みんなで学ぶ行動アディクションへの認知行動療法:ギャンブルや浪費から盗撮・万引きまで(10)行動アディクションを手放す:万引き編|浅見祐香・神村栄一


浅見祐香(目白大学)・神村栄一(新潟大学)

シンリンラボ 第37号(2026年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.37 (2026, Apr.)

はじめに

少年非行の入り口であるゲートウェイ犯罪とも呼ばれる万引きは,手口が比較的容易であり,店舗等が通報しない暗数が多いという特徴があります。万引きは,高い頻度で繰り返されるうちに,得られる商品だけではなく,スリルや達成感,スッキリ感,不安の低減など万引行為そのものから得られるメリットの意味合いが大きくなっていくことがあります(浅見ら,2021)。さらに,毎日のように繰り返される中で習慣化してしまい,盗らないと損をしているように思えて,万引きをやめられない状態に至ることもありえます。

このような万引きのアディクションは,窃盗症(クレプトマニア)という精神疾患の1つとして理解されており,生活上の支障が大きくQOLが低いことが知られています。しかし,犯罪行為であるため,病気だと認識されにくく,専門的な支援になかなかつながることができない点が課題とされています。今回は,「いいな」と思うとつい手が出てしまうというLさん(30代男性),「イライラを解消するには万引きしかなかった」と話すMさん(40代女性)のケースを解説していきます(※いずれも複数の実在するモデルから創作した架空事例)。

1.ケース1「『いいな』と思うと同時に手が出てしまいます」

Lさん(30代男性)は,中学生のときに友人に誘われて初めて万引きをしたときの強烈なドキドキ感を今でも忘れられないと語ります。続けるうちに,店員に見つかったこともありましたが,「次はばれないようにうまくやろう」と一人でも繰り返していました。ほしい物だけではなく,ビニール傘や飲み物,モバイル充電器など,必要な時に手元にないと万引きをするようになり,「防犯カメラに映らない死角や,店の外に陳列された商品は,盗ってくださいと言っているようなもの」と考えるようになったと言います。

「万引きをすればただで手に入るからお金を払うのはもったいないと思っていました。それに,万引きをする瞬間は,まるでジェットコースターに乗っているようなドキドキ感があって,心臓もバクバクして気分が高まりました」。窃盗罪で執行猶予中であるLさんは,「次は刑務所に入ることになる」と危機感を抱きながらも,万引きを止められずにいたところ,弁護士から勧められて病院に通院することになりました。
対応①:本音を話せる関係づくり

行動アディクションの対象が犯罪行為に相当する場合は,扱う内容の善悪がはっきりとしていることもあり,本音を隠して社会的に望ましいとされる内容が語られやすいです。Lさんも通院を始めた当初は,「お店に対して,ひどいことをしてしまいました。今後は絶対に万引きをしません」などと反省の言葉を繰り返していました。当時について,「正直に言うと,万引きをやめられるとは思っていませんでした。それでも病院へ来たのは,病気であれば裁判で減刑されるかもしれないという期待があったからです」と振り返ります。

カウンセリングでは,これまでに取り調べなどで何度も述べてきた,幼少期の両親との葛藤から万引きに至るストーリーを話しました。セラピストは,説得することもあるべき姿を説くこともなく,静かにうなずきながら耳を傾け,時折,その当時の思いや気持ちについて尋ねてきました。そして,万引きの話になると,セラピストから「その行為をしたのはどのようなときでしたか?」,「その行為をした後はどうなりましたか?」などと問いかけられ,当時のことを思い起こしながら応じていきました。

だれしも,生まれた瞬間から犯罪行為をしているわけではありません。さまざまなパーソナリティをもつ個人が,家庭や学校・職場などの環境の影響を受けながら,犯罪に相当する行為を「学習(ある行動が獲得されるという意味)」した結果であると理解できます。そうであれば,犯罪をしない生活を「再学習」することが可能である,と言えます。「やめた方がよい」,「間違っている」と思える行為であっても,どうしてやめられないのか,どのような意味があるのか,ほかの行為ではどうしてダメなのか,などとご本人の視点に立ち,想像しながら理解を試みる姿勢が大切になります。

「この人の前なら,そんなに無理をしなくても大丈夫かも……」とLさんが思い始めた頃,セラピストから万引きを続けることのメリットとデメリットについて一緒に整理してみることを提案されました。「これまでは,盗んだ商品の総額の方が,罰金などをはるかに上回っていました。しかし,仕事を辞める,通院を始める,さらに,刑務所に入ることになるかもしれない,と考えていくと,とてもじゃないけれど割に合いません。デメリットの方が大きくなっていることに気がつきました」。

対応②:衝動を避けるための環境調整

Lさんはネットスーパーや対面式のお店を活用するとともに,友人が働いているコンビニエンスストアで買い物をするようにしました。万引きをしたことがある近所のスーパーマーケットに入る必要があるときは,入店前に5分間のタイマーをセットして,事前に準備した買い物リストにあるもののみを購入するようにしました。以前のように,店内を練り歩くことはやめて,買いものリストにある商品がある棚のところだけを見るようにしましたが,ふとした瞬間に「盗れそうだな」という考えがわいてきてドキドキすることは少なくありませんでした。

「以前は,予定のない日はよく買い物に出かけていましたが,通院を始めてからは外出せずに家にこもって本を読んだり映画を見たりしています。けれど,毎日とても窮屈な感じがしています。お店に行くことは自分にとって息抜きであり楽しみでもあったのだと思います」。窮屈な生活を長く続けることはとても困難です。Lさんは,家の中でできる楽しみを増やしていくとともに,万引きのリスクが少ない外出先を探していきました。サウナやインターネットカフェなど,ゆったり過ごせる場所が増えていきました。

また,Lさんは,セラピストと一緒に,自身の万引きの引き金を丁寧に整理していく中で,いくつかのパターンがあることがわかりました。本や漫画,小型の電子製品などのガジェット類は,目に入ると「いいな」と思って盗りたい衝動がわいてくるため,一人では書店や家電量販店に入らないことにしました。一方,ビニール傘などのように,必要なときに手元にないと盗ってしまう商品については,そもそも必要な状況にならないような事前の準備ができていれば,盗りたい衝動は生じませんでした。

Lさんは先日,友人と書店に入った際に,気になっていた本を前にして,防犯カメラの死角を探してしまう自分に気がついたそうです。「ほしいものを目にすると自分を止められる自信がありません。けれど,そうではないものについては,家の中を片付けて,天気予報を確認したり水筒を持ち歩いたりといった出かける前の準備をしておくと,盗らずに済んでいます。外に出ることは危険だと思っていましたが,何を避ければよいかがはっきりしてくると,気持ちもとても楽になりました。これぐらいの我慢なら続けていけそうだなと思っています」。

2.ケース2「イライラを解消するには万引きしかありません」

Mさん(40代女性)は,高校生の時に友人と一緒に数回,万引きをしましたが,店員に見つかって親に叱られたことをきっかけにやらなくなりました。しかし,それから10数年後,夫の収入が減って生活が苦しい中で,「子どもには栄養があるものを食べさせたい……」と,食材を1つ万引したことをきっかけに,万引きを繰り返す日々が始まりました。毎日のように繰り返すようになると,万引きをすると不安がやわらぐ,イライラがすっきりする,寂しさが埋まる,などと万引きをする意味がどんどん大きくなっていきました。

逮捕されると,「二度としない」と決意しますが,数か月ほど経つと「1つくらいなら大丈夫」と万引きを再開してしまいます。「盗ることの方が当たり前で,盗らないでいると損をした気持ちに耐えられませんでした。警察に捕まった帰り道,『今日は何も盗れていない』と考える自分に気づいたとき,引き返せないところまで来てしまったと絶望しました」。自分でネットで調べて,見つけた専門クリニックに足を運びました。
対応①:「万引きしかない」状態から脱する

パートタイムの職場の煩わしい人間関係,思うようにいかない子育て,夫とのいさかい,ささいないらだちは毎日生じます。「スーパーマーケットに寄って(万引きをして)帰ろう」と考えていると,そういった嫌な気持ちは薄れていきました。「すっきりするには盗るしかない」,「万引き以外の発散方法はない」という考えはどんどん強くなりました。

万引きをするしかないという,まるでルールのようなものに縛られた状態では,現実場面において生じる気持ちや思いに気づきにくくなってしまうことがあります。Mさんは,毎日のように万引きを繰り返していた頃について,「やらないと落ち着かないだけで,万引きをした後のスッキリする感覚は薄れていました」と振り返ります。この頃には,これまでに好きだったことをやっても楽しいと感じられなくなっていました。

「日々のイライラやもやもやなどを見ないようにして蓋をしていました。ため込んだものを万引きで晴らしていたのだと思います」と話すMさんは,セラピストともに,ネガティブな気持ちがわいたときには早めに手当てができるような手立てを考えていきました。万引きほど「万能」な対策は見つからなかったため,ネガティブな気持ちごとに対処方法を探していきました。

イライラした時には大声を出したり甘いものを食べたりする,寂しい気持ちがわいたら妹に電話をしたり持ち歩いているノートに思うままに書き記したりする。セラピストからは,人と一緒にやることや準備が必要なことだけではなく,一人でいつでも気軽にできることも探してみるように提案されました。

「おいしいお菓子はお取り寄せで手に入れています。ほかにも,好きな時に音楽や映画を見られるように動画配信サイトに加入しました。ホラーやサスペンスのようなドキドキする海外ドラマを見ていると,気がつくと時間が過ぎていて,嫌な気持ちも薄れていきます」。

対応②:自分のコントロールを取り戻す

Mさんは,通院先で呼吸法などのマインドフルネス瞑想にも取り組みました。意識的に,今この瞬間に注意を払って,現実をあるがままに知覚することを通して,考えや気持ちにとらわれることなく,現実そのものをとらえることができるようになることを目指していきました。

当初は,「これであっているのかな?」などと疑問が生じて集中して取り組むことが難しかったと言います。ですが,プログラムの中で,同じ病気の仲間が「私の場合は数か月続けると,イライラに気づきやすくなった気がします」と話すのを聞き,試してみることにしました。Mさんは続けていくうちに,ネガティブな気持ちが強まっている自分に気づきやすくなっていきました。「少し遠くから自分を俯瞰しているような感じがして,踏みとどまることができる余白が生まれてきました」。

Mさんは,「自分の中にわいてくる気持ちに寄り添いながら目を向けて,押さえつけるのではなく受け入れることを心がけています。イライラするときはそのイライラを認めるようにすると,自分で手当てをしてあげられることを知りました」と話してくれました。

調味料や日用品は予備の予備までないと不安な気持ちになりますが,「不安になるよね。でも,なくなったら明日買いに行けるから安心して」と語りかけ,体重が気になって好きなものを思い切り食べることをためらう気持ちには,「1回の食事だけで太ることはないよ。明日の食事はヘルシーなものを食べよう」などと語りかけているそうです。

「捕まった翌日から,家族の食事の準備のために一人で買い物に行っています。病気のことについて家族が理解してくれているとは言い難い状況です。家族に支えてもらえる人がうらやましく思えたり,一人ぼっちで寂しい気持ちになったりすることもあります。けれど,自分のことは自分が受け入れてあげられれば良いと思うようになり,少しずつ前を向けるようになってきました」。

おわりに

今回は,「いいな」と思うと万引きをしたい強い衝動がわくというLさんと,すっきりするには万引きしかないという思い込みにとらわれていたというMさんのケースを紹介しました。万引きという同じ問題を抱えている2人でしたが,万引きを引き起こす要因には違いがありました。

行動アディクションの専門的な支援においては,アディクションの対象ごとにグループ形式でプログラムが用いられることが多いです。しかし,アディクションの対象が同じであっても,繰り返してしまう背景にある要因はさまざまです。プログラムの効果を発揮するためには,プログラムの手続きを遂行することのみを目標にするのではなく,一人ひとりのクライエントを丁寧に見立てるとともに,見立てに応じた効果的な支援手続きを用いていくことが大切です。その際には,目の前のクライエントにとって,どうしてそのアディクションが必要であったのか,「知りたい」,「理解したい」という姿勢を大切にしながら関係性を構築していただけるとよいでしょう。

文  献
  • 浅見祐香・野村和孝・嶋田洋徳・大石裕代・大石雅之(2021)窃盗症の発症過程における認知と行動の変化.心理学研究,92 (2); 100-110.
  • 吉田精次(2020)万引きがやめられない―クレプトマニア〈窃盗症〉の理解と治療.金剛出版.
+ 記事

浅見祐香(あさみ・ゆか)
目白大学心理学部 専任講師
資格:公認心理師,臨床心理士

神村栄一(かみむら・えいいち)
新潟大学人文社会科学系教授
資格:公認心理師,臨床心理士,専門行動療法士,博士(心理学)
主な著書:『教師と支援者のための令和型不登校クイックマニュアル』(単著,ぎょうせい,2024),『不登校・ひきこもりのための行動活性化』(単著,金剛出版,2019),『学校でフル活用する認知行動療法』(単著,遠見書房,2014),『認知行動療法[改訂版](放送大学教材)』(共著,NHK出版),『レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド』(共著,北大路書房,2013)など。
学生時代から40年におよぶ心理支援の実践はすべて,行動療法がベース。「心は細部に宿る」と「エビデンスを尊び頼まず」が座右の銘。「循環論に陥らない行動の科学を基礎とし,サピエンスに関する雑ネタやライフハックなどによる解消改善を要支援の方との協働で探し出す」技術の向上をめざしている。

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