【特集 認知行動療法に力を宿すには!?】#03 問題解決技法──臨床編:クライエントの価値観に寄り添う支援の実際|本岡寛子

本岡寛子(近畿大学
シンリンラボ 第31号(2025年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.31 (2025, Oct.)

1.はじめに:この技法に出会ってからこれまでのこと

問題解決技法 基本編 では,問題解決プロセスを「ステップ1:問題の明確化」「ステップ2:目標設定」「ステップ3:解決方法の創出」「ステップ4:行動目標の設定」「ステップ5:実行/結果の評価」の5つのステップに沿って,理論的枠組みと基本的な進め方について解説した。体系化されたプロセスに沿って進めれば,スムーズに支援ができるように感じられたかもしれない。

筆者は大学院生の頃にこの技法に出会い,主に海外の問題解決技法に関する文献等を参考に「問題解決ワークブック」を作成し,総合病院の神経精神科の外来患者さん(主治医の許可を得た不安症やうつ病の患者)に協力していただいて,その有用性を検討させて頂いたのが始まりであった。約25年前のことである。

その後,うつ病や適応障害で休職されている方の復職支援や,がん患者の心理的苦痛を緩和する対策としてこの技法の有用性を検討する機会を頂いた。欧米を中心に活用されてきた技法をそのまま我が国で使用しても一筋縄にはいかず,協力者がドロップアウトしたり,ひとつのステップから前に進めなくなったり,思うような結果が出ず解決の方向性を見失うことも多かった。

患者さんからいただいたプログラムに対する様々な感想やご意見を参考に,共同研究者や現場の臨床家たちと一緒に,各ステップでの進め方の工夫を蓄積してきた。本稿では,基本編で書ききれなかった各ステップにおける筆者自身のつまずきを紹介し,その際に役に立った工夫や言葉がけを紹介したい。

2.ステップ1「問題の明確化」におけるつまずきポイント:過去と未来への傾聴にとどまってしまう

我々心理臨床家等の対人援助職は,人の話を傾聴する基本的な姿勢が身についている。それは様々なトレーニングの賜物であって,臨床家として最も求められる姿勢であるといえる。しかし,問題解決プロセスを循環させる必要がある場合,「何に傾聴するか」が重要になる。陥りやすい状況としては,「過去」の失敗やトラブル,「将来」起こるかもしれない脅威的な出来事に傾聴することにとどまり,現在の問題から回避した状態を維持してしまうことである。

例えば,「先週,仕事で失敗して上司に叱責された(過去)」「失敗の影響で上司からの評価が下がり,降格するかもしれない(将来)」のような問題が語られることがある。抑うつ状態にあるとき,「過去」や「将来」について否定的に繰り返し考える反芻状態に陥ることが知られているように,「今ここ」がおろそかなり,今日から取り扱うことのできる問題の明確化を邪魔してしまうことがある。

「問題の明確化」における実践的な工夫

1)「現在」にも傾聴することを意識する

最初の15-20分はクライエントの語りに十分傾聴し,その後は「現在」の生活における気がかりなことや問題に焦点を当てるよう意識的に促すことも重要である。

「病気を患ったことで,今の生活にどのような影響がありますか」「不安が強くなると,日常生活にどのような支障が生じますか」などのような声掛けが有効である。

2)具体的エピソードを語ってもらう

「家族との関係」「職場の人間関係」といった抽象的な表現にとどまってしまうことがあるため,「この1週間の生活の中で,実際に気がかりに感じたり,困っていることがあれば教えてください」などと尋ね,記憶の新しいエピソードを具体的に語ってもらうことが可能となる。また,Who(誰と),When(いつ),Where(どこで),What(何が)を明確にするよう質問をすると問題状況がより明確になる。

3.ステップ2「目標設定」における初学者のつまずきポイント:目標が定まらない

はじめからクライエントの価値(そうありたいと思う状態/What I want,そうすべきと思う状態/What should be) を反映させた目標を設定するのは難しいこともある。

設定した目標を眺めて「本当に自分の目標はこれでいいのか? もっと違う目標を目指すべきではないか?」と完璧な目標設定を求めて前に進めなくなることが度々あった。逆に「何を目標にしたらいいかわからない。」「自分が求めている状態のイメージが湧かない」という場合もある。

重大な問題に直面した際,少し立ち止まって今後どうしたいのか・どうすべきかを考える時間を十分とることも重要である。しかし,いつまでもこのステップにとどまっていては,問題解決の方向性が自分にとって価値あるものかどうかを判断する材料を得ることができない。

「目標設定」における実践的な工夫

1)循環的アプローチを意識する

ステップ1からステップ5の問題解決プロセスを循環させながら自分の価値を探すことを前提としておくとよい。「すぐには今の自分にとって価値のある目標を設定することは困難なことが多いので,現段階では暫定的な目標を設定するか,行動してみることで大切にしたいことを少しずつ見つけるとよいでしょう」と伝えることも有効である。

2)価値観の言語化が困難な場合は行動実験を優先する

ステップ2の目標設定は後回しにして,今日からできそうなことを実行してみる。そして,自分の感情(幸福感,満足感,達成感,親愛感,信頼感など)を手がかりに,今の自分にとって価値のあるものを探してみる。つまり,何をすれば幸せや達成感等の肯定的感情を得られるのかを行動実験で確かめることを優先することが役立つ場合もある。

4.ステップ3「解決方法の創出」におけるつまずきポイント:状態目標 と行動目標の混同

筆者が復職支援プログラムの一環として問題解決技法を集団認知行動療法として実施していた際,参加者の中に「這ってでも職場に毎日行くこと」がゴールと仰る方がおられた。職責が強く家族思いの方であった。

当人は状態目標(行動目標を実行した結果,得られる自分にとって好ましい状態)として「這ってでも職場に毎日いくことができている状態」を設定し,その解決策として「ラッシュの通勤電車に乗る練習をする」「毎日1時間は机の前に座りタイピング練習をする」「ジムにいって筋トレを週3回行う」などのアイデアを創出した。

状態目標である「這ってでも職場に毎日いくことができている状態」は当人が本当に求めている状態なのかという疑問が浮上し,そのまま当人に「それはあなたにとってどういう意味があるのでしょうか」とその疑問を投げかけてみた。いわゆるソクラテス式問答を繰り返し,最終的に「顧客や家族に迷惑をかけたくないから」との思いが確認できた。その後,「顧客や家族に迷惑をかけたくない」という思いから派生して「顧客にうちの商品で喜んでもらいたい」「妻と世界遺産を回ったり,一眼レフのカメラで子供の写真をたくさん撮りたいので資金がほしい」などの価値が反映された状態目標が徐々に立てられるようになった。その解決策として,「自社商品について勉強する時間をつくる」「自社商品のPRのためにLINEスタンプを制作する」「世界遺産検定のテキストを購入する」「カメラに詳しい友人にお勧めを聞く」などが創出された。

おわかりいただけるだろうか。始めの状態目標の「這ってでも職場に毎日いくことができている」というのは,行動目標,つまり状態目標に近づくためのひとつの手段であって,自分の価値を反映させた目標ではないのである。そこから,復職支援プログラムでは,「あなたにとって仕事はどういう意味があるのでしょうか」を考え,グループで共有し,それぞれの仕事の価値を尊重する時間を設けることにした。価値を反映した状態目標が設定されると,解決策のアイデア出しも柔軟になる傾向があるように思う。

「解決方法の創出」における実践的な工夫

1)状態目標と行動目標が混同していると思われる場合はその意味を問う

「それはあなたにとってどういう意味があるのか」という問いを繰り返し,徐々に自身の価値に気づくよう促し,状態目標を設定する。

2)肯定的感情(幸福感,満足感,達成感,親愛感,信頼感など)に繋がる解決方法かを問う

「解決方法を実行することで,最終的にどんな気持ちになるでしょうか?」「その状態になったとき,どんな感情が湧いてくると思いますか?」などの問いかけによって,自分の価値を満たす手段,つまり状態目標を達成するための方法として有効であるかを確認することが可能となる。

3)実行の可否を判断せずにブレーンストーミングで解決方法のアイデアを出す

状態目標に自身の価値が反映されてくると,解決方法のアイデア出しが楽しくなり,思考の枠がいつもより拡張される感覚が得られ,解決方法の数が増える傾向がみられる。「実行できるかどうかは今は考えずに,やってみたいことをできるだけたくさん考えましょう」と実行の可否判断は保留して多くの解決方法を創出するよう促すことが望ましい。

5.ステップ4「行動目標の設定」におけるつまずきポイント:SMARTになっていない

基礎編でもご紹介したように行動目標は,SMARTにしておくと実行に移しやすい。

しかし,Specific(行動している自分の姿がイメージできるほど明確なものになっているか)においては,「コミュニケーションをとる」「夜更かしをしない」」など,すぐには実行できない抽象的な計画でとどまっていたり,「旅行に行く」「運動する」など戦略(目標達成のために計画された一連の行動)のままで,戦術(戦略を成功させるための具体的な行動計画)になっていないことが多くみられる。

その影響で,Measurable(達成されたことが測定することができるものになっているか),Achievable(現在,自分が置かれている環境や自分の状態で達成可能なものになっているか)の基準を満たしていないことがある。

「行動目標の設定」における実践的な工夫

1)行動の細分化・準備段階の明確化

例えば,「夜更かしをしない」は,帰宅時間や帰宅後にやる必要のあることを考慮して「夜10時までには入浴する」「夜11時までにスマートフォンの電源を切る」「夜11時半までにお布団に入る」など達成可能でより具体的な行動目標にしておくと,格段に実行可能性が高まる。「旅行に行く」は,「準備が必要なことはありませんか?」などと尋ね,最終的な行動に至るまでの準備段階をすべて洗い出す必要がある。旅行に行くためには,「インターネットで旅行先を検索する」「ホテルを予約する」「飛行機のチケットを予約する」「持ち物リストをつくる」「足りないものを買いにいく」「荷造りをする」など,準備段階を明確にして行動リストを作成することが有効である。

2)「いつかやろう」ではなく「この1週間で」という制限を設ける

最後にRelevant(その方法を実行することによって少しでも問題は解決され楽になるものになっているか),Timed(1週間で実行可能なものになっているか)で,行動目標を最終調整するとよい。あれもこれもやろうと張り切りすぎて疲弊してしまうことがあるが本末転倒である。1週間であれこれも実行するのは難しいので,Relevant(その方法を実行することによって少しでも問題は解決され楽になるものになっているか)をチェックして,頑張りすぎないことも重要である。毎日実施するのが難しい場合は週に数回にする,1回の時間を短くする,自分の体調や予定に合わせて柔軟に調整するとよい。その行動目標を決まった期間(1週間)で実行することで肯定的感情が得られるか確認するために,「1週間で無理なくできそうですか?」と声かけをおこない,Timed(1週間で実行可能なものになっているか)をチェックしておくとよい。逆に予期不安が高くなったり,意欲が湧かない等で実行が難しい場合は「誰かにサポートしてもらうことはできますか?」とサポート資源を確認し,サポートを得るケースもある。

6.ステップ5「実行/結果を評価」におけるつまづきポイント:OutcomeとConsequenceの混同

結果を評価する際も,OutcomeとConsequenceが混同してしまうことがある。Outcomeは,行動目標を実行できたか(Who(誰と),When(いつ),Where(どこで),What(何が))を評価することである。Consequenceは,実行したことによって生じた影響(状態目標に近づいたか)や見えてきた課題を振り返ることである。

問題解決のための最初の一歩は不安や億劫さが勝ることも多く,かなり労力がかかる。この1週間で行動目標が達成できたかをまず記録することがモチベーションの維持に肝要なのだが,状態目標が達成されたか否かのみに評価が偏り,「まだまだだな」,「先は長いなあ」と感じるとモチベーション低下につながってしまうことがある。図に示したように,状態目標(頂上)を到達するためにはいくつかの行動目標(中間地点)を経る必要がある。

図 現在の状態から状態目標までのプロセス

「実行/結果の評価」における実践的な工夫

1)わずかなOutcomeであったとしても必ず評価する

「まず,この1週間で実際に実行できたことを確認しましょう」「最初の一歩を踏み出すには,かなりの労力が必要です。実行したことをきちんと評価しましょう」と声をかけ,わずかなことであったとしても実行できたことを評価することが大切である。

2)Consequenceの評価を促す声かけを行う

行動したことによる影響を明らかにするために「その行動を実行したことによって,どんな良いことがありましたか?」「大変だったことや予想と違ったことはありましたか?」などの質問を使うとよい。

3)柔軟に行動目標を修正する

行動目標が実行困難であったり,コストが大きすぎる場合は,柔軟に行動目標を修正する。状態目標に近づく手段が,今置かれている環境や自分の心身の状態にとって最適か否かは実行してみないと分からない。実行してみて,そのConsequenceを参照しながら,柔軟に行動目標を修正することが望ましい。

7.おわりに

問題解決技法は,問題解決プロセスを繰り返し循環させながら,自分の価値を探す作業である。構造化された集団認知行動療法ではステップ1から5を順番に進めることが多いが,個別面接では5つのステップを行ったり来たりしてもよい。

私自身がそうであったように,初学者が陥りやすいのは,各ステップで完璧を求めすぎて次のステップに進めなくなったり,順番通りに進めなければならないと考えすぎることである。

大切なのは,クライエントが日常生活に無理なく技法を取り入れられるよう支援することである。問題解決の主人公は「自分(クライエント)」である。臨床家は,傾聴と行動促進のバランスを取りながら,クライエントの価値観に寄り添った支援を心がけたい。現実と理想の折り合いをつけながら,徐々にストレスの少ない自分らしい生活スタイルを構築していく過程をクライエントと共に歩んでいくことがこの技法の真の価値と言えるだろう。

+ 記事

本岡寛子(もとおか・ひろこ)
近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 心理系専攻
資格:公認心理師,臨床心理士
主な著書:『認知行動療法ケースブック―主要疾患・実践領域の援助技法を学ぶ』(共著,金剛出版,2025),『ワークシートで学ぶ問題解決療法』(共著,ちとせプレス,2020),『不安と抑うつに対する問題解決療法』(共訳,金剛出版,2009)
趣味:旅行,クラフトビール巡り

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