浅見祐香(目白大学)・神村栄一(新潟大学)
シンリンラボ 第34号(2026年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.34 (2026, Jan.)
はじめに
行動アディクションに対する専門的な支援は,グループ形式が広く活用されています。参加者同士の相互作用を促すことによってグループの強みを活かしながら,一人一人の見立てに応じた支援の効果を高めるためには,グループという「森」のみを見るのではなく,参加者という「木」をしっかり見ることが必要です。今回は,グループの力を一人一人の回復に活かすためのかかわりについて解説します。弁護士から勧められて専門クリニックの通院を開始したGさん(50代女性※複数の実在するモデルから創作した架空事例)の発言も紹介しながら進めます。
アディクションについては,「孤立の病」とも呼ばれており,のめりこんでいく過程で家族や仕事,友人関係などさまざまなつながりを失っていく方が少なくありません。そのため,人とのつながりは,回復に向かうための力になりえます。同じ問題を抱える仲間の存在は,自分一人ではないという安心感につながるとともに,効果的なアドバイスを得られたり,回復への希望を持てたりすることもあるでしょう。Gさんは,集団認知行動療法に参加して,万引きの問題を抱える患者の多さに驚いたそうです。「良い親のふりをしながら万引きを繰り返すような悪人は自分だけだと思っていました。ですが,みなさん,家族や仕事など大切なものを守りたいのに,それでもやめられずに苦しんでいて……。自分は一人ではないと思えて,涙が止まりませんでした」。万引きについて,夫にも親にも本当のことは話せなかったGさんですが,「同じ悩みを抱える方たちの中でなら話せるかもしれない」と,一歩を踏み出すことができました。
1.集団認知行動療法の進め方
行動アディクションに対する専門的な支援は,費用や時間の節約といった利点があるグループ形式が広く活用されています。進め方については,毎回のプログラムを固定のメンバーで進めていくクローズド形式と,プログラムの進行のどの時点からでも参加が可能なオープン形式があります。民間の施設では,参加者が利用しやすいオープン形式が用いられることが多いです。
セラピストは,プログラムを中心的に展開して時間管理を担うリーダー役と,その補完に回るコリーダー役とに分かれます。リーダーは,その回のテーマとなる「アジェンダ」に沿って,プログラムを進めていきます。その際には,参加者の発言量に偏りが生じないように調整したり,アジェンダから外れる内容について軌道修正を図ったりすることも必要になります。
話の切れ目に「ありがとうございます」と応じたり,切れ目なく話される場合には「すみません」と声をかけたりしながら,お話いただいたことを受け止めます。そのうえで,「今日は扱う内容が多いため……」,「時間の関係もありますので……」などと事前に共有しているアジェンダや時間などを理由にして,プログラムの進行に戻ることができるでしょう。
コリーダーは,参加者が安心して自身の率直な気持ちや思いを表現しやすいように参加者全員の様子に気を配りながら,リーダーの進行を支えていきます。たとえば,一方的な意見ばかり出ているときにはそれを崩すような意見をあえて言ってみたり,少数意見の「味方」に回って話をしやすいように後押ししたりすることがあります。リーダーの進行を妨げることなく,場の雰囲気全体に気を配った働きかけを行うことはなかなか難しく,リーダーよりもコリーダーの方が,経験が必要だとも言われます。
また,毎回,その回のテーマとなる「アジェンダ」を設定して,達成を目指します。冒頭で,近況やホームワークの取り組み状況についてお聞きして,その後,その回のアジェンダを共有して一緒に進めていきます。達成目標については,行動アディクションの重症度や理解度などといった個人差を踏まえて,あらかじめいくつかの段階を想定しておくとよいでしょう。
たとえば,第3回で扱った「自身の『引き金』に気づく」というアジェンダであれば,行動アディクションを引き起こさないためには,その引き金となるきっかけを避けることが効果的であるという理解の枠組みを伝えるとともに,思い出しやすい直近の経験から,外的な引き金や内的な引き金の整理を一緒に進めていきます。達成目標については,①引き金を整理するやり方を習得すること,②複数の経験に共通している自身のパターンを見つけること,③中断後の再発のパターンを見つけること,などのように段階的に設定して,取り組み状況や必要性に応じて一人一人,どの目標の達成を目指すか調整しながら進めます。
なお,セラピストは,インテーク面接や診察などでの情報も踏まえてアセスメントを行い,支援を実践していきます。しかし,グループの中でご本人が語られていない情報を,セラピスト側から勝手に語るということはやめましょう。語らない,語れない背景のご事情を推測していくことで,ご本人の理解も深まります。
2.グループの力を活かすには
そもそもグループ形式では,自身と同じ疾患や問題を抱える他者と出会うことによって,回復への希望をもつことができたり,効果的なアドバイスを得られたりします。また,日常場面における対人関係のあり方への気づきが促されるというメリットがあります。一人一人の見立てに応じて,ほかの参加者とのどのような相互作用が回復に役立つだろうか,と考えながら参加者同士の相互作用を促していきます。
行動アディクションでは多くの場合,アディクションの対象ごとにグループが作られます。アディクションごとに特有の共通点ももちろんありますが,そのアディクションにはまる理由(機能)はさまざまです。そのため,ほかの参加者の意見が自身の回復に活かせないかを考えてもらうことや,参加者同士の似ている点や違っている点を強調することによって,自分自身の特徴理解が深まるように促していくことなどが行われます。
たとえば,自身の万引き行動について,ストレスが原因だと話していたGさんに,セラピストは,「ストレスがないときには万引きをしていなかったということでしょうか」と問いかけました。すると,Gさんは黙り込み,考える様子がうかがえました。
そこで,セラピストは,仕事上の大きなストレスが万引きに影響をしていたというXさんに話を振りました。Xさんは,「私が万引きを始めたのは,部署が変わって臨機応変な対応を求められるようになってしばらく経ってからでした。上司に叱られてばかりで,残業も増えて本当に辛かったです。万引きだけが救いで,盗みの『成果』を記録に残すことだけが楽しみでした。逮捕後,部署を移動して残業がないルーティンの仕事に変わりました。そうすると,大きなストレスもなくなり,万引きをしたいという気持ちも起こらなくなりました」と話してくれました。
真剣な顔で聞いていたGさんは,「Xさんのお話を聞いていると,自分の場合は,ストレスが強いときももちろんありましたが,そうでないときも万引きをしていたように思います。もう10年以上続けていて,習慣になっていたので……。ストレスだけではなくて,もしかしたら,『やらないことが損』だという思いも大きかったのかもしれません」と考えを深めていく様子がうかがえました。
3.参加者との約束事
グループが安心して話ができる場であるためには,セラピストなどの専門職のみでなく患者である参加者も共にルールを守ることが大切です。ルールとしては,ほかの参加者に対する批判・攻撃をしないこと,グループの中で話された内容を他人に漏らさないこと(守秘義務)などがあります。
行動アディクションの問題は,家族や友人など身近な方々にも打ち明けられないという場合が少なくありません。とくに,アディクションの対象が犯罪に相当する場合には,非難や批判への恐れや受け入れてもらえない不安などの感情も生じやすいでしょう。
Gさんは,自宅近くのスーパーマーケットで初めて万引きが見つかったとき,代金を支払うことで許してもらえました。しかし,「もしかしたら誰か知り合いに見られたかもしれない……」と不安になって,家から出られなくなったことがあったそうです。急に不安定になってひきこもる様子を心配した家族の勧めで心療内科に行きましたが,そこでも万引きをしたことは打ち明けられませんでした。
「隠せない状況に追い込まれるまで,誰にも言えませんでした。今も,家族にこれまでの万引きのことを全て言えたわけではありません。けれど,グループのみなさんのお話は,私も経験があることばかりで……。『実は私も……』とぽつぽつと話してみると,うなずきながら聞いてもらえてなんだかすごくあたたかかったです」(Gさん)。
また,集団認知行動療法の効果を高めるためには,グループで取り組んだ内容を日々の生活で実践していただくことが大切になります。支援の場で学んだことが,自身の行動アディクションの回復に役立つ手立てになりそうか,ホームワークを通して試していただきます。そのためには,やり方を理解してもらい,自分にもできそうだと思ってもらえるような丁寧な支援が必要です。
ホームワークに取り組まれない場合には,仕事や家事,育児など日々の生活が多忙なケースや,不安や落ち込みが強くて気力がわかないケースなどさまざまな理由がありえます。抵抗や否認が背景にある場合には,セラピストが治療的支援の効果をお伝えしたり,グループの参加者に自身の変化を語っていただいたりして,期待を高めることなどができるでしょう。また,ホームワークの達成が難しいと感じている場合には,スモールステップに分解して一つ一つのステップの達成を称賛していくことも効果的かもしれません。
4.必要な個別の配慮
グループの力を活かすためには,良好な関係性が大切だと言われています。一人一人が自分自身の問題に向き合い,わからないところは「わからない」と言え,セラピストやほかの参加者と異なる考えであっても率直に話せるような雰囲気作りが大切です。そのためには,セラピスト自身があたたかな関心をもって接するとともに,他者との比較ではなく,その方自身の変化に目を向ける姿勢が必要でしょう。
ときには,競争や攻撃,意見の押しつけなど,グループの安全を妨げるような行為が起きてしまうこともあります。アディクションは「否認」の病とも呼ばれており,家族に無理やりに連れてこられた,裁判などでの有利性を目的としているなど必ずしも自発的に訪れる方ばかりではありません。
発言をしないなど最小限の参加にとどまったり,セラピストへの抵抗をあらわにしたりする場面にもしばしば出会います。なかなか発言がなされない場合には,質問を通して発言を促すとともに,ご本人の経験をほかの参加者の経験と関連づけるなど,安心して話をしやすい環境づくりに努めていきます。また,批判や攻撃的な言動は,その背景に,過去に人から裏切られた経験や行動アディクションを手放すことへの不安などが隠れていることがあります。背景にある気持ちを言葉で伝えることができるようなお手伝いができるとよいでしょう。
また,日常場面における対人関係のあり方がグループのほかの参加者との関係に反映されることがあります。グループの中で優位に立ちたいという思いから自身の成功体験を語り続けてほかの参加者の発言の機会を奪ってしまったり,ほかの参加者への助言やときには意見の押しつけばかりに終始してしまったりすることもあるかもしれません。
一般論ではなく,「私は,……」という “I(アイ)” メッセージの形で話すように促したり,「あなた自身はどうお考えですか」などと折々に問いかけたりして,自分の問題に向き合いながら回復に向かうことを促していくことができます。そして,セラピストは,発言の内容の正しさや社会的望ましさにこだわるのではなく,「こんなふうに考えてはいけないけれど……」,「家族には言えませんが……」などといった本音を語っていただけるようなかかわりを意識していくことが大切です。
ただし,なかには,併発する別の精神疾患の症状が主な関心ごとであったり,グループ活動に不向きなパーソナリティ傾向(境界性パーソナリティ症など)を抱えていたりするなどの理由から,グループ形式の効果が出にくい方もおられます。そのような場合には,主な精神疾患の症状の治療的支援にまず取り組んでいただいたり,個人形式の治療的支援を受けていただいたりするなど,その方に合った支援を選択していただけるようにできるとよいでしょう。
おわりに
「どうせ先生は家に帰ったらビールを飲むんでしょ」。アルコール依存の患者が冗談めかして投げかけたその言葉に,はっとさせられたことがあります。セラピストという存在は,生きがいであるアディクションを手放さなければならなくなってしまった方々にとって,心の距離を感じる存在なのだと実感しました。だからこそ,その方の思いや気持ちを決めつけることはせず,「わからないから,教えてほしい」と,真摯に尋ねる姿勢が重要なのだと思います。
支援では,過去に出会った方の経験を例としてお伝えすることもありますが(もちろん,個人が特定されないように),目の前にいる,同じ苦しみを抱える仲間からの言葉は心に響きやすいです。お互いの経験を,お互いの回復に活かしていくことができるのは,グループだからこそできることでしょう。Gさんは,プログラムの内容を一通り終えた後も,頻度を減らして定期的にグループに参加しています。「ここにくると『万引きは絶対しない』という気持ちを思い出します。それに,私もまだ道半ばだけれど,自分の経験が役立つ方がいるかもしれないと思うと,実は,やりがいにもなっています」と笑顔を見せてくれました。
元の環境に戻り,家族や友人らの支えのもと立ち直る方もおられます。しかし,特効薬がない行動アディクションをやめる・減らす生活を生涯にわたって続けていくためには,共感し,励まし合える仲間の存在は何物にも代えがたい心強い味方になりえます。
文 献
- 中島美鈴・藤澤大介・松永美希・大谷真 編(2021)もう一歩上を目指す人のための 集団認知行動療法治療者マニュアル.金剛出版.
浅見祐香(あさみ・ゆか)
目白大学心理学部 専任講師
資格:公認心理師,臨床心理士
神村栄一(かみむら・えいいち)
新潟大学人文社会科学系教授
資格:公認心理師,臨床心理士,専門行動療法士,博士(心理学)
主な著書:『教師と支援者のための令和型不登校クイックマニュアル』(単著,ぎょうせい,2024),『不登校・ひきこもりのための行動活性化』(単著,金剛出版,2019),『学校でフル活用する認知行動療法』(単著,遠見書房,2014),『認知行動療法[改訂版](放送大学教材)』(共著,NHK出版),『レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド』(共著,北大路書房,2013)など。
学生時代から40年におよぶ心理支援の実践はすべて,行動療法がベース。「心は細部に宿る」と「エビデンスを尊び頼まず」が座右の銘。「循環論に陥らない行動の科学を基礎とし,サピエンスに関する雑ネタやライフハックなどによる解消改善を要支援の方との協働で探し出す」技術の向上をめざしている。





