【特集 アサーションのすすめ】#05 対人支援専門職(看護職)のためのアサーション|簗場久美子

簗場久美子(千葉大学
シンリンラボ 第34号(2026年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.34 (2026, Jan.) 

1.はじめに

1)対人支援専門職とは

対人支援専門職とは,医療・福祉・教育などの分野で,人々の困難や悩みに寄り添い支援を行う職種である。具体的には,看護職,介護職,ソーシャルワーカー,教員などが挙げられる。対人支援専門職においては,クライエントへの共感など,感情面での高い関与が求められるという特徴がある。

近年の医療現場では,患者の権利意識の向上や生活の質(Quality of life: QOL)を重視した健康観の浸透に伴い,以前にもまして,医療従事者の高い共感性やコミュニケーションスキルが求められるようになっている。医療従事者の中でも看護師は,患者とのコミュニケーションの機会の多さゆえに,患者に安心感をもってもらうために共感や気遣いを示す必要があるとされている(武井,2003)。

2)看護師のためのアサーション

看護師のためのアサーションの重要性については以前より指摘されており,これまでに,看護師を対象としたアサーション・トレーニングの効果や課題について,多くの検討が行われている(野末ほか,2013など)。その多くは,職場での対人関係やコミュニケーションに関連した看護師自身のストレスの軽減やバーンアウトの予防を目的としており,主に看護師個人を対象としたアサーション・トレーニングである。

一方で,近年,個人を対象としたアサーション・トレーニングだけでなく,協働のためのアサーション・トレーニング(Collaborative Approach in Assertion Training: CAAT)が開発され,実施されている(平木,2023)。これは,自他尊重のアサーションが,個人の自己表現の方法としてだけではなく,集団や組織における互いの違いを大切にした関係形成や課題遂行に役立つものとして考えられているためである。

看護師もまた,多職種チームでの協働を求められる職種であることを踏まえると,従来の看護師個人のためのアサーションだけではなく,看護師が多職種チームにおいて協働するうえでのアサーションも重要であると考えられる。

そこで本稿では,従来の,看護師自身の精神的健康のためのアサーションという観点ではなく,多職種協働における看護師のためのアサーションという観点から論述する。

2.医療における協働と意思決定

1)チーム医療と多職種協働

近年,医療技術の急速な進歩と発展に伴い,医療が高度に専門・分化される中で,医療者には高度な知識と技術,そして「チーム医療」による多職種の連携・協働が期待されている。チーム医療とは,医療に従事するさまざまな専門職が対等な立場で,それぞれの高い専門性を最大限に発揮しながら,目的と情報を共有して業務を分担しつつも相互に連携・補完しあって,患者・家族のために協働する仕組みとして理解される(厚生労働省,2010)。その目的は,患者のために積極的に多職種協働を図って医療の質を高めるとともに,効果的な医療サービスを展開することである。

2)患者−医療者関係および意思決定の変化

米国からのインフォームド・コンセント(Informed Consent: IC)の概念の導入によって,医療現場での意思決定における患者の自律性や自己決定の尊重は,わが国においても一般化し,現代ではさらに進み,患者と医療者の関係は「協働」や「意思決定の共有」を目指すものへと転換している(石川,2020)。

そして,患者中心的アプローチ(patient-centered approach)や共同意思決定(Shared Decision Making: SDM)の概念へと至っており,治療などの決定に至るプロセスで患者と医療者が協働し,そのプロセスを共有するものとして捉えられるようになっている(Ishikawa et al., 2013)。

3)共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)

患者−医療者関係の変化に伴い,医療におけるコミュニケーションは,患者と医療者がそれぞれの背景と世界の相互交流を通して,その病気や健康問題の現状,前提,価値観,治療の目標などについて共通の意味を生成し,互いを理解し,共有していくプロセスとして重視されている(石川,2020)。

しかしながら,患者と医療者は,同じ健康問題や病気についても,しばしば異なる視点で捉え,異なる情報や考えをもっている。その異なる考えや情報をもつ両者が共通の基盤を作ること,そして,治療における問題点や目標,方法などについての決定に至るプロセスを共有していくことが,意思決定の共有といえる(石川,2020)。

3.多職種協働での意思決定

1)多職種での意思決定における困難

前述のように,チーム医療の推進とSDMの重視から,医療現場では患者とのSDMを多職種チームで支援することが多くなっている。

一方で,近年の医療における意思決定を難しくしている要因のひとつが,意思決定への関係者が多様化しているという現実である。すなわち,チーム医療による多職種協働が推進される一方で,役割として集合した多職種がチームに発展するプロセスでは,各職種の問題意識や倫理観,価値観などが影響し,職種間の意見対立や葛藤が生じやすく,多様な困難があることが報告されている(田村,2012;佐藤ほか,2018など)。

2)多職種チームのコミュニケーション

多職種からなるチームにおけるコミュニケーションは,スタッフ間に相互の知識・技術に関する,また,組織上のルール・相互の役割・チーム方針に関する共通の理解と徹底,つまりは「共有」があることが前提とされている。しかしながら,多職種チーム内コミュニケーションの難しさのひとつは,この「共有」が不足しがちなことであるとも指摘されている(北島,2004)。

また,成瀬ら(2018)は,多職種連携の困難にはコミュニケーションをとる上での困難やサービス提供上の困難,チームとして機能する上での困難があり,それぞれの職種が職種間の認知の相違を共有し,同じ方向性で行動するきっかけをつくることが必要であるとしている。このように,多職種連携の促進には,連携する職種が互いを知り,理解し,共に問題解決や意思決定支援を行うことが重要であると考えられる(小坂ほか,2023)。そして,問題解決のために,多様な意見の対立から,話し合いによって最適な意思決定に至る「合意形成プロセス」を構築する必要があると考えられる(浜町,2005)。

4.多職種協働における看護師の役割とアサーションの視点

1)看護師に求められる役割とアサーション

看護師は,同僚や先輩,あるいは医師などの他職種に対して,明確に意見を述べずに我慢するといった非主張的な自己表現をとる傾向があるといわれる(鈴木ほか,2003)。また,看護師は,患者との人間対人間の相互関係を大切にし,信頼してもらえる存在であるよう努め,関係性を築くことを重視しているが,医療現場では患者・家族や他職種との丁寧なコミュニケーションの時間の確保が難しいことも多く,看護師がコミュニケーションに不全感や葛藤を抱えることも少なくない。

一方,多職種協働が求められる中,看護師には,専門知識と技術を活かした援助だけでなく,チーム医療における連携・協働のキーパーソンとしての役割を担うことが期待されている(吾妻ほか,2013)。

アサーションは,異なる社会・文化的背景の人々との相互作用が必要となる多元的・多文化的な現代社会で役立つスキルとして位置づけられる(Alberti et al., 1970/2008)。医療における多職種協働も,異なる背景や文化をもつ多職種が一緒に働くことであり,アサーションのもつ多元的・多文化的理解という考え方が役立つと考えられる。また,医療における意思決定場面において,患者−医療者間の仲介役や調整役を担うことも多い看護師がアサーティブな態度を示すことは,患者・家族や他職種のアサーションを促進する効果をもたらすと考えられる。

2)プロセスの視点

協働のためのアサーション・トレーニング(Collaborative Approach in Assertion Training: CAAT)では,グループ(組織・集団)の活動で起こるさまざまなプロセスに気づき,その気づきを集団での「協働的課題達成」に活かす視点を取り入れている。

チーム医療においても多職種によるさまざまな相互作用が生じるが,CAATでは,その相互作用を主として3つの機能からとらえる。それらは,グループの課題達成を促進する「課題達成機能(Task):T機能」,メンバーの相互関係やグループの雰囲気などにかかわろうとする「グループの形成・維持機能(Maintenance):M機能」,個人的欲求充足のための「個人のニーズを満たす機能(Individual Needs):I機能」である。この3つのアサーティブなコミュニケーション機能が,グループの意思決定や目標達成に影響を及ぼすとされる。

このCAATの考え方を踏まえると,多職種協働のキーパーソンとなる看護師には,多職種チームの中で自分自身がどのようなコミュニケーション機能を果たしているかを俯瞰する視点が求められる。そのうえで,起こっているプロセスに気づき,その気づきを多職種チームでの「協働的課題達成」に活かす視点をもつことが期待される。

3)リフレクティングの活用

協働におけるプロセスの視点においては,リフレクティング注1)という技法も活用できる。リフレクティングにおいては,「話す」ことを外的会話(他者との会話),「聴く」ことを内的会話(自分との会話)と呼ぶ(矢原,2016)。

注1)家族療法家のトム・アンデルセンTom Andersenらが開発したコミュニケーションの手法

アサーションにおける「伝える(=話す)」の土台には「聴く」があり,多職種協働においても,自分の意見を「伝える」アサーションのみではなく,「聴く」アサーションを効果的に用いることが重要となる。リフレクティングの技法を用いて「話す」と「聴く」の二種類の会話を丁寧に重ね合わせながら展開することで,対話にさまざまな「差異」を差し込み,新しい視点をもたらし,各メンバーの内的対話を活性化するといわれている(斎藤,2019)。

看護師が,多職種チームにおいて起こっているプロセスに気づき,さらにリフレクティングを活用することで,チームでの「協働的課題達成」がしやすくなると考えられる。

4)自職種・他職種の理解

アサーションの前提として,自分の感情や欲求を大切にしてよいという考えをもち,自分の心の動きに敏感で大切にしている態度,すなわち,自己理解が重要とされる。これをCAATの観点から捉え直すと,多職種協働においてアサーティブな関係を築くには,前提として「自職種の理解」が重要と考えられる。春田(2016)による多職種連携コンピテンシーにおいても,4つのサブドメインの中の2つに「他職種の理解」と「自職種の理解」が挙げられており,それらは専門職の能力として重視されている。

5)チームとしての準拠枠と意味の共生成

多職種協働を促進するために,互いの見解のズレを埋める対話の必要性が指摘されることは多いが(細田,2012),それを単なる個別事象をめぐる見解のズレと認識することで,話し合いがかえって職種間や組織間の溝を深めてしまう結果に至ることが少なくない(矢原,2016)。これは,見解のズレを各職種が認識する際の基準となる枠組みが職種や立場によって異なることから生じるコミュニケーションのズレが,多職種協働を困難にしている可能性があるということである。

したがって,多職種協働のためには,チームとしての新しいものの見方の枠組み,すなわち,チームとしての「準拠枠」注2)が必要になると考えられる。そのためには,多職種で互いにアサーティブに意見を率直に述べ合う中で,そのプロセスの結果として最低限のコンセンサスに至ることで,チームとしての「準拠枠」を生成することが,多職種協働におけるアサーションの前提として必要とされる。そのうえで,職種間の「違い」を互いに理解したうえで双方に歩み寄り,互いの言葉に含まれた「意味」をわかち合って共生成することがアサーションであり,多職種協働のキーパーソンである看護師が,その視点をもって多職種協働に携わることが期待される。

注2)考えや行動,経験を判断するための一連の前提や基準で,一人ひとりのもつ理解の枠組みのこと
5.おわりに

チーム医療や多職種協働の推進によって,看護師に求められる役割は多様なものとなっている。看護師が,多職種協働での共同意思決定の場にアサーションの視点を取り入れることで,多職種および患者・家族が,違いを大事にしたうえでの相互理解や関係性の形成のプロセスを育むことが可能となる。そのためには,看護師だけでなく,他職種によるサポートも重要な意味合いをもつと思われる。その意味では,コミュニケーションを専門性のひとつとする私たち心理職が,アサーションの視点から多職種コミュニケーションを俯瞰し,看護師の役割をサポートする形で動くことができるとよいのではないかと考える。

文  献
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  • 矢原隆行(2016)リフレクティング:会話についての会話という方法.ナカニシヤ出版.
+ 記事

簗場 久美子(やなば・くみこ)
所属:千葉大学医学部附属病院緩和ケアセンター
資格:公認心理師・臨床心理士

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