【特集 アサーションのすすめ】#01 総論 アサーションとは何か──特集に寄せて|平木典子

平木典子(日本アサーション協会)
シンリンラボ 第34号(2026年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.34 (2026, Jan.) 

1.アサーションの意味

英語のassertionは,同じ意味を伝える日本語がない。この言葉が日本に紹介されたとき,例えば英語のappleが日本語の「りんご」,honestは「正直な」となるような訳語はなかった。英和辞書には,[…という]「主張」;「断言」「断定」「明言」,といった訳が出てくるが,assertionの意味を的確に伝えていない。

アサーション・トレーニングを行う場合,日本では,まず,アサーションの意味を「自他尊重の自己表現」,「自分も相手も大切にするコミュニケーション」と説明して,英語の発音をそのまま発音し,「アサーション」とカナ表記し,外来語として活用している。

筆者がアサーションという言葉に初めて出会ったのは,1970年代半ば,サンフランシスコで開催された。カール・ロジャーズ主催のワークショップであった。「アサーション・トレーニング」は,小グループ活動の一つであったが,私には,アサーションもそのトレーニングも初耳であり,高い関心をもちつつ,他のグループへの参加を優先し,ワークショップ終了後,「アサーション・トレーニング」関連の著書を数冊購入して,帰国したのだった。

北米ではその時期,アサーション・トレーニングは,訓練プログラムとして,2日間,あるいは,毎週2.5時間5回といった構造化されたコミュニケーション訓練プログラムとして実施され始めており,西海岸の大学やアサーション・トレーニングの研究所などでは,自己表現が控え目で,日常生活や対人コミュニケーションに困難を感じているアジア系移民の子どもや孫などに向けたアサーション・トレーニングも実施されていた。

それは,日本人のコミュニケーションが,男女の違い,年齢や肩書・役割などによって尊敬語,丁寧語,謙譲語を使い分け,遠慮して(=遠くから慮って)伝える結果,自分の思いは届かず,他者尊重はあるかに見える一方,自己尊重がないことに気づく機会だった。同時に,「自分を大切にしないで,自分の思いを他者に理解されるように伝えることは難しいのではないか?!」と納得した。また,日本人も「自他尊重のコミュニケーションについて考え,実践する訓練」が必要であり,日本人向けのアサーション・トレーニングの実施を考えるようになった。

数年後,1年間の研究休暇をカリフォルニア大学サンフランシスコ校で過ごした折,パロ・アルトにあるアサーション・トレーニング研究所で,その訓練とトレーナー訓練を受講し,帰国後,大学のカウンセリング・センターで,学生のカウンセリングを継続しながら,学生向けの「アサーション・トレーニング」プログラムを開始し,「カウンセリング」の授業で紹介したりしていた。

また,日本カウンセリング学会,学生相談学会などでもアサーション・トレーニングを実施し,他大学や企業などにもトレーニングが広がり,現在に至っている。

2.アサーションとは何か

アサーションとは,「自他尊重の自己表現」,「自分も相手も大切にするコミュニケーション」である。ただ,日本では英語のassertionの意味を理解することは困難であり,北米を含む母国語が英語の国々でも,「断定」「言い張ること」などと誤解されることもある。

ここでは,アサーションでない自己表現とはどんなことかについて理解することで,アサーションと,そのトレーニングの必要性について考えていくことにしよう。

アサーションでない自己表現とは,自分や相手を大切にしてない自己表現である。アサーション・トレーニングでは,自分を大切にしてない自己表現をnon-assertive(非主張的)自己表現,相手を大切にしてない自己表現をaggressive(攻撃的)自己表現という。

非主張的な自己表現は,コミュニケーションや対人関係が苦手で,自らをオープンにして考えや感じていることを表現できない,あるいはしない状態である。攻撃的自己表現とは,逆で,自分の思いを自由に表現するが,相手や周囲の人々への配慮がなく,自分を優先して,一方的に自分の言い分を通そうとしたり,過重な仕事を押し付けたりするような親や上司の言動などである。つまり,いずれも,自分,あるいは相手を大切にしていない自己表現ということになる。

このような自己表現は,単に,年齢や役割などによる関係に限らず,男女差別や人種差別,特別なケアが必要な人への配慮といった人権を守るためにも,さらに,自ら人権を軽視・無視して,自他の尊厳を脅かしている人々の言動への警鐘としても,注目されている。

つまり,アサーションは,言論の自由といった人権の視点も含んだ考え方と言動なのである。

自分が知らないこと,わからないことは理解しようとしていいし,その自分を大切にしながら,相手も大切にして質問したり,助けを求めたり,思いを述べてよい。

日本語の「「お互いさま」という表現は,アサーションの精神につながる言葉でもある。ただ,日本では,この表現は,自分が相手に迷惑などをかけたと思ったとき,謝罪などをしたときに,相手が寛容を伝える言葉である。

英語にも,“Never Mind”という表現があるが,こちらは「気にしないように」,「忘れてもいいよ」といった意味で,「お互いさま」ではない。

膨大な広さと多民族により成り立っている北米と,ほぼ単一民族の小さな島国の日本では,assertionの意味も活用も異なるかもしれない。

例えば,肌や髪の色が違う人々がいる国で,違いは当たり前であり,黒髪と肌の色が同じ日本では,違いは,時に「間違い」になる可能性がある。アサーションは,違いが当たり前の国には,不可欠なコミュニケーションでもあり,逆に,日本では同じでないことは,引け目になるのだろう。

違いが目立つ国で,人々がその違いを大切にしたアサーションを志向してきたことは,重要なポイントである。ただし,それは他の国でも同様で,厳密にいうと,一人ひとりは違って当たり前であり,それを基盤にしたコミュニケ—ションは,どこでも人間関係のベースになるだろう。

近年,「「セクハラ」「パワハラ」といった表現によって,時には人権侵害に及ぶハラスメントの理解と対応が必要になった。コミュニケーションの場で,相手にとってハラスメントとはどんなことか。わからないことを前提として対応するためには,自分のためにも相手のためにも,さらにその場にいる人々のためにも,アサーションが役立つだろう。

3.アサーション・トレーニングのプログラム構成

アサーション・トレーニングは,上記のようなことを考慮して,2泊3日,あるいは毎週2.5時間×5回のプログラムで,構成されている。

1)講義:「アサーションとは」

アサーションの意味とそのトレーニングの誕生の理由・歴史などを知るセッション

2)アサーティヴなものの見方・考え方(認知上のアサーション)

アサーションには,ものの見方・考え方が影響を与える。

たとえば,「ここで発言してはならない」と考えていると発言しないだろうし,他者の発言に対しても疑問を持つだろう。

3)人権としてのアサーション

自己表現は表現の自由・表現の権利の実現であること確認する。

4)アサーティヴなセリフづくりの基本要素(DESC)

上記1,2,3を前提に,アサーションに必要な表現要素,現状を客観的に描写(Describe)する,自他の気持ち感情を表現(Express)する,自己の思い意見などを述べる(Specify),合意に向けて選択する(Choose)を参考にして,話し合いをする。

5)アサーション実習(ロールプレイによる)

参加の人数は12名〜24名で,小グループを活用した受講者参加型のトレーニングであり,上記の基礎編参加後は,実習編,トレーナー養成のためのコース(観察編,実習編など)により成り立つ。

実習編ではロールプレイの研修の技法を持つスタッフが必要であり,トレーナー養成の課題となっている。

以上,アサーション・トレーニングとそのトレーナー訓練について概要を述べた。

一言でいうと,いずれも講義と多くの実践演習を含むトレーニングである。

文  献
  • 平木典子(1999)自分の考え・気持ちを表現するためのスキル・態度とは.In:教育と医学―特集 コミュニケーションを育む.慶應義塾大学出版会.
  • 平木典子(2000)自己カウンセリングとアサーションのすすめ.金子書房.
  • 平木典子・沢崎達夫・土沼雅子(2002)カウンセラーのためのアサーション.金子書房.
  • 平木典子・沢崎達夫・野末聖香(2002)ナースのためのアサーション.金子書房.
  • 平木典子(2007)図解 自分の気持ちをきちんと〈伝える〉技術―人間関係がラクになる自己カウンセリングのすすめ.PHP研究所.
  • 平木典子(編)(2008)児童心理―特集 子どものためのアサーション.金子書房.
  • 平木典子(2012)アサーション入門―自分も相手も大切にする自己表現.講談社.
  • 平木典子(2013)図解 相手の気持ちをきちんと〈聞く〉技術―会話が続く,上手なコミュニケーションができる!.PHP研究所.
  • 平木典子・星井博文・サノマリナ(2015)マンガでやさしくわかるアサーション.日本能率協会マネジメントセンター.
  • 平木典子(監修)(2016)こころのふしぎ たんけんえほん.PHP研究所.
  • 平木典子(2021)三訂版 アサーション・トレーニング―さわやかな<自己表現>のために.日本・精神技術研究所.
  • 平木典子(2022)カウンセリング・スキルアップのこつ―面接に活かすアサーションの考え方.金剛出版.
  • 平木典子(2023)言いにくいことが言えるようになる伝え方―自分も相手も大切にするアサーション.ディスカヴァートゥエンティワン.
  • 平木典子(2023)アサーションの教え―社内ハラスメントを予防する自他尊重のコミュニケーション.In:Diamond Quarterly.ダイヤモンド社.
  • 都留春夫・平木典子・小谷英文(1976)レポート 最近のカール・ロジャーズ―その変容のプロセスをたしかめる.日本・精神技術研究所.
+ 記事

平木典子(ひらき・のりこ)
日本アサーション協会
津田塾大学英文学科卒業。ミネソタ大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。
立教大学カウンセラー,日本女子大学人間社会学部心理学科教授,跡見学園女子大
学臨床心理学科教授などを経て,現職。
家族心理士,臨床心理士
専門は,家族心理学,臨床心理学。
主な著書:『新・カウンセリングの話』(朝日新聞社,2020年),『カウンセリングスキルアップのコツ』(金剛出版,2022年),『アサーション入門』(講談社現代新書,2012年),『三訂版 アサーション・トレーニング―さわやかな自己表現のために』(日本・精神技術研究所,2021年),『言いにくいことが言えるようになる伝え方―自分も相手も大切にするアサーション』(ディスカヴァー携書245,2023年),『図解 自分の気持ちをきちんと〈伝える〉技術』(PHP,2007年)『図解 相手の気持ちをきちんと〈聞く〉技術』(PHP,2013年)など多数。

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