稲田尚子(大正大学)
シンリンラボ 第35号(2026年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.35 (2026, Feb.)
はじめに
自閉スペクトラムのアセスメントでは,対人コミュニケーションやこだわり,感覚特性といった特徴を理解することに加えて,「日常生活の中で,実際にどの程度うまくやれているか」を丁寧に捉える視点が欠かせない。日々の生活の中で,どのような場面では自立して行動でき,どのような場面で支援や配慮が必要となるのかを把握することは,本人に合った支援を考えるうえでの出発点となる。そこで本稿では,生活場面で実際に行われている行動に着目し,適応行動と不適応行動の両面から生活適応を評価できるVineland-IIを取り上げる。Vineland-IIは,個人の強みと支援ニーズを具体的に整理し,日常生活の安定や成長につながる支援を検討するための重要な手がかりを提供する尺度である。
1.Vineland-IIの概要と構成
Vineland-II(Vineland Adaptive Behavior Scales Second Edition)は,個人が日常生活の中でどの程度社会的に適応した行動を実際に行っているかを評価するための標準化された尺度である。本検査は,知能検査のように「できる能力」を測定するのではなく,「生活の中で実際に行われている行動」に焦点を当てる点に大きな特徴がある。対象年齢は乳幼児期から高齢期までと幅広く,発達障害や知的障害の評価だけでなく,精神障害や加齢に伴う機能変化の把握にも用いられている。
Vineland-IIでは,適応行動と不適応行動の両面を評価する構成がとられている。中心となる適応行動は,コミュニケーション,日常生活スキル,社会性,運動スキルの4領域から構成されている。このうち運動領域は,主として乳幼児期から幼児期,ならびに高齢期における評価を目的としている。
さらにVineland-IIでは,必要に応じて不適応行動についても評価が行われる。不適応行動は,日常生活や社会参加を妨げる行動的特徴を把握するためのものであり,適応行動の水準とあわせて解釈することで,支援上の課題や優先度をより明確にすることができる。このようにVineland-IIは,個人の生活適応を多面的に捉え,強みと支援ニーズの両方を明らかにすることを目的とした実践的なアセスメントツールである。
2.Vineland-IIの実施方法および評価方法
Vineland-II適応行動尺度の実施は,対象者の生活状況をよく知る人物への聞き取りを通じて行うのが基本である。日本版においても,検査者が保護者や介護者,教員などの回答者に対して半構造化面接形式で質問を展開する方法が標準的に用いられている。この面接形式では,単に項目を読み上げるのではなく,関連する日常生活の状況についてオープンな質問を行い,回答者から具体的な行動例や頻度,環境条件などの詳細な情報を引き出す。回答者が「できると思う」という潜在能力ではなく,「日常的に実際にしているかどうか」を重視し,回答してもらうことが重要である。回答者が答えた内容に不足や曖昧さがある場合には,追質問を適宜挟むことで確度の高い情報を獲得する工夫が求められる。Vineland-IIは対象者本人の同席を必要とせず,検査者と回答者との対話の中で実施されることが多い。
面接の所要時間はおおよそ30分〜1時間程度であるが,対象者の年齢や適応状況,面接者の熟練度によって前後する。適用年齢が0歳0カ月から92歳11カ月と幅広いことから,年齢に応じて開始点や質問項目が調整されており,すべての質問項目を順番に尋ねる必要はない。回答者が対象者の日常的な行動を具体的に語るなかで,適応行動と不適応行動の双方に関する情報が体系的に収集されていく。
評価方法は,面接によって得られた情報をもとに,各項目ごとに行動の実際の頻度・状況を評定していくプロセスである。適応行動領域(コミュニケーション,日常生活スキル,社会性,運動スキル)のそれぞれについて,日常生活内で実際に行われているかどうかという観点から評定される。評定は通常,回答者の具体的な生活例を踏まえて,行動の定着度や自立性の程度に応じた点数が付与される仕組みであり,単なる有無ではなく段階的な尺度で評価される。
得点化では,各領域の下位領域ごとの原始得点を標準化得点に換算し,さらに4つの主要領域の標準得点を総合して,適応行動総合点(Adaptive Behavior Composite)を算出する。標準得点は平均100,標準偏差15となっており,同年齢集団の平均的な適応行動水準との比較が可能である。また,下位領域ごとにv評価点(平均15,標準偏差3)が算出され,領域内での強みや弱み,個人内の発達パターンを詳細に把握することができる。さらに不適応行動については,内在化・外在化といった指標として項目ごとの得点化や重要事項の評価が行われることで,対象者の行動全体像が多角的に描かれる。
評価結果は,適応行動の総合点や各領域点を年齢相当水準や標準得点として示すことにより,対象者の日常生活での機能レベルを標準化された統計値として理解できるようになる。また,これらの評価は,支援計画や教育的介入,福祉サービスの必要性の判断,あるいは経過観察や介入効果の評価にも活用される。こうした具体的な実施と評価のプロセスを通じて,Vineland-IIは対象者の生活機能を多面的に捉えるための重要な情報を提供する。
3.心理検査場面でのVineland-IIの活用
Vineland-IIの重要な特徴は,心理検査場面において「能力」ではなく,「日常生活における実際の適応状況」を評価できる点にある。知能検査や発達検査が,課題場面で「何ができるか」という潜在的な力を測定するのに対し,Vineland-IIは,家庭や園・学校といった日常の文脈の中で,その人が実際にどのように行動しているか,どの程度自立して生活しているかを捉えることを目的としている。このため,両者を補完的に用いることで,より立体的な生活理解が可能となる。とくに自閉スペクトラム症や知的発達症の評価においては,課題場面では一定の力を示していても,生活場面ではその力が十分に発揮されていない,あるいは逆に,課題場面では測定しにくい生活上の工夫や強みが存在しているといった乖離がみられることが少なくない。Vineland-IIは,こうした乖離を可視化し,「検査場面で見える姿」と「生活の中での姿」とをつなぐ役割を果たす。
また,Vineland-IIは保護者や支援者への半構造化面接を通して実施されるため,検査の過程そのものが生活理解を深める機会となる点も心理検査場面での大きな意義である。検査者は,単に評定結果を得るだけでなく,回答の背景にある生活習慣,環境条件,支援の工夫,本人の努力やつまずきに注意を向けることで,数値だけでは捉えきれない生活の文脈を把握することができる。 このようにVineland-IIは,心理検査場面において診断の補助資料として用いられるにとどまらず,その人の生活機能を具体的に理解するための重要な評価尺度である。能力評価と適応行動評価を併せて検討することで,検査結果を「生活に根ざした理解」へと広げる基盤を提供する。
4.フィードバックの視点
Vineland-IIの結果を活かすうえで極めて重要なのが,フィードバックの視点である。フィードバックの目的は,数値の説明そのものではなく,本人・保護者・支援者が「今の生活の全体像」を共有し,強みと支援ニーズを具体的に理解することにある。適応行動の各領域を確認することで,「すでにできていること」と「まだ支援が必要なこと」が整理され,生活の中でどこに焦点を当てるべきかが見えやすくなる。
この過程では,相談時に挙げられた主訴と,評価結果とが必ずしも一致しないことも少なくない。たとえば,保護者が社会性の弱さを強く心配している場合でも,年齢や生活段階を踏まえると,実際には身辺自立や日常生活スキルへの支援が優先されることもある。Vineland-IIは,こうしたズレを「どちらが正しいか」という問題として扱うのではなく,現在の状態を客観的に整理し,支援の優先度を再検討するための共通の土台を提供する。
また,フィードバックに先立って重要なのは,現在示されている適応行動の水準が,必ずしも「本人の苦手さ」そのものを反映しているとは限らず,これまでにどのような環境や経験の機会が提供されてきたかによって左右される可能性があることを,あらかじめ丁寧に共有しておくことである。この前提を踏まえてフィードバックを行うことで,評価結果が本人の能力や特性の問題として一方的に受け取られることを防ぎ,生活背景を含めた理解へと話し合いを広げることができる。
たとえば,社会性領域において「友だちと遊ぶ経験の少なさ」が示された場合,その結果を単に社会性の弱さとして伝えるのではなく,「これまでに同年代の子どもと関わる機会がどのように用意されてきたか」という視点から確認していくと,保護者から実際の生活上の工夫や葛藤が語られることがある。具体的には,他児を叩いてしまう行動がみられるため,安全面への配慮から,休日に友だちと遊ぶ機会を意図的に避けてきた,という語りが得られたこともある。
このような場合,社会的経験の少なさは,本人の特性や意欲の問題というよりも,保護者が現実的な制約の中で選択してきた環境調整の結果として理解することができる。フィードバックにおいてこの点を共有することで,「できていないこと」を本人の弱点として捉えるのではなく,「どのような形で,無理のない社会的経験の機会を少しずつ作っていけるか」という,今後の支援や環境調整に向けた建設的な話し合いへとつなげることが可能となる。
フィードバックでは,このような生活背景を丁寧に確認し,「できていないこと」を責めるのではなく,「どのような環境調整や経験の積み重ねがあれば,適応行動が育ちやすくなるか」を共に考える姿勢が求められる。Vineland-IIは,適応行動を本人の努力だけに帰属させるのではなく,環境との相互作用の中で理解するための枠組みを提供する。フィードバックを通じて理解が共有されることで,支援は「修正」ではなく,「生活を整えるための協働的な取り組み」へと位置づけ直されていく。
5.心理臨床場面でのVineland-IIの活用:福祉現場での個別支援計画立案
Vineland-IIは,心理臨床場面,とくに福祉・療育・障害児支援の現場において,個別支援計画を立案するための実践的なツールとして高い有用性をもつ。Vineland-IIの各領域および下位領域の項目は,発達の順序性に沿って配列されており,「できる・できない」を数値化すること自体が目的ではない。この構造を活かすことで,数値を算出しなくても,項目を一つひとつ確認しながら,現在どの水準まで適応的に行動できているのか,どこに支援のニーズがあるのかを具体的に把握することが可能である。
心理臨床場面では,評価結果を診断名の補助資料として用いるだけでなく,「次にどのような力を育てていくか」「今の生活を安定させるために何を優先するか」といった支援目標の設定につなげる視点が重要となる。Vineland-IIは,コミュニケーション,日常生活スキル,社会性,運動(該当年齢の場合)といった適応行動の下位領域ごとに,生活に直結した行動項目が並んでいるため,本人の実際の生活場面を踏まえた現実的な支援目標を立てやすい。たとえば,「身辺自立が弱い」という抽象的な理解にとどまらず,「衣服の選択はできるが,天候や場面に応じた調整が難しい」といった具体的な課題として整理することができる。
とくに障害児支援の領域では,「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」「人間関係・社会性」といった複数の領域に沿って個別支援計画を作成することが制度上求められている。Vineland-IIの評価視点はこれらの領域と親和性が高く,検査結果を支援計画の検討材料として直接活用しやすい点が大きな利点である。本人の強みと支援が必要な点を領域ごとに整理し,優先順位を明確にすることで,「評価と支援が分断されない」実践につながる。
このようにVineland-IIは,心理臨床場面において評価を支援へと橋渡しする役割を果たす尺度である。数値に依存しすぎず,項目一つひとつを生活理解の手がかりとして用いることで,本人のニーズに即した,具体性と実行可能性の高い個別支援計画の立案が可能となる。
6.不適応行動の理解と支援
Vineland-IIでは,適応行動の評価に加えて,不適応行動についても体系的に把握することができる。「不適応行動評価」では,「内在化問題」「外在化問題」,およびそれらを総合した「不適応行動指標」について評価点が算出される。また,「不適応行動重要事項」では標準スコアは算出されず,各項目ごとに行動の頻度や強度が評定される。ここで注意すべきなのは,「適応行動評価」と「不適応行動評価」ではスコアの示す方向が逆である点である。適応行動評価では得点が高いほど適応水準が高いことを示す一方,不適応行動評価では得点が高いほど生活上の不適応要素が多いことを意味する。
不適応行動とは,年齢や生活環境に照らして,本人や周囲の生活に支障をきたしている行動を指し,かんしゃく,自傷行為,攻撃的行動,強い回避行動などが含まれる。しかし,これらを単に「問題行動」として捉え,減らすことのみを目的としてしまうと,支援は表面的な対応にとどまりやすい。不適応行動は多くの場合,本人にとって何らかの役割や意味をもって生じており,その背景には適応行動の未獲得や環境とのミスマッチが存在している。
Vineland-IIの評価結果を参照することで,どの適応行動領域が十分に育っておらず,その結果として不適応行動が生じているのかを整理することが可能となる。たとえば,コミュニケーションスキルが未熟なために行動で要求を表現している場合や,身辺自立が十分でないために過剰な援助を求める行動が強まっている場合など,不適応行動の背景は多様である。このような理解に立つと,不適応行動を直接抑制することよりも,代替となる適応行動をどのように学習・獲得していくかが,支援の中心課題となる。
具体的な支援では,「一緒にいてほしい」「〇〇がほしい」「やりたくない」といった意思や状態を,本人の発達水準に合った方法で表現できるようにすることが重要である。適切な代替行動を,落ち着いた場面で計画的に練習し,成功体験を積み重ねることで,不適応行動に頼らなくても生活上のニーズが満たされる経験を増やしていく。不適応行動への支援とは,行動を力で抑えることではなく,本人がより適応的な手段を獲得できるよう,環境と学習機会を整えるプロセスである。
おわりに
本稿では,自閉スペクトラムのある人の生活理解を深めるためのアセスメントとして,Vineland-IIを取り上げ,その概要と活用の視点を整理してきた。Vineland-IIの特徴は,「できるかどうか」を問うのではなく,「日常生活の中で実際にどのように行動しているか」を丁寧に捉える点にある。適応行動の水準を把握することで,生活の中ですでに身についている力と,支援によって伸ばしていくべき点とを具体的に整理することができる。また,不適応行動についても,単なる問題として切り離すのではなく,生活上の困りごとや適応行動との関連の中で理解する視点が重要である。評価結果を数値として扱うだけでなく,項目一つひとつを生活理解の手がかりとして読み解くことで,本人にとって現実的で意味のある支援目標を見いだすことができる。Vineland-IIは,評価と支援を結びつけ,日常生活の質を高めるための実践的なアセスメントであり,その活用は今後の支援を考えるうえで大きな基盤となる。
文 献
- Sparrow, S. S., Cicchetti, D. V., & Balla, D. A.(2005)Vineland Adaptive Behavior Scales Second Edition. Pearson.(辻井正次・村上隆監修(2014)Vineland™-II適応行動尺度.日本文化科学社.)
稲田尚子(いなだ・なおこ)
大正大学臨床心理学部臨床心理学科 准教授
資格:公認心理師,臨床心理士,臨床発達心理士,認定行動分析士
主な著書は,『これからの現場で役立つ臨床心理検査【解説編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『これからの現場で役立つ臨床心理検査【事例編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『いかりをほぐそう 子どものためのアンガーマネジメント』(共著,東京書籍,2025)






