浅見祐香(目白大学)・神村栄一(新潟大学)
シンリンラボ 第35号(2026年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.35 (2026, Feb.)
はじめに
アディクションという病は周囲を巻き込み,家族やパートナーの心身にも多大な影響を与えてしまうことがあります。家族やパートナーがなんとか行動アディクションの問題を解決しようとして,本人を叱責したり懇願したり,見返りを用意したり突き放したり……。このような頑張りを続けていくうちに,世話を焼きすぎてしまう,本人を管理しようとしてしまうなどといったことも起こりえます。自他境界があいまいな「共依存注1)」状態に陥ってしまうと,結果的に,本人の回復が遠ざかってしまいます。
過去には,本人と対決して問題に直面化させる,あるいは,本人と距離をとって関わらないようにするという極端なかかわりが推奨されていた経緯があります。しかし,これらのかかわりは,家族やパートナーの「本人のためにできることをしたい」という気持ちを置き去りにしてしまう側面が課題でした。現在では,家族やパートナーらに対する支援を通して,本人の治療行動を促す専門的な支援の活用が広がってきています。今回は,行動アディクションを抱える当事者ではなく,その家族やパートナーができることについて解説します。息子がパチスロにはまってしまったというHさん,娘がホストにはまってしまったというIさんの発言も紹介しながら進めていきます(いずれも50代女性※複数の実在するモデルから創作した架空事例)。
注1)共依存:2人の成人の間で片方がもう一方の世話に没頭している状態のこと。
1.行動アディクションを知る
行動アディクションの問題がかなり深刻な状況であり,家族やパートナーから専門的な支援を受けるように促されても,「自分は病気ではない」,「人に迷惑をかけていないから問題ない」と本人が拒否するケースは少なくありません。このような場合には,行動アディクションをやめる・減らすために自ら行動を変化させていくことへの動機づけの程度を確認していくことが必要になります。
わたしたちが行動を変化させていく際には,5つのステージを経ることが知られており,ステージごとに効果が出やすいかかわりは異なっています(表1:行動変容のステージ;Prochaska & Norcross, 2007)。たとえば,前熟考期や熟考期の場合には,本人に対しては,専門的な支援への動機づけを高めるかかわり(第2回で紹介した内容や動機づけ面接法など),家族やパートナーに対しては,本人の動機づけを高めるためにできることを身につけていただくかかわりの効果が期待されます。
表1:行動変容のステージ
| ①前熟考期:当面は行動を変えようという意思をまったく持っていない (例:「自分は病気ではありません」,「行動アディクションで問題は起きていません」) |
| ②熟考期:問題があることに気づいており,問題を克服しようと真剣に考えているが,まだ行動に移す決意にまでは至っていない (例:「やめた方がよいと分かっているけれど,今は仕事が忙しくて……」) |
| ③準備期:すぐに行動を起こそうとしており,少しずつ問題行動を減らしてきている (例:「さすがにやめないといけないなと思って,ネットで病院を調べ始めました」) |
| ④実行期:実際に行動の変容が明確に生じている (例:「やめようと決意して,このプログラムに参加しました」) |
| ⑤維持期:行動を変えてから6か月以上である (例:「プログラムを終えた後も,行動アディクションのない生活を続けています」) |
専門的な支援を受けることを拒否するアディクション患者の家族やパートナーらを対象にしたプログラムとしては,CRAFT(コミュニティ強化と家族訓練プログラム;Community Reinforcement and Family Training)が挙げられます(Meyers & Wolfe, 2004/ 松本・吉田,2013)。CRAFTは,アディクションを抱える本人が専門的な支援を受けるように促すとともに,本人のアディクションをなくす,減らすことを目的として,家族やパートナーを対象に実施されます。そして,家族やパートナー自身のQOLを高めていくことも重要視されています。
なお,殴る蹴る,物を投げたり脅したりするなどの暴力的な行為が起きている場合には,家族やパートナーご自身の安全確保が最優先となります。このような危険な状況を避けるため,暴力的な行為が起きる前兆を同定するとともに,前兆に気づいたらすぐにその場を離れるなど安全を確保するための手段をあらかじめ決めておきます。このような危険な状況においては,たとえば「金を貸せ」と言われたらお金を貸して,まずは身の安全を守りましょう。
2.コミュニケーションを見直す
多くの家族やパートナーは,本人を叱ったり励ましたりして,行動アディクションをやめる・減らすことを促しますが,徐々に問題が深刻化していく中で,あきらめの境地に至ることが少なくありません。お互いの会話が減って,感謝を伝えると怪訝な顔をされたり,愚痴をこぼすと強い反発が生じたりすることもあるでしょう。
このようなときには,本人が嫌がったり警戒したりするようなことをできるだけしないようにして,安心してもらえるようなかかわりを意識的に増やすことから始めます。嫌がられやすいかかわりには,仕事や将来のことを話す,現状を責める,周りの人と比較することなどがあり,安心してもらいやすいかかわりには,途中で口をはさまずに最後まで話を聞く,本人が好きなことを一緒にしたり好きな食べ物を用意したりする,さりげない気づかいに感謝を伝えることなどが挙げられます。
良好なコミュニケーションのコツとしては,簡潔に,ポジティブに話すことや,具体的な行動に着目すること,自分の感情はアイメッセージ(「私は,〜〜と思うよ。」など)の形で伝えることなどを心がけるとよいでしょう。たとえば,嘘が発覚したときに,「嘘ばっかりで,もううんざり」と責めるのではなく,「私はあなたの言葉を信じたいと思っている。だけど,病院から予約時間になっても来ないと連絡があったの」などと返すことができるかもしれません。
Hさんは,実家暮らしでアルバイトをしている息子宛に届いた消費者金融の督促状がきっかけとなって,パチスロにはまっていること,150万円の借金を抱えていることを知りました。パチスロをやめることを条件に借金を肩代わりしましたが,その後も,歯医者やハローワークへ行くために渡したお金でパチスロに行ってしまうことが繰り返されました。
「何度も何度も嘘をつかれたし,家庭内窃盗を防ぐために家中のお金を隠さないといけません。信じたいのに信じられないことが苦しくて,息子の顔を見ると責める言葉をとめられませんでした。そして,会話も,顔を合わせる時間も,どんどん減っていきました」。
CRAFTのプログラムに参加したHさんは,嘘をつくことは症状の1つであること,自分のかかわりを変えることが息子の回復に役立ちうることを知ってとても驚いたそうです。穏やかに笑いあえる日常を取り戻すことを目標にして,アイメッセージを意識するとともに,息子が好きなスポーツの話をしたり,クラフトビールを取り寄せて一緒に飲んだりする時間を増やしていきました。
3.自分が変わると相手も変わる
家族やパートナーが本人とのコミュニケーションを見直し,良好なコミュニケーションがとれるようになると,本人の望ましい行動を増やしたり望ましくない行動を減らしたりすることが可能になります。なぜなら,本人と家族やパートナーとのやりとりにおいては,一方の行動が相手の行動を引き起こす「きっかけ」になったり,その行動の頻度を増やすあるいは減らす「結果」として機能したりするためです。
「アイメッセージや息子が楽しむ話題を意識することは,『なんで私ばっかり!?』と感じて,正直辛かったです。プログラムではこういったネガティブな気持ちも打ち明けて,受け止めてもらいながらなんとか続けることができました。数か月たつと,私が感情的になることが減り,息子から新しいアルバイトが決まったと聞いたときに心から喜べた自分がいました」。
そう振り返るHさんは,一日一回,一緒にご飯を食べることで話しやすい関係を築いていき,息子がパチスロ以外の行動を増やしていけるようなかかわりを工夫していきました(図1:本人と家族やパートナーとのやりとりの変遷(Hさんの場合))。

図1:本人と家族やパートナーのやりとりの変遷(Hさんの場合)
家族やパートナーが,本人の行動アディクションにつながる行動を減らし,行動アディクションから遠ざかる行動を増やすやり方としては,まず,本人にとって望ましい行動と望ましくない行動リストを作成していきます。そして,具体的な行動が特定できたら,一つ一つの行動について,本人を取り巻く環境の中にある外的な引き金や,気持ちや考えなど本人の内側にある内的な引き金について見極めていくとともに,行動によってどのようなメリットやデメリットがあるかについて,短期的,長期的な視点から整理を試みます。
望ましくない行動には,行動アディクションのみではなく,仕事をしないで家で過ごすことや家族と話さず無言でいること,部屋に閉じこもることなどが挙げられます。一方,望ましい行動とは,行動アディクションをしていないときに本人が楽しめる行動であり,家族やパートナーも一緒に楽しめるとなおよいでしょう。
なかには,「あの人に褒めるところも感謝するところもありません」などと,望ましい行動がなかなか見つからないこともあります。そのようなときには,減点方式ではなく「加点方式」を意識していただき,洗濯をしたけれど干しっぱなし,ハローワークに行ったけれど進捗はない,など気になる点があったとしても,まずは,洗濯物を干したことやハローワークに足を運んだことを評価することをお勧めしていきます。
望ましい行動をしたときに与える「報酬」については,本人にとってうれしいと感じられて,実際に「行動」が増えるようなものにします。必ずしもお金や物である必要はなく,ほめることや感謝すること,本人が好きなことをしたり一緒に過ごしたりすることなども含まれます。何が本人にとっての「報酬」になるかがわからないときには,いくつか候補を提示して本人にどの程度うれしいか教えてもらってもよいでしょう。
4.専門的な支援につなげる
最後に,大きな目標ともいえる本人が専門的な支援につながるためのポイントについて紹介します。本人が情報を収集していない段階であれば,行動アディクションは回復する病気であること,相談機関や専門的な支援の内容などについての情報を伝えることができます。
そして,本人が重大な問題を起こして後悔しているとき,自分の問題についてまったく予想していなかった意見を聞いて動揺が見られるときなどは,専門的な支援を勧める良いタイミングと言えます。このほかにも,家族やパートナーが受けている専門的な支援,家族やパートナーの行動の変化に興味を持ったり理由を尋ねたりしてきたときもよいタイミングになりえます。
あらかじめ,専門的な支援につながることを拒否する理由を理解できていると,本人が知りたい回答を伝えやすいです。行動アディクションをやめる,減らすことへの抵抗が強い場合や,病気であると受け入れることへの抵抗,専門的な支援に対するネガティブなイメージなどが背景にある場合があります。
また,本人が専門的な支援を受けることに同意したときには,すぐに受診等できるように,あらかじめつなげられる場所を確保しておくことが大切です。いくつか候補があれば,本人の希望に合わせた選択ができる利点があります。そして,一度で結論を出す必要はありません。チャンスは何度でも訪れます。
Iさんは,娘が幼い時に離婚をしており,寂しい思いをさせたことに責任を感じていました。ホストクラブでの浪費のため,借金をしたり風俗で働いたりしながら,ときには自傷行為にも及ぶ娘に対して,「ホストに行くのをやめなさい」とは言えなかったそうです。
お金が必要なときや自傷行為をしたときに頼られると,「こんなときばかり頼ってきて……」とイライラする気持ちがわいていましたが,プログラムを通して自分自身の気持ちが落ち着いてくると,「私を困らせようとしているわけではなくて,本人もどうにもできないくらい辛いのかもしれない」と思えるようになりました。心から,「生きようと思ってくれてありがとう」と言えたときから,娘との関係は少しずつ変わり始めました。その後,一緒にいくつか専門のクリニックを巡り,娘は自分が決めたクリニックに通い始めました。
おわりに
家族やパートナーという親密な関係だからこそ,冷静にふるまうことができず,これまでの関係性を変えることに難しさを感じる方は多くおられます。Hさんは,「自分の言い方を変えるだけで息子の反応がこんなに変わるなんて,思ってもいませんでした」と振り返りました。その言葉にうなずきながら,Iさんは,「嘘や表面的な言葉では見破られてしまいます。ひどい言葉は自分の中でいったん抑えて,娘の小さな変化に気づいて,自分なりの言葉で伝え返してあげることが大切だと知りました」と話してくれました。
HさんもIさんも,本人に専門的な支援を受けてもらおうとして何度も失敗しました。ですが,一度失敗したらおしまいではなく,失敗から学び,自分自身の行動を変えることによって,相手の行動は変化していきます。このような試行錯誤を続けるためには,ぜひ家族やパートナーの方々は,自身の心身の健康を大切にしていただきたいと思います。ありたい自分やなりたい自分について改めて考えてみたり,自分自身の生活の楽しみを意識的に増やしていったりすることはとても大切です。カウンセリングを受ける,家族会などで同じ経験をしている家族やパートナーと交流することなども役立つでしょう。
文 献
- Meyers, R. J., & Wolfe, B. L.(2004)Get your loved one sober. Hazelden Foundation.(松本俊彦・吉田精次監訳(2013)CRAFT依存症者家族のための対応ハンドブック.金剛出版.)
- Prochaska, J. O. & Norcross, J. C.(2007)Systems of psychotherapy: A transtheoretical analysis. (6th ed.). Cengage Learning.(津田彰・山崎久美子監訳(2010)心理療法の諸システム:多理論統合的分析(第6版).金子書房.)
浅見祐香(あさみ・ゆか)
目白大学心理学部 専任講師
資格:公認心理師,臨床心理士
神村栄一(かみむら・えいいち)
新潟大学人文社会科学系教授
資格:公認心理師,臨床心理士,専門行動療法士,博士(心理学)
主な著書:『教師と支援者のための令和型不登校クイックマニュアル』(単著,ぎょうせい,2024),『不登校・ひきこもりのための行動活性化』(単著,金剛出版,2019),『学校でフル活用する認知行動療法』(単著,遠見書房,2014),『認知行動療法[改訂版](放送大学教材)』(共著,NHK出版),『レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド』(共著,北大路書房,2013)など。
学生時代から40年におよぶ心理支援の実践はすべて,行動療法がベース。「心は細部に宿る」と「エビデンスを尊び頼まず」が座右の銘。「循環論に陥らない行動の科学を基礎とし,サピエンスに関する雑ネタやライフハックなどによる解消改善を要支援の方との協働で探し出す」技術の向上をめざしている。







