西嶋雅樹(神戸女学院大学)
シンリンラボ 第35号(2026年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.35 (2026, Feb.)
本書は書名にあるように,カウンセラーたちが心理臨床面接に登場するゲームの語りを理解し向き合おうとする軌跡から紡がれた本である。ゲームは「ゲーム行動症」のように,社会生活を妨げる要因として扱われることも多い。執筆陣はその可能性を否定せず,しかし「ゲームが持つ力について,そしてその力によって人の心はどのように動くのかについて」(p.4)論じる。本書は「はじめに」でゲームの良し悪しを論じるものではないと宣言するが,本書のトーンは,ゲームの良い面の言語化を試みるものである。つまり「ゲーム=悪」の構図に揺さぶりをかける書といえる。
執筆陣の持ち味によりゲームそのものやその楽しみ方の解説が展開される本書は,さながらゲームをめぐる小事典である。ゲームに詳しくない方々にとっては「スプラトゥーン」や「Minecraft」など,子どもたちが語るおなじみのゲームについて“何が行われているのか”を知る手がかりになるであろう。ゲームプレイだけでなく,ゲーム配信とは何かやゲームを通じて人間関係がどう広がりうるかなど,論が多角的に展開される。執筆陣の目的である「ゲームが持つ力」を心理臨床の文脈で扱う嚆矢となる,意欲作といえよう。また,その人のゲーム体験にカウンセラーが関心を注ぎ聴くことの意味も,織り込まれた事例から感じることができる。例として「死にゲー」への挑戦を通して現実の壁にも挑んだ事例は,読んでいて引き込まれるものがあった。ここから敷衍して,ゲームに限らず,目の前の人が夢中になっていることに関心を注ぐ大切さが本書からは学べよう。
書名には「子ども」とあるが,登場してくる事例には青年・成人も含まれており,幅広い年齢層におけるゲーム体験を知ることができる。ただし,ゲームのジャンルや没入の仕方は「子ども」という語から連想するよりは上の年齢層向けのものも含まれる。また,小事典の連想でいえば,ゲームに不案内な読者向けには“子どもの言っていたこの言葉って,何?”という疑問から辿るための索引が欲しかった。向き合うために記された豊富な知識を読者が自身の臨床や子育てでどう活かせるかは,読み手に大いに委ねられていると評者は受け取った。
なお,向き合うという点について最も具体的に描かれているのは,笹倉氏による「家の中でゲームの話をしよう」というトピック(コラム)であると評者は捉えた。あるいは本書に2箇所挿入されている執筆陣の座談会の採録からは,ゲームを無条件に良しとするのではなく,意味があるのか,害の部分が目立たないかと葛藤するカウンセラーたちの率直な姿勢が読み取れる。本の読み方はもちろん自由だが,座談会から読むと執筆陣の思いが汲みとりやすくなる。そのため,まず座談会からひもとくことをお勧めしたい。
個人的には,アテンション・エコノミーやFOMO(Fear of Missing Out)について執筆陣がどう考えるかも,今後の展開の中でぜひ読んでみたいところである。
西嶋雅樹(にしじま・まさき)
京都大学大学院教育学研究科博士後期課程を研究指導認定退学の後,三重県教育委員会,島根大学を経て神戸女学院大学。
資格:臨床心理士,公認心理師。
ぶらぶらすることが好きです。







