浅見祐香(目白大学)・神村栄一(新潟大学)
シンリンラボ 第33号(2025年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.33 (2025, Dec.)
はじめに:買い物を止められないFさん
第3回から第5回にかけて,行動アディクションの引き金に対処していくとともに,別の適応的な代替行動へ置き換えていくという「ミクロ」の視点に基づいたさまざまな対策を検討してきました。今回は,これらの対策を日々の生活の中でどのように活かしていくかという「マクロ」の視点に基づいた再発防止計画づくりについて解説します。収入に見合わない買い物を繰り返し,300万円の借金を抱えてしまったFさん(30代女性 ※複数の実在するモデルから創作した架空事例)の発言も紹介しながら進めます。
母子家庭で育ててくれた母親を困らせたくなくて,ほしいものをがまんしていたFさんは,働き始めてから買い物の楽しさを知り,クレジットカードを何枚も作ってデパートでの買い物を繰り返していました。結婚して出産後は,一人娘を着飾ることに夢中になりましたが,段々と支払いが追いつかなくなり,夫に借金のことを知られてしまいました。借金の立て替えの条件として,専門クリニックに通い始め,買い物にはまってしまう自身のとらえ方や振る舞いのクセの理解を深めていったFさんが,浪費をしない生活の再建に向けた再発防止計画を作成していく過程についても解説していきます。
1.自分の「トリセツ」を作る
再発防止計画を作成するためには,これまでに検討したさまざまな対策を,どのように日々の生活に落とし込むかについて考えることが必要です。行動アディクションにつながりうるとらえ方や振る舞いのクセについて自己理解を深めるとともに,やめた先にある目標に向かうためにできることを増やしていく取り組みは,自分自身のトリセツ(取扱説明書)を作るようなものと言えるでしょう。
ここでは,再発防止計画の作成にあたって,人生を「山登り」にたとえたワークシートを用いていきます(図1:再発防止計画ワークシート(Fさんの場合))。

図1:再発防止計画ワークシート(Fさんの場合)
山を登るときには,登山用のウェアや靴を身に着け,飲み物や食べ物,地図,カメラなどの持ち物を準備します。その際には,けがや悪天候,遭難など,起こりうる問題をあらかじめ想定して,方位磁石やレインコート,救急セットなども準備をしておくと安心でしょう。行動アディクションをやめる・減らすための再発防止計画の作成においても,バランスの取れた生活を送るため,そして,再発につながりうる危険から身を守るための準備が必要です。
再発防止計画の作成手順としては,まず,行動アディクションをやめた先にある人生の「目標(なりたい自分,ありたい自分)」を考えます。次に,目標に向かうため,バランスの取れた生活を送るにはどのような取り組みが必要かという「目標に向かうための歩き方」を考えます。そして,目標に向かって歩く中で遭遇しうる「障害物」,効果的な「障害物への対策」についても検討していきます。さらに,行動アディクションを今にもしてしまいそうな緊急時に備えて,「緊急時の対策」も練っておけるとよいでしょう。
再発防止計画を考えるときには,すでに実践している取り組みだけではなく,試したことがない取り組みについても,思い浮かんだものをぜひ書き留めておきましょう。そして,実際に試してみて,自分に合った取り組みを増やしていくことができれば,そのときどきに合ったものを柔軟に選択することが可能になります。
また,自分自身の「トリセツ」とも言える再発防止計画は,完成したら終わり,ではありません。転職や引っ越しなど環境に変化があったときは,各項目を見直す必要があるかもしれません。日々の生活で出会うさまざまな変化に柔軟に対応しながら,今の自分に合った最善の再発防止計画の作り方を身につけることが目標となります。
2.バランスの取れた生活とは
行動アディクションにつながるような考えや気持ちに巻き込まれることなく,理性的な自分を保つためには,バランスの取れた生活を送ることが大切です。心身の健康を維持するためには,健康的な食事や十分な睡眠,適度な運動などを心がけるとともに,ストレスフルな状況や,不安や苛立ちなどのネガティブな感情などにうまく対処していく「セルフケア」が大切です。セルフケアは自分で自分をケアすることであり,体や心をケアするとともに,自分のいる環境をより良いものにすることも含まれます。
セルフケアの要となるストレスへの対処方法については,質より量が大切であるとされています。なぜなら,ストレスへの対処方法のレパートリーが豊富であればあるほど,特定の方法に依存することなく,その場に合った最善のものを選ぶことができるからです(伊藤,2021)。
これまで生活のすべてを占めていたと言ってもよいであろう行動アディクションを手放してしまうと,日々の生活は一変することと思います。行動アディクションに費やしていた時間を,どのように過ごすか,あらかじめ1日のスケジュールを決めておいて,それに沿って過ごしてみることが重要です。
行動アディクションにはまる前まで好きだったことや,気がつくとあっという間に時間が過ぎてしまうことがあれば,それらのことから試していきましょう。長く行動アディクションにはまっていて,好きだったことが思い出せない場合には,情報収集から始めてみるのもよいと思います。その際には,ぜひ,手軽に,一人でできる時間の過ごし方を意識的に取り入れてみてください。
「自分の物にできたという高揚感,特別扱いを受ける優越感はなにものにも代えがたいです。それに,人と違って物は裏切らないので,周りに物があることは安心につながっていました。けれど,家の中は物であふれかえってしまい,物に左右されているという苦しみも大きかったです」。Fさんは現在,カフェや図書館,映画館などでの一人時間や,夫や友人と過ごす時間を意識的に増やしており,「買い物ほど良いものではないけれど,副作用が少ない楽しみを模索中です。刺激は少ないけれど,こういうのが自分をいたわることなのかな,と思っています」と話してくれました。
そのほかにも,日記を書く,瞑想をするなどの新しい習慣を取り入れて,一日一回,自分自身を省みる時間を持つと,再発の芽となりうる日々の小さな変化に気づきやすくなります。また,家族やパートナー,同じ問題を抱える仲間など回復の支えとなる方々と定期的に顔を合わせる機会を持つことによって,同様の変化に気づいてもらいやすくなります。
3.歩みを妨げる障害物はなにか
目標に向かって一歩ずつ歩みを進めていると,行動アディクションの再発につながりうる危険が障害物として目の前に立ちはだかることがあります。第3回から第5回で検討した対策を踏まえて,自分にとって,行動アディクションの再発につながりうる障害物とその対策を整理していきましょう。
Fさんにとっての障害物は,クリスマスなどイベントの時期やデパートという場所,友人や同世代の有名人のSocial Network Services(SNS)という外的な引き金,仕事や家事育児の疲労からくるイライラの蓄積や人間関係がうまくいかないことによる孤立感の高まりという内的な引き金が挙げられました。
これらの障害物には,事前に講じた対策を一つ一つ実践しながら,再発を防ぐ必要があります。Fさんは,外的な引き金に対しては,クレジットカードをすべて解約して,Instagramのアカウントを削除するとともに,デパートに一人で行くことをやめることにしました。家にある大量の洋服や化粧品,雑貨などの処分を進めており,「要らない」物の多さに驚くとともに,ごみの分別の大変さという物を増やすことのデメリットも痛感したそうです。
内的な引き金に対しては,イライラや孤立感などネガティブな気持ちをため込まないように,家計の管理は夫に任せることにして,仕事の繁忙期には,夫の家事負担を増やしてもらうことを事前に取り決めました。そして,毎晩夫と話をすること,毎週自助グループに参加して同じ問題を抱える仲間と話をすることを継続することにしました。
行動アディクションの危険な兆候としては,「もう大丈夫。問題はない」と自ら行動アディクションに接近してしまうことや,支えとなる人と顔を合わせなくなったり,うそやごまかしが増えたりすることなどをよくお聞きします。これらの兆候に気がついたときには,危険であることを自覚するとともに,家族やパートナー,仲間,セラピストなど自分が話しやすい相手に対して相談しましょう。
このような行動アディクションからの回復は,一直線に良くなるということは少ないとも言われています。何度も揺り戻しを経験しながら徐々に回復への途をたどっていきます。揺り戻しの渦中では,自分の取り組みに自信が持てなくなったり,このまま悪化してしまうのではないかと不安に押しつぶされそうになったりするかもしれません。
ですが,これまでに取り組んできたことは確実に積み重ねられています。Fさんも,「ここでまたやってしまうのはもったいない,と思いとどまれています」と自分の頑張りが新たなストッパーとして機能するようになっているそうです。
行動アディクションからの回復とは,「行動アディクション」以外の選択肢を選び続けることとも言い換えられます。一生涯,続けていくことは決して容易なことではありません。しかし,「行動アディクション」以外の選択肢を選び続ける一日を積み重ねていく中で,「行動アディクション」という選択肢の存在感は着実に薄らいでいき,それ以外の選択肢を容易に選べるようになっていきます。「今日一日だけ,行動アディクションをしないで過ごそう」と,目の前の「今,ここ」に意識を向けることが,回復につながる大きな一歩と言えるでしょう。
4.再発に備えるには
過去の経験から学び,一つ一つ,対策をとる日々を過ごしていても,思わぬ出来事に遭遇することがありえます。離婚やパートナーとの別れ,仕事上の大きな失敗など,これまでに経験したことがないような出来事に直面することがあるかもしれません。これまでのやり方では太刀打ちできず,再発に至ってしまうこともありえるでしょう。そのため,このような緊急事態に遭遇した場合への備えや,再発が起きてしまったときの対応について,あらかじめ考えておくことが大切です。
Fさんは,断捨離を始めた頃,箱に入ったままの商品が複数出てきて,友人からすすめられてフリマサイトで販売をしてみました。すると数万円もの思わぬ収入が得られました。オンラインでの買い物はほとんどしたことがなかったけれど,検索してみると,以前気になっていた化粧品やブランド品が数多く出品されていることを知りました。「臨時収入があったし,ちょっとくらいなら大丈夫」と自分に言い聞かせながら,気がつくと,得られた金額以上の買い物をしていました。
その晩,夫との会話では,臨時収入のことも買い物をしたことも打ち明けられませんでした。けれど,夫はいつもより早口で話をする妻の様子を不思議に思ったようで,「なんだかいつもと違うね。何かあった?」と尋ねられました。心臓がどきどきして,「どうごまかそうか……」という考えが頭をよぎりましたが,「ここで打ち明けないと,自分では止められなくなってしまう」とあきらめにも似た感情がわき,買い物をしてしまったことを打ち明けました。以前であれば激昂していた夫が,静かに耳を傾ける様子を前にして,これ以上裏切ってはいけないと感じて涙が止まらなかったそうです。
再発が起こったときには,強い罪悪感や自責の念にさいなまれたり,「自分にはやめることなどできない」とあきらめや絶望の渦に巻き込まれたりしてしまうかもしれません。しかし,一度の再発で食い止めることができれば,以前のような悪循環に陥ることを防げます。あらかじめ,再発が起きたときは誰にどのように伝えるかを決めておき,相手にもそのことを共有しておくとよいでしょう。たとえ再発しても,人に相談する,助けを求める,具体的に対処する,というこれまでとは異なる行動を選ぶことができれば,行動アディクションを繰り返していた頃の自分とは違います。
なお,行動アディクションのなかには,対象が犯罪行為に相当するものも含まれます。その場合には,再犯の一歩手前の危険な状態を「再発」に相当すると考える必要があります。たとえば,万引きの場合には,買い物リストを準備せずにスーパーマーケットに入ってしまうことや,試供品を多めにもらってしまうことが「再発」にあたるかもしれません。盗撮の場合には,盗撮のポルノ動画を視聴することや盗撮画像などのグループチャットを見ることが「再発」にあたるかもしれません。一人ひとり,再犯の一歩手前の状態は異なりますので,自分にとっての「再発」はなにか,事前に検討しておくことが大切です。
おわりに
専門的な支援を受け終えた後も回復に向けた道のりは続きます。「自分はやめる・減らすことができる」という自信をもつためには,再発につながるさまざまなサインに自覚的になり,習得したスキルを活用しながら自分自身で対処を行うセルフコントロールを高めていくことが大切です。再発防止計画を作り,実践しながら,より良いものへと修正を試みていったFさんは,「今までとは違った問題に出会うこともあるけれど,セラピストの先生はなんて言うかな,と想像しながら,なんとかやり過ごしています」と落ち着いた様子で語ってくれました。
行動アディクションから抜け出すことは並大抵のことではありません。目をそむけたくなるような自分自身の特徴に向き合うことや,行動アディクション以外の選択肢を選ぶ苦痛に耐え続けることが必要かもしれません。しかし,そのような苦しい状況に立ち向かう方々からは,「アディクションのおかげで自分の弱さを受け入れられました。弱みを隠さずにいると,夫との関係も前より良くなって……。自分にも人にも優しくなれたんだと思います(Fさん)」などという声をお聞きすることがあります。行動アディクションという困難な壁の向こう側には,それ以前の自分には見えなかった世界が広がっているのです。
文 献
- 伊藤絵美(2021)コーピングのやさしい教科書.金剛出版.
浅見祐香(あさみ・ゆか)
目白大学心理学部 専任講師
資格:公認心理師,臨床心理士
神村栄一(かみむら・えいいち)
新潟大学人文社会科学系教授
資格:公認心理師,臨床心理士,専門行動療法士,博士(心理学)
主な著書:『教師と支援者のための令和型不登校クイックマニュアル』(単著,ぎょうせい,2024),『不登校・ひきこもりのための行動活性化』(単著,金剛出版,2019),『学校でフル活用する認知行動療法』(単著,遠見書房,2014),『認知行動療法[改訂版](放送大学教材)』(共著,NHK出版),『レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド』(共著,北大路書房,2013)など。
学生時代から40年におよぶ心理支援の実践はすべて,行動療法がベース。「心は細部に宿る」と「エビデンスを尊び頼まず」が座右の銘。「循環論に陥らない行動の科学を基礎とし,サピエンスに関する雑ネタやライフハックなどによる解消改善を要支援の方との協働で探し出す」技術の向上をめざしている。







