自閉スペクトラムのアセスメントを学ぼう!(9)SP:センサリーフレンドリーな社会を創る|稲田尚子

稲田尚子(大正大学
シンリンラボ 第33号(2025年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.33 (2025, Dec.)

はじめに

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)のある人には,音や光,触覚などに対する過敏さや鈍麻,特定の刺激への強い関心といった感覚の特性がみられる。これらは日常生活の困難や行動の特徴として現れ,本人の快・不快の体験や行動選択に深く関わる。また,こだわり行動(Restricted and Repetitive Behaviors:RRB)とも密接に関連している。しかし,感覚面の特性は長くASDの診断基準に含まれておらず,DSM-5(American Psychiatric Association, 2013)で初めて「感覚入力に対する過敏さまたは低反応性,あるいは感覚的興味への異常な関心」として明示された。この改訂により,ASDの理解は行動中心の枠を超え,感覚・認知・情動を含む多層的な視点へと広がった。本稿では,ASDの支援において感覚処理の理解がいかに重要かを踏まえ,感覚プロファイル(Sensory Profile)を取り上げる。SPは,個人の感じ方の特徴を体系的に把握できるアセスメントツールであり,臨床・教育・福祉の現場で広く用いられている。

1.SPの概要と構成

SPは,日常生活の中で人がどのように感覚刺激を受け取り,どのように反応しているかを明らかにする質問紙形式のアセスメントである。聴覚・視覚・触覚・嗅覚・味覚・前庭感覚など,複数の感覚領域にわたる反応傾向を体系的に評価し,個人の感覚処理特性を包括的に把握することを目的としている。開発者であるWinnie Dunn(1999)は,感覚刺激に対する反応の違いが,日常生活の行動や社会的適応,情動の安定に大きな影響を与えることを指摘し,感覚処理を理解する理論的枠組みとしてSPを開発した。

ASDをはじめとする発達障害のある人々には,音や光,匂い,触感などに対して過敏または鈍感といった特性がみられる。これらの感じ方の違いは,学習環境への適応や対人関係,情動の安定に深く関わるため,支援を考える上で感覚の理解は欠かせない。SPは,こうした感覚の特性を「強い・弱い」といった単純な尺度で測るのではなく,「どのような刺激に」「どのように反応するか」という個々のパターンとして把握する点に特徴がある。

この理論的基盤となっているのが,Dunn(1997)が提唱した「4象限モデル」である。このモデルは,感覚刺激に対する神経学的閾値が「高い」か「低い」か,そして刺激への反応が「受動的」か「能動的」かという2つの軸から構成される。その組み合わせにより,次の4つの感覚処理パターンが示される。

① 低登録(Low Registration):刺激に気づきにくく,反応が遅れやすい。閾値が高いため,周囲の音や光,他者の声などに気づかないことがあり,外見的には「無関心」「ぼんやりしている」と見られることもある。実際には,刺激の入力が十分に達していないため,反応が生じにくい状態といえる。

② 感覚探求(Sensation Seeking):刺激への閾値が高く,能動的に感覚刺激を求める。活動的で,動く・触る・音を立てるなどを通して感覚的満足を得ようとする。好奇心が旺盛である一方,刺激を求めすぎて注意が分散することもある。

③ 感覚過敏(Sensory Sensitivity):閾値が低く,わずかな刺激にも強く反応してしまう。光や音,肌触りなどの刺激に敏感で,不快感 を抱いたり緊張を感じやすい。刺激の洪水に圧倒され,疲労や情動不安定を招く場合がある。

④ 感覚回避(Sensation Avoiding):閾値が低く,過剰な刺激を能動的に避ける。静かな環境や予測可能な日課を好み,刺激をコントロールすることで安心感を得る。変化への抵抗が強くなると活動範囲が狭まることもある。

この4象限モデルは,「感じ方の違い」を行動の特徴と関連づけて理解する枠組みを提供している。いずれの象限も“異常”ではなく,感覚刺激の受け取り方と自己調整のスタイルの違いを示すものである。SPは,この4つのパターンを基軸として感覚処理の個人差を明らかにし,環境調整や支援方略を検討するための実践的ツールとして活用されている。

さらにSPは,4象限モデルによる反応パターンの評価に加え,聴覚・視覚・触覚・前庭感覚・口腔感覚など感覚領域別のセクション,および感覚調整や情動反応に関する因子によって構成される「三層構造」を持つ。これにより,個人の感覚処理の全体像と,領域ごとの特徴を統合的に理解することが可能となっている。

SPには,乳幼児版(Infant/Toddler SP:ITSP),児童版(Child SP),青年・成人版(Adolescent/Adult SP:AASP)があり(Dunn, 1997, 2002; Brown & Dunn, 2002),発達段階に応じて0歳から成人期まで一貫した評価が可能である。これにより,発達や環境の変化に伴う感覚特性の推移を追跡し,支援計画や環境調整に継続的に反映することができる。SPは単なる評価ツールにとどまらず,感じ方の多様性を尊重し,本人が安心して過ごせる環境づくりを支援するための出発点となる。

2.SPの評価方法

SPは,基本的には,本人の行動や生活をよく知る保護者,教員,支援者などが回答する他者評定式の質問紙であり,乳幼児から学齢期まで幅広く適用できる。一方,青年期以降では,本人が自ら回答する自己記入式のAASP(Adolescent/Adult Sensory Profile)が用いられ,主観的な感覚経験をより直接的に反映することができる。このように,年齢や発達段階に応じて適切な形式を選択することが,感覚特性を的確に把握するための第一歩となる。

質問項目は,日常の多様な場面を想定し,上述した4象限の感覚刺激への反応を具体的に尋ねる構成になっている。回答は一定の段階に基づいて頻度を評価し,各選択肢には得点が割り当てられる。得点の高低は「どのような感覚行動がどの程度頻繁に起こるか」を示すものであり,聴覚・視覚・触覚・前庭感覚・口腔感覚などの感覚領域別,さらに4象限モデル(低登録・感覚探求・感覚過敏・感覚回避)のカテゴリーごとに集計される。

算出された得点は,標準化データを基準として「一般的(平均域)」「一般より高い/低い」「一般よりかなり高い/低い」といった段階で分類される。日本版SPでは,文化や生活習慣の違いを考慮して独自の標準化が行われており,日本人の感覚傾向に即した解釈が可能となっている。なお,SPは数値的な比較や診断を目的とするものではなく,得点の意味を生活の文脈の中で読み解くことが重視される。単に「得点が高い=問題」とみなすのではなく,「どのような感覚環境で本人が安心し,集中できるのか」を理解する手がかりとして用いる姿勢が重要である。

たとえば,聴覚刺激に敏感な子どもが教室のざわめきで不安を感じやすい場合には,静かな休憩スペースの確保や音の調整などの環境調整が有効である。一方,刺激に気づきにくい低登録傾向がある場合には,明確な視覚的手がかりや明るい照明を用いることで,注意を促すことができる。SPの評価は,こうした具体的な支援方略を導く実践的情報を提供する点に意義がある。

また,SPは一度きりの評価ではなく,発達や環境変化に応じて定期的に実施することで,感覚特性の変化をモニタリングできる。評価結果を本人や家族と共有することで,行動の背景にある感覚的要因への理解が深まり,支援の一貫性を高めることにもつながる。総じてSPは,感覚の「良し悪し」を判断するための検査ではなく,「感じ方の多様性を見える化し,安心して過ごせる環境を共に考えるためのツール」であるといえる。

3.SPの解釈と支援

SPの解釈と支援は,前述のDunn(1997)の4象限モデルに基づいて行われる。このモデルは,感覚刺激に対する神経学的閾値と行動反応の二軸から構成され,個人の感覚処理傾向を理解する枠組みを提供する。本節では,各象限で「一般より高い,かなり高い/低い,かなり低い」などの偏りが見られた場合の支援方略を示す。重要なのは,これを診断的分類ではなく「環境とのかかわり方を理解する枠組み」として捉えることである。

低登録(Low Registration):刺激に気づきにくく反応が遅れやすい傾向を示す。高得点時の支援では,感覚刺激を明確に提示することが重要である。例として,口頭指示に加えて絵カードや写真を併用する,触覚や動作を伴う課題を取り入れる,反応に時間を要する場合は待つ支援を意識することが挙げられる。低得点時の支援では,刺激過多を避け,簡潔な情報提供や静かな環境を整えることが求められる。

感覚探求(Sensation Seeking):能動的に刺激を求める傾向を示す。高得点時の支援では,安全に感覚を満たせる活動を生活に組み込むことが有効である。例として,ボール遊びやジャンプなどの身体活動,砂や水,粘土などの触覚活動,ガムを噛むなどの口腔感覚活動を定期的に取り入れることが望ましい。低得点時の支援では,活動に感覚要素を加え,刺激を増やす工夫をすることが有効である。

感覚過敏(Sensory Sensitivity):わずかな刺激にも強く反応しやすい傾向を示す。高得点時の支援では,刺激を減らす環境調整が不可欠である。例として,照明を間接照明にする,イヤーマフや静音スペースを活用する,活動や環境の変化を事前に知らせて見通しを持たせることが挙げられる。低得点時の支援では,明るい照明やはっきりした音声など,刺激を増やす工夫を行うことが望ましい。

感覚回避(Sensation Avoiding):過剰な刺激を避けるために能動的に退避する傾向を示す。高得点時の支援では,本人が刺激の強さや量を選べる環境を整えることが重要である。例として,休憩スペースの設置,予測可能なスケジュールの維持,段階的な曝露による慣れの促進が有効である。低得点時の支援では,新しい刺激への柔軟な対応を促すため,段階的な導入や選択肢の提示を行うことが有効である。

SPの活用は,感覚と行動の関係を理解し,環境を調整するための地図として位置づけられる。さらに,各象限の偏りは単独で捉えるだけでなく,複数の象限の組み合わせによっても行動や環境適応に影響を及ぼすため,総合的に支援を検討する必要がある。たとえば,低登録と感覚探求がともに高い場合には,刺激への気づきの遅れと刺激追求行動が同時に見られることがあり,環境調整と活動設計を両面から考えることが求められる。支援の目的は,感覚特性を矯正することではなく,本人が自分の感じ方を理解し,必要に応じて環境を調整できるようにすることである。

4.SPの利点と限界

SPは,発達障害をはじめとする多様な人々の感覚処理特性を可視化できるツールとして,臨床・教育・福祉などの幅広い領域で活用されている。その最大の利点は,感覚の特性を「問題」として捉えるのではなく,「個人の感じ方の違い」として理解できる点にある。SPは,聴覚・視覚・触覚・前庭感覚・口腔感覚といった複数の感覚領域を横断的に評価し,過敏さや鈍感さなどを包括的に把握することが可能である。さらに,Dunn(1997)の4象限モデル(低登録・感覚探求・感覚過敏・感覚回避)に基づき,単なる反応性の強弱ではなく,「個人がどのように環境と関わり,自己調整しているか」というプロセスを理解するための枠組みを提供している。そのためSPは,行動の背景にある感覚的要因を明らかにし,より適切な環境調整や支援方針を立てるうえで有用な手がかりとなる。

また,感覚の特性は他者と比較できるものではないため,本人が自分の感覚の違いに気づくまでに時間を要することも多い。たとえば「蛍光灯の音が気になる」「衣服のタグが痛い」といった体験も,本人が長く我慢している場合がある。SPはこうした“感じ方の違い”を見える化することで,本人や家族が自分の感覚に気づき,自己理解を深める契機となる。加えて,自らのニーズを周囲に伝える力(セルフ・アドボカシー)を育てる点でも意義が大きい。

一方で,SPには限界も存在する。質問紙形式であるため,回答者(保護者・支援者・本人)の主観が結果に影響を与える可能性がある。とくに自己表出が難しい子どもの場合,観察者の解釈が評価に反映されやすい。また,SPの得点はあくまで感覚傾向の「目安」であり,診断的な意味を持つものではない。そのため,面接や行動観察など他の情報と併せて総合的に解釈する必要がある。さらに,SPは日常生活全般の傾向を把握するものであり,学校や職場など特定の状況下での反応を直接測定するものではない。したがって,評価結果を「固定的な特性」として扱うのではなく,時間や環境の変化によって変わりうる“感覚のプロファイル”として柔軟に理解する視点が重要である。

総じてSPは,数値的な診断を目的とするツールではなく,「対話と理解の出発点」として価値をもつ。本人・家族・支援者が感覚の違いを共有し,「どのような環境なら安心して過ごせるか」を共に考えることこそ,SPを活かす本質的な意義である。

5.日常空間を変える——「クワイエットアワー」や「センサリールーム」の広がり

近年,発達特性をもつ人々が安心して社会に参加できるよう,「クワイエットアワー(静かな時間帯)」や「センサリールーム(感覚対応型空間)」「センサリー映画館」といった取り組みが国内外で広がっている。これらは,感覚過敏や感覚鈍麻といった特性をもつ人が,光や音,匂いなどの刺激に過度に反応せずに過ごせるように環境を調整する試みであり,単なる“特別支援”ではなく,すべての人にとって過ごしやすい「ユニバーサルな社会環境」を目指す動きとして注目されている。

海外では,イギリスやアメリカを中心に「Sensory-Friendly(感覚に優しい)」公共空間づくりが進んでいる。映画館では音量を通常より下げ,照明を完全には落とさず,観客が自由に動ける環境で上映する会が定期的に開催されている。また,スーパーマーケットでは特定の時間帯にBGMを止め,照明を落とした「静かな買い物時間」を設定する店舗も増えている。これらの取り組みは,感覚過敏のある人々だけでなく,小さな子ども連れの家族や高齢者など,多様な人々にとっても利用しやすい環境を提供している。

日本国内でも,このような感覚配慮の流れが着実に広がっている。川崎市のイオンスタイル新百合ヶ丘では,2019年に国内初の「クワイエットアワー」を実施した。朝の1時間,店内の照明を通常の半分に落とし,BGMやアナウンスを停止することで,感覚刺激を最小限に抑えた買い物環境を提供している。この試みは来店客から高く評価され,他店舗にも波及している。

また,川崎フロンターレはJリーグのスタジアムとして初めて「センサリールーム」を設置した。音や光への刺激を抑えた部屋から防音ガラス越しに試合を観戦できるこの空間では,発達特性のある子どもたちが安心してサッカーを楽しむことができる。クラブは他チームにも同様の導入を呼びかけ,スポーツ観戦の新たな形として注目を集めている。

さらに,筑波大学では感覚特性に配慮した「アクセシブル・スタディ・ルーム(ASルーム)」を開設した。発達障害や感覚過敏をもつ学生,あるいはオンライン授業で疲労を感じる学生が,照明や音,色彩などを自分の感覚に合わせて調整できる学習空間である。テントやクッション,調光機能を備えた照明などが配置され,学生が自分に合った環境を「選び取る」ことができる。この取り組みは,教育現場における感覚配慮の実践例として高く評価されている。

2025年大阪・関西万博でも,感覚過敏や不安を抱える来場者が一時的に休憩できる「カームダウン・クールダウンスペース」が各所に設置された。 照明・音量を調整できる個室や,落ち着いた家具を備えた空間が設けられ,来場者が「無理をせず滞在できる」仕組みを整えている。こうした大規模イベントでの導入は,感覚配慮の重要性を社会全体に広める契機となっている。

このような取り組みの本質は,感覚過敏を「克服すべき問題」と捉えるのではなく,「感じ方の違い」として受け入れる社会の姿勢にある。環境を変えることで,誰もが安心して自分らしく過ごせる場を増やす——それが,感覚に配慮した社会づくりの出発点である。教育現場や文化施設,商業空間などにこの動きが広がることで,発達特性の有無を問わず,すべての人が安心して参加できるインクルーシブな社会の実現が期待される。

おわりに

本稿では,感覚プロファイル(Sensory Profile:SP)を通して,自閉スペクトラム症(ASD)の理解における「感覚の多様性」の重要性を考察した。SPは,感覚の過敏さや鈍麻といった個々の感じ方を「問題」ではなく「特性」として捉え,本人が安心して過ごせる環境を共に考えるためのツールである。その活用は,本人の自己理解を促し,支援者や家族が感覚の違いを理解する契機となる。一方で,SPの結果は固定的な診断ではなく,時間や環境に応じて変化しうる“感じ方のプロファイル”として柔軟に捉える必要がある。近年広がる「クワイエットアワー」や「センサリールーム」などの社会的取り組みは,感覚の違いを尊重する文化の広がりを象徴している。感覚の多様性を理解し,環境を整えること——それが,ASDのある人だけでなく,すべての人にとって生きやすい社会を築く第一歩となる。

文  献 

  • American Psychiatric Association.(2013)Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.). American Psychiatric Publishing.
  • Brown, C., & Dunn, W.(2002)Adolescent/Adult Sensory Profile: User’s manual. The Psychological Corporation.
  • Dunn, W.(1997)The impact of sensory processing abilities on the daily lives of young children and their families: A conceptual model. Infants & Young Children, 9 (4); 23–35. 
  • Dunn, W.(1999)The Sensory Profile: User’s manual. The Psychological Corporation.
  • Dunn, W.(2002)Infant/Toddler Sensory Profile: User’s manual. The Psychological Corporation.
+ 記事

稲田尚子(いなだ・なおこ)
大正大学臨床心理学部臨床心理学科 准教授
資格:公認心理師,臨床心理士,臨床発達心理士,認定行動分析士
主な著書は,『これからの現場で役立つ臨床心理検査【解説編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『これからの現場で役立つ臨床心理検査【事例編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『いかりをほぐそう 子どものためのアンガーマネジメント』(共著,東京書籍,2025)

目  次

コメントを書く

あなたのコメントを入力してください。
ここにあなたの名前を入力してください

過去記事

イベント案内

新着記事