【特集 スクールカウンセリング30年】コラム#04 SCに求められる「伝える力」|松岡靖子

松岡靖子(川村学園女子大学)
シンリンラボ 第35号(2026年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.35 (2026, Feb.) 

1.はじめに

筆者はこれまで,私学の通信制高校や公立中学校・公立小学校でスクールカウンセラー(以下,SC)として勤務してきた。現在は公立小学校で週1回の非常勤SCとして勤務しながら,大学で心理職を目指す学生の指導も行っている。こうした経験から見えてきた課題は,SCの「伝える力」をいかに高めるかという点である。

2.現場で求められる「伝える力」

SCの役割は何かと問われれば,一般的には児童生徒の話を「聴く」仕事を思い浮かべる人が多いだろう。しかし,現場での実際は「伝える」場面の連続である。担任や保護者,学校組織との連携には,専門家としての見立てをわかりやすく伝える力が欠かせない。

たとえば,登校が難しい児童生徒への対応を検討する場面。母子面接を続けるのか,別室登校を勧めるのか,教育支援センターを利用するのか—こうした判断には,担任や保護者との話し合いが不可欠であり,SCも専門家としての見立てや意見を伝える必要がある。

時には意見が食い違うこともある。抑うつ状態が強く,なかなか登校ができない子どもの保護者面接をしているときに,もし「家で好きに過ごせるから学校に来ないんですよ。もっと強く押し出してほしい」というような意見が担任から出されたとしたら,どうするだろうか。SCは子どもの状態や今無理をさせた場合のリスクを,担任がイメージしやすい言葉で伝え,考えをすり合わせる必要がある。

文部科学省の教育相談等に関する調査研究協力者会議報告(2017)でも,SCに求められる能力として,アセスメントや面接の能力に加え,教員への心理学的見地からの助言,学校組織への支援を行う組織心理学的援助能力,児童生徒への心の健康保持活動(ストレスマネジメントや対人関係訓練等)の企画立案能力が挙げられている。“助言”“組織への支援”“企画立案”……つまり,専門的な意見を簡潔に,明確に,わかりやすく伝える力が,SCの活動には不可欠なのである。

3.「伝える力」を身につける難しさ

しかし,自分のもう一つの立場である大学教員としての仕事を振り返ると,こういった「伝える力」が大学・大学院で十分に身につけられるだろうかということには疑問がある。もちろん,実習や演習を通してトレーニングされる部分もあるが,大学や大学院で学ぶことの中心はアセスメントや心理支援など個人対象のスキルであり,多職種との連携や「伝える力」を体系的に学ぶ機会は,まだ十分とは言えない。

さらに,一般的に仕事のスキルというのは仕事をはじめてから研修や先輩からの指導で身につけていくことも多いが,SCの場合は非常勤で1年契約の雇用形態がほとんどである。各自治体が研修を行っているものの,非常勤で1年契約では,教員のように初任者研修・5年目研修,10年目研修といったような経験年数に応じた研修を行うということは困難であり,使える時間にも限りがある。さらに一人職場が多く,他のSCの働き方を実際に見る機会が非常に限られる。こうした環境が,「伝える力」の習得を難しくしている。

4.これからに向けて必要なこと

こういった課題の解決のためには,まずは,SCに「伝える力」が必要であるという認識を広げることが第一歩であると考える。事例論文などでも,連携場面の記述は「教員に説明し理解を求めた」といった簡単な表現にとどまりがちである。どんな話し合いがあり,どんな説明をしたのか……こうしたプロセスを共有することが,次代のSC育成に役立つ。さらに,研修や情報発信の場で「伝える力」を高める工夫が必要である。

5.まとめ

SCは「聴く」だけではなく,「伝える」専門家でもある。この力を育てる仕組みが整えば,SCはもっと学校で活用され,制度も発展していくはずである。現場で働く私たち自身が,その力の重要性を認識し,それぞれの工夫を積極的に共有していくことがその第一歩となると考える。

文  献
+ 記事

松岡 靖子(まつおか・やすこ)
川村学園女子大学
資格:公認心理師・臨床心理士
主な著書:『スクールカウンセラーのための主張と交渉のスキル』(共編,金子書房,2024),『学校心理臨床実践』(分担執筆,ナカニシヤ出版,2018)

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