書評:『おもちゃde セラピー―子どもの心理臨床におけるおもちゃとゲームの使い方』(丹 明彦著/福村出版)|評者:長行司研太

長行司研太(佛教大学)
シンリンラボ 第33号(2025年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.33 (2025, Dec.)

心理支援におけるおもちゃの存在

「子ども(クライエント)は楽しそうだったけど,これでいいのだろうか……」「これって,ただ遊んでいるだけになっているのでは……」。プレイセラピーをはじめとした子どもへの心理支援を行うなかで,誰しもがこうした迷いや悩みを感じたことがあるはずである。端から見るとただ楽しく遊んでいるようにしか見えない場合でも,実はそこではとても大事で意味のある「心の作業」が行われている。普段,我々支援者はクライエントのその作業を支えるべく全力を注ぎ,心を尽くしているわけだが,そのことに自信や確信が持てなくなる瞬間が存在するのもまた事実である。

本書『おもちゃde セラピー 子どもの心理臨床におけるおもちゃとゲームの使い方』は我々のそんな心の揺れに対して,“おもちゃという存在がどれほど治療的かつ臨床的な意味を持っているか”という観点から多くの示唆を与えてくれる。プレイルームに,そして世の中に当たり前に存在しているがゆえに,普段意識することなく使われていることも多いであろうおもちゃたち。そんなおもちゃが持つ力と役割,そこに秘められた可能性を,本書ではさまざまな角度から論じているのである。

理論と実践から知る,おもちゃの持つ力

本書は二部構成となっており,第Ⅰ部の「理論編」では,子どもの心理支援の場でよく使用されるおもちゃの治療的意義について検討している。プレイセラビーの中で子どもが望み行うことも多くある,人形遊び,ボール遊び,将棋,そして数多くのボードゲーム。それぞれの遊びが持つ多様な側面が,子どもの心へどう作用するかといったことや,そこで生まれるコミュニケーションや体験についても,事例を示しながら豊かに論じられている。

こうしたことを支援者側が知識としても実感としても理解し認識しておくことは,セラピーの中で起こる子どもの心の動きに対する「感度」を高めることにつながる。著者の一人である安藤がボードゲームの章で述べている「プレイセラピーで使われるおもちゃはただのおもちゃではなく『セラピーの道具』」という言葉は印象的であり,その言葉が示す意味も各章を読めばとてもよく理解できるだろう。

第Ⅱ部の「実践事例編」では,総勢10名の著者による,ボードゲームを始めとする33種類ものおもちゃが,その概要と使用事例とともに各見開き1ページで簡潔に紹介されている。一言でいうと,とても「使える」内容であり,プレイルームやスクールカウンセラー先の相談室,放課後デイサービスなどにおいて,どういったおもちゃやボードゲームを導入すればいいか迷ったときに有用な選択肢を与えてくれるものとなっている。この第Ⅱ部自体がおもちゃ箱のようなもので,ページをめくるたびに新たな知らないおもちゃに出会え,わくわくする感覚を味わえる。値段が高くて簡単には手が出ないものもあるが,自分の臨床現場に導入したらどんな感じになるかな?と想像する時間もまた楽しいものである。

そして我々は旅に出る

本書を読み終えて最も印象に残ったのは,第Ⅰ部の最後に掲載されている「終章『菊次郎の夏』とプレイセラピー」であった。編著者の丹によるこの論考は,北野武監督の映画「菊次郎の夏』で描かれる正男と菊次郎の二人の旅路と,プレイセラピーでの子どもとセラピストの面接過程を重ね合わせ,二者関係の変化と醸成という視点から読み解いたものである。「本書の趣旨と矛盾するようであるが,本来,子どもの心を癒し問題の解決を助けるのに,道具や小細工など必要ない。」という力強い一文から始まるこの稿が,ここまでおもちゃの治療的意義について真摯に論じてきた本書に収録されている意味はとても大きい。セラピーの本質は支援者と被支援者という二人の関係性の中で何を育み,そこに何が生まれてくるかである。本稿を読むと,プレイセラピーという旅路が,いかに子どもとセラピストの相互作用によって成り立っているかを改めて思い知らされる。

それは当然おもちゃの存在を否定するものではなく,むしろ肯定し続けたその先にあるものだということが,ここまで本書を読んできたならば容易に理解できるだろう。本稿の存在とそこに込められた編著者のプレイセラピーに対する熱い思いが,本書全体を肯定し包み込む役割を果たしている。

ちなみに,自分がそうしたように,第I部第5章まで読み,そして第Ⅱ部を先に読み切ったあとに,この終章を読むという順番を強くオススメしておきたい。本書を読み終えたとき,おもちゃの持つ力や可能性を再認識するとともに,その先にあるプレイセラピーや心理支援そのもの,そして我々が担う役割や意味について思いを馳せたくなるだろう。心地良い読後感とともに,明日からもまた子どもたちと向き合い,共に旅に出るための,優しく温かな気持ちを与えてくれるにちがいない。

『おもちゃde セラピー―子どもの心理臨床におけるおもちゃとゲームの使い方』(丹 明彦著,福村出版)
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長行司研太(ちょうぎょうじ・けんた)
所属:佛教大学,京都府/市スクールカウンセラー
資格:臨床心理士,公認心理師
サブカルチャーと心理臨床の接点を探求する「サブカルチャー臨床研究会(さぶりんけん)」副代表。
主な著書に『いま、カウンセラーはゲームに夢中な子どもとどう向き合えばいいのか?─つながる、わかる、支えるための心理臨床の視点』(共著,遠見書房,2025),『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。

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