書評:『臨床犯罪心理学―加害者理解の「枠」と介入の「技」』(門本 泉著/金剛出版)|評者:岩下紘己

岩下紘己(島根あさひ社会復帰促進センター)
シンリンラボ 第33号(2025年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.33 (2025, Dec.)

あー,もっと早く読んでおきたかった。

書評だからではなく,素直にそう思った。本を閉じながら,これまでの悶々とした日々を思い出し,視界がひらけた解放感と,わずかな悔しさを感じた。

恥ずかしながら,大学院を卒業し,刑務所で心理職として働き始めて約四年,加害者臨床にまつわる専門書をろくに読んでこなかった。書評の機会をいただいて手に取った本書がほぼ初めてである(と書いたら,諸先輩方にこっぴどく怒られそう)。

正直,読む気が起きなかった。

自ら進路選択しておいてなんだが,臨床心理学というだけで学問的にも仕事としてもニッチな領域なのに,中でも犯罪・司法領域というのはかなりニッチな領域である,というのがぼくの印象であった(と書いたら,諸先輩方からまたこっぴどく怒られそう)。

それに,活字に目を通すことすらしんどい時期もあった。バラエティ番組をぼーっと見ながら笑って気を紛らわせるのがやっと。不器用なぼくにとっては,量,質ともにそれぐらい激務だった(と言い訳してみる)。

著者は言う。臨床を書くことで,日々を振り返り先へ進めるのだと。長年,犯罪・司法領域の心理臨床に携わってきた著者の省察をまとめた本書は,端的に言えば,現場からの加害者臨床論である。激務の合間を縫って臨床を書くという著者の熱量に,頭が上がらない。

本書を読みながら,気付けば否応なしに,ぼくは自分自身の訓練生注1)とのやり取りを見つめ直していた。そして希望を持った。

非行と自殺,非行と自傷行為,という一見全く相容れないように見える二つの概念をテーマとして併置し,実は両者には深い関連があるのだという論から本書は始まる。著者曰く,統一されたテーマが意識されていない,短編の詰め合わせであるというが,読了後,全体を通して伝わってくるのは,一臨床家としての加害者と呼ばれる彼らに対するまなざしのあたたかさである。

新卒ほやほやの頃,訓練生と誠実に関わろうとするほどに,裏切られ傷つけられたと勝手に感じて消耗していたことを思い出す。ぼくは勘違いしていた。浅はかだった。真の誠実さとは,真のあたたかさとは,単純な優しさや受容ではなく,嘘や否認や裏切りや攻撃も人間の証としてひっくるめてなお,人として関わり続けるということなのだった。「『うそ』は真実ではないかもしれないが,『うそをつく人間』の姿は目の前に実在する「真」である。[…]対象者の話を時に疑うことは,真剣に相手と向き合うという作業内容に含まれている」(p. 269)と著者は述べる。

一方で,例えば過ちを繰り返してきた訓練生が,次こそはと宣言する時,我々はつい「そうは言ってもまた同じ失敗をするんじゃないか」と思ってしまうが,「少なくとも,よくなりたい,よくなるのだという純粋な思いが彼らの中に存在することを,過去の別の不成就事例をもとにして価値下げすることは,正当なこととは思われない」(p. 136)と著者は言う。

嘘と向き合うことと,思いを受け取ること。このような機微まで,大学院では教わらなかった。

いや,教わるようなことではないのかもしれない。もっと,何か,根本的な人間観に関わる部分であるように思う。こうして自らの臨床を振り返る足場を持つことはできたのは,著者が真摯に紡いできた,実感のこもった言葉たちだからこそ,なのかもしれない。

最後に,次の著者の言葉を抜粋したい。

「人それぞれの心の中に土壌があるとすれば,訓練生や非行少年のそれは乾燥し,ひびわれていることが多い。[…]しかし,土壌が悪いと割り切るのではなく,耕し方を研究しようと自分を奮い立たせ,いつか芽吹く可能性を根気強く待ち続けること,場合によっては,もうその土壌には芽が出ないであろうことを知り,その哀しみを共に感じようとすることが,我々の役割ではないかと考える」(p.254)

著者の言葉を通じて,彼らとの細やかな関わりを追体験することで,彼らがやはり私たちと同じように喜怒哀楽を持つ,けれども多くの困難を抱えた人たちであることが体感として伝わってくる。

とてもニッチで,一筋縄ではいかない加害者臨床が,実は他の領域と密接に関わり,幅広く奥行きのある,より豊かな人間理解と臨床の技をもたらしてくれる。ぜひ多くの人に届いてほしいと感じた一冊であった。

注1)訓練生:島根あさひ社会復帰促進センターでは受刑者のことをこのように呼んでいる。
『臨床犯罪心理学―加害者理解の「枠」と介入の「技」』(門本 泉著,金剛出版)
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岩下紘己(いわした・ひろき)
島根あさひ社会復帰促進センター
資格:臨床心理士
著書:『ひらけ!モトムー大学生のぼくが世田谷の一角で介助をしながらきいた、団塊世代の重度身体障害者・上田さんの人生』(出版舎ジグ,2020)

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