の課題を解決していく義務もある。SCの外部性が担保されていた時代は,SCが一人で引き受ける情報と報告・共有する情報(いわゆる,集団守秘)を,相談者との信頼関係のもとに自らの「専門知」に基づく判断によって切り分けることができた。だが今日,子どもの課題は,チームとして解決していくことが学校のデフォルトとなっている。加えてSCが内部性の強い立場になった以上,今のSCはこの「チーム学校」のルールに沿った行動を軽視することはできない。その結果,守秘と報告の判断を巡るジレンマの難度は上がることになる。

このジレンマの解決は決して容易ではない。だが,解決を目指すうえで理解しておくべき点は,守秘と報告の判断はあくまで個々の事案ごとに行われ,通常,一方が0で他方が100のような結果にはならないことである。言い換えれば,ある事案では「守秘70,報告30」,別の事案ではこの逆になることもありうる。

ともあれ,SCは「なぜ(目的),何を(内容),誰に(対象),いつ(時期),どのように(伝え方)」等を,個々の事案ごとにこれまで以上に具体的に検討し,その上で守秘と報告の程度やバランスを判断すべきだ。換言すれば,事案ごとに「報告する目的は何か」,「情報の中のどの部分を報告するのか」,「誰に報告しどの範囲の関係者まで共有するのか」などを慎重に考える。その上で,守秘と報告のバランスの最適解(と思える解)を導くのである。

このような作業を遂行するには,学校の状況,管理職の考え方,相談者と学校及び相談者とSCの関係,教職員間の力動,教職員とSCのつながりなどの総合的な理解や分析が不可欠である。このような実践的な能力,言い換えれば「実践知」を高めていくことが,内部化が進む学校で活動するSCには不可欠となる。

「実践知」とは,具体的な事態への対応を通して経験的に培われる知であると同時に,その対応を下支えする実践的な能力を指す。明示的な知である「専門知」や「形式知」の高度化に加えて,この「実践知」をアップデートし続ける努力が,SCには今後一層必要となる。「心理学の専門性をもつ学校職員」として,教職員との積極的な連携と専門性の効果的な貢献を期待されるこれからのSCにとって,日々の実務を支える「実践知」の高度化はますます重要な課題となるに違いない。

4.③の課題──SCの担い手の変化

SCの担い手に公認心理師が加わったことはSC内部の変化であり,ユーザーである子ども・保護者や学校関係者にとって重要な課題ではない。なぜなら,ユーザーの関心事は自校のSCが役立つか否かであり,その背景の資格には特段の関心はないからだ。よって,この変化はSC内の関心事であり課題でもある。

臨床心理士も公認心理師も心理的対人支援の専門家であり,その専門性の基盤は共通している。またダブルライセンスフォルダー(両資格取得者)も多く,実際の対応も多くの点で類似している。しかし,このような共通性とともに,それぞれの専門性に関してその力点の置き方に違いもある。私見ではあるが,臨床心理士は臨床心理学に重点を置いた学習経験を多くもち,個人臨床に力を入れる。その一方で,公認心理師は心理学全般を幅広く学び,他職種との連携や協働を重視した支援に力点を置く傾向にある。

このような資格による違いがSC活動の実際や成果にどのような差異を生み出すのか,この点に関する研究はほとんど見当たらず,現段階ではっきりしたことはわからない。だが,どちらの専門性が優れているかなどの比較はそれほど重要な視点ではない。今日もっとも重要な点は,資格の違いを超えて,ユーザーに役立つSC共通の枠組みを明確化することだ。

アメリカでは,すでに約30年前にスクールカウンセリングプログラム国家基準(Campbell & Dahir, 1997)が策定されている。日本でも,近年,日本のSCに即したガイドラインを策定する動きが始まっている(日本臨床心理士会,2022;2023;2024)。

もし日本版のスタンダードと言えるようなガイドラインが完成したならば,各SCはこのガイドラインによる学びを共通の基盤として,その上に学校での実践を積み上げ,自らの個性や資質に合ったオリジナリティの高いスクールカウンセリングを創りあげることができるだろう。この共通性と独自性の統合による質の高いスクールカウンセリングの確立こそが,次の時代のSCに強く期待されるミッションなのである。

最後に,ここでは取り上げなかった④の課題も含め,SCに関わる種々の課題を解決しスクールカウンセリングをより発展させていくためには,SCが共に集うことのできるプラットフォームが不可欠となる。それは特定の資格や立場のSCによる限定的なものではなく,すべてのSCが参加できる仕組みでなければならない。「SCに準ずる者(準SC)」も,将来のスクールカウンセリングを担うSC志望の大学院生も共に学ぶことのできる組織である。

このような考えに基づいて,数年前,筆者もメンバーである「日本スクールカウンセラー協会」は設立された。同様の考えをもつ全国のSC支援組織が大同団結して,将来,スクールカウンセリングに関わるすべての人を包摂できるプラットフォームが形づくられる日が訪れることを願いたい。

文  献
+ 記事

本間 友巳(ほんま・ともみ)
京都教育大学名誉教授
資格:臨床心理士,公認心理師,博士(教育心理学)
主な著書:『いじめ臨床』(編著,ナカニシヤ出版,2008),『学校臨床』(編著,金子書房,2012),『公認心理師分野別テキスト3教育分野』(分担執筆,創元社,2019),『改訂はじめて学ぶ生徒指導・教育相談』(編著,金子書房,2024)など
趣味:テニス

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